203.会議のあとの揉め事
会議も終わり宰相、防衛大臣、防衛庁長官、各団長たち、魔導師たちは会議室を出ていく。
「はぁ・・・」
シフトは溜息をつく。
グラントの策略に嵌ったのもそうだが、ルマたちが同意するとは予想外だった。
シフトの目の前にはルマたちが複雑な表情をしている。
「あの・・・ご主人様?」
「過ぎたことは仕方がないけど、なぜグラントの意見に賛成したのか聞きたい」
「私たちはご主人様の奴隷です」
「一緒にいたい」
「わたしたちだって役に立つはずだ」
「ぼくたちは足手まといじゃないよ」
「わたくしたちを置いていくなんて酷いですわ」
ルマたちにとってはシフトといつも一緒にいたいし、今までいくつもの修羅場を乗り越えてきたんだから信用してほしいのだろう。
「わかった、みんなを連れていく。 ただし、絶対に無茶だけはするな」
「「「「「はい、ご主人様!!」」」」」
ルマたちは元気良く応える。
(僕もルマたちにはとことん甘いな)
そんなことを考えているとグラントが話しかけてきた。
「シフト、少し聞きたいことがある」
「なんだ?」
「今回の大軍にライサンダーたちのほかにも誰かいなかったか?」
「すまない。 要点がわからない」
「ギャンザーとシルファザードはいなかったか?」
「ギャンザー? シルファザード? たしか王都からいなくなったんだよな?」
「その通りだ。 未だに2人の行方が掴めていない」
シフトは4ヵ月前の謁見の間でのやり取りを思い出す。
「その2人がどうした」
「あの大軍の中にいなかったか?」
「僕は遠方からでしか大軍を確認していないからわからない。 それならクーリア殿か先ほどの魔導師たちに聞いたほうがいいのではないか?」
グラントは首を横に振る。
「彼女たちにはすでに聞いた。 残るはシフトだけだったのでな」
「そうか、役に立てなくてすまない」
「いや、元はといえば2人の管理を怠った余にも責任があるからな」
グラントにとってもギャンザーとシルファザードが何を仕出かすのかわからないのだろう。
「もし、大軍の中に2人がいたらどうする?」
「生かして連れてこいとは言わない。 シフトの裁量に任せる」
「・・・わかった」
シフトとしてもギャンザーのしつこさにはうんざりとしていたので、決着をつけられるのであればさっさとつけたい。
「それよりもこれからどうするのだ?」
「当初の目的である緊急事態を伝えることは達成できたのでギルドマスターとサリアさん、ギューベ様とクーリア殿を連れて一度モオウォークに戻ります」
それを聞いたギルバートとギューベが納得したように頷く。
「たしかにここには陛下への報告のために来たからね」
「いつまでもモオウォークを留守にする訳にはいかない」
ギューベの言葉にサリアとクーリアも同意する。
「もしかすると方向転換してモオウォークかあるいはヘルザード辺境伯領を攻めてくる可能性もありますわ」
「そう考えると、私たちも急いでモオウォークに戻って準備をするべきです」
「わかった。 ギューベ、ギルバート、お前たちはモオウォークに戻り、万が一大軍が攻めてきた際にはこれを迎撃せよ」
「「はっ!!」」
ギルバートがシフトを見る。
「シフト君、すぐにモオウォークに戻ろう」
しかし、シフトは首を横に振った。
「ギルドマスター、外を見てください。 もう太陽がだいぶ西に沈んで空も赤く染まり始めている。 この状態で移動するのは危険だ。 今日は王都の宿に泊り明日の朝一にモオウォークに戻ろう」
いくら移動速度が速いとはいえ夜間飛行は危険である。
シフトは翌朝ここを発つことを提案した。
「たしかに夜間の移動は危険が付きまとうからね」
「シフト様がそういうならそうしましょう」
「あれを夜間に味わうのは心臓に悪いです」
「私も安全なほうを選びます」
それを聞いていたグラントが笑顔で話しかけてくる。
「おお、そうかそうか。 今日は王都に泊まるか。 なら、王城の客室に泊まるがよい」
グラントは言うが早いか側近の1人を呼ぶ。
「この者たちの食事と部屋を至急用意しろ」
「畏まりました」
側近はグラントに一礼すると会議室から出て行った。
「グラント、国民の税金を使って贅沢なんて僕にはできないよ。 僕たちは平民街の宿に泊まるから」
立ち去ろうとするシフト。
しかし、グラントはシフトの肩を掴んだ。
「気にすることはない。 今日のもてなしは余の私財から出すのでな。 なぁに、遠慮なく泊っていくがいい」
「いや、さすがにそれは・・・」
「いやいや、気にする必要はないぞ」
「いやいやいや、・・・」
「いやいやいやいや、・・・」
「いやいやいやいやいや、・・・」
「いやいやいやいやいやいや、・・・」
シフトとグラントの不毛な言葉の応酬が続く。
バアアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーン!!!!!!!
突然扉が勢いよく開くと室内は静まり返る。
部屋の入口にはどこから聞きつけたのかマーリィアが立っていた。
「ベル! 会いたかったわ!!」
言うが早いかマーリィアはベルに駆け寄って抱き着いた。
「マーリィア、放せ」
マーリィアの腕の中でベルがもがく。
「おお、マーリィアもベル嬢と話をしたいようだ。 そういうことだから皆も気兼ねなく泊まっていくがいい」
「いや、だから・・・」
シフトが断ろうとするがギルバートとギューベがそれを遮る。
「シフト君、こうなるともう誰にも陛下は止められないよ」
「諦めたほうがいいです」
シフト1人なら簡単に振り解けるが、ルマたちに何かあると困る。
「はぁ・・・仕方ないな」
結局シフトは折れた。
それに対してグラントは勝ち誇る。
「そうかそうか、良かったぞ。 シフト、ルマ嬢たち、最高のもてなしを約束しよう。 もちろん、ギューベにギルバート、クーリア嬢にサリア嬢もだ」
「「「「はっ!! ありがとうございます」」」」
ギルバート、サリア、ギューベ、クーリアがグラントに最敬礼をする。
ルマたちも慌てて一礼した。
「ふふふ・・・今日は楽しい夜になりそうじゃのぅ」
それからすぐにグラントの側近が戻ってきて部屋の用意ができたことを伝えにきた。
シフトたちはしばらく用意された豪華な部屋で寛いでいると扉をノックしたあとに若い女性の声が聞こえてきた。
『失礼します。 お食事の準備ができましたので案内いたします』
扉を開けると廊下にはメイドが頭を下げてシフトたちを待っていた。
「お待たせしました」
「それでは会食の間へ案内いたします」
メイドの案内で会食の間へと足を運ぶと上座にはグラントが、グラントに近いところからマーリィアを始めとした家族一同が席に座っている。
そのあとにギルバート、サリア、ギューベ、クーリアが座っていた。
末席のほうに案内されるとシフトたちも座る。
「皆、今日はご苦労であった。 特に遠方より知らせを持ってきたギューベたちには感謝の意を表する」
「陛下、勿体無きお言葉です」
ギューベが頭を下げるとシフトたちも頭を下げる。
「頭を上げてくれ。 これほど国に忠義を尽くす者がいることを余は誇りに思う」
シフトたちが頭を上げるとそれを見越して食事が運ばれてくる。
「さぁ、食事が冷めぬうちに頂くとしよう」
今回提供されたのはコース料理である。
前菜を始め、スープ、魚料理、肉料理、デザートと堪能する。
どれも高級な食材を一流の料理人が丁寧に仕上げており、ベルに勝るとも劣らない料理に舌鼓を打つ。
締めのドリンクを飲んでいるとグラントが話しかけてくる。
「ところでシフトよ。 王都を離れてからの4ヵ月間どこで何をしていたのか聞きたいな」
「帝国の領地へ行ってました」
シフトは事実を口にする。
「ほう・・・」
グラントは手を叩くと側近が何やら手紙を4通持ってきた。
「帝国、公国、皇国、ドワーフの国から余宛てに書状が届いたものだ。 何をしてきたのか聞きたいのだがな」
「あ゛」
シフトたちは嫌な汗をかいた。
「シフト君、他国で何をしてきたんだい?」
「シフト様、今ならまだ間に合います。 正直に話しましょう」
ギルバートとサリアが溜息をつく。
「まぁ、色々ありまして・・・」
シフトは大雑把に話す。
帝国で暴れた後に皇帝との一騎討ちで勝利したこと。
ドワーフの国で活火山から国を守ったこと。
公国で海人族を助けたことと害そうとする領主たちを全滅させたこと。
皇国で翼人族とのトラブルに巻き込まれたこと。
すべてを聞き終えたグラントたちは頭を抱えていた。
「シフト、行く先々でトラブルを起こしておるな・・・」
「いや、言っておくけど先に仕掛けてきたのは相手だから」
「それでも国際問題に発展するようなことばかりなんだけど・・・」
「う゛! 仕方ないだろ。 まさか大事になるとは予想できないだろ」
「それにしてもたった4ヵ月でよくもそこまでトラブルに巻き込まれますね」
「あははははは・・・そ、そうですね」
シフトは苦笑いをしていた。
(ごめんなさい、それまだ1/3くらいです)
このあとは翼人族の島、無人島、水の海底神殿、死の大地、火の塔、巨人たちの島、土の神殿、風の島と続くのだが、それを知れば卒倒するだろう。
「シフト君、まだ何か隠していることがあるのかな?」
「い、いえ、そ、そんなことはないですよ。 ははははは・・・」
「そうですよね。 シフト様に限ってそんなことはないですよね」
「そうですよ。 ははははは・・・」
「あははははは・・・」
「ははははは・・・」
グラントたちは笑顔だが目が笑っていない。
「シフト! すべて話せ! これは王令だ!!」
「グラント! そんなくだらないことで王令使うんじゃねぇよ!!」
このあと、シフトとグラントたちの舌戦が1時間ほど続いたが、結局シフトが白を切り通した。




