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239.世界樹

エルフの里に滞在して6日が経過した。

シフトたちはエルフの里で各々行動している。

シフトは戦士たちに日々模擬戦を挑まれては相手をしている。

ルマは魔法使いたちと魔術について探求をしている。

ベルは料理人たちと料理を作っては食べて批評をしている。

ローザとフェイは弓兵たちと弓の訓練を続けている。

ユールは医学についての知識を取り込んでいる。

シフトたちが得られる物があるように、エルフたちもこの数日でシフトたちから様々なことを学んでいだ。

種族は違えどお互いに充実した日々を過ごしていた。

朝食を食べ終えてからシフトはエルフの女長老エレンミィアに声をかける。

「長老、僕たちは明日この里を発つことにします」

「シフト様、ずいぶんと急ですね」

「できればもう少し居たいのですが気になることがありますので」

「気になること?」

「はい、『この手に自由を(フリーダム)』についてです」

「覚えています。 王国で行われた国際会議中に帝国の皇子が引き起こした事件・・・あの時は魅了されて不覚をとりました」

エレンミィアはあの時のことを思い出したのか苦い顔をする。

魔法やスキルに長けたエレンミィアが不意を突かれたとはいえ魅了されるとは人生の汚点だろう。

「長老は『この手に自由を(フリーダム)』について何か対策をしていますか?」

「あれから里に戻ってすぐに民たちに『この手に自由を(フリーダム)』がいないか確認しました。 幸いこのエルフの里の民たちにはいませんでした」

「それはよかったです。 僕たちは『この手に自由を(フリーダム)』についての情報収集と次の襲撃に備えて準備しています」

「『この手に自由を(フリーダム)』を駆逐すると?」

国王陛下(グラント)は本腰を入れて取り組み始めたけど、僕としては降りかかる火の粉ならば払うだけです」

シフトとしても行く先々で『この手に自由を(フリーダム)』に高確率で遭遇してトラブルに巻き込まれてうんざりしている。

「うふふふふふ・・・目的は『この手に自由を(フリーダム)』であって『この手に自由を(フリーダム)』ではないというところしょうか?」

「今の会話だけでよくそこまでわかりますね」

「聞いた内容がちぐはぐしていますから」

エレンミィアに指摘されたシフトは自分の言動を考えるとたしかにちぐはぐしていた。

ライサンダーたちの情報をえるには『この手に自由を(フリーダム)』の動向を知るのが一番だから。

「あははははは・・・たしかにちぐはぐしている」

「そうでしょう」

シフトとエレンミィアは笑いあった。

「さて、シフト様たちは今日はどうしますか?」

「そういえばエルフの里を見てなかったな。 今日は観光でもしようかな」

「それなら私も一緒に行きます」

「ベルも」

「弓のほうは大分上達したから、わたしも観光に参加しようかな」

「ぼくも久々に弓以外で身体を動かしたい」

「建物に籠っていたので運動がてらに見て回りたいですわ」

シフトの一言でルマたちも決めたようだ。

「それでしたら今日は私が案内します」

「長老自らですか?」

「ええ、この里は王国やほかの国と違ってこじんまりとしていますので、すぐに見終わってしまいますけどね」

「それじゃ、案内をお願いします」

「はい、喜んで」

シフトたちはエレンミィアの案内で早速エルフの里を見て回ることにした。


まず最初に訪れたのはシフトが毎日模擬戦をしている中央広場だ。

そこにはストレッチして身体をほぐしているエルフの戦士たちがいた。

「あ、シフト様。 今日もよろしくお願いします」

「すみません、明日この里を発つので今日は観光で見て回ることになりました」

「そ、そうだったんですか・・・」

エルフの戦士たちはちょっと残念そうな顔をしていた。

「シフト様、もし時間が余ったら模擬戦をしましょう」

「はい、わかりました」

エルフの戦士たちは修練を始めた。

「ここ中央広場はエルフが住む場所の中心部です」

「中心というには結界の中心位置からずれている感じを受けるのですが?」

「よくわかりましたね。 本当の中心部はあの巨大な樹木です」

エレンミィアが指さしたのはこの里で一番の大木だ。

「あの木もあとで紹介しますが、今はほかの場所を案内します」

そういうとエレンミィアは次の場所へとシフトたちを案内する。


シフトたちが次に訪れたのはルマが魔術の探求について、エルフの魔法使いたちと語り合っていた建物だ。

中に入ると魔法について熱心に取り組んでいるエルフたちがそこにいた。

「ん? ルマ様。 今日は少し遅かったですね」

「すみません。 実は明日ここを発つことになりまして・・・」

「なるほど、それで今日はルマ様だけでなく皆様も一緒なのですね」

「はい、突然のことで申し訳ございません」

ルマが頭を下げるとエルフの魔法使いたちが慌てる。

「謝らないでください。 我々はルマ様にとても感謝しています」

「ありがとうございます」

ルマが礼を言うと今度はユールが魔法使いたちに声をかける。

「失礼、1つ教えてほしいことがあるのですが」

「はい、なんでしょう?」

「ここには錬金術の本はありますか?」

「ええ、ありますよ。 あちらです」

女性エルフが本棚を指さした。

「そこに賢者の石についての文献はありますでしょうか?」

「賢者の石? ええ、あります」

「できればその部分の写しをいただきたいのです」

ユールの願いを聞いて女性エルフはエレンミィアを見た。

エレンミィアは黙って首を縦に振る。

「わかりました。 今すぐ用意します」

「ありがとうございますわ」

女性エルフはすぐさま賢者の石が書かれた部分の写しを作り始める。

シフトは疑問に思ったのかユールに質問した。

「ユール、賢者の石なんてどうするんだい?」

「えっと・・・」

ユールは顔を真っ赤にしながらどう答えていいか迷っていると、女性エルフが写しをユールに渡す。

「はい、こちらが賢者の石に関する写しです」

「ありがとうございます」

ユールは受け取ると早速目を通す。

しばらくすると落胆して途方に暮れていた。

「ユール、大丈夫か?」

「え、ええ・・・まぁ・・・」

するとユールが持っていた賢者の石の写しをベルがとって目を通す。

「今のベルでは無理。 【錬金術】のレベルもだけど材料が1つも揃っていない」

「はぁ、やっぱり・・・」

ユールの落ちこみようは見ていて明らかだ。

シフトはユールの肩を掴む。

「ユールにとって賢者の石は何かに必要なんだろ? それなら僕はその材料を揃えるのを手伝うよ」

「ベルはこの賢者の石を作って見せる」

シフトとベルがユールを元気づける。

「ありがとうございます」

「ところでその材料って何かな?」

シフトはベルから賢者の石の写しを受け取って目を通した。

そこに書かれている材料を見る。

魔力結晶、火炎宝玉、水流宝玉、暴風宝玉、大地宝玉。

(うん、わからない)

見たことも聞いたこともない材料に頭を捻る。

エレンミィアに聞いてみた。

「長老、この材料だけど・・・」

「申し訳ございません。 魔力結晶は魔力の塊だというのはわかるのですが、どこにあるのかわかりません。 それ以外の材料は我々エルフでも知らないものです」

「そ、そうですか・・・」

先手を打たれてしまった。

多分、エルフたちも賢者の石を作ろうとして材料がなく調べたけど何も手掛かりがなかったのだろう。

とりあえず魔法使いたちに礼を言うと建物をあとにする。


「さて、次で最後です」

「え? もう最後なの?」

エレンミィアの言葉にフェイが驚いた。

「名所といっても我々エルフの里には王国と違ってほとんど何もないのです」

「それじゃ、案内を頼むよ」

「はい、こちらです」

エレンミィアが最後に案内していただいた場所、それは中央広場から見た巨大な樹木だ。

「これは?」

「これは世界樹です」

「「「「「「!!」」」」」」

シフトたちは驚いて世界樹を見上げる。

それはとても立派な木でエルフの里を見守っていた。

エレンミィアは世界樹について説明を続ける。

「この世界に1つしかない木です。 始まりの木とも呼ばれております」

「「「「「「・・・」」」」」」

「世界樹は意志を持っています。 伝承では世界樹が認めた者に何かしらを恩恵を与えるそうです。 残念ながら我々エルフたちには未だに恩恵を受けた者はいませんが・・・」

「そうなんですか・・・」

シフトたちが感心していると突然世界樹が神々しく光りだした。

あまりの眩しさにシフトたちは目を閉じて手で庇う。

突然の出来事にエレンミィアから動揺した声が聞こえてくる。

「こ、これは?! いったい何が?!」

しばらく世界樹が輝くとやがて光が薄れて最後には消えていく。

「光が収まった?」

「ねぇ、見てよ!!」

フェイが世界樹を指さす。

世界樹のあちこちから美しい花が咲き乱れていた。

「・・・」

「なんて美しい花なんでしょう」

「綺麗」

「見事な花だな」

「見惚れちゃうね」

「幻想的な風景ですわ」

「私も長年この里で暮らしておりますけど、こんな出来事は初めてです」

シフトたちが美しい光景に目を奪われていると手に違和感を感じる。

世界樹が咲かせている花と同じ小さい花が1つ掌にのっていた。

シフトは不思議そうに花を見る。

ルマたちも同じ花を持っていたが、ユールだけ花だけでなく木の根っこも持っていた。

「ユール? それって・・・」

「世界樹の根・・・ですわ」

ユールは驚いてそれ以上は言葉が出なかった。

「どうやら世界樹はシフト様たちを祝福しているのですね」

「そうなのですか?」

「そうとしか考えられません。 それに・・・」

エレンミィアは意味深な目でユールを見る。

「ユールが何か?」

「いえ、なんでもありません」

「?」

エレンミィアの曖昧な言葉に引っかかるが、本人が言いたくないような態度なので追及はしない。

シフトたちはしばらくの間、世界樹を見上げるのであった。


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