16.報告
「みんな、服にあっているよ」
部屋に入るなりルマたちの服装を見て褒めた。
ベル、ローザ、フェイは喜んでいるし、ユールも褒められて満更でもないようだ。
しかし1人だけ納得していない人物がいた・・・それはルマだった。
「ご主人様、服だけですか? 私は可愛くないですか?」
シフトはルマのところに行くと抱きしめて囁いた。
「ルマも可愛いよ」
効果は絶大でルマもシフトを離すまいとギュッと抱きしめる。
「あ、ルマちゃんずるい!!」
「ベルも抱きしめてほしい!!」
「はは、これは一本取られたな!!」
「・・・」
いつまでも抱擁したいがシフトにも用事がある。
「すまない、ルマ。 これから用事がある」
「・・・」
ルマは名残惜しそうにシフトから離れた。
「ユール、ちょっといいかな?」
「・・・なんですか?」
ユールは不機嫌そうにシフトを見る。
「これから出かけるが一緒についてきてもらえないか?」
「それなら私も・・・」
「いや、今回はユールだけ連れて行こうと思っているんだ」
「そんなぁ・・・」
「・・・何故わたくしなのですか?」
ユールが不信感しかない顔で質問する。
「ユール、君に纏わることだから」
「・・・わかりました。 お供いたします」
「では行こうか。 4人はすまないがここで留守番を頼むよ」
「・・・はい、わかりました・・・」
ユールは奴隷契約上、主人であるシフトに抵抗できないため、渋々シフトについていくのだった。
ユールを連れて女商人の奴隷商へと足を運んだ。
「・・・ここですか?」
「そうだよ」
扉を開けて入ると前と同じく煙草吹かしながら酒に入り浸る女商人がいた。
「すみません」
「・・・お邪魔します」
女商人は気怠そうに声を発した。
「おや、坊や? 今度は何しに・・・」
ユールを見ると女商人は煙草を落としてしまった。
「彼女が意識を取り戻したので報告を」
「・・・え・・・っと、あの・・・」
「ユール、あんた本当に意識が戻ったのかい?」
「えっと・・・そのことについて聞きたいのですが・・・」
「なんだい?」
「わたくしのこと知ってるんですよね? 教えてください! わたくしがこの人の奴隷になるまでを」
女商人がシフトを見ると首を縦に振った。
「ふぅ、わかったよ」
女商人は頭を掻きながらも彼女が知る限りのことを話した。
「ユール、あんたは違法薬物による薬物中毒者・・・だった」
「?!」
「ここに来たときは廃人同然だったよ」
「・・・」
シフトは初めて会ったときのユールの濁った眼を思い出す。
「あたいもあんたを治そうと八方手を尽くしたけど症状が改善するまでには至らなかったよ」
女商人は人一人救えない己の非力を恨んでいた。
「町一番の名医にも見せたけど匙を投げられたし・・・」
「・・・色々手を尽くしてくれたんですね・・・」
「出来る手は打った、やれることはやった・・・けど、結局はどれも徒労に終わったけどね」
今まで暗い雰囲気で語っていた女商人だが、急に明るい口調に変わった。
「ついさっきそこの坊やがあんたを買ってったばかりなのにね・・・ねぇ、坊や? どういうマジックを使ったんだい?」
「企業秘密で」
シフトが肩を竦めて答えると女商人はそれ以上追及するつもりはなかった。
「まぁ、これがあたいの知っていることの全てだよ。 参考になったかい?」
「はい、ありがとうございました」
「坊やは教えてくれないみたいだけど、ユール、どうやって治したのか教えてくれよ」
女商人はシフトがダメならユールから事の顛末を聞こうとする。
「え、あ、いや、それは・・・」
(・・・うううぅ、あんなの人に言えるわけないじゃない!!)
ユールは唇を奪われたことを思い出すと両手で口を隠し顔は林檎よりも紅く染まった。
女商人はユールの態度を見てシフトに問い詰めた。
「ちょっと坊や! ユールに変なことしたんじゃないでしょうね?」
「してません・・・してないよね?」
「し、しました!! 絶対許しません!!!」
「坊や・・・あんたね・・・」
シフトの慌てようとユールの態度に女商人は呆れていた。
「してませんって本当に・・・」
「したじゃないですか!! わたくしの唇を奪って!!! ・・・あ」
その言葉を聞いてあまりにも可愛い出来事に女商人は笑い始めた。
「ぷ、あははははは・・・やるじゃないか!! 坊や!!! あははははは・・・」
「・・・うううぅ・・・」
「眠り姫を起こすのは王子様のキスってか?! あははははは・・・ああ、おかしい!! あははははは・・・」
どうやら笑いのツボにハマったらしく、女商人は腹を抱えて笑ってた。
「・・・わ、笑いすぎですよ・・・」
「ははははは・・・だってこれが笑わずにいられるか・・・ぷ、あははははは・・・ひぃ、苦しい・・・はぁはぁはぁ・・・ははははは・・・」
「・・・むうううぅ・・・」
あまりの可笑しさに涙がでて笑い続ける女商人とあまりの恥ずかしさに穴があったら入りたいユールだった。
報告を終えたシフトとユールが奴隷商をでて町中を歩いている。
沈黙が続いていたがその静寂に耐え切れず口火を切ったのはユールだった。
「・・・そ・・・その・・・頬を叩いてごめんなさい。 ご主人様・・・」
「ん?」
「わたくし何も知らないでいきなり叩いて」
「ユールが怒るのも無理はない。 ポーションを飲ませようとしたら零すから仕方なく・・・」
「そ、それ以上は恥ずかしいので言わないでください!!」
ユールの顔が紅く染まる。
「わかった、わかったよ」
「・・・うううぅ・・・本当に恥ずかしいぃ・・・」
「女奴隷商も言っていただろ? 意識が戻ってよかったと。 それでいいじゃないか」
気軽に言うシフトにユールは質問した。
「・・・教えてください。 なぜわたくしを買ったんですか? なぜわたくしを助けたんですか?」
「・・・買った訳も助けた訳も同じさ、ユールは良スキル持ちだから眠らせておくには惜しいとな・・・」
「・・・ただ、それだけの理由ですか?」
「ほかにもあるがここでは言えない、ルマたちにも関係することだからな。 帰ったらみんなの前で話すよ」
「わかりました」
そのあとはお互い黙って歩くのだった。