186.サイクロプスと巨人族の宴 〔※残酷描写有り〕
サイクロプスの集落に到着したシフト。
待っていると子供のサイクロプスたちと一緒に怪我人の治療を終えたユールもやってきた。
「ユール、お疲れ」
「ただいま戻りましたわ。 あら、フェイさんは?」
「今、巨人族に行ってルマたちをここに来るように頼んだ」
「あらそうでしたの」
シフトとユールが話していると3人のサイクロプスの女性が子供たちを抱えてやってくる。
「そこの2つ目族のお方。 怪我を治せると聞きました」
「私たちでは治すことができません」
「お願いします、息子の怪我を治してください」
3人のサイクロプスの女性がシフトとユールに頭を下げる。
「それは大変ですわ」
「ユール、治してあげて」
「畏まりましたわ」
女性たちが子供を地面に下ろすとそこには見たことがある顔が並んでいた。
「あら、この子たち・・・」
「たしか洞穴で見たサイクロプス?」
3人は意識がなくぐったりしていた。
「とにかく怪我を見ませんと・・・」
ユールが怪我を見ると肉を噛まれて、中には骨が見えている部分もあった。
かなり出血していて、生きているのが奇跡ではないかと思えるほどだ。
「いけない! このままでは死んでしまいますわ! すぐに治療します」
「「「お願いします!!」」」
ユールは【治癒術】を発動して重度の子供から傷を治していく。
「壊死した傷口に蛆が・・・これはダメですわね。 ご主人様、この子の腕を切断してください」
「わかった」
すると1人の女性が止めに入る。
「ま、待ってください! その子の腕を切るのですか?」
「わたくしを信じなさい!!」
ユールが真剣な表情で一喝する。
「ユールを信じてくれ」
「・・・わかりました」
シフトはユールの的確な指示で腕を切断した。
ユールは【治癒術】の中から【欠損部位治癒魔法】を発動する。
腕の部分が形成されると切断した部分の腕が見事に再生した。
「う、腕が元の戻った!」
ユールは【欠損部位治癒魔法】で子供たちの筋肉や筋を噛み千切られたところを次々と治していく。
これにより身体の欠損がなくなると今度は失った血を回復させるために【活性化魔法】で造血強化と同時に【生命力回復魔法】で生命力を回復させる。
しばらくすると子供たちの顔色に血色が戻ってきた。
「ふぅ、これで安心ですわ」
「ああ、坊や!」
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
「この御恩は一生忘れません!」
3人の女性たちは涙を流し、我が子を大事そうに抱きしめながらユールにお礼を言う。
「これくらい大したことはありませんわ」
「いや、大したことだよ。 ユール、お疲れ様」
シフトはユールの頭を撫でる。
「あ、ありがとうございますわ」
「おお、ここにいたか」
頭上より声がする。
そこにはラムラの父である巨人ロローがいた。
手にはルマたちとラムラが乗っている。
「ご主人様、連れてきたよ」
「お待たせしました」
「来た」
「無事着いたな」
ロローが手を地上に下ろすとルマたちが地面に着地する。
「ルマ、ベル、ローザ、お疲れ。 巨人族のほうは無事だったのか?」
「多少の怪我人は出ましたけど、死亡者はいません」
「そうか、それは良かった」
「それより心配したぞ、少年。 洞穴に入ってから3日経ったんだからな」
「すまない、まさか洞穴の中がかなり広いとは思わなかった」
「それで魔獣が減少した原因だが・・・」
ロローが聞くよりも早くサイクロプスの女性たちの声が聞こえた。
「みんな! 宴の準備ができたよ!」
「狩ってきた魔獣たちを今たくさん焼いてるから!」
「さぁ、じゃんじゃん食べてくれ!」
サイクロプスの女性たちは次々と毛皮を剥いだ魔獣の丸焼きを持ってくる。
それを見た男たちは雄叫びを上げ、巨人族の女性たちはサイクロプスの女性たちを手伝い始めた。
サイクロプスも巨人族も大きな焚火の前に座ると、皆笑顔で魔獣の丸焼きに手にとり旨そうに食べながら話している。
3日前の険悪のムードが嘘のようだ。
「父ちゃん、僕も食べたい!」
「らーも」
ラムラとラムラの兄ヨヨソがロローに訴える。
「わかったわかった、食べてくるがいい」
「わーい」
「やったー」
ラムラとヨヨソは魔獣の丸焼きのほうへと走っていく。
「すまないな」
「いいえ、気にしていません。 それで魔獣が減少した原因ですが・・・」
「その話、わしらも聞きたいのぉ」
「あぁ、俺たちも知っておきたい」
声がするほうを見るとサイクロプスの族長ギガンティーと巨人族の長老ジャイムがいた。
「それならどこか落ち着いたところで話しましょう」
「なら、俺の家だな。 おーい! 俺の家に肉を4つ持ってこい!」
「わかりました!」
その声を聞いた女性のサイクロプスが大声で応える。
「それじゃ行くか」
ギガンティーのあとにジャイムとロローとシフトたちと続いた。
家に入ると奥にギガンティーが座り、それを囲むようにジャイムとロローとシフトたちが座る。
そこに2人の女性のサイクロプスが家に入ってくると、焼きたての肉を4つ持ってきて、それぞれの前に置くと家を出て行った。
「話を聞く前に腹ごしらえだ。 さすがに腹が減ってるからな」
「かっかっか、そうしよう」
まずは腹ごしらえと巨人たちは目の前の魔獣の丸焼きに手を付ける。
シフトたちも戻ってくるまで戦い通しだったので、先に食事にした。
ローザがオリハルコンの剣で食べ易いサイズに切り分けると、シフトたちも食べ始める。
「うん、美味い」
「シンプルに焼いただけですが、これはこれでありですね」
「まったくだな」
「食べすぎに注意しないと・・・」
「ユールちゃん、気にしすぎだよ」
「ユール、もう手遅れ」
「わたくし太っていませんわ!!」
ユールがベルに猛抗議していると、巨人たちが笑い出した。
ユールは口を尖らせていたが、その場が和んだ。
食事が終わるとギガンティーが声をかけてきた。
「さて、魔獣が減少した原因を聞かせてくれ」
「わかった」
シフトたちは山にある洞穴での出来事を話した。
3人の子供のサイクロプスたちが魔獣の通り道を塞いでいたこと。
洞穴の奥にエリアボスの魔獣が24匹いたこと。
ただし、土の精霊については口に出さなかった。
なぜなら何を仕出かすかわからないからだ。
黙って聞いていた巨人たち。
「・・・なるほどな・・・どうやらうちのガキ共が迷惑かけたようだな・・・すまない」
「過ぎたことだ、気にすることはなかろう」
「そうだけどよぉ・・・間違ったことはしっかり叱らないといけねぇだろ? はぁ・・・まったく何を考えているんだ・・・」
サイクロプスが頭を悩ませていると家の外から女性の声が聞こえる。
『族長、いますか?』
「ああ、いるが今取り込み中だ。 野暮用なら後にしてくれないか?」
『できれば今会いたいのですが?』
「・・・あぁ、まいったなぁ・・・」
ギガンティーが困っているとジャイムが助け舟を出した。
「わしらは気にせんぞ」
「・・・すまねぇな。 おーい、入ってきていいぞ」
すると3人の女性のサイクロプスとそれに連れられて3人の子供が入ってきた。
「失礼します」
「ほら、あんたたち」
「ちゃんと謝りなさい」
よく見るとユールが怪我を治した子供たちとその母親である。
「あ、あの・・・」
「た、助けてくれてありがとう・・・」
「ご、ごめんなさい・・・」
子供たちは頭を下げる。
「あのなぁお前ら、ここにいる少年たちがいなければ今頃死んでたんだぞ? 本当に反省しているのか?」
「「「はい」」」
子供たちは萎らしくなっている。
どうやら、母親にこっぴどく怒られたらしい。
目には涙を流した後がある。
「聞いてもいいか? なぜあの洞穴に入ったんだ?」
「俺たち、たまたまあそこで遊んでいたら見つけたんだ」
「中が気になって入っていったんだよ」
「そしたら俺達でも倒せそうな魔獣がいたから」
そこでシフトは疑問に思ったので口に出した。
「質問だけど大きな魔獣やエリアボスがいたはずだ。 どうやって扉を半分だけ閉めたんだ?」
「洞穴から大小合わせた魔獣が出ていくとしばらく魔獣が発生しないんだ」
「それで魔獣がいない間に扉のところを半分だけ閉めて大きな魔獣を外に出さないようにしたんだよ」
「そうすれば俺達でも小型の魔獣をやっつけることができるから」
真相を聞いた母親たちが激怒する。
「あなたたちね、何をしたのかわかっているの!!」
「近頃食料が足りないのはそういうことだったのね!!」
「大人でも危険なのに子供が危ないことするんじゃありません!!」
「「「ご、ごめんなさい」」」
「まぁまぁ、落ち着け。 俺も男だからガキ共の言い分はわかるぜ。 だがな、この島を危機に陥れたことは許すわけにはいかない」
ギガンティーは今回の一件を無罪放免で済ますつもりはないようだ。
子供たちをしっかり見据えたうえで話しかける。
「今回お前たちがやったことは俺たちと2つ目たちとの仲を裂き、島を二分しての戦争になるところだったんだぞ? それは理解できるな?」
「「「・・・はい」」」
「下手をすれば俺たちか2つ目たち、或いは両種族ともに滅んでいただろう」
「「「・・・」」」
ギガンティーはジャイムに向き直り、そして、真剣な表情で嘆願する。
「2つ目の、今回の件は俺たちに非がある。 どうか俺の首一つで許してはくれないだろうか?」
それだけいうとギガンティーは頭を下げた。
「「「族長!!」」」
「「「・・・」」」
母親たちは悲壮な叫びをし、子供たちは今更ながらに事の重大さを知って顔が蒼褪める。
黙って見守っていたジャイムが重い口を開く。
「1つ目の、お前がいなくなったらここはどうなる? 誰がここを纏めていくつもりだ?」
「それは・・・」
「お前の代えなどそうはおらんよ。 それと・・・易々と命を差し出すな!」
「2つ目の・・・」
「間違った道を進むなら、正しい道に導けばそれで良い。 わしからは以上だ」
「・・・すまない。 恩に着る」
ギガンティーは頭を上げると今度は困った顔をする。
「しかし、そうなると処罰をどうするかだ・・・」
「それなら大人と一緒に狩りをさせればいい」
困っているギガンティーにシフトが声をかける。
「何?」
「さっきも巨人族の長老が言っただろ? 何が間違いで何が正しいのかを教えればいいのさ」
「かっかっか、その通りだな」
シフトの意見にジャイムが賛同し、ギガンティーは疲れた顔をする。
「はぁ・・・わかった。 おい、お前たち。 明日から大人たちと魔獣狩りに同伴しろ。 そこからいろいろと学べ。 以上だ」
「「「はい!!」」」
子供たちは目を輝かせて勢いある返事をした。
母親たちは複雑な表情をしたが、事が大事にならなくて良かったことに安堵する。
「しけた話はこれで終いだ。 お前たちも宴で盛り上がってこい!」
「「「はい!!」」」
子供たちは母親たちとともに家を出て行った。
「さて、俺たちも宴を楽しもうや」
「そうだな」
シフトたちは外に出て宴を楽しむことにした。




