14.フルポーション
『猫の憩い亭』の部屋にはベル、ルマ、ローザ、フェイ、ユールの5人の少女と彼女たちの主であるシフトがいた。
これから行うことを外部に漏れてはいけないと部屋の窓はすべて閉じたあと【次元遮断】でこの部屋を隔離した。
そしてルマたちに釘を刺す。
「これから僕が行うことは他言無用。 これは命令だ」
ユール以外の女の子は首を縦に振る。
シフトは【空間収納】を発動すると目の前の何もない空間が裂けていく。
ミシ・・・ミシ・・・バリ・・・バリ・・・バリ・・・
「「「な!!」」」
あまりの出来事にルマ、フェイ、それとルマの介護で少し正気に戻ったローザが驚いた声を出す。
目の前の何もない空間に亀裂が入りある程度裂けるとそれ以上変化はなかった。
シフトはフルポーションを5本取り出すと空間を閉じる。
空間を開けた時とは真逆に亀裂が修復していき元の空間に戻る。
ルマ、フェイ、ローザが理解の範疇を超えた超常現象に驚いて声も出ないでいた。
シフトはユール以外にフルポーションを1本ずつ渡していった。
因みにフルポーションの効果は以下の通りである。
フルポーション
品質:Sランク。
効果:服用者の最大生命力まで回復、最大魔力まで回復、最大体力まで回復、部位欠損の回復、各種状態異常の回復。 フルーツミックス味で飲みやすい。
死者も蘇らせる伝説の霊薬エリクサーには遠く及ばないがそれでも伝説級の1品である。
ダーク・ベアーとダーク・ウルフから大量にドロップしているので惜しみなく使うことにした。
「みんな今渡したポーションを飲んでくれ」
ルマたちは戸惑いながらも主人の命令だから逆らえず渋々飲むことにした。
ユールだけは自力で飲めないのでシフトが飲ませようとするが、なかなか飲んでくれない。
そこでフルポーションを口に含むと口移しでユールに飲ませた。
わたくしの喉がコクコクと液体を飲み込んでいく。
しばらくするとわたくしの意識が回復し目の前に知らない男の顔があり自分がキスされていることに気付いた。
(・・・え・・・え・・・えええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーっ?! な、な、な、な、な、な、な、なにっ?! ど、ど、ど、ど、ど、ど、ど、どういうことっ?!)
バチイイイイイイイィィィィィィィーーーーーーーン!!!!!!!
わたくしは無意識のうちに右手で目の前の男の頬を引っ叩いていた。
「何するのよ!! 乙女の唇を奪うなんて!! あなた最低よ!!!」
わたくしは涙目で男に文句を言った。
(わ、わたくしのファーストキスが・・・初めて・・・だったのに・・・)
わたくしの気が落ち込もうとしたそのとき、
「め、目が・・・目が見える!! 目が見えるわぁっ!!!」
「腕が・・・わたしの切り落とされた腕が元に戻った!!!」
「ぼ、ぼくの足が・・・生えた!! 嘘じゃないよね?! 本当にぼくの足だよねっ!!!」
声の方を見ると3人の女の子が身体の異変に声を荒立たせていた。
いや、もう1人いた。
彼女は自分の両腕を眺めていた。
「・・・手や腕の火傷が無くなってる? うそ・・・」
彼女は恐る恐る自分の頬に手をやる。
それから額、目、鼻、口と次々と触っていく。
「・・・うそ・・・顔の火傷も消えてる?」
(? あの娘の顔には火傷なんてないわよ?)
そして彼女は徐に服を脱いだのだ。
「ぶうううううううぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーっ!!!!!!!」
彼女の突飛した行動におもわず息を噴出した。
そこには生まれたままの彼女がいた。
彼女は自分の身体を触っていた。
「ちょ、ちょっと何やって・・・」
わたくしは慌てて彼女に声をかけようとするも先に喜びの声が聞こえてきた。
「火傷が!! 身体中にあった火傷がない!!!」
(・・・え? 火傷がない? どういうこと?)
彼女は涙を流しながら先ほど頬を叩いた男に抱きついた。
「ご主人様、ありがとうございます、ありがとうございます、ありがとうございます、ありがとうございます・・・」
今目の前にある光景を見て彼女は本当にこの男に感謝しているのがわかった。
(この喜び方は本心からきてるわね。 それならわたくしにも何かあったの? わからない。 思い出せない。 いったい何がどうなっているの・・・)
部屋の扉が開く音がした。
「お客様、服を購入してきまし・・・た?」
少女は固まった。
全裸のルマがシフトに抱き着いてるのを見て・・・
(あれ、結界が発動していない? もしかするとさっきのユールのビンタで【次元遮断】が解除されちゃった?)
そんなことを考えていると、
「・・・え・・・っと、お、お邪魔しました・・・」
我に返った少女が部屋を出ていこうとするがシフトは慌てて止める。
「あぁ、待って! 出ていかないで!!」
「・・・え? み、見てたほうが・・・」
「違う! 出ていくのは僕の方で君には彼女たちに似合う服を選んでほしいんだよ」
「あ、そ、そうですよね。 畏まりました」
少女は納得して部屋に留まってくれた。
「じゃあ、僕は部屋を出て外で待っているから・・・ルマ、放してくれないか?」
「嫌です。 ご主人様が私の服を選んでください」
「ちょ、ルマ!!」
ルマが離すまいと先ほどよりもギュッと抱き着いた。
「私は・・・身体中に火傷があって・・・それがまるで自分の心みたいで・・・醜い自分が嫌いでした。 一生残る傷を抱えたまま生きていくんだって・・・憤怒し恨みました」
「・・・」
「だけどご主人様が治してくれました。 身体だけでなく心も・・・感謝してもし足りません。 だからご主人様が私の服を選んでください」
「それをいうなら・・・」
ルマの発言にフェイが抗議しようとするのでシフトは慌てて止めた。
「ストォーーーーーップ! 僕が選ぶのはなし!! この町のファッションに聡い彼女に選んでもらう!! これは命令だ!!!」
「「「「えぇ・・・そんなぁ・・・」」」」
「・・・この男の言う通りだわ。 だからさっさと出て行ってください」
残念がる4人に対してユールは冷徹の言い放った。
「そうだな、ユールの言うとおりだ。 着替え終わったら声をかけてくれ」
シフトは部屋から出ていくのであった。