175.魔獣の暴走 〔※残酷描写有り〕
シフトたちは山に着くと魔獣が召喚される場所を分散して探すことにした。
チーム分けとしてはシフトとローザ、ルマとベル、フェイとユールだ。
それぞれ探索力と戦闘力を考慮して分けている。
いざ、探索を開始しようとするとラムラがシフトの服を掴む。
「らーもいく」
「こら、邪魔したらダメだろう」
「やー!」
ラムラは抵抗してギュッと掴む。
「娘よ、あまり我儘を言うなら集落に連れて戻るぞ」
「やぁ・・・」
ラムラは目を瞑って絶対についていくという意思表示を見せる。
そこにシフトが声をかけた。
「落ち着いてください。 僕たちは魔獣の討伐をしに行くのではなく魔獣が減少したことについての調査なんです。 もし、危険が迫ったら僕たちが守りますから」
「う、うむ・・・」
「そ、それなら僕も一緒に行きたい」
ラムラの兄ヨヨソはなぜかルマとベルのところに行く。
どちらかが気になるのだろう。
「はぁ・・・仕方ない。 それなら魔獣が出ても絶対に少年たちの邪魔をしないと約束できるか?」
「うん!」
「はい!」
「すまない、少年たちよ。 息子と娘を頼みたい」
「わかりました。 もし、邪魔したらすぐに集落に帰します」
それを聞いて2人は喜んだ。
シフトたちは3手に別れて探索を開始する。
シフトたちがサイクロプス側、ルマたちがサイクロプスと巨人族の境目、フェイたちが巨人族側をそれぞれ探索することになった。
先ほどのサイクロプスたちに見つからないように気を付けながらシフトとローザ、ラムラの3人は山の外周を見て回るが洞穴や洞窟は見つからない。
近くの森も探索するがそれらしい魔獣が召喚されるような魔法陣などは見つからなかった。
溝の反対側は海になっていて斜面を可能な限り調べたが魔獣の痕跡はない。
「こちらには何もありませんね」
「むー、つまらない」
「ないものは仕方ないさ、みんなのところに戻ろう」
シフトたちは予め決めていた待ち合わせ場所に向かう。
そこにはすでにルマたちが集まっていた。
「みんな、お疲れ。 そっちはどうだった?」
「あ、ご主人様、収穫あった」
「ベルの鑑定のおかげで見つかりました」
「ぼくたちは全然ダメだったね」
「ええ、魔獣の痕跡は見つかりませんでしたわ」
収穫があったルマたちとなかったフェイたちで落差が激しい。
「ルマ、ベル、案内を頼む。 それとここからは僕たちだけで行くので巨人たちはここで待機してくれ」
「やー!」
「僕も行きたい!」
「こら! 我儘を言うな!!」
ラムラの父である巨人ロローの言葉に2人は不満な口にするがこれに関してはシフトも同意するところだ。
「ダメだ! これは遊びじゃないんだぞ! 怪我で済むならいいが最悪命を落としたら残された家族たちはどうするつもりだ?」
「そ、それは・・・」
「ううぅ・・・」
シフトの言葉に2人は不満な顔になるがここで甘やかしてはいけないと強くいった。
「そんな顔をしてもダメだ」
「ぅうぅ・・・ぅ・・・ぅ───」
ラムラが泣き出しそうになったので慌ててヨヨソが手で口を塞ぐ。
「ラムラ! ここで泣かないで!」
「ぅ───ぅ───」
拘束されたのか今度は暴れ始めたが、すぐに取り押さえられる。
「さっきのがこっちに来ちゃうから!」
その言葉を聞いて先ほどのを思い出したのかラムラは暴れるのを止めて首を縦に振った。
落ち着くとラムラの拘束を解いて離れる。
「ごめんなさい」
「我慢できるよね?」
「・・・うん」
シフトの問いかけにラムラは渋々頷きながら答える。
「聞き分けのいい子だ」
シフトは改めてルマとベルに向き直る。
「それじゃ、出発しよう。 ルマ、ベル、案内してくれ」
「「畏まりました、ご主人様」」
「気を付けて行ってきてくれ」
「ああ、それじゃ行ってくる」
ルマとベルの案内でシフトたちは調査した場所へと案内された。
シフトたちが歩いていると前のほうに地下に続く大きな洞穴が見えてくる。
大きさにしてだいたい5~6メートルくらいだ。
シフトたちなら問題なく通れるが大人の巨人たちではこの洞穴は通れない。
ヨヨソくらいなら通れるだろうが、まだ子供で戦闘訓練を受けていないのでは倒すどころか怪我をするだけだろう。
中が暗いのでユールが【光魔法】で発光玉を生成するとシフトたちは洞穴を入っていく。
しばらく進むとフェイが何かに気付いたのかシフトたちを止める。
フェイは音を立てずにゆっくりと歩き出す。
シフトたちもそれに倣って歩くと奥のほうから僅かな光と声が聞こえてくる。
「おい、そっちはどうだ?」
「へへぇ、楽勝だぜ!」
「俺たちだってやればできるんだよ!」
声からしてどうやら若い男・・・子供たちが先にいるようだ。
シフトはユールを見るとそれを察したのか発光玉を解除した。
これによりシフトたちの周りは暗くなり、こちらに気付きにくくなっただろう。
「それにしても大人たちは情けないよな。 こんな魔獣1匹も倒せないんだからよ」
「ああ、それに比べて俺たちを見てみろよ。 魔獣を狩り放題だぜ?」
「おいおい、それじゃ大人がかわいそうだろ? あの巨体じゃここに入れないんだからよぉ」
シフトたちが広間に続く場所から様子を窺いながら見るとそこには高笑いをしている3人のサイクロプスがいた。
背の高さ的にはヨヨソと同じくらいだ。
言動から人間の年齢にすると7~8歳といったところだろう。
子供たちは足元に倒れている5匹の魔獣を見て意気揚々としている。
魔獣の大きさはシフトたちと同じくらいだ。
シフトは部屋を見てみると奥に扉がある。
だが、扉は半分だけしか開いていない。
その扉の奥からは多くの獣の鳴き声が常に聞こえてくる。
本来なら扉の隙間から出てきて洞穴の外に出ていくのだろうが、あの扉が邪魔で大きな魔獣は出ることができないようだ。
『どうやらあれが原因らしいですね』
『ああ、そうだな』
フェイが小声で話しかけてきたのでシフトもそれに同意する。
「それにしても苦労したよな」
「あの扉だろ? 片方だけ閉めて開けられないように杭を打ったんだからな」
「最初はヤバいと思ったけど、成功したら雑魚魔獣しか襲ってこないようになったからな」
どうやら原因を作ったのはあの3人の子供たちのようだ。
ガン! ガン! ガン! ・・・
魔獣たちはストレスからか扉に向かって体当たりをしている。
「うるせぇよ! 出てこれない奴(魔獣)はそこで大人しくしてろ!!」
そういうと子供の1人が扉まで行くと蹴りを入れた。
ガン!
それを見た残り2人の子供が止める。
「おい! 止めろよ! もし扉が壊れたらどうするんだよ!!」
「そうだぜ! そんなことしたら俺たちが危ないだろうが!!」
もう1発蹴りを入れようとしたがそこで止まる。
「そうだな・・・悪ぃ・・・ふん! 命拾いしたな!!」
子供は2人のほうへと向きを変えると魔獣たちはより激しく扉に体当たりをする。
ガン! ガン! ガン! ガン! ガン! ガン! ガン!・・・
子供は肩越しに扉を見て口にする。
「無駄無駄! そんなことしても扉は開かねぇよ! はっはっはっはっはっはっはっ・・・」
それだけ言うと正面を向いて歩き出そうとしたその時、奇妙な音が聞こえてきた。
バキッ!!
それはまるで木が折れる音だった。
これにより扉が少し動いたのだ。
「「え?」」
2人の子供が扉の動きを見て目を見開く。
その驚きようを見て子供は立ち止まる。
「あん?」
子供がもう一度扉のほうを肩越しに見ると扉が一気に開いたのだ。
「「「「「「「「「「ガアァーーーーーッ!!!!!」」」」」」」」」」
魔獣たちは一斉に咆哮する。
「!!」
子供が驚いていると扉から彼らを超える大きさの魔獣たちが一気に解き放たれた。
手前にいた魔獣たちは子供たちに一斉に襲い掛かる。
シフトはそれを見て静観をしている場合ではないとルマたちに声をかけた。
「あれはまずい! みんな、魔獣をやっつけるよ」
「「「「「畏まりました、ご主人様」」」」」
シフトたちは慌てて広間へと走っていく。
一方、子供たちはパニックを起こしていた。
「う、うわあああああぁーーーーーっ!!」
「に、逃げろおおおおおぉーーーーーっ!!」
「く、来るなあああああぁーーーーーっ!!」
逃げようとする子供たち。
しかし、足の速さでは魔獣に軍配が上がる。
魔獣たちは子供の腕や足に噛みついたのだ。
「いてえええええぇーーーーーっ!!」
「やめろおおおおおぉーーーーーっ!!」
「こ、このぉっ! 雑魚の分際でっ!!」
子供たちは必死に抵抗するが速さだけでなく力でも負けていた。
今まで自分たちよりも格下で弱い魔獣に粋がっていた付けが回ってきたのだ。
「だ、誰かあああああぁーーーーーっ!!」
「助けてくれえええええぇーーーーーっ!!」
「し、死にたくない・・・死にたくないぃっ!! 俺がこんなところで死んでいいはずがないんだあああああぁーーーーーっ!!」
子供たちは魔獣たちに皮膚を喰われ、皮膚の下の筋膜だけでなく骨も少し見えており、そこから夥しい量の血が流れ出る。
その血に釣られて多くの魔獣たちが子供たちを食べようとやってきた。
「悪いが、そこまでだ」
シフトたちはそれぞれ武器を抜いて構えると魔獣たちと相対した。




