252.凍てつく雪
シフトが見たもの、それは全身が凍りついた女官だ。
すぐに懐の[鑑定石]を使って調べるとまだ生きているが状態の欄には凍結と表示された。
生命力も時間が経つにつれて徐々に減っている。
このままでは死ぬのは時間の問題だ。
通路には鑑定した女官以外にも多くの者が氷漬けになっていた。
天皇陛下テンローと皇子殿下チーローもこの異常事態に我を忘れている。
「陛下! 殿下! 彼らはまだ生きている!!」
「何! シフト殿、本当か?」
「ああ、凍結の状態異常を受けていて徐々に生命力を奪われている。 早急に解除しないと命が危ない」
怒り心頭だったテンローもこの状況で冷静さを取り戻す。
「状態異常を治せばいいんだな?」
「はい、陛下か殿下は状態異常を治せますか?」
「すまない、そういうスキルは持っておらぬ」
「残念ながら朕も持ち合わせておりません」
「それなら僕が解除を試みます」
シフトは一番手前にいる凍りついた女官に触れると【次元干渉】を発動して凍結を解いた。
凍結が解除された女官は叫び声をあげる。
「あああああぁーーーーーーーっ!! ・・・ってあれ?」
耳を劈く声に近くで聞いたシフトは驚き距離をとった。
そこにテンローが女官に質問する。
「ここで何があった?」
「こ、これは天皇陛下・・・」
「今は挨拶はいい、それよりも何があったか申せ」
「は、はい! 実は雪が舞って入ってきたのですがそれに触れたら身体が凍り始めて・・・」
「何?!」
女官の言葉にシフトもテンローもチーローも先ほど雪が触れた手を見る。
すると徐々にその部分が凍り始めていることに気が付いた。
「冷たくないのに身体が凍り始めている?!」
「これはまずい!」
「早く解除しないと朕たちも氷漬けにされる!」
シフトは【次元干渉】を発動してまず干渉してくる凍結を拒絶する。
その直後、頭の中に声が響く。
≪確認しました。 凍結耐性解放 凍結耐性(弱)を取得しました≫
今ので凍結耐性を手に入れたようだ。
シフトは続いて、テンローとチーローの凍結を解いた。
「すまない、シフト殿」
「助かった」
「まだ、全然助かってませんよ。 周りに浮遊している雪を見てください」
雪は通路の奥から風に乗ってこちらへとやってくる。
シフトたち4人は急いで先ほどまでいた部屋へと入った。
「これはまずいな」
「陛下、もしかすると都全体がこの状態である可能性が高いです」
「うむ、由々しき事態だ」
「シフト殿、何か策はないか?」
チーローが質問してきたので少ししてから自分の考えを口にする。
「氷漬けになっている【状態異常回復魔法】を使える者を最優先で治してほかの人たちの凍結を解除するのが一番ですが、それは一時しのぎにしかなりません。 元凶を止めなければ被害者は増え続ける」
「息子よ、【状態異常回復魔法】を使える者はこの皇宮にどれくらいいる?」
「陛下、兵士と違い残念ながらそこまで多くはおりません」
「くぅ、なんということだ・・・」
テンローは武力にしか着目していなかったことを恥じている。
「陛下、悔やむのはあとにしてくれ。 それよりも聞きたいのだがここでは雪に触れると凍結するのか?」
「そんなことはない。 毎年この時期になると雪は降るがそれにより人が凍るなど聞いたこともない」
「つまりは誰かが意図的に人々を凍らせているということか・・・」
「その誰かがわかればこの凍てつく雪を止めることができるはずです」
確定ではないがチーローが予想を口にする。
「それでこれからどうしますか?」
「僕個人としてはルマたちを最優先に見つける。 ユールさえいればこの凍結は解除できるからな」
「ユール殿がいればたしかに・・・」
シフトとチーローが話しているとテンローが聞きなれない人物に疑問を抱く。
「シフト殿、そのユールとは何者だ?」
「僕の嫁だ。 言っておくがもし僕の嫁たちに手を出せばただでは済まないぞ」
「その年で嫁とは羨ましいことだ」
シフトは好色であるテンローに先に釘を刺しておく。
「こんなことなら無理矢理にでもルマたち全員を連れてくればよかった。 陛下、殿下、皇国で探知系の魔法かスキルを使えるものはいないか?」
「それなら朕が使える」
「殿下が? 意外だな」
「できれば武術系のスキルが欲しかったのだが、天は願ったモノを朕に与えてはくださらなかった」
チーローが悔しそうな表情で嘆く。
「・・・」
「しかし、今皇国を救えるのなら朕は全力を尽くそう」
「わかった。 殿下、頼みます」
「心得た」
チーローは【探知】のスキルを発動するとユールを探し始める。
しばらくするとチーローが口を開く。
「見つけました。 ユール殿は無事です」
「そうか、よかった」
チーローの言葉にシフトは心の底から安堵する。
ついでにルマたちも探してもらったが全員無事であることを確認してもらった。
「ルマたちが無事なら一旦置いておくとして、まずはこの皇宮で【状態異常回復魔法】が使える者を見つけよう。 迫りくる雪は火で溶かすか風で追い払う」
「火は皇宮に燃え移る可能性があるので風で追い払いましょう」
「それなら【風魔法】が使える私がその役を担います」
シフト、チーロー、女官の3人がそれぞれ役割分担をすることになった。
その光景を見ていたテンローは自嘲している。
「陛下?」
「気にするな。 それより頼んだぞ」
「「はっ!!」」
チーローと女官がテンローの前で膝をつき頭を下げる。
「シフト殿、この者たちを頼む」
「わかった」
「シフト殿、【状態異常回復魔法】が使える者を見つけました」
チーローはこの皇宮で文官もしているので誰が何のスキルを持っているのかをある程度知っている。
【探知】を発動して皇宮内に【状態異常回復魔法】が使える者を早速見つけた。
「すぐに行こう」
「こっちです」
チーローはシフトと女官を連れて部屋から出て行った。
1人部屋に残されたテンローが呟く。
「ふっ、子は知らぬ間に成長するものだな・・・」
息子であるチーローの成長を直に見て嬉しさと同時に寂しさを感じていた。
「立派になったものだ。 あれならばもう国を任せられる」
テンローの目は今までの人生の中で一番穏やかな目をしていた。
チーローが行く方向を言うと女官が【風魔法】で雪を吹き飛ばして道を作っていく。
入った部屋には大勢の人が雪により凍結していた。
「いた! シフト殿、あの男官だ!!」
指さしたのは細い身体をした男官だ。
シフトはすぐに【次元干渉】を発動して男官の凍結を解除する。
「・・・あ、あれ? ボクは・・・」
「混乱しているところ悪いが近くで凍結している人たちを【状態異常回復魔法】で治してほしい」
「皇子殿下! これは一体・・・」
「説明は後だ! 今は1人でも多くの凍結を解除してほしい」
「わ、わかりました」
男官はすぐさまほかの凍結している者たちを【状態異常回復魔法】を使って治し始めた。
「殿下、次は誰だ?」
「あの女官だ」
チーローの指示により次々と凍結した者たちを元に戻していく。
ある程度助けるとこの部屋の責任者がチーローに話しかけてくる。
「皇子殿下、一体何が起きているのですか?」
「現在降っている雪を触った者たちが凍っているのだ。 朕たちは今【状態異常回復魔法】を使える者たちを治している」
「なんと! 今降っているのはいつもの雪ではないのですね?」
チーローは仰々しく頷くと部屋にいる者たちに聞こえるように大声をあげる。
「皆の者、皇宮内に舞っている雪に警戒しろ! 触れれば凍結するぞ! 【風魔法】が使える者は雪が入ってこないように対応してくれ! 間違っても【火魔法】は使うな! 【状態異常回復魔法】を使える者たちはほかの場所に行って凍結している者たちを治せ! その際に護衛に【風魔法】が使える者を従えろ!」
「「「「「「「「「「はっ!!」」」」」」」」」」
凍結が解除された者たちはチーローの命令にすぐに従う。
しばらくするとシフトと最初に助けた女官が戻ってくる。
「もうこの部屋は大丈夫だろう」
「次を見つける。 しばし待たれよ」
そういうとチーローは再び【探知】を発動して探し始めた。
しばらくしてチーローが反応する。
「見つけた、今度はこっちだ」
チーローはシフトと女官を連れて次の場所へと移動するのであった。




