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246.闘技場の事後処理

最初に闘技場内に入ってきたのはルマたちと皇帝グランディズ、それと皇帝の配下たちと闘技場関係者だ。

ルマたちやグランディズたちが目にしたのはリングの中央で死んでいる化け物と至る所にある魔獣が溶けて腐った死体だった。

ルマたちが駆け寄ってくる。

「ご主人様、大丈夫ですか?」

「大丈夫だ。 かすり傷程度ですんだよ」

「ちょっと見せてください」

ユールが怪我と聞いてすぐにシフトに駆け寄り傷口を見ると擦り傷が見つかる。

「念のため、傷を癒しておきますわ」

ユールは【欠損部位治癒魔法】を発動して擦り傷をあっという間に癒す。

「これで問題ありませんわ」

「ありがとう、ユール」

「これくらいならどうってことありませんわ」

ユールに礼を言っているとグランディズがシフトのところまでやってきて話しかける。

「随分と派手に殺ったものだな」

「リングの中央にいる化け物が今回の首謀者だ。 本当は生け捕りにしたかったんだけど・・・」

「いやいや、あれを生け捕りとか無理だろ」

グランディズが化け物を見て答える。

「皇帝陛下、あとで話がある」

「ここじゃ言えないことか? わかった」

シフトの言葉に聞かれたらまずい内容が含まれているとすぐに判断したのだろう。

さすがは長年帝国の皇帝をやっているだけのことはある。

「それであの化け物と死骸だけど・・・」

「ほかの者たちに見せるわけにはいくまい。 この場で火葬する。 おい、異論はあるか?」

「ありません。 あんなモノ(化け物や魔獣の死骸)が闘技場にあってもこちらが困るだけです」

グランディズが闘技場の最高責任者である興行主の男に尋ねるとすぐに快諾する。

その会話を聞いていたグランディズの配下の魔法士たちが前に出た。

「それでは私たちが燃やします」

「ああ、頼んだぞ」

化け物のところに腐った魔獣を集めると魔法士たちは【火魔法】の火球を放ち燃やし始めた。

肉の焦げる臭いが酷い。

燃やし続けること30分、リングの上では化け物と魔獣の骨だけが残った。

グランディズは念のため骨を回収するように命令すると、配下の者たちは骨を拾ってマジックバックに収めた後に一礼してその場を立ち去る。

それと入れ替わるように闘技場の関係者が上司である興行主に報告していた。

「報告します。 地下の魔物や魔獣が1匹もおりません。 それと近くには調教師たちの死骸がそこら中に散乱していました」

「はぁ・・・なんてこった・・・」

その報告を受けた興行主はガックリときている。

人死にもそうだがわざわざ森の中から集めてきた魔物や魔獣をも一遍に失ったのだ。

その総額は計り知れないだろう。

見かねたグランディズが興行主に声をかける。

「今回の件だが、まずこの者が闘技場を救った」

グランディズはシフトを指さす。

「もし彼の者がいなければ今頃はここには多くの死傷者が山積みになり帝都は大惨事になっていただろう」

「・・・少年、ありがとうございます」

「いえ、結局は闘技場をこんなに滅茶苦茶にしてしまった。 首謀者は先ほど火葬していた化け物で生け捕りにはできませんでした」

興行主としても首謀者である化け物を生け捕りにして渡されても困るだろう。

シフトが申し訳ない顔をすると興行主としても複雑な気持ちになる。

「そんな顔しないでください。 わしも商人の端くれです。 このくらいの苦行は今までも何度も経験しました。 今回も乗り越えて見せますよ」

興行主は笑顔を見せるが、傍から見るととても痛々しい。

見兼ねたグランディズが興行主に声をかける。

「時間ができたら今回の件で少し話がしたい」

「皇帝陛下・・・はい、わかりました」

「それじゃ、余は帝城へと戻る。 門兵たちには話を通しておくからいつでも会いに来るがいい」

「ははっ!!」

それだけいうとグランディズはこの場をあとにする。

シフトたちもグランディズのあとを追うように闘技場を出ていく。

しばらく帝都を歩いているとグランディズが話しかけてくる。

「とりあえず帝城に戻るからお前たちも一緒に来てくれ」

「わかりました」

シフトたちはグランディズの案内で帝城へと足を運んだ。

グランディズが帝城のある一室にシフトたちを連れて行くと扉を閉めて溜息をつく。

「あーあ、当分は退屈しのぎがなくなるな」

「闘技場で賭けをしていた皇帝は楽しそうだったからな」

「わかるか? 見ていて手に汗握る展開が面白いんだよ」

「まぁ、あれだけ熱狂的ならね」

「それとこいつは使えるなっていう者がいれば余が直々にスカウトするんだよ」

「人材発掘の場でもあるんだ」

ただ見て遊ぶだけではなく有望な人材確保も同時に熟すところはさすがは一国の王であるといえるだろう。

「闘技場についてだが今回興行主は被害者だ。 さすがに救済しないと首を縊りかねない」

「具体的にはどうするつもりだ?」

「直接の援助は大っぴらにはできないが、復興して活気が戻るまでの間は納税免除にする予定だ」

闘技場は帝国において莫大な利益を生む場所だ。

戦いを見たいがために多くの観光客が訪れる。

客が来れば周りの店も儲かり、店が儲かれば国に納税される金も増えていく。

税金で国内をより発展させることで帝国は国として上手く循環しているのだ。

その中心核の1つである闘技場が機能しないというのは、帝国の経済に大ダメージを受けたことと同義である。

本来なら大々的にサポートしたいが、それをすると周りからもサポートしろと責付っかれるだろう。

グランディズは闘技場の納税分を自らの私財で賄って経済を回すことにした。

懐は痛むが国を立て直すためには必要と割り切る。

グランディズの苦肉の策だ。

「治世者も大変なんだな」

シフトは苦笑いしたが次には真面目な顔になりマジックバックから奇妙な紋様が刻まれた右腕と黒い球を取り出した。

「それは?」

「今回の首謀者の右腕と化け物になる原因になった黒い球だ」

それを聞いたグランディズが真面目な顔になった。

「この右腕の紋様はもしかすると前に話していた『この手に自由を(フリーダム)』という者か?」

「そうだ」

シフトはグランディズの言葉に肯定する。

「なるほどな・・・本当に厄介な連中のようだな。 まさか余が足を掬われるとはな」

グランディズは憎々しげに右腕を見た。

「この黒い球はなんだ?」

「わからない。 ベル、この黒い球を鑑定できるか?」

「やってみる」

ベルは【鑑定】を発動して黒い球を鑑定した。

「・・・邪呪の魔石。 邪な力を秘めた呪いのアイテム。 使用者の命を代償にイメージした力を与える」

「うわぁ、何それ?」

「命を懸けることもないだろうに」

「はっきりいってバカですわね」

ベルの鑑定結果を聞いてローザ、フェイ、ユールが呆れている。

「あの男はこのままでは負けると判断してこれを使ったんだろう。 バカな奴だ」

「目的のためなら命すら捨てられる。 それが『この手に自由を(フリーダム)』だ」

「イカれた連中だな」

「まぁ、否定はしないさ」

実際出会った『この手に自由を(フリーダム)』の連中は首領であるフライハイトを除くと真面な奴はいないんじゃないかと疑ってしまうほどだ。

「ところでその右腕だが余にくれないか?」

「別に構わないがどうするんだ?」

「余も国を治める人間の1人だ。 こんなことをされて黙っていられるほどお人好しではない。 国内にいる『この手に自由を(フリーダム)』の連中をこの際根絶やしにしてやる」

今回のことでグランディズはかなりご立腹のようだ。

多分臣下の者たちにこの奇妙な紋様が刻まれた右腕を見せて帝国内にいる『この手に自由を(フリーダム)』の連中を炙り出そうというのだろう。

シフトは右腕をグランディズに渡す。

「それでこちらの邪呪の魔石はどうする?」

「そんな物騒な物はさっさと破壊するのに限る」

「じゃあ、これは僕が処分するけどいいかな?」

「そうだな、下手に臣下の者に処分を任せるわけにはいかない」

「わかった。 これは責任持って人がいないところで破壊しておくよ」

「頼んだぞ」

シフトは邪呪の魔石をマジックバックにしまう。

「さて、これで闘技場の件は粗方片付いたな。 これからお前たちはどうするんだ?」

「残りの滞在期間まではここにいますよ」

「そうか・・・部下からの報告によるとたしか1週間滞在だったよな」

「ああ、今日が3日目なのであと4日です。 それを過ぎたら今度は違うところに行く予定です」

「世話しない奴だな」

「これでも大分落ち着いたほうですよ?」

ライサンダーたちに復讐するために各地を飛び回っていた時よりかは心に余裕がある。

「まぁ、短い期間だけど帝国で思い切り羽を伸ばしていってくれ」

「そうさせてもらう。 それじゃ、用件も済んだし僕たちは宿に帰るよ」

「ああ、今日は助かった。 帝国を代表して礼を言う」

シフトはグランディズから礼を言われると部屋を出て帝城をあとにした。


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