171.人は人でも人違い
光が落ち着くとシフトたちは目を開ける。
最初に目に入ったのは自然溢れる木々であった。
周囲を見渡すと木に囲まれている。
どうやらここは森のようだ。
「火の精霊は人がいるところに転送するといったけど周りに誰もいないな・・・」
「もしかすると転送に失敗したのでしょうか?」
「転送の距離を間違えた?」
「転送したけど範囲外だったのかな?」
「今も転送の途中とか?」
「転送しましたが途中で力尽きてしまったのでは?」
シフトたちは憶測でいろいろ考えていたときのことだ。
ズシン・・・ズシン・・・ズシン・・・
大きな地響きが一定間隔で聞こえてくる。
何か巨大な生物が歩いているのだろう。
シフトたちが警戒しようとしたその時、木々の間から1人の青年が現れた。
青年は腰に布を巻いているだけの恰好だ。
シフトたちと同じくらいの背の高さからここに住む原住民だろう。
「・・・」
「あの・・・君はここら辺に住む人かな?」
「?」
「・・・えっと、言葉が通じない?」
シフトが困惑していると青年はシフトたちを指さすと後ろを振り向いて大きな声で叫んだ。
「とーと! にーに! こども! こども!」
青年の発した言葉にシフトたちは目を見開いた。
その話し方はまるで赤子のような言葉遣いだったからだ。
しばらくすると森の奥から身長4メートル弱の男性が現れる。
「こら、ラムラ! 勝手に先に歩かない!」
「にーに! こども! こども!」
青年はシフトたちを指さして『こども』と叫び続ける。
「こども? 本当だ。 ラムラと同じ子供かな? 父ちゃん! ここに知らない子がいるよ!」
大男は地響きをしているほうに大きな声で叫ぶ。
するとこちらに向かって地響きが近づいてくる。
ズシン・・・ズシン・・・ズシン・・・
しばらくすると音が止む。
「どうした? 息子よ? 何かあったのか?」
シフトたちは上空から聞こえる声に上を向く。
するとそこには目の前の大男など小さく見えるほどの大きな男がいた。
高さにすると最低でも身長10メートルは余裕で超えているだろう。
「とーと! こども! こども!」
「父ちゃん! 子供がいるよ!」
彼らの父と思われる巨人は身を屈めてシフトたちを見る。
「たしかに幼子だ。 どこの子供だ?」
巨人はそのままの体勢で思案し始める。
「息子よ、つい最近誰か子供を産んだか知っているか?」
「知らないよ。 集落で生まれたなら全員知っているはずだよ?」
「うむ、たしかにそうだな。 あの集落では子供が生まれれば知らぬものなどいないはずだからな」
巨人と大男が話して考えていると、シフトが質問する。
「取り込み中すまないが、ここはどこだ?」
シフトが喋ったことに巨人と大男は目を白黒させて驚いた。
「しゃ、喋った?!?!?!?!?!」
「なんと、幼子が流暢に言葉を話すとは・・・」
「あの・・・そんなに言葉を喋るのは変ですか?」
シフトはとりあえず場所よりも現状を確認することにした。
「いや、普通は驚くだろう。 まだこんな幼子がたどたどしい言葉ならともかく滑らかに話せば誰でも驚くぞ?」
「そうだよ、僕だって成長してやっと普通に話せるようになったばかりなんだよ?」
巨人と大男は自分たちの常識を口にする。
「そ、そうなんだ・・・」
シフトたちは巨人たちとの常識についていけないようだ。
「うむ、見た目は幼子だがこの年で喋れるとは天才か?」
「いや、僕は13歳ですから」
「む? 13歳だと? なのにそんな小さいとは・・・お前の親はよほど子供に食べ物を与えなかったようだな」
「なんか可哀想だよ。 父ちゃん」
「おなか、へってるの?」
巨人たちは思い切り勘違いしていた。
「いや、普通に食事してますし、そもそも僕たち人間族はあなたたちほどは成長しないんだ」
「そうなのか?」
シフトは大男を指さす。
「ええ、どんなに背が高くてもそこにいるあなたの息子さんの半分くらいですよ」
「そうなんだ・・・我々はその人間族といったか? そんな種族を耳にしたことがないのだが・・・」
「僕も知らない」
「らーも」
巨人と大男がまたも考えているとラムラと呼ばれた青年がシフトたちに近づきじーと見る。
「「「「「「・・・」」」」」」
ラムラは物珍しそうに見たあと、シフトをペタペタと触り始める。
「え、ちょっと・・・」
ラムラは気にせずに触り続けると、シフトの股を触ると突然叫んだ。
「あ、とーととにーにとおなじ」
「触るのやめてくれないか?」
「えー」
ラムラは不満げな顔をするが、シフトはその手を掴むと剥がした。
「やー!」
「こ、こら、ラムラ!」
「ダメだろ! 勝手に触っちゃ!」
「やー!」
シフトが手を離すと今度はルマのところに走って身体を触り始めたのだ。
「ちょっ?! やめてください!!」
ラムラはルマの胸を触るとまたも叫んだ。
「かーかとおなじ」
「やめて!!」
ルマが付き飛ばそうとしたとき、大男がラムラに近づいて腕を掴んで剥がした。
「やめろ! ラムラ! 嫌がってるだろ!」
「やー! やー!!」
ラムラは兄である大男に羽交い絞めにされジタバタしながら嫌がった。
巨人が頭を下げて口にする。
「幼子よ、すまない。 娘が迷惑をかけた」
「「「「「「娘?!」」」」」」
その言葉にシフトたちは改めてラムラを見る。
ジタバタしているラムラの腰布がめくれると下着を履いておらず、そこには男性特有の物がない。
そのことからラムラは女の子である。
「嘘・・・」
「女の子?!」
「娘は生まれて3年しか経ってないのだ。 まだ物事の善悪がつかない年頃でな・・・そちらの幼子よ、本当にすまない」
「い、いえ、それなら仕方ないですよね」
巨人の言葉にルマは納得する。
シフトたちは巨人とそんな会話をしているとラムラが泣き出してしまった。
「ううぅ・・・ぅ・・・ぅわー! あああああぁ・・・」
「わっ! ラムラ、泣かないで!」
大男はラムラが泣き始めて困惑しているが、なんとか泣き止まそうと試みるが泣き止む気配がない。
それを見かねた巨人が声をかける。
「息子よ、娘を」
そういうと巨人が手を差し出すと大男はラムラを手の上に乗せる。
「ほうら、高い高い」
すると巨人はラムラを遥か上空に放り投げたのだ。
シフトたちはゾッとする。
普通、子供をあやすとはいえ自分が届く範囲で高くするはずだ。
しかし、巨人は上空50メートルくらいのところまで放り投げた。
掴み損ねたらラムラはそのまま地上に激突して重症、下手をしたら即死である。
「キャッキャ! キャッキャ!」
ラムラは上空に投げられて喜んでいた。
巨人がラムラを無事キャッチすると再び空高くに放り投げる。
シフトは大男に話しかけた。
「な、なぁ、あれは怖くないのか?」
「あれって?」
「いや、君の妹がやられているあれ」
シフトはラムラを指さす。
「ああ、あれね。 僕も小さい頃、ああやって泣き止んだらしい。 今だと重くてあそこまでは無理だといわれたけど」
「そうなんだ・・・」
巨人が3回やるとラムラはすっかり上機嫌である。
「とーと、もういっかい」
「今はダメだ。 集落に帰ったらもう1回してやる」
「やくそく」
「ああ、約束だ」
巨人とラムラが仲良く約束をしている。
本来であれば親子仲睦まじいことであるが、約束事の内容がデンジャラスだ。
「ところであなたたちは何という種族ですか?」
「我々か? 我々は巨人族だ」
「巨人族・・・」
「ご主人様、巨人族って・・・」
「ああ、帝国の皇帝がいっていたな」
かつて皇帝グランディズが口にしていたが、まさか実在する種族だとは思わなかった。
「あなたたちが住むここはどこなんですか?」
「ここか? ここは小さい島だ」
「島?」
「ああ、かつては大きかったが大人になるとこんなにも小さな島だとは思いもしなかったがな」
シフトたちは『それはあなたが大きくなりすぎただけです』とは口が裂けても言えなかった。
「それで人間族・・・だったか? 少年たちはこれからどうするのだ?」
「あ、僕以外は全員女性で嫁たちです」
「む、そうなのか? それは大変失礼をした。 それで少年少女たちはこれからどうするのだ?」
「とりあえずはこの島から出てガイアール王国という人間族が住んでいる大陸に戻る予定です」
「それがどこにあるのかわかるのか?」
巨人の質問にシフトは首を横に振る。
「残念ながらどこにガイアール王国があるのかわからない。 だけどいつまでもここにいる訳にもいかない。 僕には目的があるのだから」
「・・・行く当てがないなら、とりあえず我々の集落にこないか?」
「よろしいのですか?」
「ああ、もてなしはできないけどそれでもよければだがな」
「お言葉に甘えさせてもらいます」
「わかった。 集落に戻ろう」
「自己紹介がまだだったな。 ロローだ。 それと息子のヨヨソと娘のラムラだ」
「シフトです」
ロローとシフトの話が終わるとラムラが話しかけてきた。
「とーと、はなし、おわり?」
「ああ、集落に戻るぞ」
「うん!」
ロローは満面の笑顔をしたラムラを肩に乗せると集落に向けて歩きだす。
あとを追うようにヨヨソとシフトたちもそれに続いて歩き始めた。




