156.湖を攻略?
シフトは目を覚ますと辺りは暗くて何も見えなかった。
「ここは・・・そうか、地盤が崩落して・・・」
昨日の出来事を思い出すシフト。
崩落、落石、水攻めと色々なことが起きたが何とか横道に入って難を逃れた。
問題は来た道は水攻めにあって戻れないことと地上に出るには地底湖のどこかにある道を探さなければならないことだ。
とはいえまずはルマたちが全員起きてからでないと行動できない。
「ユールが起きるまで待つか・・・」
シフトはユールが起きるまでここからの脱出について考え始めた。
ほどなくしてユールが目を覚ます。
「んん・・・ああ・・・なんだか暗いですわ・・・」
「ユール、起きたか?」
「ああ・・・ご主人様、おはようございます」
「寝起きで悪いけど【光魔法】で明かりを点けてくれ」
「・・・畏まりましたわ・・・」
ユールは少し寝ぼけながらも【光魔法】で明かりを点ける。
その光は昨日の光より少し弱いが辺りを確認する分には十分な光量だ。
シフトはまずルマの【氷魔法】で塞いだ道を見る。
そこからは水がこちらに入り込んだ形跡はない。
次にそれ以外の周りを見ると特に怪しいことは発生していなかった。
シフトが確認を終えるころにはルマたちも目を覚まし始める。
「んん・・・もう朝ですか・・・」
「眩しい」
「はぅ・・・随分と寝たな」
「ぉはよぅ・・・」
寝起きなのかルマたちの思考はぼんやりとしていた。
「みんな、おはよう。 疲れは取れたか?」
「大分取れました」
「問題ない」
「一応は取れたかな」
「このくらいなら活動に支障はないね」
「寝心地は最悪でしたわ」
ルマたちはそれぞれ立ち上がると身体を軽く動かしている。
シフトは【空間収納】から水袋とサンドイッチ、それに桃を人数分取り出して皆に渡すと空間を閉じる。
「それじゃ食事にしよう」
「「「「「はい」」」」」
シフトたちは薄暗い中、黙々と食事を取る。
本来なら会話をしながら食事しているがこの状態で緊張感が抜けるのはあまり良くないことだ。
黙食が済むとそれぞれが支度を整えていく。
出発の準備ができるとシフトは結界を解いてルマたちに話し始めた。
「みんな、聞いてくれ。 今日は昨日の地底湖を突破する」
「ご主人様、正気ですか?」
「無理」
「もしかして泳いでいくのか?」
「ぼく、そんなに泳げないよ」
「いくらなんでも無茶苦茶ですわ」
シフトの一言に非難殺到である。
「みんなの言い分はわかる。 僕だって泳ぎなんてしたことがない」
そう、非難の理由は泳げないことだ。
ガイアール王国には川や湖はあるが海がない。
そして、利用するにしてもせいぜい川遊びや水浴びなど納涼や清潔感を保つくらいしかしないのだ。
本格的に泳いだり潜ったりするのは地元の人間だけで、普通はそういう練習すらしない。
以前、海人との戦いのときは海人が地面を採掘しながら海の面積を拡張していたが、その深さはせいぜい60~70センチくらいである。
シフトたちが泳げなくても対処できるくらいの深さしかなかった。
だが、今回は水の広さや底がどれくらいなのかわからないことばかりな状態だ。
一歩踏み込んだら全身浸かって『水深2メートル以上ありました。 ごめんなさい』では済まないだろう。
その場で溺れて、下手をすれば最悪死が待っている。
「だけど、あの地底湖を攻略しないことには地上に出ることはできないだろう」
「他の方法を探すべきでは?」
「多分、そんな時間はないと思う」
「?」
「ルマにお願いして道を氷で塞いだけど、いつ氷が破壊されてここに流れ込んでくるかわからない」
「・・・たしかにそうですね」
「一生来ないかもしれないし、一年後か、一ヵ月後か、一週間後か、一日後か、一時間後か、一分後か、それとも今すぐかもしれない。 そんな状況下で手をこまねいている場合じゃない」
「「「「「・・・」」」」」
ルマたちは黙ってしまった。
「今ここを出ないといつ出られるかわからない。 だから・・・」
「わかりました。 行きましょう」
「「「「ルマ(ちゃん・さん)!!」」」」
「ご主人様」
ルマが真剣な目でシフトを見る。
「・・・ご主人様には何か考えがある。 そうですよね?」
「ああ、うまくいくかはわからないが試したいことがある」
「なら、私はそれに賭けます」
「ベルも」
「どんな方法か思い浮かばないがわたしも賭けよう」
「ならぼくもその賭けにのった」
「仕方ないですわね。 わたくしもご主人様に賭りますわ」
「みんな、ありがとう。 それじゃ、行こう」
「「「「「はい、ご主人様」」」」」
シフトたちは地底湖がある部屋へと移動する。
が、その前に保険としてここまでの道をルマの氷で塞いでおく。
これで万が一、水が襲ってきても時間稼ぎにはなるはずだ。
改めて湖がある部屋の入口付近までやってくる。
「ご主人様、これからどうするのですか?」
シフトは地底湖攻略の鍵となることを話す。
「ルマ、【氷魔法】でこの水を凍らせてくれないか?」
「! なるほど、水を凍らせれば泳がなくて済みますね」
「ご主人様、すごい」
「その発想はなかったな」
「たしかに、泳ぐこと前提でしか考えてなかった」
「それならわたくしたちも苦労せず移動できますわね」
「頼めるか?」
「任せてください!!」
ルマは地底湖に手を前に出すと【氷魔法】で見える範囲の水を凍らせた。
ユールの【光魔法】の明かりで照らされた範囲内の水はすべて凍っている。
シフトはまず氷の上に乗ると慎重に歩き、その場でジャンプした。
そして、道に戻るとシフトは全力で氷を殴ったのだ。
本来であれば強固な氷により手を傷付けるが、シフトの超常的な腕力のほうが勝り、氷に次々と亀裂が入っていき分断された。
「ご主人様! 何を・・・」
「氷の厚さがどれくらいか確認したいだけだ」
シフトは【念動力】で浮いている氷を持ち上げていく。
天井近くまで持ち上げると氷の全体が見えた。
「厚さは2メートル以上あるな・・・」
シフトは【念動力】を解除すると氷が地底湖に落ちて波紋が広がる。
「ルマ、もう一度お願い」
「畏まりました」
ルマは再度【氷魔法】水を凍らせる。
シフトは再度氷の上に乗るが問題ないようだ。
「みんな、問題なさそうだ」
ルマたちもおっかなびっくりしながら氷の上に乗るが問題ないことに安堵した。
「これなら問題ないですね」
「ああ、そうだな。 フェイ、風の通り道はわかるか?」
「ご主人様、ここからじゃまだわからないかな。 もう少し進んだらわかるかも」
「なら少し進んでみようか」
「はい。 わぁっ!」
フェイがいつもの調子で一歩前に歩き出そうとすると滑って転びそうになるがシフトがフェイの腕を掴んだ。
「大丈夫か? フェイ」
「た、助かった・・・」
「普通の靴だと滑ってしまうようですね」
「みんな、氷の上でも歩ける方法を知っていないか?」
「それなら知ってる」
シフトの質問に答えたのはベルだった。
「ベル、知っているのか?」
「昔本で読んだ」
ベルの説明を聞くと靴の底に木でできた蜘蛛の巣のような道具を取り付けると滑りにくく歩けるそうだ。
必要な物を聞くとシフトは【空間収納】から木と縄を取り出して空間を閉じる。
ベルの指示で作ってみることにした。
最初にフェイが【風魔法】を使用して木の枠組みを作るように加工する。
次にローザが【武器術】を使用して木の枠の6ヵ所に穴を開ける。
最後にベルが【錬金術】を使用して木の穴に縄を通して亀甲状に形成すれば出来上がり。
あとはこれを自分が履いている靴の下に敷いて縄で固定すれば完成らしい。
「多分、これであってるはず」
「ならぼくが試すよ」
フェイが自ら志願する。
出来上がった物をフェイに渡すと靴の下において縄でしっかり固定する。
「動いてみるね」
フェイはその場で足踏みして、次に数歩前を歩いて問題ないことを確認する。
「おお、これなら問題なく歩けるね。 けど、これじゃ走れないや」
フェイが問題ないことを確認すると同じ物を5人分作った。
シフトたちもその場で歩いてみると問題ないことを確認する。
「ご主人様、これでやっと前に進めますね」
「ああ、それじゃ今度こそ湖の先を目指すぞ」
「「「「「畏まりました、ご主人様」」」」」
ベルが作った履物によりシフトたちは凍った湖を歩き出す。
だが、シフトたちはまだ知らない。
この地底湖に住む巨大生物のことを・・・




