192.不時着
シフトたちは島の開けた場所にやってきた。
「ここなら魔動車で空を飛んで移動できるぞ」
シフトは【空間収納】を発動して魔動車を取り出すと空間を閉じる。
魔動車に乗り込むとシフトたちは定位置に座り、シートベルトで身体を固定した。
「それじゃ、西へ向けて出発する」
ユールが前面の鉄のパネルに魔力を流して運転席の正面に風の障壁を展開する。
それを確認したシフトは後部座席にある浮力と加速の鉄のパネルに魔力を流した。
魔動車は前方に急加速しながら少しずつ空に浮いていく。
シフトたちは巨人が住む島から脱出した。
しばらくは順調に西へ飛んでいたが、ここで異変が起きる。
それは飛行時間にして1時間後のことだ。
突然、風の力が制御できなくなる。
「なっ?! どういうことだ」
シフトが操作している飛行用の魔石に魔力を流しても反応しないのだ。
まるで誰かが意図的に魔力を遮断したかのように。
このままだと地面か海面に激突する。
誰もがそう思っていたが、魔動車は誰かに操られたように目の前にある島へと移動していった。
そして、無事に島に着陸する。
シフトたちは魔動車が動くか点検した。
その結果、前面の風の障壁は問題なく動くが、運転席と飛行用の魔石は魔力を流しても動かない。
魔石を取り出して魔力を流すと問題なく風が吹く。
なら、魔動車の魔力経路に問題あるのかとベルとローザに点検させたが異常はなかった。
魔石や魔力経路には何も問題ないのに、魔石を嵌め込むと魔動車は動かない。
「ご主人様・・・」
「どうやら誰かが僕たちをここに意図的に招待したと考えたほうがいいだろう」
「一体誰が?」
「まさかアクアルちゃんが偽情報を?」
「彼女が嘘をつくとはとても思えないがな」
「わたくしもローザさんの意見と同じですわ」
「とにかく今はこの島を探索するしかないようだな」
シフトは【空間収納】を発動して魔動車をしまうと空間を閉じる。
「それじゃ探索しようか」
「「「「「畏まりました、ご主人様」」」」」
シフトたちは島を探索し始めた。
まずは外周を確認する。
8時間後───
太陽が地平線に沈むころ、シフトたちは島を1周した。
これといって異常を感じるような力や磁場は発生していない。
それどころか魔物や魔獣がいる気配がないのだ。
これだけの島なら魔物や魔獣の1匹や2匹いてもおかしくないのに。
「この島、かなり広いな」
「ええ、これだけ広いと原因を調べるのも一苦労ですね」
「ご主人様、お腹空いた」
「歩きっぱなしだからな、無理もない」
「着陸した場所で1泊しようよ」
「あの場所なら見晴らしもいいし1泊するのに丁度いいですわ」
シフトたちは魔動車が着陸した場所に向かう。
ユールの言う通り見晴らしもよくかなり広い場所である。
シフトは【空間収納】を発動して食料や鍋、食器などを出す。
ルマたちもいつも通りの役割で食事の準備を進める。
しばらくすると鍋にはベル特製のスープが出来上がり、火の周りには串焼き肉がそれぞれ5本あった。
大きな食器にはじゃが芋を煮た物がゴロゴロと盛り付けられている。
料理ができたところでシフトたちは食事を始めた。
「うん、相変わらずベルの料理は美味い」
「この頃は火が使えない場所や出会った人たちとの関係で大味な食事がほとんどでしたからね」
「保存食や作り置きの携帯食、簡素な料理もいいけど、ベルの手の込んだ料理が一番だな」
「ベルちゃんはやっぱりぼくたちの嫁だよね」
「本当ですわ。 ベルさんがいなかったらと思うとゾッとしますわ」
「ありがとう」
シフトたちは手放しで褒めると、ベルも頬を染めて嬉しい顔をする。
そんなベルを見ながらシフトたちも食事を楽しんだ。
食事を終えると久しぶりに野外での露天風呂を堪能する。
食事同様にこれまでのんびりと風呂に入る時間がなかったので、今日はとことん疲れを癒す。
当然のようにルマたちと一緒に入る。
そんなルマたちだが今日はなぜか積極的にシフトに抱き着く。
「ちょっと、みんな、どうしたの?」
「ご主人様の浮気者」
「むう」
「わたしたちがいながらほかの女に現を抜かすとはな」
「ぼくたちがどれだけ不満か考えてほしいね」
「まったくですわ」
検察官ルマたちが被告人シフトに対してこれまでの罪状を語り始める。
話の半分以上が女性の裸を見たことや触ったことについてだが、そもそもシフトから積極的に行ったことなどほとんどないのだ。
不可抗力でありどちらかというとシフトも被害者である。
それを口にしても新たにルマたちが不機嫌になるだけなのでその場では無言を貫く。
露天風呂も堪能(?)するとシフトたちは明日に備えて今日は眠りにつくことにした。
ベルとフェイ、シフトとルマ、ローザとユールの順番に夜番をする。
夜番も決めたところでベルとフェイ以外はさっさと眠りについた。
夢を見た。
小さいころに貧乏な家に住んでいたこと。
5歳のときに手に入れたスキルにより貴族に売られたこと。
10歳のときに勇者たちの荷物持ちになったこと。
11歳のときに勇者たちにより死にかけたこと。
ダンジョンの奥底で力をつけ、復讐を誓ったこと。
町の奴隷商でルマたちと出会ったこと。
復讐の対象者である1人の貴族を殺したこと。
生みの両親を殺したこと。
勇者たちの内の2人を殺したこと。
そして、いろんな人と出会い、別れていく。
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
「んん・・・」
シフトは目を覚ます。
「今のは・・・夢?」
それは自分の過去を体現した夢だった。
「なぜ今頃こんな夢を・・・」
シフトが考えていると周りの異常に気付く。
「っ! こ、これはっ?!」
そこは周りが霧に覆われていた。
近くにいたはずのルマたちがいない。
「ルマ! ベル! ローザ! フェイ! ユール!」
シフトはルマたちの名前を大声で叫ぶが返事がない。
「何がどうなっているんだ?」
ベルとフェイならすぐ異常に気付くはずだ。
それなのにあの2人を御してこの状態を作るとは只者ではない。
「まさか、この霧が僕に干渉を?」
シフトは【次元干渉】でこの霧を無効にしようとするができなかった。
「?!」
スキルが封じられている?
シフトは【念動力】、【限界突破】、【空間転移】、【空間収納】、【次元遮断】と試すがどれも使えない。
「どれもダメか・・・」
心の中で「ステータス」と呟くが、シフトの目の前に半透明な板が表示されることはなかった。
「手詰まりだな」
こうなるとこの霧を自力で抜けてルマたちを探し出し、この島を脱出するしかないだろう。
懐から魔石を取り出して魔力を注ぐと光りだす。
この光があれば問題ないかと考えたがシフトは動くのをやめた。
なぜ止めたのか? それは夜霧で迂闊に動けないからだ。
足元に何があるかわからないので、下手に動いて湖や海に落ちたら洒落にならない。
「まずは朝になるまで待つか・・・それまでルマたちが無事でいるといいが・・・」
シフトは魔物や魔獣を警戒するが、先ほどのルマたちの名前を叫んでも襲ってこないところを見ると本当にいないのだろう。
しばらくしてからシフトは警戒を解くと横になり一眠りすることにした。
シフトは目を覚ますと相変わらず霧に包まれていたが、太陽が昇ったことにより辺りが明るくなった。
周りを確認するが魔物や魔獣の気配はない。
「さて、ルマたちを探しに行くか・・・みんな、無事でいてくれよ」
まずは海に近い東を目指す。
シフトは警戒しながらも歩き始めるが、歩いても歩いても海に辿り着かない。
「おかしい。 昨日の感覚だともう海に出てるはずだ」
シフトは東に進むが一向に海に辿り着けない。
それどころか小波の音や木が揺れる音も聞こえないことに疑問を抱く。
歩いていると前の霧が少しずつ晴れていき、シフトは目の前が開けた。
「こ、これは?!」
シフトは今目の前にある光景に驚いている。
そこはかつてシフトが幼少の頃に住んでいた場所、ネルス村だ。




