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248.帝都をあとにする

帝都6日目───

今日は帝都の演劇を見に行こうと道を歩いていると前方からフードを被った1人の男が歩いてくる。

シフトたちの前に立つと軽く挨拶してきた。

「よう、今日の夜暇か?」

フードから見せた顔は皇帝グランディズだ。

「まぁ、予定はないけど?」

「それなら付き合えよ。 そっちの嬢ちゃんたちもだ」

シフトたちは顔を見合わせる。

ルマたちはシフトの判断に従うつもりだ。

「わかった」

「それじゃ、日が傾く頃に帝城の門前に来てくれ」

グランディズはそれだけいうとその場を後にする。

「みんな、悪いな勝手に決めて」

「いえ、ご主人様が決めたことですので私たちには不満はありません」

「そうか、とりあえず決められた時間に帝城に行くから」

「「「「「畏まりました、ご主人様」」」」」

しばらく歩いていると劇場に着いた。

チケット売り場では多くの客が列を作っている。

シフトたちも列の最後尾に並び順番を待つ。

数分後シフトたちの番になりチケットを購入すると劇場に入る。

屋内の売店ではホットドッグ、ハンバーガー、果実水のような飲食物だけでなく、現在上映中のパンフレットや演劇の登場人物の摺絵や作中で使用される小道具の模造品が売られていた。

シフトたちはとりあえずホットドッグと果実水、それとせっかくなのでこれから行われる演目のパンフレットを購入してホールへと移動する。

空いている席を見つけると確保し、時間になるまで雑談していると上映時間になり劇が始まった。

演目は『平民出身魔法騎士の人生大逆転 ~今更戻って来いと言われてももう遅い~』だ。


主人公は平民の三男坊で魔法騎士団へ入団し、仕事や雑用を熟しつつそこで力をつけていくが、それを良しとしない公爵家出身の団長が主人公を追放するところから物語は始まる。

追放された主人公は1人途方に暮れていると道端で賊に襲われている少女を助けた。

少女の正体はお忍びで街に遊びに来た自国のお姫様。

これを機に主人公はお姫様御付きの魔法騎士として躍進していく。

一方、魔法騎士団では主人公がやっていた仕事や雑用が多すぎて1人では回らず、結果多くの魔法騎士が雑務に追われる。

実は主人公が魔法騎士団の縁の下の力持ちであることを知った団長は、復職させるべく主人公のところに訪れた。

話を聞いた主人公は復職を断ると団長が暴力で従わせようとするが、すでに力は逆転しており逆に取り押さえられる。

見兼ねたお姫様が団長を魔法騎士団から除名処分にしたが、逆恨みから主人公に復讐を誓う。

公爵家の権力を使い次々と罠に嵌めようとする元団長、しかし、主人公にはすべて通用しなかった。

逆に元団長の悪事が次々と露見し、公爵家は御取り潰しになり、ついに元団長は牢獄へと入れられる。

かくして主人公は今もお姫様御付きの魔法騎士として仕えるのであった。


鑑賞した内容をざっくりいうとこんな感じだろう。

劇を鑑賞し終えてから3時間が経過し、席を立つと売店では先ほどの演目の摺絵や小道具の模造品が飛ぶように売れていた。

特に人気なのが主人公とお姫様の摺絵、主人公が使っていた剣のレプリカとお姫様が身に着けていたティアラ、ペンダント、指輪のレプリカだ。

男の子は剣のレプリカを、女の子はティアラ、ペンダント、指輪のレプリカのいずれか1つを、男性はお姫様の摺絵を、女性は主人公の摺絵と購入する層によりばらつきがある。

中でも一番人気はパンフレットですでに完売していた。

シフトたちはそのまま何も買わずに外に出て空を見上げると太陽はほぼ真上に存在する。

グランディズとの待ち時間まではまだ時間があった。

シフトたちは近場のカフェで遅めの昼食を食べながら先ほどの劇の感想を話している。

「先ほどの劇だけど中々に奇抜な劇だったね」

「姫を助ける主人公が良かったです」

「団長、身分に執着しすぎる」

「ああいう男は好きじゃないな」

「あの魔法騎士団の人たち可哀想だったなぁ」

「無能な上司がいると部下も大変ですわね」

そのあとも脚本や役者の良し悪しについて議論した。

食事も終えて軽く露店を見ると日も西へと傾きつつある。

「みんな、そろそろ行くよ」

「「「「「はい、ご主人様」」」」」

シフトはルマたちを引き連れて帝城の門前にやってくる。

そこには馬車が待機しており、すでにグランディズが待っていた。

「遅くなったかな?」

「別に遅くはない。 ほら、さっさと乗れ」

グランディズが馬車に入るとシフトたちも乗車する。

「それじゃ行くぞ」

グランディズが命令すると御者は馬に鞭を軽く入れると馬車が動き出した。

馬車はのんびりと帝都の街並みを歩いていく。

しばらくすると馬車が止まる。

「着いたみたいだな。 お前たち、来い」

向かった先は高級な飲食店で入り口にはタキシードを着た男性2人が門の前で直立不動で立っていた。

「これは皇帝陛下、お待ちしておりました」

「おう、さっさと案内してくれや」

「畏まりました」

門を開けるとグランディズが歩き出すので後をついていく。

通された席は如何にも豪華な部屋である。

部屋にいるウェイターがそれぞれ椅子を引き、シフトたちはそれに座った。

グランディズがウェイターに声をかける。

「注文は店側にすべて任せる」

「畏まりました」

注文を受けたウェイターが出ていくとシフトが話しかけた。

「メニューも見ずに注文したけど大丈夫なのか?」

「気にするな。 変なものは出さないだろう」

「いや、苦手なものや食べられないものがあったらどうするんだよ?」

「ああ、そういえばそうだったな。 いつもの感覚で頼んだから忘れてたぜ」

「まぁ、僕たちも生きるために色々なものを食べてるからあまり好き嫌いはないからいいけど」

そんな会話をしていると複数のウェイターやウェイトレスが料理を運んできた。

1人1人の目の前に前菜が置かれる。

どうやらコース料理のようだ。

「ごゆっくりどうぞ」

ウェイターやウェイトレスが一礼すると後ろに下がってその場に控える。

「それじゃ、食おうぜ」

グランディズの一言で食事が始まる。

通常のコース料理同様に前菜、スープ、魚料理、肉料理、デザート、ドリンクが提供された。

ドリンクを飲みながらシフトはグランディズに尋ねる。

「そういえばどうして僕たちをこんなところに連れてきたのさ?」

「明日、ここを発つんだろ? お前たちにはちゃんと礼を言ってなかったからな」

今日のこの食事はグランディズなりの礼なのだ。

「だからってこんな店を選ぶなんてな。 これから資金繰りが大変になるんだろ?」

「まぁ、そうなんだがこれは余だけでなくこの帝都に住む国民からの謝礼だ。 正直、お前たちがいなければ今頃は帝都は大惨事になっていた」

実際にグランディズと配下の軍勢だけではあの魔獣や化け物を抑えることは困難だっただろう。

「そういうわけだ。 遠慮せずに礼を受け取ってくれ」

「いや、もう礼も何も僕たちの胃袋に収まっているから無理矢理受け取られた感じになるんだけど」

「実際、そういう風に仕向けたからな」

グランディズが口角を上げて自分の思い通りに行ったことに満足している。

シフトたちはそのあともグランディズと1時間ほど雑談してお開きになった。


帝都7日目───

シフトたちは早朝に宿をチェックアウトすると、シフトはルマたちに質問する。

「さて、今度はどこに行きたい?」

今のところは候補はドワーフの国、公国、皇国の3つだ。

「わたしは後でもいいかな。 ドワーフ王がいるとも限らないし、まだまだ自分の腕を磨きたい」

「ベルも公国は後でいい」

「そうすると皇国ですね」

ベルとローザが辞退したので自然と皇国に行くことに決定した。

「それじゃ、皇国に向けて出発しよう」

「「「「「畏まりました、ご主人様」」」」」

シフトたちは帝都の北門から出ると北の皇国を目指して移動するのであった。


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