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216.新たなる問題

シフトはユールと共にルマたちのところに辿り着く。

そこにはベルが相手にしていたシルファザードが両腕を後ろ手に拘束して倒れている。

「みんな、お疲れ。 怪我はしてないか?」

「ベルは大丈夫」

「わたしも怪我はないな」

「ぼくもこの通り」

「わたくしもありませんわ」

「ユールちゃん、ご主人様に心配させたくないからって嘘はダメだよ」

ベルたちが怪我はないと言っていたが、ユールの発言にフェイが真剣な表情になって言う。

その顔を見てシフトはフェイに質問する。

「フェイ、どういうことだ?」

「フェイさん! ちょっと・・・」

ユールが止めようとするがそれよりも早くフェイが答える。

「ユールちゃん、左腕を切断するほどの大怪我をしたんだよ」

「! 本当か?」

フェイは素直に首を縦に振る。

こういう時のフェイは嘘をつかない。

シフトはユールに確認すると視線を逸らして頷いた。

「・・・はい」

「ベル、【鑑定】でユールの左腕を確認しろ。 フェイ、ユールが怪我したところを教えろ」

「わかった」

「ちょっと待ってね」

そういいながらシフトはユールの左腕を掴むとローブの袖を捲り素肌を見る。

「ちょっ! ご主人様、フェイさん」

「えっと・・・ここだよ、ここ。 左手首がどす黒くなっていて進行していたから、これ以上悪化しないようにぼくがナイフでここを切断したんだ」

フェイが指さした場所を確認するが傷らしい傷は見当たらない。

ベルは【鑑定】を発動させてユールの左腕を確認する。

「ご主人様、ユールの左腕は何も問題ない」

「刃物による傷跡もない。 よかった・・・」

「・・・ご主人様、申し訳ございません」

ユールが気まずい顔で謝る。

そんなユールをシフトは抱きしめた。

「え? ご主人様」

「怪我をしたと聞いて心配したよ。 でも何で隠したんだ?」

「そ、それはご主人様に心配をかけたくなかったので・・・」

「ユール、こういう時は逆に隠されると余計に心配になるものだよ」

「・・・ごめんなさい」

ユールは素直に謝る。

「左腕が元通りに戻っているということは【治癒術】で治したのか?」

「はい、【欠損部位治癒魔法】を使って左腕を再生させました」

「ユールの腕を疑うわけではないが、左腕が綺麗に元通りに戻ってよかった」

世の中の女性にとって一生の傷跡が残るのは耐え難いものだろう。

シフトは遠くで剣で串刺しになっているルースの死体を見る。

あの女(ルース)、もっと凄惨な殺し方をしておけばよかった」

ルマたちは身体中を無数の剣で串刺しになっているルースの死体を見て、あれ以上に凄惨な殺し方があるのかと冷や汗をかいた。

「ご主人様、あれでも十分に凄惨だと思いますわ」

シフトの怒りに逆に冷静になったユールが突っ込む。

「ユール、お前はそれでいいのか?」

「ご主人様がわたくしの代わりに懲らしめてくれたのです。 それで十分ですわ」

ユールは大人な対応で答える。

シフトとしても気にしないならそれでいいかとユールから離れる。

「ユールの怪我はわかった。 ほかには何かあったか?」

シフトはベルの足元で気絶しているシルファザードと近くにある黒剣を見ながらルマたちから聞くことにした。

案の定、ベルがシルファザードについて話す。

「ご主人様、これ(シルファザード)生かしてある」

「たしかマーリィア王女殿下専属騎士団の元団長だったか?」

「うん、今は生命力を消費しすぎて気絶している」

「そうか、彼女は国王に引き渡そう。 ベル、それだけじゃないよね?」

シフトは黒剣を見ながらベルに尋ねる。

「あれは魔剣。 この剣は抜刀状態で持つと狂気に襲われる」

「魔剣ねぇ」

魔剣は今は妖しい光を放ちながら誰かが手に取るのを待っているようだ。

「とりあえずこれは危なそうだから鞘に収めておくか」

シフトは【念動力】を発動させると魔剣が宙に浮く。

ベルから鞘を受け取ると剣身を鞘に納めた。

これで一安心だ。

「さて、これ(魔剣)どうしよう?」

「ご主人様の空間に保管しておけばよいのでは?」

「うーん、やっぱりそれが安全かな」

シフトは【空間収納】を発動すると魔剣をしまうと空間を閉じた。

これで大丈夫だろう。

「それとベルの武器(ナイフ)が壊れた」

ベルは剣身が粉々に砕けた二振りのミスリルのナイフを見せる。

「あ゛」

それを見た瞬間、シフトは思い出す。

土の精霊の試練の時にローザが作成した武器の数々を使い潰した挙句に壊したことを。

「・・・あー、ローザ、とても言い難いのだが・・・」

「ご主人様、なんだい?」

「実はローザが作成した鋼やミスリルの魔法武器なんだけど、土の精霊の試練の時に大半を使い潰して壊してしまったんだ。 すまない」

「ごめんなさい」

シフトとベルがローザに謝る。

「ご主人様、ベル、謝らないでくれ。 武器が弱かったのはわたしの作りが悪かっただけさ。 それに今度こそ壊れない武器を作ればいい」

ローザは前向きに返答する。

「素材に関しては心配しなくてもいい。 研鑽を積んだ今のローザなら()()を加工できるはずだ」

()()? ご主人様、()()とは何かな?」

「それは後のお楽しみだ」

「気になるが期待しておこう」

ローザは素直に引き下がってくれた。

「あとは何かないかな?」

「ご主人様、お耳に入れたいことが」

「ローザちゃん、もしかして・・・」

「フェイもだろ?」

ローザの言葉にフェイは頷く。

そこでローザとフェイが神妙な顔でシフトに話す。

「実はわたしたちが戦った少女について、ご主人様に報告しておかないといけないことがあります」

シフトとしてもライサンダーたちと一緒にいた2人の少女が気になっていた。

「あの少女たちがどうした?」

「あれはアーガスだ」

「ぼくのほうはヴォーガスだったよ」

「何?! それは本当か?」

シフトは目を見開いてローザとフェイに質問する。

「ああ、あの太刀筋は見間違いではない」

「あの独特な暴力的な攻め方はあいつ(ヴォーガス)しかいないよ」

「あいつらは僕が殺したのに・・・化けて出てきたか?」

するとローザが右手を前に出す。

それはローザが相手になった少女(アーガス)の生首だ。

よく見ると顔色は肌色のまま、断面からは血が流れていない。

「ご主人様、よく見てほしい」

ローザが首の断面を見せると金属みたいなモノが光っている。

「これは金属なのか?」

「特殊な魔法金属。 そして、それはゴーレム」

シフトたちが悩んでいるとベルが答える。

「ゴーレム?」

「ご主人様から頂いた本に書いてあった。 素材は様々だけどゴーレムには金属を用いるものもある」

「なるほど、これはベルが言った特殊な魔法金属を使って作られたということか」

「多分。 だけど、人の魂を媒体にするのは書かれていなかった」

「ゴーレム自体に魂を宿らせたのか、それとも核になる部分に魂を宿らせて身体に埋め込んだか・・・」

「ご主人様、この頭を真っ二つに斬ってみればわかるのでは?」

シフトの悩みにルマが答える。

「・・・そうだな、頭の中を見てみればわかるか。 ローザ、頼んでいいか?」

「任された」

ローザはゴーレムの首を地面に置くとオリハルコンの剣で斬る。

真っ二つに斬れた断面には核は存在しなかった。

「どうやら身体のほうに埋め込まれている可能性があるな」

「身体・・・」

「・・・してやられたなぁ」

ローザとフェイはなぜか悔しがった。

「どうした?」

「実は身体のほうはここにはないんだ」

「別の場所に転移させられた」

「転移? 危険を察知した術者が呼び戻したと?」

「おそらく」

「ぼくもそう思う」

ローザとフェイが予想以上に強かったので術者が呼び戻したか、危機を感知して自動的に発動したかのどちらかだろう。

「はぁ、せっかく僕の()()が終わったのに、誰だかわからない第三者があいつらの魂を使って悪さをするのか・・・」

「もしかすると『この手に自由を(フリーダム)』ですか?」

「その可能性は十分にあるだろう」

それに今回の戦いにはフライハイトが現れなかった。

その点も不気味だ。

ここで考えていても埒が明かない。

シフトたちは騎士と魔法士たちがいるところまで戻り、大軍を殲滅させたことを報告した。

魔法士の1人が【通信魔法】で王都にいる同じく【通信魔法】が使える魔法士に連絡を入れる。

戦場には多くの戦死者の魂が眠っているので、清めるために近くの町にある神光教から浄化に特化した神官たちを早急に手配してこちらにもう出発した。

早馬を使ってここまで来るそうなので早ければ5日ほどで到着するそうだ。

さすがグラント、仕事が早い。

シフトたちはここに残らずに王都に帰還せよとのこと。

後のことはグラントに任せてシフトたちは王都へ戻るのであった。






グラントとクーリアの監視の目が緩んだ時間、戦場であった場所に男たちが現れる。

男たちは戦場を各々自由に歩き出す。

1人の男が歩く先にはライサンダーの亡骸があった。

「あーあ、無茶はするなって言ったのに・・・」

残念がる男の正体はフライハイトであった。

勇者であるライサンダーたちには自重しろと口を酸っぱくして言っておいたが、自分勝手な行動をした結果自滅である。

フライハイト自身の望みに使えるかもと仲間に引き入れたのにこの様だ。

ライサンダーたちの弱さにフライハイトは落胆する。

それと同時にシフトたちの協力を得たいと再度切望した。

そんなことを考えていると配下の1人が声をかけてくる。

「フライハイト様、いかがいたしましょうか?」

フライハイトは配下の者たちがこれら(魂や死体)を使って何かしたいのだろうと察する。

「・・・好きにしていいよ」

「はっ!」

それだけ言うとフライハイトは戦場を立ち去った。


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