213.5戦目:ベルVsシルファザード <再戦>
ベルはシルファザードと対峙する。
「お前を殺す。 そして、私は再びマーリィア王女殿下直属騎士団の団長に返り咲くのだ。 あははははは・・・」
「狂ってる」
シルファザードの思考はすでにおかしいとしかいいようがない。
「見ててください、マーリィア王女殿下。 この世界で1番あなた様を愛しているのはこの私だということを・・・」
ベルは両手にナイフを1本ずつ構える。
シルファザードも鞘から剣を抜く。
「あははははは・・・死ねっ!!」
「っ!!」
上段からの一振り。
ガキイイイイイイイィィィィィィィーーーーーーーン!!!!!!!
金属と金属が激突する音が鳴り響く。
シルファザードの剣を両手のナイフで受け止める。
王都で戦った時よりも速く鋭くそして重い一撃だ。
「なぁ・・・私のためにさっさと死んでくれないか?」
「断る。 なぜベルが死なないといけない?」
「お前がいるとなぁ・・・マーリィア王女殿下が私を見ないからだよっ!!」
シルファザードは引くどころか力任せに押し込んできた。
ベルのほうへと刃が少しずつ近づいてくる。
本来なら危険と感じるのだろうが、今のベルはむしろ冷静だ。
ベルはシルファザードの力の軌道を変える。
「なっ?!」
シルファザードはベルの横を崩れるようにして倒れそうになった。
倒れまいと踏鞴を踏んで持ちこたえる。
振り向いたシルファザードは怒りの形相でベルを見た。
狂気に満ちた目がベルを捉える。
「殺す」
「・・・」
シルファザードは剣を両手でしっかりと掴むと少し右側に構える。
ベルもどのような攻撃が来ても対応できるようにナイフを構えた。
お互い黙って相手の動きをみる。
先に均衡を打ち破ったのはシルファザードだ。
全速力で突進してくると切り上げるような形の横薙ぎがベルに襲い掛かってきた。
キイイイイイイイィィィィィィィーーーーーーーン!!!!!!!
ベルはそれを2本のナイフで受け止めるが、勢いを殺せずに吹き飛ばされる。
「!!」
後方に弾かれるも転倒せずに着地する。
それを皮切りにシルファザードの猛攻撃が始まった。
1撃1撃が重く、体重の軽いベルではその攻撃の威力を殺しきれずに後ろへと押される。
「なぁ、早く死ねよ。 マーリィア王女殿下を迎えに行けないだろ?」
冷静な言葉とは裏腹にあまりにも乱暴な攻撃が続く。
しかし、その攻撃も長くは続かなかった。
バキイイイイイイイィィィィィィィーーーーーーーン!!!!!!!
あまりにも雑に扱ったためにシルファザードの剣が折れたのだ。
折れた剣がシルファザードの頬を斬りながら後方へと飛んでいき地面に刃先が刺さる。
頬には刃の切り傷が見られ、そこから血が滴るように流れてきた。
シルファザードの剣の材質は鋼鉄、それに対してベルの二振りのナイフの材質はミスリル。
丁寧に使っていれば材質で劣ってたとしても折れることはなかっただろう。
だが、今のシルファザードには剣への心遣いさえない。
その結果、剣が折れた。
シルファザードは素早くベルから離れて自分の折れた剣を見る。
「・・・」
「今のお前にベルが負ける要素はない」
「これだけは使いたくなかったんだけどな」
シルファザードは折れた剣を投げ捨てると、腰に差してあるもう1本の剣に手をやる。
「お前が悪いんだ。 お前が素直に私に殺されていればこれを使うことはなかった」
シルファザードはベルを殺すために躊躇いもなくその剣を抜いた。
剣身は黒く禍々しいオーラを放っている。
ベルは危険を察知してシルファザードの剣を鑑定した。
魔剣インサニティ
品質:Aランク。
効果:抜刀中は使用者の腕力、走力、器用、耐久力を基の二倍に上昇させるが、生命力、魔力、体力を消費し、思考を狂す。
「!!」
魔剣?! 聖剣と対となる武器。
数多ある聖剣と同じくらい魔剣も存在する。
あれはその一振り。
ベルは魔剣の危険性に逸早く気づく。
(あれは人をダメにする)
ベルはシルファザードを見る。
「力が・・・力が漲ってくるぞ・・・ははははは・・・これなら勝てる・・・どんな奴にだって勝てるぞ! マーリィア王女殿下! 憎いあなたを今すぐ殺しに行きますからねっ!!」
現にシルファザードの中で何かが少しずつ壊れていく。
あれ程愛していたマーリィアを憎いから殺すと言っているのだ。
もはや真面な思考が残っていない。
「マーリィアを殺させない」
「まずはお前だ! 愛している! 愛しているぞ! 今すぐ私の手で殺してやるからな!! ははははは・・・」
シルファザードの言葉はもう滅茶苦茶だ。
支離滅裂なことをいうシルファザードにベルは気持ち悪さを感じた。
「ベルの安寧のためにもさっさと止める」
シルファザードが1歩踏み込む。
いつの間にかベルの近くまで来て無造作に魔剣を振り下ろす。
ベルの頭の中で警鐘が鳴り響く。
受け止めるな! 回避しろ!
ベルはその警鐘を信じてシルファザードの攻撃を避ける。
ドゴオオオオオオオォォォォォォォーーーーーーーン!!!!!!!
シルファザードの一振りが大地を抉った。
「!!」
「ははははは・・・いいぞ! もっと! もっとだ! もっと私を楽しませろ!!」
尋常ではない攻撃にベルは恐れ戦く。
ベルはシルファザードを鑑定する。
するとシルファザードの生命力、魔力、体力が魔剣を持っているだけでガンガン減っていく。
このままでは魔剣にすべてを吸い取られて間違いなく死ぬだろう。
シルファザードが再び横薙ぎで攻撃してくる。
ベルはバックステップしながらその攻撃を回避するが、魔剣の攻撃は尚もベルに届こうとした。
2本のナイフで受け止めようと魔剣が触れた瞬間その威力に耐えられずにナイフの剣身が砕け散る。
「?!」
ナイフのおかげでベルは辛うじて魔剣の直撃を避けられた。
しかし、もうベルを守ってくれる接近戦用の武器がない。
ベルはシルファザードから距離をとる。
「ベル! 大丈夫か?」
そこにローザがやってきた。
「ローザ、大丈夫」
ローザは剣身が砕け散った2本のナイフを見て叫ぶ。
「大丈夫なわけないだろ?! わたしがあれの相手をする!」
ローザがオリハルコンの剣を抜く。
ベルはその剣を見てローザに声をかける。
「ローザ、その剣を貸して」
「ベル?」
「あれはベルが止めないといけない。 だから・・・」
ローザはベルを見るとその眼には強い意志を感じたのだろう。
ベルの決意にローザがオリハルコンの剣を差し出す。
「ベルはこういう時は頑固だからな。 必ず勝てよ」
「うん」
ベルはオリハルコンの剣を受け取るとシルファザードと対峙する。
「愛している! 愛しているぞおおおおおぉーーーーーーっ!!」
長期戦は不利だし、放っておいたらシルファザードは間違いなく死ぬ。
なら、この一撃に賭ける!!
ベルはローザの剣技をその場で真似た。
いつも一緒だからこそ真似できると信じて。
(ローザならこの一撃で必ず止めるはず)
ベルはシルファザードと交差するように剣を振り下ろした。
キイイイイイイイィィィィィィィーーーーーーーン!!!!!!!
一振りの剣が宙を舞う。
地上では剣を失い呆けたシルファザードがいた。
「・・・また負けた・・・」
それだけいうとシルファザードはその場に倒れる。
それと同時に魔剣がシルファザードの近くに落ちてきて地面に刺さった。
「ベル、やるじゃないか」
「ローザのおかげ。 これがなければ負け・・・死んでいた」
「あれは死んだのか?」
ローザがシルファザードを指さす。
シルファザードを鑑定すると辛うじて生命力が残っていた。
生命力を限界まで消費したのか今は気絶している。
ベルはローザに対して首を横に振った。
「生きている。 だけど虫の息」
「ベルにしては珍しいな、生かしておくなんて」
「悲しむ人がいるから・・・かな」
シルファザードが死んだらきっとマーリィアは悲しむだろう。
ベルはローザに剣を返す。
「ローザ、ごめんなさい」
「何がだ?」
ベルは地面を見る。
そこには剣身が砕けた二振りのナイフがあった。
「ナイフ壊された」
「仕方ないさ、いくら素材が良くてもいつか壊れるんだ。 それにまたわたしが作ってやるさ。 あ! だけど材料はご主人様から貰わないといけないな」
「新しいのができたら今度こそ大事に使う」
「わたしも今度こそ壊れない武器を作って見せるさ」
ベルとローザはお互いを見ると笑った。




