195.夢幻 ~お茶会~
「お茶会ですか?」
「ええ、命の恩人であるあなたに是非参加してほしいのです」
公爵令嬢からの直々のお誘いに戸惑うシフト。
どうしたものかと考えているとザールが命令する。
「シフト、レディからのお誘いなのだからお茶会に参加してきなさい」
「ザール様?」
「私は先に館に戻っているから、ちゃんとレディをエスコートするんだぞ」
それだけ言うとザールはさっさと歩いて行ってしまった。
「シフト様、どうぞこちらです」
公爵令嬢が歩き出すとそれに4人の令嬢が続く。
仕方なくシフトも令嬢たちのあとについて歩き出す。
しばらくすると1つの部屋の前に到着する。
そこには女性の騎士2人が扉を守っていた。
公爵令嬢たちが扉の前まで来ると女騎士の1人が声をかける。
「お待ちしておりました、5人と聞いておりましたがそちらの男性は?」
「昨日の賊の襲撃から私たちを守ってくれた命の恩人ですわ。 今日のお茶会に参加してほしいと頼んだのです」
「そうでしたか、失礼しました。 すぐに王女殿下に確認します」
女騎士の1人が部屋に入ると1分後に部屋から出てくる。
「お待たせしました。 どうぞ中へ」
女騎士が扉を開くと公爵令嬢たちが中に入っていくのでシフトも後に続く。
そこは中庭になっており、薔薇をはじめとした多くの植物が咲き誇っていた。
中庭の中心には大きなテーブルがあり、そこにはすでに2人の女性が座っている。
1人は金色の髪で縦ロールの可憐な令嬢。
もう1人は紫の髪と目の色でセミロングヘア、そして5人の令嬢のうちの1人と同じような顔だちの令嬢だ。
後ろには護衛の女騎士が1人仁王立ちしている。
「皆さん、ようこそお出でくださいました。 さぁ、座ってください。 そちらの騎士様も遠慮なく」
「いえ、ぼ・・・んん、自分はここで問題ありません」
シフトが丁重に断ると金髪縦ロール令嬢が顔を伏せ泣き崩れる。
「ああ、断られてしまいました」
「貴様! マーリィア王女殿下の誘いを無下にするとは万死に値する!!」
え?! この金髪縦ロール令嬢、王女様だったの?!
シフトは慌てて膝を突いて弁明する。
「も、申し訳ございません。 自分は一介の騎士です。 場を弁えるのは当然のことでは?」
「それでもマーリィア王女殿下が許可を出したというのに着席しないとは何事か!!」
女騎士がシフトに対して殺気を放つ。
(この女騎士、昨日のアルデーツ、メーズサン、ギルバートに匹敵する強さを感じる)
シフトが身構えるとマーリィアが止める。
「やめなさい、シルファザード。 お茶会に剣を持ち出すなんてダメよ」
「こ、これは失礼しました」
シルファザードと言われた女騎士はマーリィアに一礼する。
「さぁ、あなたもその場で膝を突いてないで椅子に座ってください」
「わかりました、失礼します」
シフトは空いている席に座る。
マーリィアは満足するとメイドにお茶を用意するように命令してから話を始めた。
「それでは自己紹介をしましょう。 私はこのガイアール王国の第二王女でマーリィア・クラム・ガイアールです」
紫髪セミロングヘアの令嬢が口を開く。
「次は私かな? 私はリーン。 伯爵令嬢です」
次にシフトをお茶会に誘った5人の令嬢のリーダー格の赤髪セミロングヘアの令嬢。
「私は公爵の娘でルマといいます。 家は代々魔法使いを輩出しています。 昨日は助けていただきありがとうございます」
紫髪ミドルヘアの令嬢が口を開く。
「ベル、伯爵の娘」
ベルが口を開くとマーリィアがものすごく嬉しそうに声を上げる。
「キャアァーーーーーッ!! 私のベルゥーーーーーッ!! 可愛いわぁーーーーーっ!!」
「ちょっと何を言っているのですか! 可愛いのは当然ですけど、私の妹に手を出すなら、たとえマーリィア王女殿下でも許しませんよ!!」
「リーン様、いくらあなた様でもマーリィア王女殿下に矛を向けるなら容赦しません!」
「やれるものならやってみなさいよ!」
なぜかベルの取り合いになり、リーンVsシルファザードが勃発しようとしていたが、ベルがうんざりしたように言葉を投げかける。
「五月蠅い、ベルはリーンお姉さまや王女様の玩具じゃない。 大人しくしないなら出ていく」
「そんなぁ・・・シルファザード、今すぐ大人しくしなさい。 ベル、お茶会を途中で退席するなんてダメよ。 礼儀に反するわ」
「そうよ、私の可愛い妹。 いつまでも私のところにいないとダメなんだから」
マーリィアもリーンもなぜかベルにご執心だ。
(それにしてもリーン様の放った気迫、あの女騎士と互角だ)
戦わずにホッとするシフトだった。
青髪ストレートヘアの令嬢が口を開く。
「わたしは侯爵の娘でローザ。 下のほうの侯爵だ。 わたしの家は剣術を始めとした武器の扱いに秀でた者を世に輩出している」
緑髪ショートヘアの令嬢が元気よく話す。
「ぼくはフェイ。 男爵の娘だよ。 ぼくの家系はとにかく格闘に優れているんだ」
黄髪ロングヘアの令嬢が礼儀よく挨拶する。
「わたくしの名はユールですわ。 実父の爵位は子爵ですわ。 わたくしの家系は代々回復魔法に特化した一族です」
「昨日は額の怪我を治療していただき誠にありがとうございます」
「当然のことをしたまでです・・・といいたいところですが、その額の深い傷を完全に治せない未熟なわたくしをお許しください」
「そんなことないですよ。 あのまま放置していたら今自分が生きてるかもわからなかったのですから」
「シフト様、改めてお礼申し上げます」
ユールが頭を下げるとルマ、ベル、ローザ、フェイも頭を下げる。
「昨日は助けていただたいのに礼が遅くなり申し訳ございません」
「ありがとう」
「もし、貴公がいなければこの命尽きていたかもしれない」
「本当に助かったよ」
「いえ、自分は騎士として当然のことをしたまでです。 皆様、どうかお顔を上げてください」
ルマたちは顔を上げるとシフトを褒め称える。
「強いだけでなく謙虚な方ですのね」
「気に入った」
「君みたいな優秀な人材がいるとはザール辺境伯が羨ましいぞ」
「ぼくのところの護衛とは大違いだよ」
「今時命を投げ捨ててまで尽くしてくれる殿方などそうはいませんわ」
「そ、そんなに褒められると照れますね」
シフトとしてもこんなに美しい令嬢たちに褒められて満更でもない。
しかし、それを面白くない目で見るのが2人。
「私のベルに手を出すなんて!!」
「マーリィア王女殿下、ベルはあなたのモノではありません。 ですが、ベルがどこの馬の骨だか知らないモノになるのは正直不愉快ですね」
「マーリィア王女殿下、あの騎士を斬る許可をいただけませんか?」
いや、主を不愉快にさせたことでシルファザードも怒りを露わにしていた。
だが、ベルの一言でマーリィアとリーンが冷や水を浴びる。
「もし手を出すならもう一生口を利かない」
「ああ、私の可愛いベル! そんなこと言わないで!!」
「そうよ! お姉ちゃんが悪かったわ!!」
まるでこの世の絶望と言わんばかりに2人はベルのご機嫌取りを始めた。
さすがに収拾がつかなくなってきたのでシフトが口を出す。
「皆様、落ち着いてください。 せっかくのお茶会ですし、もっと楽しみましょう。 ベル伯爵令嬢もマーリィア王女殿下と姉君であるリーン伯爵令嬢を許してあげてください」
「ベル」
「?」
「呼び捨てで構わない。 これからはベルと呼んで」
「いや、さすがにそれは・・・」
それを聞いたルマたちも次々と声をあげる。
「たしかに命の恩人に敬称でいわれるのはおかしいです。 それなら私のこともルマと呼ぶ捨てでお願いします」
「わたしはローザと呼んでくれ」
「ぼくもフェイでお願い」
「わたくしもユールと気軽に声をかけてくださいまし」
「えっと・・・」
シフトはなんとかこの案を却下しようと考える。
「様付けではダメでしょうか」
「ダメです」
「ではさん付けでは・・・」
「ダメです」
「ううん・・・」
シフトとしては令嬢を呼び捨てなどできるはずがない。
「私たちがいいといっているのですから」
「・・・わかりました」
「それでシフト様のことも聞きたいです」
「すみません。 自分は一介の騎士にすぎないので呼び捨てでお願いします」
その言葉に残念がるルマたち。
「それはシフト様に申し訳ないような・・・いえ、そのほうが夫婦や恋人っぽくていいですね」
「たしかに」
「なるほど」
「いいね」
「賛成ですわ」
「え゛?」
しかし、ルマの視点を変える一言で賛成へと変わる。
そのあとはルマたちから質問攻めにあうシフトであった。




