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166.塔 〔無双劇30〕

砂漠の緑化対策を終えた翌日、亜人種の長たちがシフトのところにやってきてそれぞれ集まり、ゴブリンキングが代表して礼を言う。

「キャクジン、ワレワレガスムダイチニユタカナメグミヲトリモドシテクレタコトニカンシャスル」

「僕たちができるのはここまでです。 これからはあなたたちが力を合わせてこの大地を守ってください」

「ワカッタ。 スクッテクレタダイチヲタイセツニシテイク」

そこで話が一区切りしたのでシフトは気になっていたことを尋ねる。

「一つ聞きたいのですが、あの山の向こうにある塔はなんですか?」

長たちは顔を見合わせてから話し始める。

「アノトウハワレワレガウマレルヨリモハルカムカシカラソンザイスル。 チカラガイチバンスグレテイルモノデモトウニハイレナイ」

「中に入ったことがないと?」

「ソウダ」

「もし、僕たちが行くと言ったら?」

「トメハシナイ。 ナカニハイレナイダケダ」

「わかりました。 明日ここ(ゴブリンの集落)を出て塔に行きます。 もしかするとこれでお別れになるかもしれませんが」

それを聞いた長たちからは皆悲壮感に満ちた顔をしていた。

今まで湯水の如く食していた肉がもう食べられないと嘆いている。

「餞別にあの肉をできるだけ渡しておくよ。 ルマ、手伝ってくれ」

「畏まりました、ご主人様」

さすがに食料が急になくなるのは問題になるだろうと考えたシフトは空間にあるサンドワームを取り出し、ルマの【氷魔法】で氷に閉じ込めて冷凍保存していった。

ルマの氷は並大抵のことでは融けないので長期保存には適しているだろう。

長たちは急いで自分の配下を呼ぶと凍らせたサンドワームを次々と自分の部族に送る。

それは流れ作業のように続いていく。

最終的には各部族に10匹以上、総数にして300匹以上を餞別として亜人種たちに渡した。

それに対して亜人種たちは深く感謝する。

「アレダケアレバトウブンハモンダイナイ」

「今までのような贅沢はできないが、当分の間は飢えを凌げるはずだ」

「ハッハッハ、キモニメイジテオク」

何も考えずに浪費しない限りは飢えずに済むだろう。

余談だがシフトの空間にはまだ500匹以上のサンドワームがいる。

これらがすべて消費する日が来るのはいつになるかわからないが・・・

その日の夜、ルマたちと塔について話す。

「みんな、明日だけどあの塔を見に行く」

「塔ですか?」

「ああ、本来なら王国に戻り『勇者』ライサンダーたちの足取りを追いたいが、どうもあの塔が気になるんだ」

「ご主人様がどのような決断をしようと私たちはそれに従うだけです」

ルマが言うとベルたちも同意するように頷く。

「それでは改めて言うけど明日は塔に行くから」

「「「「「畏まりました、ご主人様」」」」」

シフトたちは早めに寝ることにした。

翌日、朝早くにシフトたちはゴブリンの集落の入り口にいる。

そこにはすべての亜人種族を代表してゴブリンキングが立っていた。

「イママデアリガトウ」

「それじゃ、もう行くよ」

「イツデモモドッテコイ。 カンゲイスル」

シフトたちは礼をすると集落を出て塔へと歩き出した。


ゴブリンの集落を出て2日目、シフトたちは塔の目の前に立っている。

上空から見たときは山の向こうにあるのですぐに着くだろうと高を括っていたが、実際にはかなりの道を歩かされた。

塔の周りは瓦礫が多く近づけば足場や瓦礫が崩れたり、道が閉ざされたりしたが、慎重に歩いてようやくここ()まで辿り着いたのだ。

「みんな、問題なければ早速入ってみようか?」

「私は問題ないです」

「ベルも」

「いつでも行けるぞ」

「ぼくも大丈夫だよ」

「わたくしも体調に問題ありませんわ」

「それじゃ、行くよ」

「「「「「はい、ご主人様」」」」」

シフトたちは塔の門まで歩くとそこには扉を開けるための持ち手がない。

海底神殿のように扉が反応するかと近づくが何も起こらなかった。

シフトは試しに門を押すがまったく動かない。

次に隙間に指を引っ掛けて横に引こうとするがピクリともしない。

「なるほど、力では開かないな」

「そうなると魔法か何かで開くのか、海底神殿の扉のように何かしらの鍵が必要になるのでしょう」

「ご主人様、ここはベルに任せる」

「ベル? ああ、【鑑定】を使うのか」

「その通り」

シフトが核心を突くとベルが首を縦に振る。

ベルが扉の前に立つと【鑑定】を使って調べたあとに口を開く。

「ご主人様、この扉は合言葉を言うと開くらしい」

「合言葉? 例えば『扉よ! 開け!!』とか?」

「そんな感じ」

シフトたちはとりあえず扉に開きそうな言葉を投げかけるが、扉は沈黙を守っていた。

ただ1人、ベルだけは何も言わずにジッと扉を見ている。

「ベルのことだから間違いないでしょうけど」

「なかなか開かないな」

「ベルちゃん、本当にこれ()開くの?」

「動く気配すらしませんわ」

「・・・」

「ベル?」

ベルは一歩前に出ると口にする。

「『()()! ()()!!』」

すると今まで沈黙を守っていた扉が突然光りだし、それに合わせるように地響きが鳴る。

ゴゴゴゴゴ・・・

しばらくすると今度は扉が動き始める。

ガガガガガ・・・

扉が内側へと少しずつ開いていく。

「「「「「えええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーっ!!!!!!!」」」」」

あまりのことにシフトたちは絶叫した。

ガタンッ!!

扉が完全に開くと塔の中から多くの魔獣が襲い掛かってきた。

「「「「「「「「「「ガアァーーーーーッ!!!!!」」」」」」」」」」

「みんな、戦闘態勢だ!」

「「「「「はいっ!!」」」」」

シフトはナイフを抜くとルマたちをその場に残して魔獣のほうへと走り出す。

魔獣は前足を高く上げ爪による引き裂き攻撃を仕掛けてくるが、シフトは【五感操作】を使用して攻撃を逸らすとナイフで前足と腹を切り裂いたあとルマたちのほうへと蹴り飛ばした。

ルマたちはシフトの意図を察して負傷した魔獣に止めを刺す。

シフトは次々と襲い掛かってくる魔獣を相手に【五感操作】で距離感と平衡感覚を狂わせて攻撃をいなし、手傷や致命傷を負わせてからルマたちのほうへと送っていく。

ルマたちも次々送られてくる魔獣に止めを刺してその数を徐々に減らす。

50匹ほど倒すと扉の奥から今までの魔獣よりも二回り大きい魔獣が堂々と姿を現した。

どうやらこの扉を守るボスといったところか。

ボス魔獣は口を開くと火を放ってきた。

シフトは胸の魔石に魔力を流し水と土の壁を生成すると火は壁に激突して消滅していく。

壁が崩れ落ちると同時にボス魔獣もシフトに対して突進攻撃を仕掛けてくる。

シフトはそれを片手で受け止めた。

「!!」

「中々の力だ。 だけど僕には通じない」

シフトは魔獣を掴むとそのまま持ち上げて、扉のほうへと投げた。

ズウウウウウゥーーーーーン

ボス魔獣は背中から地面に激突するがすぐに起き上がってシフトを警戒した。

先ほどの突進を反省してか今度は慎重に隙をシフトを窺っている。

「・・・」

「来ないのか? それなら今度はこちらから行くぞ」

シフトはナイフを構えるとボス魔獣へと突進する。

それを見たボス魔獣は二本足で立ちあがると上空から鋭い爪をシフト目がけてクロスになるように引き裂き攻撃を仕掛けてきた。

その攻撃は見事にシフトを捉えたかに見えたが、その爪が傷を負わすことも、ましては皮膚に触れることもなかった。

ボス魔獣もすでにシフトの【五感操作】により距離感と平衡感覚を狂わせられていたのだ。

空振りに終わった攻撃の隙を突き、シフトは懐に入って攻撃を仕掛けようとするが、ボス魔獣はバックステップで後方へと下がる。

「ガアァーーーーーッ!!!!!」

ボス魔獣は咆哮すると今度は【風魔法】で風の刃をシフトに向けて複数個放った。

シフトはすぐさま【次元遮断】を発動して外界から隔離するように結界を張ると、風の刃はその結界に触れて霧散する。

すべての風の刃が消滅したことを確認するとすぐに結界を解除した。

睨み合うシフトとボス魔獣。

このままずっと続くかにみえたが先にボス魔獣が動き出す。

ボス魔獣は【風魔法】で自分の周りに風の衣を纏わせ、さらに【火魔法】で風の衣の外側に火を纏ったのだ。

シフトのほうへと走り出すボス魔獣。

そこにルマの【水魔法】の水弾が命中するも火は消えず、そのまま突進する。

本来なら攻撃を避けるが、シフトはその場で【五感操作】を発動するとボス魔獣の触覚を剥奪した。

走っていたボス魔獣が急に止まる。

身体が急に動かなくなって焦るボス魔獣。

なぜなら風の衣を纏っているとはいえ火が全身を覆っているのだ。

ボス魔獣の周りの酸素はどんどん消費されていく。

燃えないにしろ酸欠に陥りボス魔獣は苦しみ始める。

火を消そうにも体が動かないので消すこともできずこのままでは窒息死してしまう。

ボス魔獣はなんとか自分にかけた魔法を解除しようと試みる。

朦朧としている中、必死になって魔法解除に集中した結果、解除に成功した。

しかし、【火魔法】だけでなく【風魔法】も解除してしまう。

シフトはその隙を逃さずナイフでボス魔獣の胴体を深く刺した。

「グアァーーーーーッ!!!!!」

ボス魔獣が痛みから絶叫した。

シフトは更に奥へと突き刺す。

ボス魔獣は白目になると今までの絶叫が急に途絶え、そのまま物言わぬ躯になった。

シフトはボス魔獣の死亡を確認するとナイフと引き抜き鞘に納める。

「ふぅ・・・」

「ご主人様、大丈夫ですか?」

「ああ、問題ない」

シフトは【空間収納】を発動するとボス魔獣を始めとした魔獣たちの死体をしまうと空間を閉じた。

「さて、改めて塔の中に入るか」

「そうですね」

「あ、ぼく、ベルちゃんに聞きたいことがあったんだ」

「何?」

「どうして、この扉を開く言葉がわかったの?」

フェイの疑問にシフトたちもベルがなぜこの塔の扉を開く言葉を知っていたのか疑問に思った。

ベルは指で唇に触ると話し始める。

「昔、読んだ本の中にこんな言葉(開け! ゴマ!!)があったのを思い出したので口にしてみた」

「え゛? たったそれだけ?」

「うん」

シフトたちは呆れてしまった。

本に書かれている言葉(開け! ゴマ!!)が扉を開ける鍵になっているとは誰も想像できなかっただろう。

「ついでに閉じるときは『閉じろ! ゴマ!!』」

するとベルの言葉に扉が反応する。

ガガガガガ・・・

せっかく開いた扉が閉まっていく。

バタンッ!!

扉は音を立てて完全に閉まった。

「あ゛」

「ちょっと?! ベルちゃん!!」

「ごめんなさい」

「まぁまぁ、落ち着いて。 また開ければいいんだから」

「そ、そうだよね。 なら今度はぼくがやってもいい?」

「うん」

「それなら・・・んん、『開け! ゴマ!!』」

フェイの言葉に反応して扉は光りだし、それに合わせて再び地響きが鳴る。

ゴゴゴゴゴ・・・

しばらくすると扉が開き始める。

ガガガガガ・・・ガタンッ!!

扉が完全に開くと塔の中から多くの魔獣が再び襲い掛かってきた。

「「「「「「「「「「ガアァーーーーーッ!!!!!」」」」」」」」」」

「え゛?! なんで?!」

これによりシフトたち対魔獣たちの第二ラウンドが始まった。


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