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250.2人の依頼

皇国の都2日目───

シフトたちは朝食後、イーウィムや翼人族たちと大広間で談話している。

中でも人気なのがユールで、世話になった者たちが挙って彼女に話しかけていた。

「ユール、人気者」

「実際にぼくたちもユールちゃんにはお世話になっているからね」

「たしかにな。 ユールがいるからこそわたしたちは戦えるのだからな」

前衛として戦うベル、ローザ、フェイは、ユールの【治癒術】にはいつもお世話になっている。

ユールを中心に盛り上がっている中、シフトとイーウィムは遠方からユールを見ていた。

「ユール殿には私もお世話になったからな。 部下たちが彼女を慕うのもわかるぞ」

「実際にユールは僕を含めて多くの人を救っていますからね」

「シフト殿の協力があったとはいえ、彼女のおかげで同族の中にも【回復魔法】を行使できる者が増えた。 特に【欠損部位治癒魔法】が使える者は重宝している」

イーウィムたち翼人族にとって翼は命そのもの。

翼が切られたり折られたり動かなくなれば、その翼人は死者と同じ扱いをされることもある。

なので翼人族の中では【欠損部位治癒魔法】が使える者はとても重宝されるようになった。

「シフト殿、実はお願いがあるのだが、もし時間があればユール殿を連れて私の国に来てほしい」

「翼人族の国にユールを連れてですか? 何か問題でもあったんですか?」

「以前シフト殿が私たちの中から【回復魔法】が使える潜在能力者を探しただろ? できれば国にいる同族たちの中から【回復魔法】の使い手を探してほしいのだ」

「ユールみたいな【回復魔法】の使い手を増やしたいと」

「昔であれば飛べない翼人族など翼人族ではないと切り捨てられたのだが、【回復魔法】があればその手の嫌がらせも減るし、また自由に飛べるようになるからな」

イーウィムは自分の翼を触る。

かつてシフトたちにより翼を傷つけられはしたが、ユールにより翼に受けた傷が治り再び空を飛べるようになった。

「それに今私たちの国ではユール殿から手解きを受けた部下たちを中心に医療部隊を作成中だ。 だが、今の人数ではとても足りなくてな。 民から【回復魔法】が使える者を探しているのだが、シフト殿と違いうまくいかないのだ」

「なるほど、それで僕とユールがいればより多くの翼人族が救えると」

「そういうことだ。 それに【回復魔法】が使える平民にとっては出世のチャンスでもあるからな」

「【回復魔法】が使えないといって格差社会にならなければいいけどね」

「ああ、そういうこともあるのか・・・考えもつかなかったな。 それについては国の上層部と話す必要がありそうだ」

シフトが指摘した点をイーウィムが真剣になって考える。

【回復魔法】の使い手を優遇しすぎることで国に影響が与えかねない。

イーウィムがどうしたものかと悩ませていると話し終えたユールがやってくる。

シフトはルマたちを手招きする。

「ご主人様、どうしたのですか?」

「みんな、ちょっと話があるんだけど、先ほどイーウィムさんからちょっとした依頼を頼まれたのだが、翼人族の国に行ってそこに住む人たちから【回復魔法】の使い手を発掘してほしいそうだ」

「それでご主人様の回答は?」

「まだ答えていない。 みんなの意見も聞きたいからな」

ルマたちは少し考えてから回答する。

「私はどちらでも構いません」

「ベルも」

「わたしもだ」

「ぼくもどっちでもいいかな」

ユール以外はどちらでも問題ないと答える。

そんな中、真剣に考えるユール。

「・・・」

「ユールはどうする?」

「ご主人様、わたくしの力で1人でも多くの人を救えるなら力を貸したいと思います」

シフトはユールなら必ず人を救う道を選ぶだろうと確信していた。

それならばイーウィムの依頼に対する答えは1つだ。

「決まりだな。 イーウィムさん、先ほどの翼人族の国の住民から【回復魔法】の使い手を発掘する件ですが引き受けます」

「本当か?! ありがとう、シフト殿、ユール殿」

イーウィムが喜んでいるとそこに皇子殿下チーローが現れる。

「イーウィム将軍閣下・・・とシフト殿も一緒でしたか。 何かあったのですか?」

「実はシフト殿が同族のために翼人族の国に来てくれることになったのでな」

チーローが目を見開いてすぐにシフトに駆け寄る。

「シ、シフト殿、翼人族の国に永住するのですか?!」

「え、いや、違うよ」

「で、ではイーウィム将軍閣下の今の言葉の意味はなんですか?」

「あ、ああ・・・それなんだけど翼人族の国に行って住民から【回復魔法】の使い手を発掘する依頼を受けたんですよ」

「そ、そうか・・・ふぅ、驚きましたよ」

シフトの言葉を聞いてチーローは安堵する。

「それでいつ頃出発するのですか?」

「行くと決まったところだけなので、いつここを発って行くかはまだ決めてないんですよ」

「はぁ、それはよかった。 今すぐと言われたらどうしようと思いました」

「皇子殿下、僕に何か用でも?」

チーローは疲れた顔でシフトに話す。

「実は昨日朕の父である天皇陛下にそなたがこの国(皇国)にいたことを報告したら会いたいと言ってきてな・・・」

「ああ・・・あの好色の・・・」

「それで日程が空いていれば目通り願えないだろうか?」

チーローは助けを求めてシフトにお願いする。

「まぁ、別にいいですけど」

「真か?! それは助かる」

答えを聞いてチーローに笑顔が戻る。

普段から天皇陛下テンローの我儘な振る舞いに振り回されているのだろう。

「今日はゆっくりしたいから、明日から4日以内で面会できる日があれば教えてほしい」

「わかった。 明日から弥明後日(やのあさって)以内までだな? すぐに確認してくるのでここで待っていてほしい」

言うが早いかチーローはすぐに大広間から出て行った。

「皇子殿下も大変だな」

「まあ、あの親なら仕方ないのでは」

「天皇陛下も悪い人ではないんだけどな・・・」

それから1時間してチーローが戻ってきた。

「シフト殿、明日の朝だが天皇陛下に会っていただきたい」

「決まるのが早いな、わかった。 明日の朝に皇宮へ向かうよ」

「ありがとうございます。 本当に助かります」

チーローがシフトに深々と頭を下げる。

一方、チーローの言葉を聞いたイーウィムが何やら考え始めた。

「そうか・・・シフト殿は明日は天皇陛下との会談か・・・」

「イーウィム将軍閣下、どうされました?」

「いやなに、シフト殿の出発に合わせて私も本国へ戻る準備をしないといけないのでな」

「イーウィム将軍閣下も大変ですね。 朕は貴国との国交だけでなくほかの雑務も同時にやっているので毎日が多忙過ぎてな」

「まったくだ。 私も皇子殿下と似たようなものだからな」

イーウィムとチーローはお互いやっていることは国を発展させることだ。

そういう意味では親近感を持っても不思議ではない。

「さて、僕たちはそろそろお暇するよ」

「もうか? もう少しここにいたらどうだ?」

「それだと今日もここにお世話になってしまうのだが・・・」

「私は一向に構わないぞ」

「何と! シフト殿、言ってくだされば朕が最高のもてなしをしたのに・・・」

シフトの発言にイーウィムもチーローも自領での滞在を望んだ。

しかし、シフトは首を横に振る。

「2人の好意はとても感謝しておりますが、僕たちにも心が休まる時間が欲しいのです」

「たしかに気を使わせては休めることができないな」

「そういうことならば仕方ありません」

「理解してくれて助かります。 それでは僕たちはこれで失礼します」

「それではまた」

「明日の朝、皇宮で待っている」

シフトはイーウィムとチーローに一礼するとルマたちを連れて大広間を出て翼人族の大使館をあとにする。

「ご主人様、よろしかったのですか?」

「あれでいいんだよ。 僕たちがいればお互い気を使って休めないだろ?」

「たしかに」

「わかってくれて助かるよ。 それと明日だけど、皇宮には僕1人で行くから」

シフトの言葉にルマたちが待ったをかける。

「ご主人様を1人で行かせるなんてできません」

「ベルも行く」

「わたしたちを置いていくなんて言わないでほしいものだな」

「ええぇー、ぼくも行きたい」

「わたくしも皆さんと同じ意見ですわ」

「言葉足らずで申し訳ない。 明日会う予定の天皇陛下だけどナンゴーと同じくらいの好色男だ」

それを聞いたルマたちが途端に批判を止める。

「ご主人様、申し訳ございません。 明日は1人で行ってください」

「ベルは観光しているから」

「わたしも都を散策しようかな」

「ぼくもちょっと用事ができたから」

「頑張ってくださいまし、ご主人様」

ルマたちの見事な掌返しにシフトは苦笑する。

「そういう訳で、明日はみんな自由行動にするから都で満喫してくれ」

「「「「「はい、ご主人様」」」」」

そのあと、シフトたちは今日の宿を求めて皇国の都内を歩くのだった。


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