174.難癖 〔無双劇34〕〔※残酷描写有り〕
ラムラの父である巨人ロローに案内されて山の近くまで来たシフトたち。
そこには1つの巨大な溝があり、底は深く長く続いている。
「少年、この線より先は1つ目の領域だ」
「魔獣はここら辺に出没するのですか?」
「ああ、いつもなら常に大小合わせて10匹ほど見かけるのだがな・・・」
ロローはいつもと違う雰囲気に戸惑いを感じている。
「この溝に落ちたとか?」
「小さいのならわかるが大きいのはこんな線に落ちるほど小さくはないぞ?」
「そうなんだ・・・」
シフトは溝を見て思案するとルマたちに話す。
「みんな、溝の底に行ってくるからここで留守を頼む」
「ご主人様、危険です!」
「僕は大丈夫。 それよりも巨人たちを守ってあげて」
ルマたちは難しい顔をしたが、すぐにシフトへ一礼する。
「「「「「畏まりました、ご主人様」」」」」
「それじゃ、行ってくるよ」
シフトは溝へと飛び降りた。
重力に従って落下していくと底が見えてくる。
そこには先ほどラムラたちを襲った魔獣が大量にいた。
体格はシフトと同じかそれ以上に大きい。
シフトは【空間転移】を発動して1匹の魔獣を見ると転移する。
上空を見ていた魔獣たちは急にシフトが消えてビックリして辺りを探す。
最初に気付いたのはシフトが転移の座標に定めた魔獣だ。
突然現れた匂いと気配に見るとすぐに咆哮して攻撃を仕掛けてきた。
シフトは【五感操作】を発動して距離感と平衡感覚を狂わす。
1匹の魔獣の攻撃を避けるもほかにも数えきれないほどの魔獣が襲い掛かってくる。
さすがに数が多いのでまず数を減らすべく魔獣たちの触覚を剥奪した。
4方のうちの1方の魔獣たちの動きを止めるとシフトはナイフを抜いてそちらに駆け出す。
魔獣と魔獣の間に身体を割り込むとこちらに襲い掛かってくる魔獣に対して迎撃態勢をとる。
ジャンプして上空から鋭い爪で襲うがシフトが空いてる手で魔獣の足を掴むと顎の下にナイフで突き刺した。
魔獣の傷口からは流血するがまだ生きている。
シフトはそのまま腹のほうへと掻っ捌くとさらに傷口が広がり夥しい量の血が噴出した。
しばらくすると魔獣は白目をむき、そのまま息絶える。
シフトは【空間収納】を発動すると魔獣の死体を空間にしまうと再び戦闘態勢をとった。
魔獣たちは動けない仲間を乗り越えてジャンプして攻撃してくる。
シフトの横にいる魔獣たちがうまい具合に壁として役立っていた。
上空からの攻撃を躱すとシフトは顎や腹をナイフで突いて刺殺すると魔獣たちをすぐに空間にしまう。
これにより次の魔獣が攻撃できるようにするのと、あとから魔獣を回収する手間を省く。
10分後、近場の動いている魔獣を全滅させて残りの触覚を失った魔獣も殺して空間にしまった。
「ふぅ、粗方片付いたな」
ほかに魔獣がいないことを確認すると空間を閉じて溝を移動することにした。
まずは山とは反対のほうを調査する。
シフトはナイフの魔石を火の魔石から風の魔石に交換すると魔力を流した。
ナイフからは風が渦巻くが、それを前方に放出する。
「準備よし、それじゃ行きますか」
シフトは山の反対側へと走っていく。
途中、横道がないかを確認しつつ進んでいくと前方にいる多くの魔獣が気が付いて襲い掛かってきた。
しかし、シフトが張った風の膜にぶつかると切り刻まれ後方へと吹き飛ばされる。
ある者は切り裂く風により全身血塗れになり倒れ、またある者は暴風により壁に激しく叩きつけられてそのまま命を失う者がいた。
生き残った者もあまりのダメージに動けず苦しんでいる。
15分後、シフトは溝の終点に辿り着く。
ここまで確認しながら走ってきたが、特に魔獣の出現するような場所は見当たらなかった。
「終点のほうにはないか・・・それなら始点のほうにあるのかな?」
シフトは今度は始点である山のほうへ魔獣の死体を回収しながら戻るのであった。
瀕死の魔獣たちも申し訳ないと思いつつ刺殺して空間に放り込んでいく。
1時間後、魔獣の死体を回収しつつやっとのことで元の場所まで戻ってくると、今度は始点に向けて先ほどと同じように風を前方に放出すると走り出した。
始点に近かったため3分もあれば到着する。
そこを調べても終点同様何もない。
シフトは魔獣を1匹残してあとは空間に回収する。
そして、魔獣の死体に乗るとシフトは【念動力】を発動して魔獣の死体を浮かせた。
地上近くまで戻るとベルがすぐにシフトに気が付いた。
「あ、ご主人様」
「本当ですわ」
「おーい、ご主人様」
「ぼくの胸に飛び込んできて」
シフトはルマたちのところまで移動する。
「ただいま」
「ご主人様、よくぞご無事で」
「ああ、それよりちょっと待ってね」
地上につくと魔獣の死体から降りて【念動力】を解除する。
すると魔獣の死体は重力に則り地面に落下した。
ドスウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーン!!!!!!!
巨人たちはシフトが倒した魔獣に驚いていた。
「この下に魔獣がいたのか?」
「わぁ! 魔獣だ!!」
「すごーい!」
「ああ、いたことはいたけどね・・・ただ、今回の原因とは関係なかった」
シフトは底で見てきたことを話す。
それを聞いていたロローが難しい顔をする。
「うむ、今の話を聞く限りでは問題はこの下ではないようだな」
「ああ、あなたの子供を襲った魔獣ぐらいしかいなかったな。 質問だが魔獣はあれくらいのしか出てこないのか?」
シフトは魔獣の死体を指さしして尋ねる。
「いや、大きい魔獣だと息子と同じくらいの大きさだ」
「そうか」
ロローが丁寧に教えてくれるとサイクロプス側から音が聞こえる。
ズシン・・・ズシン・・・ズシン・・・
誰かがこちらに向けて歩いてくるようだ。
「おい、そこのお前! ここで何をしている!」
「ああ、実は・・・」
「ここで狩りをしていた!!」
サイクロプスの質問にロローが答えるよりも早くシフトが大声を上げる。
「「「「「「「?!」」」」」」」
「?」
ラムラ以外はシフトの対応に驚いている。
「狩りだと?」
「ああ、そうだ!!」
サイクロプスは苛ついた声をあげる。
「ここは俺たちサイクロプスの領域だ! それをわかっていて狩りをしたのか?!」
「残念だけど、僕はあくまでも巨人族がいる領域で狩りをしたんだが問題でもあるのか?」
「大ありだ! ここら辺は俺たちの領域だ! 勝手に入り込むんじゃない!!」
それを聞いたロローが抗議する。
「何を言っているんだ?! ここにある線が見えないのか?!」
「はっ! そんなモノどこにある?! 見えんな」
サイクロプスはニヤニヤしながら太々しい態度で溝を見ないでいた。
だが、シフトの近くにある魔獣の死体を見て態度が変わる。
「おい! なんだその魔獣は! ここで狩ったのか?」
「ああ、そうだよ! それがどうした!!」
「お前っ! 俺たちの領域を荒らすとはいい度胸じゃねえか?! ええっ!!」
「はんっ! 自分で捕まえもせずに人の獲物を横取りしようとする盗人がよくいうよ!!」
「なっ?! 貴様ぁっ!!」
サイクロプスは拳を握り締めると怒りに任せてシフトへ攻撃する。
「危ない!!」
ロローが止めようとするが間に合わない。
「ここで何をしている?」
「誰だ?!」
サイクロプスは動きを止めると声がするほうに振り向く。
「お、長・・・」
そこには先ほど長老の家を訪ねたサイクロプス・・・ギガンティーがいた。
どうやら彼がサイクロプスの族長らしい。
「もう一度聞くがここで何をしている?」
「こ、こいつが俺たちの領域に入って獲物を盗っていったんですよ」
「・・・」
ギガンティーはシフトのいる領域をジッと見る。
そして、シフトに語り掛けた。
「事実か?」
「これは巨人族がいる領域で狩った獲物だ」
「嘘つくんじゃねぇ!!」
「お前は黙ってろ!!」
ギガンティーが一喝するとサイクロプスは黙ってしまった。
「・・・うちのが迷惑をかけたようだな」
「疑わないんだな」
「ああ、こちらの領域にお前たちの足跡がないからな。 こいつがでっち上げたってすぐにわかった」
「なっ?! 長っ!!」
「黙ってろと言ったはずだ!!」
ギガンティーはもう1度一喝する。
それ以上、サイクロプスは口を開くことはなかった。
「お前は何をしたのかわかっているのか?! これがきっかけで2つ目との戦争になるかもしれないんだぞ!!」
「・・・」
「このことは集落に帰ってからじっくり話すとしよう。 2つ目の迷惑をかけたな、俺たちはこれで失礼する」
ギガンティーはサイクロプスを率いて帰ろうとする。
「ちょっと待ってください」
「「「「「「「「「「?」」」」」」」」」」
サイクロプスだけでなくルマたちや巨人たちも不思議そうにシフトを見る。
「どうした?」
「持ってけ」
シフトはそういうと問題にしている獲物を掴むと、有ろう事かそれをサイクロプスに向けて投げたのである。
「!!」
サイクロプスはそれを手で受け止める。
「獲物はまた見つけて狩るのでそれは持ってって食べてください」
「・・・いいのか?」
「ええ」
サイクロプスはラッキーとにやけるが、族長はシフトの一連の動作に危機感を覚えた。
それは『次に手を出せば怪我ではすまないぞ』というシフトからのメッセージだ。
「・・・ありがたくいただいていく」
それだけ言うとサイクロプスたちは去っていった。
視界から外れるとルマが質問してくる。
「よろしかったのですか?」
「ああ、問題ない。 それよりも魔獣が減少した原因を突き止めよう」
シフトはそれだけ言うと山のほうへと歩き出した。




