193.夢幻 ~スキル授与から国王との謁見~
「・・・」
その光景を見ていると頭の中に霧が立ち込める。
「・・・あれ? ここはどこだ?」
さっきまで覚えていたはずだ。
「僕は・・・僕は誰だ?」
思い出せない。
「・・・」
村を眺めていると名前を呼ぶ者がいた。
「おーい、シフト」
「こっちにいらっしゃい、シフト」
「?」
誰だろう? 優しそうな笑顔で名前を呼ぶこの人たちは?
「えっと・・・」
「何恥ずかしがっているんだ?」
「そうよ、親子なんだからそんなに恥ずかしがることないじゃない」
頭の中に衝撃が走る。
(! そうだ、僕の名前はシフトだ。 そして、この人たちはシフトの両親だ)
なぜ今まで気が付かなかったんだろう?
「おいおい、大丈夫か? 身体が悪いなら家に帰るか?」
「もう、ヤーグったら。 シフトはそんなに弱い子ではないですよ」
「はっはっは、それもそうだな。 ヨーディ」
「今日はシフトにとってとても大事な日なのよ」
「そうだぞ。 シフトももう5歳だ。 今日村では4ヵ月に1度のスキル鑑定の儀を行う日なんだからな」
「スキル鑑定の儀?」
「そうよ。 今日は神様がシフトに祝福を授けてくれるの」
「そうなんだ」
シフトが納得していると教会の扉が開き、熟年のシスターが外を出て大声で村人たちに呼びかけた。
「これよりスキル鑑定の儀を執り行います! 今年5歳になった子供たちは今すぐ教会に集まってください!!」
神父の到来に両親は明るい声でシフトに話しかける。
「さぁ、行こうか」
「ほら」
シフトは両親に背中を押されながら教会へと入っていく。
しばらくたつと[鑑定石]を持った神父と先ほどのシスターが壇上にあがった。
「それではスキル鑑定の儀を始めたいと思います。 一番先頭の子から壇上にあがってください」
何組かの親子が鑑定を行われ、ついにシフトの番が回ってきた。
「では、次の方どうぞ」
「お、ついに出番だぞ」
「さぁ、行きましょう」
シフトは両親に連れられて壇上にあがると神父が名を聞いてきた。
「少年、名前は?」
「シフトです」
神父は首を縦に振った。
「そうか、シフト君か。 では[鑑定石]に手で触れてごらん」
シフトは[鑑定石]に触れると虹色に輝きだした。
「な、なんじゃこれは!!!」
「虹色?! 見たことないわ!!!」
「こ、これは一体?!」
「どうなってるのかしら?!」
[鑑定石]にはシフトのスキルが映し出された。
「【万能】? 初めて見るスキル名だのぉ・・・」
「あたしも長年鑑定の儀を見てきましたが金銀銅以外のは初めてですよ」
神父とシスターの話を聞いた両親たちはシフトを抱きしめて喜んでいた。
「シフト! 良かったな!!」
「神様はあなたに素晴らしいスキルを与えてくれたのよ!!」
シフトは神父に問いかける。
「神父様、僕のスキルってなんですか?」
「・・・えっと・・・君のスキルは【万能】というスキル名でのぉ・・・詳細はわしにも解らんのじゃ・・・」
「ごめんね、シフト君。 わたしも解らないスキルだわ」
「君のスキルだけど、一応上に報告させてもらうよ・・・」
「王宮の書庫を探せば解るスキルかもしれませんものね・・・」
「そうじゃな・・・陛下にも報告しとくか・・・」
神父とシスターはシフトの問いに申し訳なさそうに頭を下げた。
「神様、ありがとうございます!!」
「感謝します!!」
両親は上機嫌にシフトを連れて後ろの座席に移動した。
その直後、彼らに声がかけられる。
「失礼、少しお時間をよろしいですかな?」
シフトたちが振り向くとそこには執事と後ろには貴族の礼服を着たイケメンが控えていた。
「ど、どちら様しょう?」
「この方はヘルザード辺境伯領主ザール様です」
執事は名を告げるとザールを前に出させ自分は一歩下がった。
「私はここヘルザード辺境伯領の領主でザールと言います」
「ご、ご丁寧にどうも・・・」
「そ、それで何用でしょう?」
ザールはシフトを見て要件を切り出す。
「実は彼、シフト君でしたか? 彼を私の騎士団にスカウトしたいのです?」
「そ、それは光栄ですが・・・」
「シフトはまだ子供なので・・・」
両親が渋るとザールが説得を始める。
「彼1人を私のところに呼ぶわけではございません。 彼にはまだあなたたち両親が必要ですので家族全員で首都ベルートに来てはもらえないでしょうか? もちろん、首都での仕事と滞在先の住居、それに生活に必要な金銭をご用意いたします」
「どうする?」
「あたしたちが良くても、シフトの意見も聞かないと・・・」
両親がシフトを見る。
「シフト、今の話を聞いてどう思う?」
「あたしたちはシフトの意思を尊重するわ」
「僕は・・・僕はその話を受けたいです。 できれば両親も一緒で・・・」
ザールが笑顔でシフトに話しかける。
「本当かい?! それは!」
「は、はい! お役に立てるかわかりませんけど・・・」
「君なら大丈夫さ。 何しろあの虹色の光が君を祝福してくれたんだからね。 それでは善は急げということで早速来てもらっていいかな?」
「はい!」
「良い返事だ。 では荷物をまとめて早速行こうか」
シフトたちは家の荷物を纏めるとネルス村を離れ、首都ベルートへと旅立つのであった。
6年後───
シフトはザール辺境伯の下でめきめきと頭角を現していき、齢11歳にも関わらず騎士団最強にまで上り詰めた。
これによりザールの筆頭護衛に抜擢される。
両親も首都での仕事になれて、今では楽しい毎日を送っていた。
そんなある日、ザールから声を掛けられる。
「シフト、今度ガイアール王国の王都スターリインに護衛として同行してくれないか?」
「ザール様、僕はまだ11歳ですよ? 護衛であればルッティ副騎士団長が適任ではないでしょうか?」
「何を言っているのですか、シフト騎士団長。 本来ザール様の護衛はシフト騎士団長の仕事ですよ?」
ルッティが上官であるシフトに意見する。
「だけど・・・」
「それにシフト騎士団長は俺たち騎士団の中でも最強の実力者ですよ? 例えどんな敵からでもザール様をお守りできますよ」
「ルッティの意見もそうだが、これは私が執事と話し合って決めたことだ。 君は武術だけでなく礼儀もわきまえている。 私としても一緒にいてくれればとても心強い。 どうだろう?」
「シフト騎士団長が首を縦に振るまでここから出しません」
執事が部屋全体を【風魔法】で風を結界のように覆っていた。
(う゛! あの【風魔法】は厄介なんだよなぁ・・・)
執事の【風魔法】はシフトでも梃子摺るほどだ。
「はぁ、わかりました。 しかし、僕は礼服は持っていませんよ?」
「それなら大丈夫。 もう仕立て屋をここに呼んでいるから」
ザールがそういうと執事が【風魔法】を解いてから扉を開ける。
すると見目麗しい女性が入ってきてシフトのところまでやってくる。
「ザール様、こちらの騎士様ですか?」
「ああ、そうだ。 今すぐお願いね」
「畏まりました」
「礼金は弾むから恰好良いのを何着か頼むよ」
「任せてください」
女性の1人がメジャーを取り出すと素早くシフトに近づく。
「申し訳ないのですが鎧を脱いでもらえますか?」
「え、あ、は、はい・・・」
シフトが鎧を脱ぐと女性が身体を密着してくる。
(あ、良い匂い。 む、胸が当たってる)
普段、女性への免疫がないせいか身体が触れる度に緊張してしまう。
「・・・はい、寸法は終わりました。 それでは早速店に戻り礼服の仕立て作業に入らせていただきます」
「礼服はいつ頃できそうかな?」
「そうですね・・・仮縫いで3日、そこから仕上げるのに4日、1週間あれば問題ないかと?」
「1週間か、問題なさそうだね。 それで頼むよ」
「畏まりました。 それでは失礼します」
女性は一礼すると部屋から出て行った。
「それじゃ、礼服が完成次第王都へ出発する」
「畏まりました」
その後、3日後にサイズ合わせをして、約束通り1週間で3着の礼服を仕上げてくる。
準備が整ったところでシフトはザールの護衛で王都へと旅立つのであった。
4ヵ月後───
シフトはガイアール王国の王都スターリインに無事到着した。
移動中に盗賊や山賊がでなかったのは幸いである。
王都スターリインの貴族街にあるザールの館へと向かう。
これでしばらくは休めそうだと気を楽にしていたらザールがシフトを呼んだ。
「シフト、礼服に着替えろ。 これより国王陛下に謁見する」
「え、今からですか?」
「そうだ、疲れているところ悪いが急いでくれ」
「か、畏まりました」
シフトはザールのメイドに手伝ってもらい礼服に着替える。
着替え終わるとザールのところに移動した。
「剣とかはここに置いていけ。 向こうに行って城の衛兵に預けてもいいが、ここから城までそんなに遠くないからな。 無用なものは持ち込まなくていいだろう。 それにシフトなら賊がいても素手でも対応できるだろ?」
「たしかに相手にできますが・・・わかりました」
シフトは一旦部屋に戻り帯剣を置いていくと再びザールのところへと戻った。
「それじゃ、行こうか」
「はい」
シフトはザールの後ろについて、王城まで歩いて行った。
門の前では門兵がザールに対応する。
「これはザール辺境伯様、お待ちしておりました」
「グラント国王陛下に謁見しに参りました」
「話は伺っております。 そちらの方は?」
「彼は私の護衛です」
「そうですか、それでは念のため失礼します」
門兵がシフトにボディチェックを行う。
「・・・武器の所持はないですね。 協力ありがとうございます」
シフトは門兵に一礼する。
「それでは中へどうぞ」
城門が開くとザールを先頭にシフトも城内に入っていく。
ザールは慣れた道を進むと謁見の間の一歩手前までくる。
そこで身嗜みを整えるとシフトに一言いう。
「そんなに緊張しなくてもいい。 国王陛下は寛大なお方だ。 些細なことでは怒ったりはしない。 それと部屋に入ったら私の真似をすればいい」
「は、はい」
「さてと・・・準備が整ったので国王陛下へのお目通りを願いたい」
ザールが衛兵に声をかけると衛兵が扉の中に入っていった。
1分と経たずに衛兵が扉から出てくる。
「国王陛下の許可が下りました。 どうぞ中へ」
「ありがとう」
ザールを先頭にシフトも謁見の間に入る。
ある程度進むと止まりそこで膝を突いて頭を下げる。
「グラント国王陛下、ザール参上しました」
「ご苦労、面を上げよ」
「はっ!!」
ザールが顔を上げてからシフトも顔を上げる。
玉座には初老の男性が立派な服を着て玉座に座っている。
男性の名はグラント・クラム・ガイアール、この国の国王だ。
「久しいな、ザール。 息災か?」
「はい、陛下におかれましてもご健勝で何よりです」
「ははは・・・健康だけが取り柄だからのぅ」
「陛下、お戯れを・・・」
「よいではないか、公衆の面前ではないのだ。 羽目を外しても問題あるまい」
それからしばらくグラントとザールが話をする。
ある程度話の区切りがつくとグラントがシフトに視線を向ける。
「ところでそちらの少年は?」
「はい、彼は私の筆頭護衛です」
「なんと、その若さでザールの筆頭護衛とな? うーむ・・・」
「シフト、挨拶を」
「シ、シフトです。 国王陛下にお会いできて光栄です」
シフトはグラントに挨拶すると頭を下げる。
「ふむ、余はこのガイアール王国の国王であるグラント・クラム・ガイアールだ。 これからもザールを守ってやってくれ、若き騎士よ」
「ははっ!!」
「さてザールよ、今日開催される晩餐会には参加するのであろう?」
「もちろんでございます」
「なら早く戻って休むがよい」
「はっ! それでは失礼いたします」
ザールが立ち上がるとシフトも立ち上がって謁見の間をあとにした。




