167.謎の塔 下層攻略 〔無双劇31〕
一度勝利した魔獣たちに負ける要素はなくシフトたちは無難に勝利する。
シフトは【空間収納】を発動するとボス魔獣を始めとした魔獣たちの死体をしまうと空間を閉じた。
「みんな、お疲れ」
「これだけ戦ったので久しぶりにレベルが上がりました」
「ベルも」
「レベルアップしたのはサンドワーム以来だな」
「ああ、あれは酷かったからね」
「サンドワームの連戦に比べれば楽勝ですわ」
シフトもパーナップとデューゼレルの間にある砂漠に生息するサンドワームを思い出す。
「サンドワームか・・・あの時は四六時中相手をしていたな」
シフトが遠い目をするとルマたちも同じような目をしていた。
そんなサンドワームだが絶滅どころか今でもあの砂漠で絶賛繁殖中であることをシフトたちは知る由もない。
しばらく思いに耽ったあと、シフトたちは塔へと入っていった。
全員が入ると塔の入り口が自動的に閉まる。
隙間から太陽の光が差し込んでいるため、そこまで暗くはない。
1階は只々広い空間が広がっている。
シフトたちがいる場所から正反対の位置に次の階へと続く階段が見えた。
「とりあえずあそこにある上り階段まで行ってみるか」
「「「「「はい、ご主人様」」」」」
フェイを先頭に罠を警戒しつつ階段のほうへと歩いていく。
ちょうど塔の中心に辿り着いたとき、床全体が大きな魔法陣を描き光を放つ。
「もしかして罠?」
「部屋全体が罠なんて聞いてないよ!」
フェイは【斥候】のスキルが意味をなしていないことを嘆いた。
光が止むと魔獣が次々と召喚されていく。
通常サイズが数百匹、シフトが塔の外で倒したボスクラスが10匹くらい、さらに階段前にはこの階を守護する魔獣が1匹がシフトたちを囲んでいる。
「ちょっと?! 多すぎない?!」
「簡単には通してくれないようだな」
「ベルが相手になってやる」
「わたくしたちの行く手を遮るとはいい度胸ですわ」
「蹴散らすわよ」
「みんな、無理だけは絶対にするな!」
ルマ、ユールを隠すように四方をシフト、ベル、ローザ、フェイが守るような陣形をとる。
魔獣たちはシフトたちを見るといきなり襲ってきた。
シフトは【五感操作】を発動すると視野に入っている魔獣たちの触覚を剥奪する。
これにより四方の一角を無力化することに成功した。
だが、シフトが次の一手を打つ前にフロアボスである巨大魔獣が【火魔法】を発動して巨大な火球を作ると放ったのだ。
それは自分の配下である魔獣を巻き込んでシフトたち目掛けて飛んでくる。
ルマは【氷魔法】を発動して氷壁を作り、火球を防いだ。
シフトは【次元遮断】を発動すると巨大魔獣との間を外界から隔離した。
その直後、巨大魔獣は【風魔法】を発動して複数の風の刃をシフトたちに向けて放つが、それらはシフトが張った結界により防がれた。
シフトたちはまず結界内にいる魔獣を倒すことに専念する。
20分後、結界内にいる魔獣はすべて倒してシフトの空間に死体を収納すると残りを倒すべく結界を解いた。
巨大魔獣が咆哮すると配下の魔獣たちが一斉にシフトたちへと襲い掛かる。
そして、巨大魔獣自らもシフトたちへと突進してきた。
シフトは【五感操作】を発動して巨大魔獣の触覚を剥奪する。
触覚を奪われたことにより巨大魔獣は動きを封じられた。
しかし、巨大魔獣は自らを固定砲台になり【火魔法】や【風魔法】を発動して次々とシフトたちに放ってくる。
シフトたちは胸当てのあるいはローブに取り付けている魔石に魔力を流して水と土の障壁を張り火球や烈風を防ぐ。
シフトは巨大魔獣の攻撃を警戒しつつ、魔獣に接近して額や喉をナイフで刺して次々と倒していった。
さらに20分が経過したころ、魔獣はほぼ全滅して残すは巨大魔獣だけだ。
その巨大魔獣も魔力を使い過ぎて、もはや何もできない状態である。
「ルマ、ベルたちとともにあの巨大魔獣を倒せ」
「畏まりました」
ルマはベルたちを率いて攻撃も回避もできない巨大魔獣の討伐を開始する。
シフトが倒しても糧にならないと判断したので結局ルマたちの経験値になってもらう。
何もできない巨大魔獣はルマたちの手であっさりと倒される。
そして、ルマたちはこの戦いにおいてまたレベルが上がった。
「みんな、お疲れ。 魔獣の死体を回収したら上の階へ向かうよ」
「「「「「はい、ご主人様」」」」」
シフトは【空間収納】を発動すると魔獣たちの死体をしまうと空間を閉じる。
そのあと、ルマたちを引き連れて階段を上っていった。
シフトたちはその後も順調に上の階を目指していた。
7階───
見渡す限り複数の道で形成されている。
「迷路」
「うわぁ、海底神殿を思い出すね」
ベルが【鑑定】を使って天井、壁、床を調べる。
「罠はない普通の迷路」
「なら問題なく進めるね」
フェイが【風魔法】で風の流れを読み取る。
それと同時に【斥候】のスキルを発動して罠を確認することを怠らない。
問題ないことを確認するとフェイを先頭に迷路に足を踏み込む。
ベルとフェイが意気揚々と進んでいく。
「そういえば海底神殿の迷宮はどんな感じだったんだい?」
ローザが質問すると途端にベルとフェイが苦い顔をする。
「意地悪」
「惑わしの床、殺傷能力の高い罠の数々、無限ループ、落とし穴、無限階段、透明の壁・・・思い出すだけでもムカッと来るよ」
「そ、それは災難だったな」
「悪意を感じる」
「まったくだよ」
いつもは陽気なベルとフェイが頬を膨らませてムスッとする。
よほど酷い目にあったんだろうとシフトたちは察した。
「おっと、こっちはどうやらハズレみたいだね」
「なら、戻って違う道に行こう」
シフトたちは入り口まで戻ると別の道を進む。
「ここは迷路自体が次々切り替わらなくて本当良かったよ」
「楽」
ベルとフェイがここまで愚痴るとは海底神殿の迷宮はさぞ意地悪だったんだろう。
そうこうしているうちに迷路の先に上へと続く階段が見えた。
「クリア」
「簡単だったね」
ベルとフェイはハイタッチすると階段へと走っていった。
13階───
フロアの至る所からスライムが湧き出てきた。
「スライムですわ」
「火の魔石を嵌め込んだ魔法武器で攻撃するぞ」
ローザが魔法武器である槍を取り出すと先端の魔石に魔力を送り炎を纏わせてスライムに攻撃する。
本来は液状で物理攻撃は一切効かないスライムだが、火に弱い。
シフト、ベル、フェイ、ユールはローザを見習って炎を纏わせたナイフで、ルマは【火魔法】で対応する。
問題なく対処できていたが、ユールは油断してスライムの攻撃を受けてしまう。
「きゃっ!」
近くにいたシフトが慌ててスライムを倒す。
「大丈夫か? ユール」
ユールは自分の姿を確認する。
「ええ、身体に問題ありませんわ。 だけど体中がべとべとですわ」
そこにはスライムの粘液でローブがボロボロにされていた。
透けたり溶かされたりした部分から見える肌や下着が艶めかしい。
「ご主人様、何を見ているのですか?」
後ろからいつもの声を掛けられるシフト。
「い、いや、ユールを見ていただけだよ」
「ええ、知っています。 だけどそんなに凝視しなくてもいいのではないでしょうか?」
「そ、そうだね」
シフトは明後日のほうを向く。
「ユール、さっさと新しいローブに着替えなさい」
ルマは【水魔法】でユールの身体に纏わりついているスライムの粘液を洗い流す。
「きゃっ! ルマさん! わ、わかったから水をかけるのはやめてくださいまし!!」
「ご主人様、ユールにローブの替えをお願いしますね」
シフトは冷や汗をかきながら空間から予備のローブを取り出すとユールに渡すのだった。
16階───
今までのフロアと違い一つの部屋になっている。
部屋には4ヵ所の扉があり、扉の先には同じ部屋があった。
今まで通りならシフトたちがいる場所から正反対の位置に次の階へと続く階段があるはずだ。
シフトたちはその方角の扉を移動し続けるとそこにあったのは上への階段ではなく下への階段があった。
「ご主人様、戻ってきましたね」
「どうやら正解のルートを通らないと上に続く階段が現れないようだな」
シフトたちは部屋を隅々まで確認するとベルが声をかけてくる。
「ご主人様、扉に数字が刻まれてる」
「本当だね」
ベルの言う通り扉に数字が刻まれていることがわかった。
「なら、この数字の通りに進んでみるのが正解なのかな?」
「試してみようか」
シフトたちが数字の1から順番通りに扉を進むが辿り着いたのは下への階段である。
「また、戻されましたわね」
「もしかするとまだ謎を解いていないのかもしれないな」
もう1度シフトたちは部屋を隅々まで確認するが、数字以外に変わったものはなかった。
「とりあえず次の部屋に行ってみるか」
シフトたちは次の部屋に入り同じように部屋を確認すると天井に数字が床には何か記号が刻まれていた。
「うーん、これはなんだろうね?」
それを見て考えているとユールが大きな声をあげる。
「! 謎が解けましたわ!」
「ユール、本当?」
「ええ、わたくしに任せてほしいですわ」
「それならお願い」
ユールは扉を見ると1の次の2ではなくなぜか違う数字の扉を開けて入ると、シフトたちも続いて入っていく。
次の部屋にも天井に数字が床には何か記号が刻まれていたが、先ほどの部屋と違うのは数と記号が違っていた。
ユールはそれらを見てから扉の数字を見て頷くと迷いなく1つの扉を開く。
シフトたちはユールのあとに付いていくこと13番目の扉を開いた先に上への階段が姿を現した。
「やりましたわ♪」
「ユール、すごい」
「本当に上への階段があった・・・どうやったの?」
「簡単ですわ。 最初の扉の数字はどれでもよかったですの。 問題はその次の部屋で前の部屋の数字に天井にある数字を使って計算したんですの」
「「「「「あ!」」」」」
シフトたちは今更ながらに気が付いた。
天井の数字と床に書かれた『+』・『-』・『×』・『÷』の記号を。
いち早くそれに気付いたユールが計算した数字と同じ数字が刻まれた扉を開けていったのだ。
ユールは爽快な気分で階段を上っていった。




