201.大軍の調査
シフトは先にミルバークの町を出て南西にある草原に来ていた。
ギルバートの提案を受ける代わりにシフトは魔動車を用意するところは見せられないことを伝える。
その言葉にギルバートもギューベも同意してくれた。
シフトは【空間収納】を発動すると魔動車を取り出すと空間を閉じる。
しばらくするとルマたちがギルバートたちを引き連れて草原に到着した。
ギルバート、サリア、ギューベ、クーリアは珍しそうに目の前にある魔動車を見ている。
「シフト君、これが黒い鉄の塊かい?」
「そうですよ、ギルドマスター」
「シフト様、これが浮くんですか?」
「浮きますよ、サリアさん」
「俄かには信じられないのですが・・・」
「ですが目撃情報もありますし、あながち嘘ではないとは思いますが・・・」
ギルバートたちは疑心暗鬼になっている。
「ここで見ているだけでは時間がもったいないので早速王都へ移動しましょう。 その前にこの魔動車ですけど定員は8人です。 僕たちは今10人なので2人は載れません」
「それだと2人はここに残ることになるね」
「いえ、今回は全員で行きます。 僕たちは役割分担があるので1席ずつ座りますが、ギルドマスターたちは2人で1席に座ってください」
「2人で?」
「1席?」
「はい、2人で1席です。 それじゃ、早速中に入りましょう」
シフトたちは車内に入るといつもの所定の場所に座る。
ギルバートたちは話し合った結果、ギルバートとサリアを、ギューベとクーリアを抱き寄せるように座った。
あとはシートベルトで固定すれば完了だ。
「シフト君、これはさすがに・・・」
「恥ずかしいですわ」
「ク、クーリア、すまない」
「だ、大丈夫ですよ、ギューベ様」
4人ともあまりの恥ずかしさに赤面している。
「それじゃ、出発するよ」
「「「「「はい、ご主人様!!」」」」」
こうしてシフトたちが載った魔動車は空を飛んで王都スターリインに向けて出発した。
4時間後───
「ご主人様、前方に王都スターリインが見えるよ」
「王城発見」
いつもよりも安全面を重視して飛行していると前方を確認していたベルとフェイが王都スターリインの王城を確認した。
高度を低くして飛んでいたのでいつでも着陸態勢をとれる。
王都スターリインまでの距離はまだ40~50キロほどあった。
シフトは直前まで魔動車で移動したいので、今の高度を維持しつつ後方への魔力供給を完全に止めて、あとは魔石に残された魔力で進む。
残り5キロほどになると後方の魔石の魔力が切れたのでそこからはルマの運転による陸路で進むことにした。
10分後、王都スターリインまであと2キロほどのところまでくると魔動車を止める。
「ギルドマスター、到着しましたよ」
「あ、ありがとう、シフト君」
サリアとクーリアは恥ずかしそうに席を立つ。
ギルバートとギューベもそれに続いて席を立った。
「これが魔動車か・・・」
「乗り物の概念が変わりますわね」
「まさに乗り物の大革命といってもいいでしょう」
「量産されれば馬車の時代が終わってしまいそうです」
ギルバートたちは車外に出るとそれぞれ魔動車について話し合う。
「ギルドマスターたちは先に王都へ移動してください。 僕も魔動車を収納してからすぐに向かいます」
「わかった、先に王都の東門で待っている」
「ルマたちもギルドマスターたちと一緒に先に行っててくれ」
「「「「「畏まりました、ご主人様」」」」」
ギルバートたちはルマたちと一緒に素直に王都の東門へと歩いていく。
ここでシフトの機嫌を損ねたら帰りは徒歩になってしまうからだ。
ある程度距離が離れたことを確認するとシフトは【空間収納】を発動して魔動車をしまうと空間を閉じた。
「これでよし、僕も行きますか」
シフトはルマたちのあとを追うように走っていった。
しばらく走っていると前を歩くルマたちに追いついて合流する。
20分後、王都の東門に到着したシフトたちだがそこにはすでにグラントの使いが待っていた。
「これはギューベ辺境伯にギルバート様、それにお連れの方々もお待ちしておりました。 国王陛下がお待ちです、私についてきてください」
突然の来訪にも関わらずグラントが待っているということは影が報告したのだろう。
シフトたちは2度目なのでさほど驚かないがギルバートたちはグラントの行動力に驚いていた。
「陛下は私たちがすでにここにいることを知っているのですね」
「それなら待たせるわけにはいきません。 早く王城へ向かいましょう」
シフトたちは使者の後に続いて歩いていく。
入城して謁見の間まで通される。
「陛下、ギューベ辺境伯、ギルバート様、それにお連れの方々を連れてまいりました」
「うむ、ご苦労。 下がってよいぞ」
「はっ!!」
使者は一礼すると謁見の間から退室した。
「久しいのぅ、ギューベ、ギルバート」
「「はっ!!」」
ギューベとギルバートは即時に返事をした。
「御託はいいのでさっさと要件を済ませたい」
「シフト君!」
「久しぶりの再会なのだからゆっくり話したいのだが、急いで来たということは急を要することなのだろう?」
グラントは核心を突く一言を言うとギューベが答える。
「はっ!! 実は早急にお耳に入れたいことがあり参上致しました」
「申してみよ」
「はっ!! ガイアール王国北東にて未知数の人間・魔物・魔獣がここ王都スターリインに進軍中です」
「なんと?! それは真か?!」
「はっ!! ここにいる私の部下に確認させたので間違いございません。 クーリア、説明しろ」
クーリアがグラントに一礼する。
「はっ!! ここにいるシフト殿から情報を得た私は風の精霊を使役して確認したので間違いございません」
「ふむ、その言葉を疑うつもりはないが余も確認するべきだな」
グラントは近くに控えている衛兵に命令する。
「王宮魔導師団から風の精霊を使役できる者をここへ呼べ!」
「はっ!! ただいま呼んでまいりますのでしばらくお待ちください」
衛兵が謁見の間を離れてしばらくすると3人の魔導師を引き連れて戻ってきた。
「陛下、御用ということで参りました」
「うむ、其方たちに頼みたいことがある。 風の精霊を召喚し、北東に大軍がいるか確認してほしい」
「仰せのままに。 ここでは建物が遮蔽物になり確認ができないので屋外にて行いたく許可をいただけないでしょうか?」
「わかった。 許可しよう」
「ありがとうございます。 では、早速屋外に移動して風の精霊を召喚します」
魔導師たちは一礼すると謁見の間から出ていく。
「うむ、確認が終わるまで時間がある」
グラントの言葉を聞いてシフトは嫌な予感がした。
「そこでシフトに聞きたいのだが、あれは何かのぅ?」
グラントは楽しそうな笑顔でシフトに質問してきた。
「あれとはなんですか?」
シフトは白を切る。
「とぼけても無駄よ。 今回は影だけでなく余もこの目で見ているのだからな」
「はぁ、あんたは本当にそういうの好きだな」
「ふふふ・・・この手の話は好きだからな」
「今回は王国にとって一大事だし仕方なく使ったけど、あの大軍に『勇者』がいる」
シフトの一言でグラントはすべてを悟った。
「! そうか・・・シフトよ、行くのか?」
「ああ、止めても無駄だ」
「止めはしない。 ただ、後悔だけはするな」
「それは事が終わってから考えるよ」
シフトとしてもライサンダーたちに復讐が終わったら、ルマたちと一緒に生きていこうと決めているのだから。
「それはさておき、あれはどういう原理で宙に動いているのだ? 教えてはくれまいか?」
「グラント、あんたも結構しつこいな」
「ふふふ・・・王としては国を発展させるためならば貪欲でなければな」
それからシフトはグラントから質問攻めを受けることになった。
30分後、魔導士たちが戻ってくる。
「陛下、北東を確認したところ大軍がこちらに進軍しています」
「私も同じく大軍を確認しました」
「進軍していることに間違いございません」
魔導士たちは全員北東にいる大軍を確認したことをグラントに報告した。
「そうか、真か・・・わかった。 伝令!!」
謁見の間の扉を開くと衛兵がやってくる。
「これより緊急対策会議を開く! 国王直属聖騎士団、王宮魔導師団および第一・第二・第三騎士団、第一・第二・第三魔法兵団の各団長を会議室に呼べ!!」
「はっ!!」
衛兵は一礼すると謁見の間を出ていった。
「ギューベ、報告ご苦労。 余はこれより対策を立てねばならぬ。 ここにいる者たちも会議に全員参加してもらう」
「「「「「「「はっ!!」」」」」」」
ギルバート、サリア、ギューベ、クーリア、3人の魔導師たちはグラントに一礼した。
波風立たないようにシフトたちも一礼する。
グラントの号令により北東にいる大軍への緊急対策会議が行われることになった。




