190.人魚との再会
シフトたちが見た人魚・・・それはアクアルだった。
「ねぇ、あれってアクアルちゃんじゃないの?」
「本当だ」
「おーい、アクアルちゃーん!」
ベルとフェイがアクアルを見つけて声をかける。
「あ、皆さん・・・あ゛」
アクアルもシフトたちを見て思わず声をあげてしまった。
慌てて手で口を押えるももう遅い。
アクアルの言葉にシフトたちに眠気が襲ってくる。
シフトが【次元干渉】を発動しようとすると、懐から青い光が包み込み睡魔が打ち消された。
「ルマたちと同じ現象?」
ルマたちを見るとシフトと同じように青い光が包み込まれている。
「みんな、眠気は大丈夫か?」
「はい、ご主人様」
「眠くない」
「一瞬襲われたがすぐに打ち消された」
「ぼくも起きてるよ」
「この青い光のおかげで眠気がなくなりましたわ」
シフトは懐にある物を取り出す。
水の精霊がくれた指輪が青い光を放っていた。
ルマたちも所有している指輪を見ると青い光を放っている。
「これは一体・・・」
「指輪が光ってる?」
シフトたちが不思議にしているとアクアルがおずおずと声をかけてくる。
「あ、あのぉ・・・皆さん、大丈夫なんですか?」
直接目を見て話すが眠気は一瞬だけで青い光がシフトを守ってくれていた。
「どうやらこの指輪が僕たちを守ってくれているようだ」
シフトはアクアルに指輪を見せると驚きの声が聞こえてきた。
「こ、これは! 水神様の力を感じます!」
「水神様?」
「そうです! 皆さんは水神様にお会いになったことがあるのですか?」
「水の精霊がアクアルさんのいう水神様と同一ならあったことがあるかな」
「そうなんですか?! 羨ましいです・・・」
アクアルは喜んだのも束の間、今度は落ち込んでしまった。
「海人族にとって水神様の加護は誰もが喉から手が出るほど欲しいものなのです」
「そ、そうなんだ・・・」
どうやら水の精霊は海人族にとっては神そのもののようだ。
「いいなぁ・・・欲しいぁ・・・」
アクアルはシフトの指輪を物欲しそうにずっと見ている。
「あぁ、すまない。 水の精霊によると本人以外は持つことができないらしい。 あと盗難防止対策もされているからあげられないんだ」
「そ、そうなんですか?」
「試してみる?」
「え、ええ・・・」
シフトはアクアルの掌に指輪を置く。
しばらくするとアクアルの掌から指輪が突然消えて、シフトの掌にいつの間にか指輪が乗っていた。
「ゆ、指輪が?!」
「どうやら本当に盗難防止が働くんだな・・・」
シフトは掌の指輪を改めてみて無駄に高性能な作りに苦笑いする。
「こ、これ! どこで手に入るんですか?!」
「水の海底神殿だけど知ってる?」
「水の海底神殿?! 海人族に伝わる伝説の聖地じゃないですか! 本当に実在するとは・・・これは大発見ですよ!!」
アクアルは興奮して捲し立てる。
「でも僕たちがそこに立ち入った際は崩落してショートカットしたようなものだからな・・・今はどうなんだろう? 水の精霊に聞いてみないとわからないな・・・」
するとシフトの指輪が一層青く光りだす。
『お困りのようですね』
「その声は水の精霊か?!」
シフトたちは驚いて指輪を見る。
「こ、これが水神様の御声ですか?! なんて神々しい声なんでしょう・・・」
アクアルは水の精霊の声にうっとりしている。
『あら? その声は海に住みし者たちの歌姫では?』
「わ、わ、わ、わたしのことをご存じなのですか?」
『ええ、毎日歌が私のところに届いていますから』
「お、お、お、お耳を汚し、申し訳ございません!!」
アクアルは指輪に向かって何度も頭を下げた。
『そんなに畏まらなくても普通に接してください』
「水神様にそのような恐れ多いこと、わたしにはできません!!」
『うふふ、謙虚な方ですね』
水の精霊はアクアルの言動が微笑ましいのだろう。
「水の精霊に聞きたいのだが、水の海底神殿へと続く洞窟はどうなっているんだ?」
『あなた方を地上に転送したあと、洞窟を再開通させるために現在修復しています』
「ああ・・・ってことは僕たちが崩落した場所は・・・」
『修復済みです』
「ですよね」
普通に考えれば当たり前のことだろう。
『現在は洞窟の入口が閉ざされているので入ることはできませんが、あと2~3ヵ月すれば入れるようになります』
「3ヵ月後・・・先は長そうです」
「それ以前に人魚の足では洞窟の攻略は無理なのでは?」
「はうぅ、そうでした・・・」
落ち込むアクアルに水の精霊が声をかける。
『たしかに人魚の恰好では無理ですね。 私が少し力を貸してあげましょう』
アクアルが突然青い光りに包まれる。
「こ、これは?」
『あなたに2つの知識を与えました。 1つは水の海底神殿へと続く洞窟の入口。 もう1つは人間と同じ足にする魔法です』
「すごいです! 水の海底神殿の場所がわかります! あっちですね!」
アクアルが指さした方角はシフトが上空から確認した亜人種たちがいる島がある場所と一致している。
「それと───────~♪」
アクアルがなにかを口ずさむと下半身が魚の尾から人の足へと変化した。
「「「「「「?!」」」」」」
「わぁ~、足です! 人間族と同じ足に変わりました♪」
たしかに魚の尾が人の足に変わったけど、下半身がすっぽんぽんである。
「アクアル、足を閉じる」
「アクアルちゃん、足を動かしちゃダメ!」
「ご主人様、見てはダメですよ」
『うふふふ・・・相も変わらず面白い方々ですね』
水の精霊は愉快そうに笑う。
「水の精霊、知りたかったことは以上だ」
『お役に立てて何よりです。 人魚の歌姫も水の海底神殿で待ってます。 それでは』
それだけ言うと指輪の光が収まった。
「ふぅ・・・疲れた」
「油断も隙もありませんわ」
「まったくだな」
「威厳はありますがもう少し配慮してほしいところです」
ルマたちの言葉にアクアルが異を唱える。
「皆さん、水神様を悪く言わないでください!」
「ごめんなさい、悪く言うつもりはなかったんですけど」
「あ、いえ、わたしも言いすぎました」
場が一気に暗くなる。
そこでフェイが明るく元気よくアクアルに話しかけた。
「ところで久しぶりだね、アクアルちゃん」
「久しぶり」
「はい! 1ヵ月余りになりますか? 皆さんはどうしてここにいるんですか?」
「まぁ、色々あってね」
「話せば長くなる」
シフトたちはアクアルと別れてからの今までの経緯を話した。
「そんなことがあったんですか」
「そうなんだよ、それでぼくたちは今ガイアール王国に帰る手段を探しているんだ」
「アクアルならガイアール王国の場所知ってる?」
「ガイアール王国がどこだかは知りませんが、皆さんと別れた人間族の国なら知ってますよ」
「公国か! そこからなら僕たちでも帰れる!!」
シフトの言葉にルマたちも喜んでいる。
「アクアルさん、公国・・・僕たちと別れた人間族の国がどの方角だかわかりますか?」
「はい、場所は・・・」
場所を語ろうとしたその時、アクアルが急に下を向く。
「アクアルさん?」
アクアルはすぐに顔を上げると笑顔で話し始める。
「『ごめんさない、場所ですよね? ここから西に行けばありますよ』」
「西だね? ありがとう、助かったよ」
「『いえ、わたしも水神様に触れることができて感謝しています』」
「僕たちはこれからサイクロプスと巨人族に話をしてから西に旅立つよ」
「『そうですか、わたしはあと数日はここで歌を歌っています』」
「それじゃ、また」
「『はい、また人間族の国で会いましょう』」
シフトたちはアクアルと別れるとサイクロプスと巨人族たちのところへと戻っていく。
シフトたちが海岸からいなくなってからしばらくするとアクアルはハッとする。
「あれ? わたしはここで何を? たしか人間族の国を聞かれて・・・あ、そうそう、場所ですけど西北西を目指せば・・・」
海岸にはシフトたちの姿がなく、アクアル1人である。
しばらく探すもシフトたちを見つけることはできなかった。
「皆さん、どこ行かれたんですか? くすん・・・───~♪ ───~♪ ───────~♪♪」
アクアルは寂しさを紛らわすために歌い始めた。




