177.洞穴の先に進もう 〔無双劇36〕〔※残酷描写有り〕
巨大な蛇の魔獣がその身体を生かして襲い掛かってくる。
シフトは【即死】を込めた一撃で葬ろうとナイフを構えるが、蛇の魔獣は危険を察知したのか素早く距離をとった。
するとそこから動かずに舌をチロチロとさせながらシフトの挙動を窺っている。
「「・・・」」
睨みあうシフトと蛇の魔獣。
シフトとしてはルマたちを心配させたくないのでさっさと倒したいが、蛇の魔獣もこちらを警戒してか自分からは攻撃してこない。
このままでは埒が明かないと判断したシフトは【五感操作】を発動して蛇の魔獣の触覚を剥奪する。
「!?」
蛇の魔獣は今自分に起きていることが理解できないようだ。
シフトは近づくとナイフで蛇の魔獣を一刺しする。
『死』という名の劇毒を注入された蛇の魔獣はその場で苦しみ始めた。
もし鳴くことができれば今頃は盛大な声を発しているだろうが、代わりに顔色を変色させていく。
しばらくすると蛇の舌が動かなくなった。
「・・・」
シフトは[鑑定石]で確認すると蛇の魔獣の生命力は0になっていた。
どうやら無事に倒すことができたようだ。
シフトはナイフを収めると【空間収納】を発動して蛇の魔獣をしまい空間を閉じた。
ついでに【即死】も無効に設定しなおす。
それからすぐに両方の扉が開く。
シフトが入ってきた扉からはルマたちが入ってくる。
「ご主人様、ご無事ですか?!」
「怪我はない?」
「大丈夫か?」
「何があったの?」
「傷があればすぐに癒しますわ」
「みんな、落ち着いて。 僕は問題ないから」
シフトはルマたちを安心させるためにここで起きたことを話す。
といってもシフトがスキルを使って一方的に蛇の魔獣を倒しただけであるが・・・
「さすごしゅ~♪」
「強すぎ」
ベルとフェイがシフトを褒める。
「2人ともその辺にしておけ」
「それでこれからどうするんですの?」
「魔獣が出てこない原因はここであることは間違いないが、念のためこの先に進もうと考えている。 みんなの意見を聞きたい」
シフトとしては放置するのは危険と判断している。
「私としては危険がなければこのまま進んでもいいと考えてます」
「ベルも」
「ご主人様の手に負えない魔獣が出てくるとは思えないが、一応確認はしておかないとな」
「ぼくはそのまま放置するよりも、ここはきっちり調査すべきだよ」
「フェイさんに同感ですわ。 もし先ほどの魔獣が外に出ていたら島は全滅の危機に直面するはずですわ」
ルマたちもこの魔獣の軍団が外に出ることへの懸念を持っているようだ。
シフトたちの意見が一致したところで反対側の扉へ進もうとするが、その前に地上に戻って巨人たちに報告しないといけない。
「みんな、調査は続行するが現状を巨人たちに報告する必要がある。 一旦全員で地上に戻ろう」
「ご主人様、それならぼくが一走り行って状況を説明してくるよ」
「待ちなさい。 フェイの説明では不足の場合もあるから私も行くわ」
「2人で行くのは危険だろ? わたしも同行するよ」
「よし、それならルマ、ローザ、フェイの3人で地上に戻って巨人たちに説明してきてくれ」
「「「畏まりました、ご主人様」」」
フェイが懐から【光魔法】を付与された魔石に魔力を流すと魔石が光りだした。
「それじゃ行ってくるよ」
フェイを先頭にルマ、ローザが後に続く。
「さて、ルマたちが戻ってくるまでは僕たちはここで待機だ」
「「畏まりました、ご主人様」」
30分後、ルマ、ローザ、フェイの3人が戻ってきた。
「ご主人様、ただいま戻りました」
「ルマ、ローザ、フェイ、3人ともご苦労。 巨人たちは何か言っていたか?」
「それが少々問題になりまして・・・」
「この洞穴の存在が発覚したのはいいのだが、上ではサイクロプスと巨人族が集まってお互い睨み合っている状態だ」
「一触即発だったよね」
「すまない、詳しく聞かせてくれないか」
シフトはルマたちに説明を求めると、ルマが一から丁寧に教えてくれた。
なんでも傷を負ったサイクロプスの子供たちが集落に戻って説明した事により大人たちが洞穴にやってきたそうだ。
ラムラの父である巨人ロローもラムラの兄ヨヨソに洞穴の存在を長老ジャイムに知らせに行くと、こちらも大人たちが洞穴にやってきたとか。
そこで口論となったそうで、最初に見つけたサイクロプスの物だとか、お前たちが余計なことをしたから魔獣が出てこなくなったとか、主義主張や原因追及を口にしていたらしい。
たしかに最初に見つけたのはサイクロプスの子供たちだろう。
しかし、魔獣の発生を抑えたのもサイクロプスの子供たちである。
ルマたちが地上に戻ると2つの種族が説明を求めてきたので洞穴の中の話をしたのと、これからさらに奥に潜って調査する旨を伝えた。
サイクロプスも巨人族も大人ではこの狭い洞穴を確認できないし、子供たちにも被害が出ているのでシフトたちが内部調査をするのに賛成したのだ。
「・・・という訳です」
「なるほどな」
「なかには入り口を拡張して大人でも入れるようにすべきだと主張するバカがいたがな」
「本当バカだよね。 そんなことすれば洞穴が崩壊して食糧難になるに決まっているのにね」
ルマとローザとフェイは呆れた顔をする。
それを聞いたシフトとベルとユールも同じく呆れた顔をした。
「状況は理解した。 これから進むがその前にここで軽く食事休憩にする」
それだけ言うとシフトは【空間収納】を発動してパンと林檎を人数分だすと空間を閉じる。
本来であればがっつりと食事をして英気を少しでも取り戻したいところだが、地上のことを考えるとそうもいってられない。
シフトたちは簡素な食事を済ませるとしばらくしてから奥の扉へと歩き出す。
そこからは緩やかな坂になっており、地下へと続いていた。
どうやら魔獣が行き来できるように作られているらしい。
行き着いたところは先ほどと同じ大きさの空間だった。
突如として目の前に魔法陣が展開されて光り輝く。
その数瞬後には巨大な猪の魔獣が出現し、鼻息を荒くしてシフトたちを睨んでいた。
「ルマ、ローザは左側に、ベル、フェイ、ユールは右側に回り込め!」
「「「「「畏まりました、ご主人様」」」」」
ルマたちが行動を開始したのと猪の魔獣が突進してきたのは同時であった。
猪の魔獣は顔を地面すれすれにしながらその立派な角をシフトに向けて走ってくる。
シフトは身構えると角が当たる寸前に手で角を掴む。
突進によりシフトの身体がほんの少しだけ後退する。
「!!」
猪の魔獣は驚いている。
それは当然のことだろう、なぜなら角で串刺しにできず、受け止められてもその巨体の威力を殺せずに吹き飛ばすはずだったのが、完全に力で抑え込まれているのだから。
「どうした? その程度の力じゃ僕に傷を負わせるなんてできないよ」
シフトは猪の魔獣を挑発するとそれを理解したのかわからないが急に力が増した。
だが、シフトはその力を上回る力で無理矢理抑え込む。
シフトと猪の魔獣の力比べである。
「いいのか? 僕に構っていて? 胴体がガラ空きだぞ?」
猪の魔獣の両脇にベル、ローザ、フェイがそれぞれ武器を持って接近していた。
危機を感じた猪の魔獣はその場を離れようとするがシフトががっちり抑え込んでいるので動くことができない。
「フゴッ!!」
ルマが【氷魔法】で後ろ足を凍らせ、ユールも【光魔法】で反対の後ろ足を光の矢で貫く。
ベルとフェイがそれぞれ前足を狙ってナイフで攻撃する。
最後にローザがオリハルコンの剣で斬首するが、如何せん首の骨まで届かず皮膚を斬り裂いただけにすぎない。
猪の魔獣は激痛で体を動かした、いや、動かしてしまった。
ゴキッ!!
それは骨が折れる音。
その出所はもちろん猪の魔獣の首部分から聞こえてきた。
「あ゛」
間抜けな声をあげるシフト。
自分は抑えるだけでルマたちに攻撃してもらい、頃合いを見て止めを刺してもらう予定であった。
ところがシフトが力加減を誤り、そのまま首の骨が折れ、あらぬ方向に曲がってしまったのだ。
もちろん、猪の魔物はそのまま倒れることになった。
「あぁ・・・、えぇーとぉ・・・、すまない」
シフトはとりあえずルマたちに謝った。
しかし、ルマたちは気にしないどころかそれが当たり前のように振る舞う。
「ご主人様、なぜ謝る?」
「そうだぞ、わたしたちはどちらかといえば楽させてもらっているのだから」
「そうそう、本来なら囮なんて命懸けの仕事だよ」
「それをわたくしたちのことを考えてやってくださるのですから文句はありませんわ」
「ベルたちの言う通りです。 むしろ、本来囮は私たちがやるべき作業なのですよ」
「それはダメだろ? そもそも嫁たちを盾にするとか酷い夫だぞ」
シフトはルマたちを守るためなら身体を張ることに躊躇いはない。
それを聞いて嬉しそうに顔を赤らめるルマたち。
それも一瞬のこと、ルマがシフトに物申す。
「しかし、私たちはご主人様の奴隷です。 それにご主人様が傷付くところを見たくないのです」
「その気持ちは嬉しいけど、僕としてはみんなが傷付くほうが嫌だな」
その一言にルマたちは嬉しくてつい頬を緩めてしまう。
ルマたちの笑顔を見てシフトも心を癒されていくが、今は魔獣についての調査が優先である。
「この議論はここまでにしてそろそろ先に進もうか」
「「「「「はい、ご主人様」」」」」
シフトは【空間収納】を発動して猪の魔獣をしまい空間を閉じるとルマたちを引き連れて先に進むのであった。




