180.千の狼の魔獣 〔無双劇37〕〔※残酷描写有り〕
食事を終えたシフトたちは狐の魔獣がいる空間を後にする。
道を進むと大きい空間に辿り着く。
目の前には魔法陣が出現して1匹の巨大な狼の魔獣が現れた。
狼の魔獣はジッとシフトたちを見る。
今までのエリアボスの魔獣と違いこちらのすきを窺っているようだ。
ここにきて異常な容姿の魔獣が続いたのでちょっと拍子抜けである。
「先ほどの犬や狐とは違い外見は普通ですね」
「普通の狼?」
「だが、ボス級の魔獣は特殊能力が異常に強いからな」
「特に犬と狐はやばかったしね」
「油断は禁物ですわ」
「ユールの言うとおりだな。 みんな、気をつけろ」
「「「「「はい、ご主人様」」」」」
お互い睨み合うが先に動いたのは狼の魔獣である。
「ウオーン!!」
狼の魔獣が吠えると足元に魔法陣が出現して、そこから凄まじい数の狼の群れが召喚される。
このまま襲い掛かれば普通だが、狼たちは【火魔法】を発動すると有ろう事か自分自身に火を点けたのだ。
「「「「「「!!」」」」」」
シフトたちが驚いていると火を纏った狼たちが突進してきた。
狼たちは己の命を賭けて敵を倒そうとする様は正に肉弾攻撃だ。
「あんなモノを食らうわけにはいかないぞ」
シフトは慌てて【次元遮断】を発動してシフトたちの周りを外界から隔離する。
襲い掛かる狼が結界に触れた。
ドゴオオオオオオオォォォォォォォーーーーーーーン!!!!!!!
狼は弾けて爆発した。
そして、そのまま狼の身体は肉片を残さずにこの世から消滅する。
爆発の威力や音はシフトたちに届かないが、それでも自分を庇うような仕草をとってしまう。
シフトたちが目を開けてみると狼たちは次々と結界に突っ込んでは爆発して死んでいく。
よく見ると狼の魔獣の魔法陣からは際限無く狼が現れている。
「何だよ?! あれ?!」
「反則!」
ベルとフェイが文句を言う。
「あれを止めないことにはどうしようもないぞ」
「狼たちの肉弾攻撃も厄介ですわ」
「ご主人様、今のうちに対策を立てましょう」
「そうだな・・・ルマ、特攻する狼は水か氷で攻撃してくれ。 みんなも魔石を使って水の壁を展開するんだ」
シフトが狼の攻撃を分析して対策をルマたちに伝える。
「たしかにあれは火薬庫みたいなものですわ」
「ここは私が何とかするしかないわね」
シフトたちは胸当てやローブの魔石に魔力を流し込む。
これで迫ってくる火の攻撃は水の壁で対応できる。
「準備はいいか?」
「「「「「はい、ご主人様」」」」」
「それじゃ、結界を解くぞ」
シフトは結界を解除すると目の前に水と土の壁が自動的に何十にも展開されて、そのあと爆発が壁の向こうから複数聞こえてくる。
ドゴオオオオオオオォォォォォォォーーーーーーーン!!!!!!!
ドゴオオオオオオオォォォォォォォーーーーーーーン!!!!!!!
ドゴオオオオオオオォォォォォォォーーーーーーーン!!!!!!!
今まで聞こえてこなかった爆発音と爆発の衝撃による爆風がシフトたちを襲う。
爆風はなんとかなるが、正直爆発の音が五月蠅すぎる。
壁の展開が早すぎるせいか、発動して1分も経たないうちに魔石の魔力が大半を消費していたのだ。
シフトは爆発に負けないくらいの大きな声量でルマたちに声をかける。
「みんな! 魔石の魔力の残量に気をつけろ!!」
シフトは魔石に魔力を補充しつつ、その場で跳躍すると狼の群れを見る。
多くの狼が障壁に突入している中、狼の魔獣だけはシフトをジッと見ていた。
シフトは【五感操作】を発動して狼の魔獣や配下の狼たちの触覚を剥奪する。
狼の魔獣や狼の群れは触覚を絶たれて動けない。
しかし、狼の魔獣の魔法陣からは狼の群れが絶え間なく現れた。
そのうちの1匹が火を纏った狼に触れてしまう。
ドゴオオオオオオオォォォォォォォーーーーーーーン!!!!!!!
ドゴオオオオオオオォォォォォォォーーーーーーーン!!!!!!!
ドゴオオオオオオオォォォォォォォーーーーーーーン!!!!!!!
ドゴオオオオオオオォォォォォォォーーーーーーーン!!!!!!!
ドゴオオオオオオオォォォォォォォーーーーーーーン!!!!!!!
その瞬間、狼が爆発すると連鎖するようにほかの狼も誘爆していき、大連爆となって地表を襲ったのだ。
「! みんな!!」
爆風の威力は跳躍しているシフトにも影響を与える。
あまりの威力に地上に降りられず爆風が吹き上げるたびに上空へと押し戻された。
ルマたちのいる位置を見ると氷の壁が展開されている。
きっとルマが異常を察して即座に氷の壁を作ったのだろう。
シフトはナイフを抜くと【念動力】を発動してナイフをその場に固定させた。
そのまま爆風に耐え続けるとやがて爆発が収まり眼下を見ると、そこには魔法陣から出てきた多くの狼が上空のシフトを見上げている。
ルマたちは狼たちの攻撃に備えて魔石に魔力を流したり、攻撃・防衛の準備をしていた。
肝心の狼の魔獣はあの大連鎖の爆撃を受けて無傷で立っている。
「ええ・・・無傷? 本当かよ・・・」
無傷に見えたがよく見ると狼の群れが白い光を纏って、狼の魔獣に体当たりしている。
体当たりした狼たちはその場に倒れると光の粒子になって消えていった。
その度に狼の魔獣は白く輝き生命力と傷を回復させていく。
「自己犠牲で治すとかそんなことできるのかよ?」
先ほどユールが火薬庫と言っていたが、どちらかといえばあれは魔力庫のほうが正しいだろう。
物によっては毒にも薬にもなるといったところか。
狼の魔獣は生命力や傷は回復しているようだが、動かないところを見ると触覚は回復していないようだ。
「動けないなら今がチャンスだな」
シフトは【念動力】でナイフを狼の魔獣のほうへと移動させる。
丁度半分くらいまで移動したところで狼の魔獣が吠えた。
「ウオーン!!」
すると下のほうで見上げている狼たちが【風魔法】でシフトを攻撃した。
「!!」
風の刃が身を縮まらせたシフトに襲い掛かる。
本来であれば皮膚を切断する威力であるが、人外を逸脱した耐久力のおかげで弾くことができた。
とはいえ身体がいくら頑丈でも身に着けている装備や衣類は別だ。
衣類が次々と風の刃で切り裂けていく。
「くっ! この!!」
シフトは【五感操作】を発動して地面にいる狼たちの視覚を剥奪した。
突然失った視力に狼たちは戸惑い、その場で顔をあちこち動かしながら鳴き声をあげる。
「「「「「「「「「「キャアアン!!」」」」」」」」」」
狼たちの不規則な鳴き声が不協和音となって辺り一帯に響き喧しいほどだ。
視覚を奪うことで攻撃を無力化したシフトは一気に狼の魔獣まで突っ込む。
「これでもくらえ!」
左拳を握りしめると狼の魔獣の右頬を思いっきり殴った。
「キャアアン!!」
狼の魔獣は悲鳴を上げながら地面に倒れる。
その下にいた狼の群れは重さに耐えられずぺしゃんこになって消滅していく。
地面に這いつくばる狼の魔獣は必死になって立ち上がろうとするが、触覚が未だに直っていないのか動くことすらできない。
シフトは狼の魔獣の顔のところにやってくる。
「待たせたな、これで終わりにするよ」
そういうとシフトは持っているナイフを狼の魔獣の額に定めると一気に刺した。
「キャアアン!!」
狼の魔獣が苦悶の声をあげる。
ナイフに嵌め込まれた魔石に魔力を流すと刺した部分から烈風が狼の魔獣を内側から切り裂いていく。
「キャアアアアアァーーーーーーーッン!!!!!」
一層甲高い声を上げて目がぐるりと回りそのまま白目になった。
それ以降目も口も動かさなくなり、狼の魔獣はシフトによって倒される。
狼の魔獣が死んだことにより視力を失って苦しんでいた狼の群れも自然と消滅していった。
「ふぅ・・・ようやく終わったか・・・」
シフトはナイフを鞘に納めるとルマたちのほうを見る。
準備を整えて反撃をしようとルマたちが氷の壁から出てきたところだ。
「! ご主人様、もしかして・・・」
「ああ・・・ルマたちが準備している間に倒してしまった。 せっかく準備していたところすまない」
「いいえ、それはいいのですがどうやって倒したんですか?」
「端的に言うと視覚や触覚を奪って倒した」
「さすがご主人様」
ベルが素直にシフトを褒める。
「なるほど・・・これはぼくも早急に【闇魔法】を極めて使いこなす必要があるね」
「フェイ、あまり無理はするなよ」
「無理なんてしないけど、戦略の幅が広がりご主人様の一助になるならぼくは頑張るけどね」
フェイはいつもの調子でいうが目が本気だ。
多分、そう時間がかからないうちに【闇魔法】の状態異常系を使いこなすだろう。
シフトは【空間収納】を発動すると狼の魔獣をしまい、代わりに予備の服を取り出すと空間を閉じた。
その場で破れた服を脱ぐと予備の服を手早く着る。
「これでよし。 問題なければ次へ移動しようか?」
「「「「「はい、ご主人様」」」」」
シフトたちは次の道へと歩いていくと、これまでとは違い豪華な扉が現れる。
「ご主人様、もしかして・・・」
「どうやら終点に着いたようだな」
シフトは扉に手を触れると自動的に開く。
中は今までとは違い大きく明るい光で満ち溢れていた。




