151.暴徒を鎮圧 〔無双劇26〕
王城に突然鐘の鳴る音が響き渡る。
何事かと辺りを警戒すると1人の衛兵がイーウィムのところにやってきた。
「イーウィム将軍閣下! 大変です! 南側から大多数の翼人が武器を持って中央に迫っています!!」
「なんだと?! どういうことだ?!」
「それが中央に対するクーデターを起こそうとしているらしいです。 外部に合わせるように内部でも数人が襲ってきたので取り押さえて白状させたところ、中央のやり方に不満があって騒動を起こしたそうです」
「それでは今中央に向かっているのは一般市民だというのか?」
「はい、正確には中層、下層の者を筆頭に平民、貧民たちが王や上層への怒りを露わにしています。 将軍閣下、どうかご指示を」
衛兵が指示を求めてきたのでイーウィムは考え始めるが、その隙を狙って隠し持っていたナイフで襲い掛かる。
咄嗟のことでイーウィムは対応できなかった。
その刃がイーウィムの胸に刺さる寸前、シフトは衛兵の腕を掴んだ。
「!!」
「随分と大胆な行動をするものだな」
「くっ! 貴様っ!」
シフトはそのまま握力を強めると衛兵はナイフを手から落とした。
カランカラン・・・
ナイフが地面に落ち、衛兵は痛みから悲鳴を上げる。
「ぐあああああぁーーーーーっ!!」
「殺気くらいは消さないと奇襲とは言えないだろ? フェイ、ロープで縛るのを手伝ってくれ」
「畏まりました、ご主人様」
シフトが衛兵を抑えている間にフェイがロープで両手の自由を奪う。
イーウィムは衛兵の胸倉を掴むと尋問する。
「貴様! これはどういうことだ!!」
「我々中層以下の者たちは苦しい中、必死になって生活してきた。 それなのに王やお前たち上層の者たちは何食わぬ顔をして生活しているのに我慢ができなくなったのだ!」
「生活? お前たちにも国から十分な支援を送っているはずだ」
「はっ、これだから上層は何もわかってない。 今の現状を」
衛兵は吐き捨てるように話し始める。
「我々は国のために必死になって貢献してきた! 困窮に苦しみながらもいつか救いの手を差し伸べてくれると信じて・・・ だけどいつまで経ってもその機会がやってこない! 国は我々国民を何だと思っているんだ!!」
「そんなはずはない! 私たちとて普段は贅沢などしない! それは王とて同じ! 民が苦しまぬようにするのが治世者の務めだ!!」
「なら、なぜ我々の生活は豊かにならない! なぜ飢えで苦しむ者がいる! 我々は何のために生きているのだ!!」
「それは・・・」
回答に苦しむイーウィム。
この衛兵には何を言っても通じないだろう。
悩むイーウィムにシフトが声をかける。
「イーウィムさん。 僕が話をするよ」
「シフト殿・・・」
「ふん、人間族と話すことなど何もない」
「話さないなら無理矢理話してもらう」
「何?」
シフトは衛兵の顔を手で掴むとブレーン・クローで痛めつける。
「ぎゃあああああぁーーーーーっ!! 痛い痛い痛いぃーーーーーっ!!」
「聞きたいんだけど、中央に向かっているのは翼人だけか?」
「は、はいっ! そ、そうですっ!」
「南側だけか?」
「い、今のところは南側だけです! だけどもしかするとほかの方面からも来るかもしれません!!」
「うん、ありがとう」
シフトは手を離すと衛兵はその場で痛みを紛らわすために身体を芋虫のようにして転がっていた。
「はぁはぁはぁ・・・」
「翼人族の問題は翼人たちでよく話し合って解決すればいい。 ただ、今翼人族の為に頑張っているイーウィムさんの邪魔はさせない」
シフトはルマたちを見ると命令する。
「ルマとベルは東へ、ローザとユールは西へ行き、翼人が攻めてきたら無力化しろ。 あと、後ろにも気をつけろ。 僕とフェイは南を担当する」
「「「「「畏まりました、ご主人様」」」」」
「シフト殿!」
「時間がない。 いつ中央を攻めてくるかわからないのにここで1人の翼人を相手にしている暇はない」
その言葉を聞いてイーウィムも考えを改める。
今は国民の不満を聞くのではなく国民を止めるために行動しなければならない。
「北については・・・」
「それはわしにまかせろ。 愚娘は婿殿を手伝ってやれ」
「父上・・・」
「いや、僕たちだけで十分だから。 イーウィムさんは王や上層の者たちをお願い」
シフトの一言にイーウィムはしばし考えた後に答える。
「・・・わかった。 人間族との国交には王の助力は必要不可欠だからな。 南はシフト殿に任せる」
「それじゃ行動開始」
シフトたちはそれぞれの方角に散らばった。
南門を出たところでシフトはフェイに命令をする。
「フェイ、僕が翼人たちの進行を止めるけど、通り抜けてきた者たちの足止めを頼む」
「具体的には何をするの?」
「風の障壁を張ったり、この前みたいに銃で足止めしてくれればいいよ。 ただし、なるべく死者が出ないように頼む」
「まっかせてよ~♪」
「あと、さっきも言ったが後ろにも気をつけろ。 イーウィムさんみたいに不意打ちで狙われる危険もあるから」
命の危険もあることを認識したフェイがいつもの笑顔から一転真面目な顔になってシフトに一礼する。
「畏まりました、ご主人様」
「ここは任せる。 僕は南に行って翼人たちを足止めしてくる」
それだけ言うとシフトは南側へ走っていく。
しばらくして立ち止まると南側には大勢の翼人族が空中を飛んで中央へとやってくる。
兵士だけでなく先ほどの衛兵が言った通り数多くの一般人も混じっていた。
「さて、圧倒的不利な戦いを始めますか」
シフトはナイフを取り出すといつも嵌めている火を付与した魔石を外し、代わりに風を付与した魔石を嵌める。
魔石に魔力を流してから軽く放出すると風の弾丸が前方へと放たれた。
問題ないことを確認したシフトは再び魔石に魔力を流すと翼人たちに対して風の弾丸を次々と撃っていく。
翼人たちは仲間が急に落下したことで初めて自分たちが攻撃されていることに気が付いた。
シフトはこの段階でなるべく多くの翼人を撃ち落とそうとしている。
なぜなら翼人が上空からの風による弾幕攻撃をされたらいくら強いシフトでも負けないにしろ苦戦は必至だ。
そうなる前にシフトは可能な限り風の弾丸で翼人たちを撃ち落としていく。
被害が3割を超えたところでシフトは接近した翼人たちに囲まれる。
翼人たちはシフトに対して一斉に【風魔法】で攻撃を開始した。
風の刃、風圧、風の弾丸、竜巻など風の攻撃がシフトを襲う。
シフトは1人の翼人を見ると【空間転移】を発動してその翼人の近くに転移する。
突然目の前に現れたシフトに驚いていた翼人に対して手加減した拳で殴ると後方へと吹っ飛んでいく。
吹っ飛ばされた翼人のほうには別の翼人がいて空中でぶつかると2人仲良く地上へと落下していった。
シフトは転移をしながら1人また1人と翼人たちを死なない程度に攻撃していく。
突然現れるシフトに対応できず次々と遠方へ吹っ飛ばされる翼人たち。
ある程度、対処したら地上に降りて再び風の弾丸での攻撃を再開した。
2時間後───
風の弾丸と転移での攻撃を繰り返すこと十数回、攻めにきた翼人たちも残り1割を切っていた。
圧倒的有利な位置からの攻撃のはずなのにシフトには1度も攻撃が当たっていない。
後が無くなった翼人たちは絶対的有利な上空を捨てシフトに突進してきた。
自ら肉弾となってシフトに突っ込んだのだ。
死を賭した攻撃にシフトは翼人たちの後ろに転移すると【次元遮断】を発動して結界を張った。
そして、自らスピードを落とすことなく結界にぶつかっていく。
全員が動きを止めるとシフトは結界を解除した。
辺りを見渡すと多くの翼人たちが負傷しているものの死亡者はいない。
こうして圧倒的不利な戦いを制したシフトであった。




