245.人間を捨てた男 〔無双劇51〕〔※残酷描写有り〕
「おいっ! ふざけてないでさっさと起きてそのガキを殺せっ!!」
しかし、動く気配がない。
男性はようやくシフトの言ったことを理解した。
「まさか、ワタクシの最高傑作をこうもあっさりと殺すとはね」
男性は冷静に周りの戦況を見る。
ルマたちの活躍によりほかの魔獣たちも倒された。
「仕方ないわね・・・これだけは使いたくなかったけど・・・」
男性は懐から何かを取り出すと飲み込んだ。
その直後、男性の身体に異変が起きる。
身体が痙攣したかと思えば服が破け、皮膚の色が肌色から黒色へと変化し、手が2本から8本になり、身体中の至る所に目や口が現れた。
男性は自らをグロテスクな化け物へと変貌させる。
「まさかワタクシを追い込むとはね。 後悔するがいい」
化け物とかした男性は7本の手からそれぞれ【火魔法】の火球が放たれる。
対象はシフトたちと皇帝グランディズだ。
シフトたちは迫りくる火球を余裕をもって回避する。
シフトが攻撃しようと接近した時、身体中の目が光を放ち、口から紫の煙を巻き散らかす。
「ルマ! みんなを引き連れて闘技場から逃げろ!!」
シフトは嫌な予感がしてすぐにルマに命令を下す。
「ご主人様を置いて行くなど・・・」
「早くしろ! 死ぬぞ!!」
「ルマ、あれは近づいたら危ない」
シフトに近寄ろうとしたルマをベルが止める。
ルマが反論しようとベルを見ると目が光っていた。
あの紫の煙を鑑定して危険と判断したのだろう。
化け物の近くにいた亀の魔獣が苦し気に身体を動かしてしばらくするとシフトの言う通り息絶えた。
紫の煙はその範囲をどんどんと拡大していく。
「僕なら気にするな! 早くしないと全員死ぬことになるぞ!!」
「っ! ご主人様、ご武運を! みんなここから引くわよ!!」
ルマはベルたちとともにグランディズのところまで急いで戻る。
「あら、逃がさないわよ」
化け物が8本の手をルマたちに向けると【火魔法】と【風魔法】を連続で撃ち始めた。
火球と風の刃がルマたちに襲い掛かるが、ルマたちは咄嗟に氷の壁を五重にも展開して防ぐとグランディズを無理矢理引き連れて闘技場から脱出する。
「ちっ! やるわねあの嬢ちゃんたち」
「当たり前だ。 僕が鍛えた嫁たちが簡単に死ぬわけがない」
「あら、お前の嫁なの? じゃあ、お前を殺したら死体の前であの嬢ちゃんたちの身体を犯してあげるわ」
その発言にシフトはイラっときた。
「おい化け物、人の嫁に手を出そうものなら殺すぞ」
「その前にお前を殺してあげる」
シフトと化け物がお互い殺気をぶつけながら対峙する。
化け物が放った紫の煙は闘技場の観客席までを包んだ。
「うふふ・・・お前バカね。 この猛毒の霧はワタクシ以外の生者を死へと導くのよ」
「それはこちらの台詞だ。 たかが猛毒程度で僕を殺せるとでも思っているのか?」
毒無効を持つシフトに猛毒で攻撃しても意味はない。
「あら、それはごめんなさい。 これならどうかしら?」
化け物の全身の口から今度は水色の煙が吐き出す。
シフトがその水色の煙に触れたとたん痛みを感じた。
「!!」
シフトは後方へと下がる。
「あらあら、どうやら酸性の霧は有効みたいね。 それならお前を溶かしてやるわ」
化け物は全身の口からさらに水色の煙を巻き散らかす。
それに対してシフトは【空間収納】を発動させて水色の煙とついでに紫の煙を対象に空間に収納していった。
「煙が吸われる? 【空間魔法】かあるいはマジックバックか何かかしら? 可哀想だから勝負してあげるわ」
シフトの【空間収納】による吸引力対化け物の吐き出す水色の煙。
化け物の勘違いからか勝負が始まったが、はっきり言って勝負にすらならない。
なぜなら無限の空間に無限の吸引をするシフトの【空間収納】に対して、化け物の口から吐き出す煙は有限で限界があるからだ。
それをわかっていない化け物は簡単に勝てると踏んだのだろう。
今も煙を吐き続けている。
しばらくの間続いたが先に尽きたのは当然化け物の吐き出す煙だ。
全身のどの口からももう吐き出せないと荒い息をしている。
その間にもシフトが開いた空間はどんどん水色の煙を吸い込み、ついには空間内の煙を吸い尽くした。
「そ、そんな・・・ワタクシの霧が負けるなんて・・・それならば」
煙が無理なら今度は目の光がシフトを襲うが、何も起きないことに疑問を感じて問いかける。
「おい、今のはなんだ?」
「毒だけじゃなく麻痺も効かないのね。 ならあとはこれしかないわね」
化け物は【火魔法】を発動すると8つの手から火球がそれぞれ1つずつ時間差で放つ。
が、その前にシフトは【五感操作】で距離感と平衡感覚を狂わせているので火球はすべてシフトの横や上を通り過ぎていく。
「ぐぬぬぬぬぬ・・・何なのよ! さっきから全然当たらないなんてお前何をしたのよ?!」
「さぁ、何をしたんだろうな?」
「直接当てることができないならこれよ」
化け物は全身の口から黒い液体を闘技場内の至る所にばら撒く。
シフト自身には黒い液体はかからなかった。
化け物は先ほどと同じように【火魔法】を発動すると8つの手から火球がそれぞれ1つずつシフトの周りの黒い液体に放つ。
火球が黒い液体に触れた瞬間、爆発して燃えた。
「!!」
「うふふふふふ・・・さあ、黒焦げにしてあげるわ」
炎が炎を呼び煙が上空へ立ち上る中、あっという間にシフトの周りは火の海だ。
「どんなからくりかしらないけど要はお前の周りを攻撃すればいずれは殺せるのよ」
「そうだな、今のは良い作戦だったよ」
「え?」
化け物が振り向くのとシフトがナイフを振り下ろすのは同時だった。
ナイフは何の抵抗もなく4本の右腕を切断する。
「くっ! やるわね」
シフトは自分を覆いつくす炎の中で上空に見える煙を見ると【空間転移】で上空に転移してから化け物の後ろへ再度転移した。
「だけど腕を切断とか甘すぎない? やるならここでしょ?」
化け物は左手の1つを自分の首を指さした。
「お前には聞きたいことがあるんでな。 可能なら生け捕りにする予定だ」
シフトの言葉を聞いて化け物は笑い出した。
「おほほほほほ・・・このワタクシを生け捕り? 冗談にしか聞こえないわ」
「別に冗談を言っているわけではないけどな」
シフトは素早く化け物の4本の左腕も切断する。
「両腕を失ったからといってワタクシが降参するとでも思ったのかしら?」
化け物は8本の腕があったところに力を溜めると腕が再生・・・しない。
「どうしたの? なぜ腕が再生しない?」
化け物は混乱していた。
ナイフで腕を斬られた程度で再生しないなどあるわけがない。
先ほどの戦闘で【即死】効果付きのナイフで腕を切断すると再生できないことをシフトは初めて知った。
そして、今回も同じように腕を再生させないように壊死させたのだ。
「ワタクシの腕があああああぁーーーーーっ!!」
「諦めろ、もうお前に僕を倒すことはできない」
シフトは【即死】を無効化すると腹を一閃する。
化け物の腹からは大量の血が飛び散り、シフトは腹に手を突っ込むとそこから何かを取り出した。
それは男性が化け物の原因になった黒い球だ。
シフトは黒い球を摘出するとその場から2~3歩下がる。
「そ、それは?! か、返せえええええぇーーーーーっ!!」
「その慌てようから見て、これがお前を化け物にした物らしいな」
「うぐぅっ! 身体が・・・維持できないっ?!」
化け物の身体のあちこちからボコボコと唸りをあげて変形していく。
もう人間だけでなく魔獣ですらない容姿へと変貌する。
「ガアアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーッ!!!!!!!」
シフトはすぐにその場から離れると化け物の身体が膨張していく。
「コロスッ!! オカスッ!! コワスッ!!」
もはや本物の化け物へと変わり、そこに人間の思考など存在していない。
化け物は身体中から触手が生えるとシフトに対して一斉に攻撃した。
【五感操作】が機能していないことから目で見てるわけではなく、本能で動いていると判断すると触手を1つ1つ斬っていく。
斬られた触手が再生する。
「どうやら本物の化け物になったようだ。 しまったなぁ・・・」
シフトは早々に生け捕りを諦めて再び【即死】を有効にすると襲ってくる触手を同じように斬る。
今度は切られた部分が壊死して再生できない。
化け物は本能で悟るとほかの触手により壊死した部分より前を切り落とすと再度触手を生やす。
復活した触手が再びシフトに襲い掛かった。
「これじゃ、埒が明かないな。 倒すなら本体を攻撃するしかないか・・・」
シフトは化け物へ再び歩み始める。
何十もの触手がシフトに襲ってくるがそれをすべて切り落として前へと進んでいく。
先ほどのとは違い化け物は周囲を破壊する、ただそれだけだ。
シフトは化け物の本体のところまで到着すると絶対的な死のイメージをナイフに纏わせる。
化け物にナイフを突き刺すと、すぐに引き抜いてその場を離れた。
その数瞬後に化け物からすさまじい絶叫が闘技場全体に木霊する。
化け物は身体中の口から絶え間なく絶叫を出し続けた。
しばらくすると化け物は大人しくなる。
シフトは[鑑定石]で化け物を鑑定して、生命力が0と表示されて死亡を確認すると【即死】を再度無効にした。
戦い終わって周りを見てみればリングのど真ん中に立つ死亡した化け物の遺体と周りには多くの魔獣の溶けて腐った死体、それと男性の切断した腕が転がっている。
「あれは・・・」
シフトは男性の切断した右腕の1つを見る。
そこには奇妙な紋様が刻まれていた。
「はぁ、やっぱり『この手に自由を』か・・・」
奇妙な紋様が刻まれた右腕と黒い球をマジックバックにしまい、ついでに開けっ放しの空間を閉じる。
「とりあえず事が終わったことを報告しないといけないな」
シフトは闘技場の一番上まで移動すると大声で終わったことを周りにいる人たちに伝えた。




