238.エルフたちとの模擬戦 〔無双劇49〕
シフトはエルフの女長老エレンミィアとほかのエルフたちとともにエルフの里の中央に戻ってきた。
エレンミィアが【土魔法】を発動すると地面がせりあがり、直径50メートルの円形の闘技場が現れる。
シフトは闘技場に上がった。
「それではさっそく模擬戦をしましょうか」
「それならば審判は私がします」
エレンミィアが自ら審判役を買って出る。
「それでは1番手は私がお相手いたします」
先ほどの門兵のエルフが槍を持って前に出る。
「風神様の寵愛を受けし者よ。 先ほどは大変失礼した。 1人の武人としてお相手願う」
先ほどと違い礼儀正しく頭を下げる。
「その申し出受けよう」
シフトもマジックバックから戦闘では使われなくなった鋼のナイフを取り出す。
「失礼、その腰の武器は使わないのですか?」
「これはあまりにも威力が強すぎて一瞬で終わってしまうのでね」
模擬戦で龍鱗のナイフなんか使ったらあっという間に戦闘が終わってしまう。
シフトはナイフを持つと自然体に構える。
「双方準備はよろしいかしら?」
シフトと門兵が頷く。
「始め!!」
門兵は槍を持って突進してくる。
「はっ!!」
キイイイイイイイィィィィィィィーーーーーーーン!!!!!!!
ナイフで迫りくる槍の軌道を逸らす。
門兵は懐に入られてからの追撃を恐れて距離をとる。
今の1合で門兵はシフトがただものではないとことを自覚した。
冷静になると次の一撃を放つ。
「とぉっ!!」
シフトは【五感操作】を発動して門兵の距離感と平衡感覚を狂わす。
槍で突いてくるがそれがシフトに届くことなく横を通り過ぎていく。
「っ!」
槍をいったん引くと突きを連打する。
それらの攻撃はシフトに決して届くことがない。
「・・・どのような仕掛けかは知らないがこれならどうだ!」
門兵は空高くへと飛ぶと上空から【風魔法】でシフトめがけていくつもの風の刃を放った。
シフトは【次元遮断】を発動すると自分の周りを外界から隔離する。
シフトに迫った風の刃は結界によりすべて弾かれた。
『?! ・・・!!』
門兵が何か言っているが聞こえない。
【次元遮断】は便利だが外界の声や音まで聞こえないのが玉に瑕だ。
結界の外では門兵が【風魔法】で攻撃し続けるが結果は同じに終わる。
攻撃が止むと結界を解いてシフトが声をかけた。
「次は僕から行くよ」
シフトは走力を生かして門兵の前まで一気に間合いを詰めた。
門兵の腹をナイフの柄頭で突き込んだ。
「ぐはぁっ!!」
あまりの威力に門兵は場外へと吹っ飛ばされる。
「勝負あり! 勝者、シフト様!!」
「「「「「「「「「「おおぉーーーーーっ!!」」」」」」」」」」
それを見ていたエルフたちが声を上げる。
門兵は闘技場に戻るとシフトに近づき右手を差し出す。
シフトもそれに応えて握手する。
「お強いですね。 完敗です」
「それは里を守るあなたも同じですよ」
「これからは慢心せずに高みを目指して精進します」
どちらともなく手を離すとお互い軽く笑う。
門兵が闘技場を降りると闘技場の外では次の挑戦者が手を上げていた。
「次は俺が相手に!」
「いや、僕が!」
「私が先よ!」
どうやらエルフたちの闘争心に火が付いたようだ。
シフトはその後もエルフの戦士たちと戦った。
その実力は最初に相手をした門兵に負けず劣らずの実力者ばかりだ。
しかし、シフトには遠く及ばず次々と倒されていく。
挑戦者が次々といなくなりついに最後の1人になった。
「皆不甲斐ない。 明日から練習量を倍にしないと」
「あなたは?」
「このエルフの里全体の守護を任されている者です。 今までの戦い見事でした。 お疲れのところ申し訳ないが手合わせ願います」
「こちらこそよろしくお願いします」
見た目の年齢は20代前半だがエルフは見た目通りの年齢ではない。
目の前のエルフの青年が剣を引き抜く。
シフトは直感で身構える。
今までの戦いでは常に自然体でいたシフトが急に構えをとったことに観戦しているエルフたちは驚いた。
「それでは参ります」
青年は上段から剣を振り下ろす。
シフトは【五感操作】を使わずにすべてナイフで受け止める。
ガキイイイイイイイィィィィィィィーーーーーーーン!!!!!!!
金属と金属がぶつかり合う音が鳴り響く。
今までのエルフたちと違い力も速さも段違いだ。
鍔迫り合いの状態でお互い睨み合う。
力で押し込もうとする青年だが、シフトのほうへ進むことはなく、逆に押し込まれるように迫ってくる。
青年は無理強いせずに一旦引くと体勢を立て直して再度切り込んできた。
キイイイイイイイィィィィィィィーーーーーーーン!!!!!!! キイイイイイイイィィィィィィィーーーーーーーン!!!!!!! キイイイイイイイィィィィィィィーーーーーーーン!!!!!!! ・・・
シフトのナイフと青年の剣がぶつかる金属音が鳴り止まない。
青年が剣筋を変えて連続攻撃を仕掛けているのだ。
(普通に強いな。 純粋な剣技ならギルバートに引けを取らないかな・・・)
十合くらい打ち合ったところで、シフトが少しずつ攻勢に出ることにした。
手加減しているとはいえほんの数合でシフトと青年の攻守が逆転する。
打ち合う度に青年の顔が少しずつ焦り気味になっていく。
ついにシフトの一撃が青年を押し退けた。
青年は不利と悟るとバックステップでさらに後ろへと下がる。
「なかなかやりますね。 本気でいかせていただきます」
青年は【風魔法】を発動するとそれを剣に纏わせた。
シフトたちが使う魔法武器とは違い、青年の技量が並大抵のものではないことが一目でわかる。
青年が動くとその速度はフェイと同じくらい速かった。
普通の相手ならば青年の風を切るような速さからの問答無用な一撃で圧勝だろうが相手が悪い。
青年が上段から振り下ろす一撃をシフトは余裕をもって躱した。
その直後振り下ろされた部分の地面が吹き飛んだ。
「今のを躱しますか・・・それならこれでどうですか?」
青年は【風魔法】を発動すると竜巻を作りシフトへと放った。
普通ならばその風圧で敵ははるか上空へと舞い上がり風刃により全身をズタズタに切り裂かれている。
シフトは【次元遮断】を発動すると自分の周りを外界から隔離した。
結界の外では荒れ狂う暴風で前が見えない。
しばらくすると風が収まるが青年の姿が消えた。
シフトは素早く周りを見回すが青年はどこにもいない。
不意に地面に影ができた。
シフトが上空を見るとそこには青年が剣を上段に構えて落下してくる。
『・・・!!』
青年が何を言っているかわからないがおおよそ見当がつく。
そのまま振り下ろせば結界により剣が破壊されるだろう。
シフトは青年の剣を見ると普通の剣と違いそれなりに高い技術で作られた物だ。
「おいおい、模擬戦にそんな物で挑むなよ!」
壊して弁償しろとか言われたくないシフトは結界を解くとサイドステップでその場から離れる。
それから2秒後に青年がシフトがいた位置に剣を振り下ろしていた。
地面が吹き飛び、衝撃波が前方へと走っていく。
「これも躱しますか・・・さて、どう攻めるべきですか・・・」
青年は冷静にシフトを見る。
一方のシフトは違う意味で困っていた。
【五感操作】で距離感と平衡感覚を狂わしても攻撃範囲が広いので結局躱さないといけない。
では触覚や視覚を剥奪すればと考えるも今度は自分を中心に台風を作り出して攻撃してくるだろう。
そんなことをすれば酸素不足で最悪死ぬ可能性もある。
以上の理由で【五感操作】は使えない。
【次元遮断】については業物を壊しかねないのでこれも使いどころが難しい。
一番厄介なのは相手がそれなりの地位と実力、それに誇りを持っていることだ。
これが戦場や殺し合いなら気にせず叩き潰すだけだが、一方的に倒されれば本人は傷つき、エルフたちも黙ってはいないだろう。
そこら辺の匙加減が難しすぎる。
どうしようと考えていると青年は剣を鞘に納める。
「参った、降参だ」
「それまで! 勝者、シフト様!!」
「「「「「「「「「「おおぉーーーーーっ!!」」」」」」」」」」
それを見ていたエルフたちから歓声が上げる。
青年がシフトに近づくとシフトに話しかけてきた。
「実力が違いすぎる。 明らかに手加減されていているのが嫌でもわかります」
「えっと、それは・・・」
シフトが言い訳しようとすると青年は首を横に振る。
「気にならないといえば嘘になるが、それ以上に高みを知れたことに満足しています」
「僕としては模擬戦に業物を持ち出してこられて困ってましたけどね」
「業物? これのことですか?」
青年は自分の剣を見る。
「たしかに業物ですが・・・あ! そういうことでしたか、気を使わせてすみません」
「いえ、壊さなくてよかったと思ってます」
シフトは正直な感想を述べた。
「よろしければまた戦いましょう」
「ここにいる間でよければ」
「ええ、是非ともお願いします」
青年はシフトに一礼して闘技場を降りると、入れ違いにエレンミィアが話しかけてきた。
「お疲れさまでした、シフト様。 まさかこの里一番の守護者を倒すとは想像以上です」
「僕としても良い経験をさせてもらいました」
「今日の模擬戦で里の者たちも良い刺激を受けたと思います」
エレンミィアのいうようにエルフの戦士たちの目の色が変わっている。
彼ら彼女らからはより強くなろうとする意志を感じた。
「やはりシフト様は私が見込んだ通りの方ですね。 この里に永住してほしいです」
エレンミィアの誘いにシフトは首を横に振る。
「残念ですがそれはできません」
「わかってます。 あなたはまだやり残していることがありそうな顔をしていますから」
エレンミィアは見透かすような言葉にシフトはドキッとした。
実際に気になることといえば『この手に自由を』とフライハイト、それと戦場から消えたライサンダーたちの遺体や魂だ。
すべてが終わるまで楽観はできないだろう。
「まだすべてが終わったわけではないですから・・・」
それだけ言うとシフトは自嘲しながら闘技場から下りた。




