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249.皇国の現状

魔動車で空を飛ぶこと3時間、それから地上に降りて走って30分、さらに魔動車を降りて歩いて30分、シフトたちは皇国の都に到着した。

以前翼人族に襲われたが現在は復旧して元に戻っている。

前回来た時と違うのは都には地元民以外に翼人族が歩いていることだ。

「こうやって見ると少しは変わったな」

「そうですね」

「翼人族がいる」

「けど、人を見る目はあまり変わってないように見えるけど」

「ああ、あのバカにしたような目つきは相変わらずだね」

「あまり良い気分ではないですわ」

都の感想を口にしていると以前は見かけなかった1つの大きな館が目に入ってきた。

その建物は翼人族の大使館だ。

今も皇国に残った翼人族が多く働いている。

シフトたちが見ていると1人の女翼人族がシフトたち・・・というよりはユールを見てこちらにやってきた。

「あなたはあの時私の翼を治療してくれた!」

「あら、覚えていてくださったのですね。 ずいぶん経ちますけど怪我のほうは大丈夫ですか?」

「ええ、それはもう。 むしろ怪我をする前よりも今のほうが快適に飛べますよ」

「そうなんですの? それは良かったですわ」

女翼人族の答えにユールは安堵する。

「ところでここには何の用で来たんですか?」

「ちょっと皇国とあなたたち翼人族が上手く交流できているか気になってきましたの」

ユールの不安に女翼人族が周りを見て少し気を使う。

「ここではなんですので建物の中で話しませんか?」

「ええ、構いませんわ」

「それではどうぞこちらへ」

女翼人族の案内によりユールを先頭にシフトたちは大使館の中へと入った。

館内では翼人族が慌ただしく動いているが、ユールを見た翼人族たちは皆挨拶にやってくる。

その都度ユールも笑顔で対応し、身体の状態を聞いて問題ないかを確認していた。

しばらく歩くと執務室の前までやってきて、女翼人族が扉をノックする。

「失礼します。 将軍閣下、御客人です」

『客人? 今は皇国の要人と打ち合わせ中だ。 後にしてもらえ』

部屋から聞こえる女性の声にシフトは聞き覚えがあった。

「わかりました」

女翼人族が返事をするとシフトたちに向き直る。

「申し訳ございません。 ただいま将軍閣下は忙しいみたいでして・・・」

「ああ、気にすることはないよ。 それじゃ館内のどこかで・・・」

シフトが喋っていると突然扉が勢いよく開く。

そこには翼人族の島で別れたイーウィムが立っていた。

「その声、やはりシフト殿であったか! おい、なぜシフト殿の名を出さなかった? 客人ではわからないではないか!」

「も、申し訳ございません」

女翼人族はイーウィムに謝る。

「まぁまぁ、イーウィム将軍閣下、落ち着いてください。 彼女もわざとやったわけではないのですから」

そういって出てきたのは皇国の皇子殿下チーローだ。

「久しぶりだな、シフト殿。 息災で何よりだ」

「皇子殿下も元気そうだな」

「そんなことはない。 実際にやることが多くて休んでいる暇がないほどだ」

チーローは言葉とは裏腹にとても生き生きとしていた。

よほど遣り甲斐がある仕事なのだろう。

シフトとチーローが話しているとイーウィムが割り込んでくる。

「皇子殿下ばかり・・・シフト殿、私とも話をしてほしいものだ」

「別に独占しているわけではないのだがな」

「とりあえず中に入ってくれないか」

「いいのか? 大事な話をしていたのではないのか?」

シフトがイーウィムとチーローに問いかける。

「大事といえば大事だがな。 シフト殿なら問題ないだろう」

「そういうわけだ」

「それでは遠慮なく」

シフトたちは執務室にお邪魔する。

手前のテーブルの上にはいくつか資料が置かれていた。

「今は翼人族に派遣した者たちの報告書を読んでいたところだ」

「ああ、翼人族のほうに皇国の大使館が無事にできたんですね」

「シフト殿のおかげで向こうでは人間族との問題もそれほど起きていない」

「それはよかった」

皇国と翼人族が和平会談で親睦を深めるために両国への派遣が決まってから5ヵ月ではあるが、大きな問題もなく順調に進んでいるようだ。

「手練れを送ったのはいいが毎日手合わせして大変だそうだ」

「ここにいる同族たちも人間族の知識には四苦八苦しているらしい」

「お互い秀でた部分で苦労しているようですね」

シフトには両国に派遣された者たちが大変な目にあっているのが目に浮かぶ。

「まったくだ。 朕も人間族の代表として1度翼人族を訪れたが武を重んじるだけあり強者ばかりだ。 外交でもない限りは陛下には行かせたくない場所だな。 技術面では人間族のほうが優っているのでそこを重点的に力を入れている」

「そうだな、人間族の技術には感謝している。 私の部下からもこちらでは同族が配送業を手伝っているそうだが、これがかなり好評のようだ」

「馬を使えば長距離の配送はなんとかなっても、山岳地帯などの道なき道や高所、海の孤島への配送は朕たちでは難しい部分もある。 そういう場所への配送はとても助かっている」

イーウィムとチーローはお互いの良いところを褒めあう。

「報告書によれば向こうで需要がありそうな品を送ってほしいそうだ。 たとえばマジックバックみたいな大量に持ち運びが可能な物は向こうでも好評だ」

「ああ、あれは私たちにはない品だからな。 わざわざ大荷物を大量のワイバーンを使って輸送することを考えるとコストが削減できるのはありがたい」

「朕としてもワイバーンが人を騎乗して空を移動できるのは大いに助かる。 今は翼人族からレンタルで借りているが、いずれは自分たちで飼い慣らして運用したいものだ。 といっても正直ワイバーンを育てるのがこれほど難しいとはな」

「ワイバーンは基本は空飛ぶ魔獣だ。 しっかりと教育しないと自分勝手に移動してしまうからな」

「この報告書にも書かれているが教育中のワイバーンが勝手に空を飛んで行ったと書かれておる。 幸いにも翼人族がワイバーンを捕まえて戻ってきてくれたそうだがな」

チーローはこの報告書を読んで、人間族がワイバーンを飼い慣らせない理由がまた1つ増えたことに苦笑いする。

そのあとも報告書にある問題点を話していると外では鐘の音が聞こえてきた。

チーローが窓を開けると空を見れば赤く染まっている。

「おや、もうこんな時間ですか・・・朕はそろそろ皇宮に戻らねばなりません」

「皇子殿下、今日はありがとうございます」

「気にすることはない。 貴国とは良き隣人でいたいからな」

「私もです」

皇国と翼人族はまだ国交を始めたばかりだ。

ここでお互いの足並みが揃わないようでは長く続かない。

「それでは失礼する・・・と、その前にシフト殿はここにはどれくらい滞在するのかな?」

「明確には決めていないのですが、短くて2~3日、長くて1週間ほどを予定しております」

「もしよければ時間を作ってくれないか? そなたと話をしたいのでな」

「取り込むのであれば今はまだ無理です。 けど、世間話であれば喜んで」

「相変わらず手厳しい。 しかし、話をしたいのは本当のこと。 楽しみにしています」

それだけいうとチーローは扉を開けて部屋を出て行った。

イーウィムは改めてシフトに挨拶する。

「シフト殿、久しぶりだな」

「ええ、イーウィム将軍閣下もお元気そうで」

「あれから大変だった。 何しろ私たちの国は鎖国的だからな、父上が協力してくれなければ今も重鎮たちを黙らせるのに時間をかけているところだ」

「娘思いの良い父親ですね」

「そうか? まぁ、そうなんだろうな」

イーウィムが遠い目をする。

「何かあったのですか?」

「あったといえばあったかな・・・」

嫌なことを思い出したのだろう、イーウィムは今度は苦い顔をする。

「それよりもシフト殿たちも別れてから何をしていたのですか? 部下の報告によればシフト殿たちがいた島の一部が崩落したとの情報が入ってきたのですが?」

「まぁ、色々あってね。 話せばものすごく長くなりそうなので割愛したいのだが・・・」

「シフト殿のことです。 トラブル続きだったのでしょう?」

「正解だ。 本当このトラブル体質を何とかしたいものだ」

シフトは肩を竦ませる。

「シフト殿らしいな。 それよりも今日はこれからどうする予定ですか?」

「ああ、これから宿をとらないとな」

「今からか? それなら今日はこの大使館の一角を使うといい」

「いいのか? 僕たちは部外者だよ?」

「別に部屋は空いているから問題ないだろう」

「それならお言葉に甘えて今日はここに厄介になります」

シフトはイーウィムの提案を受け入れて翼人族の大使館に泊まることになった。


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