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144.翼人の国へ

皇国での騒動も大分落ち着いて来訪した当時に戻りつつある。

シフトとしてはこの国(皇国)を出て『勇者』ライサンダーたちの行方を捜すのが最優先事項だ。

問題は『勇者』ライサンダーたちがどこにいるか。

フライハイトは知ってはいても教えるつもりはない態度だった。

この都に潜伏している『この手に自由を(フリーダム)』がいるなら捕まえて聞き出したいが、おそらくもうこの国(皇国)からは撤退しているだろう。

こうなると虱潰しに探すしかないが、それこそ労力の無駄といえる。

どうしたものかと考えているとイーウィムが声をかけてきた。

「シフト殿、私たちの帰国の目途が立った」

「イーウィムさん、それはよかったですね」

「実は折り入ってシフト殿にお願いがあるのだが・・・」

イーウィムは歯切れが悪くとても言い難そうにしていた。

「なんでしょうか?」

「シフト殿、私たちと一緒に翼人の国に来てほしい」

「えっと、翼人の国にですか?」

「ああ、できれば力と知恵を借りたい」

「理由を聞かせていただけませんか?」

イーウィムは少し迷ったが、何も知らないよりは知ってもらうほうがいいだろうと話し始めた。

「国交についてだが、皇国が翼人族たちを受け入れるように翼人の国にも人間族たちを受け入れるための準備が必要だ。 だが、私たちの国は頭が固い連中ばかりで困っている。 できれば私と一緒に説得してほしいのだ」

「具体的にはどのようにして説得するのですか?」

「力で捩じ伏せる」

簡潔した説得方法にシフトは何とも言えない顔になる。

「それは必要なことなのでしょうか?」

「ああ、王や上層部の重鎮たちは力がない者には容赦しないからな。 皇子殿下にもなるべく武芸に秀でた者を選出してもらっているがどこまで役に立つかわからない。 本当は陛下を連れて行けば確実なのだが・・・」

「陛下を動かすのはさすがに皇国としても容認できないだろう」

国の頂点が動くのであればそれなりに時間と調整が必要になる。

だけど天皇陛下テンローなら面白そうだからと翼人の国に行きそうな予感がするな・・・

「因みに陛下は行きたいと言ったが、皇子殿下が即座に却下した」

あ、すでに行きたいと表明したのね。

「それは当然でしょう。 皇国を軽く見られかねないですから」

外交官を派遣して相手国の国力や礼式などの情勢を知った上で行動するのが普通だ。

国の頂点が軽率な行動をすれば侮られかねない。

そういう意味では皇子殿下チーローの言動は正しいだろう。

「それで僕に力を貸してほしいと?」

「シフト殿の力を見ればいくら頭でっかちな連中でも認めざるを得ないだろうから」

シフトは翼人の国に行くメリットがあるかを考える。

普通ならないと言いたいが近くに『この手に自由を(フリーダム)』がいると言っていたことを思い出す。

そこに『勇者』ライサンダーはいないだろうと勝手に決めつけるのは愚かな考えだ。

「わかりました。 翼人の国に同行させてください」

「一緒に来てくれるか! ありがとう、シフト殿!!」

イーウィムは嬉しさのあまりシフトの両手を掴むと上下にブンブンと動かした。

ついでにイーウィムの巨乳も上下に揺れる。

「イーウィム殿、ルマたちにも報告したいのでそろそろ・・・」

「あ、ああすまない。 それではまた後で」

イーウィムは晴れやかな顔で部下のほうへと歩いていく。

シフトはルマたちに今後の方針について話すために行動しようするが、ただならぬオーラを感じて振り向いた。

そこにはルマたちが不機嫌な顔で立っている。

シフトとイーウィムの会話を邪魔しないで待っていたようだが、最後のイーウィムの行動が癪に障ったのか闇オーラ全開だ。

「や、やぁ、ちょうどルマたちを探そうとしていたんだ」

シフトは後ろめたいことは何もしてないのになぜか吃ってしまった。

「そうでしたか」

怖い。

いつもと同じ優しい笑顔を見せているが、今のルマの笑顔がとても怖い。

「そ、それでだが翼人の国に行くことになった」

「ええ、イーウィム将軍閣下との会話をすべて聞いてましたから」

「そ、そうか、話す手間が省けて助かったよ」

シフトとしてはいつも通りに話したいがどうしてもルマたちの圧力に屈してしまう。

「ご主人様、1人で行かれるのですか?」

「そ、そんな訳ないでしょう。 ルマたちも一緒に連れて行くよ」

「当然です。 もしご主人様が1人で行くなんて言ったら・・・」

シフトは生唾を飲み込んで先を聞いてみる。

「言ったら?」

「イーウィム将軍閣下の明日が無かっただけです」

シフトは思わず心の中で叫んだ。

(その考え方は怖いよ!!)

イーウィムは今回の遠征の総責任者で何かあれば翼人族が黙っていない。

下手をすれば人間族Vs翼人族が再び勃発するだろう。

「ルマ! 物騒だからそういうこと言うのはやめてくれ!!」

「ううう・・・ご主人様」

ルマとしてもいつもの嫉妬からきてるのは理解しているのだろう。

だけど今までと違って相手には自分にはない武器(胸の大きさ)を持っている。

そして、()()()()()()()使()()()()()のだ。

ルマとしては気が気でないのである。

「ルマ、ベル、ローザ、フェイ、ユール、僕が好きなのはみんなだ。 それは告白した当時から変わらない。 僕はみんなのことを信じているけど、ルマたちは僕を信じられないの?」

「ご主人様、その質問はずるいです。 私が愛しているのはご主人様だけなんですから」

「ベルもご主人様のこと大好き」

「わたしが好きなのはご主人様だけだぞ」

「ぼくだってみんなに負けないくらい好きだよ」

「わたくしたち全員がご主人様を愛していることを忘れないでくださいまし」

「なら、もう少し僕を信じてほしいな」

「もう・・・わかりました、ご主人様を信じます」

ルマたちは唇を尖らせながらも主であるシフトに了承する。

話が落ち着いたところでシフトたちはイーウィムのところに訪れる。

「イーウィムさん、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

「シフト殿、何用かな?」

「出発はいつ頃の予定ですか?」

「距離があるので明日には出発したいと思っている」

「明日か・・・急だけど問題ないかな。 それと翼人の国へはどのようにして行くのですか?」

シフトの質問にイーウィムは難しい顔をする。

「一応ワイバーンを使って運搬する予定だ。 本来なら二十匹くらいいたんだがほとんどが先の戦いで殺されてしまった。 今残されているのは五匹だ」

「ワイバーン?! たしか人間が飼い慣らすのは不可能と言われているはずなんだけど・・・」

「そうなのか? 私たちはワイバーンを倒して主従関係を叩き込んでいるが、人間族はできないのか?」

「人間族がワイバーンを飼い慣らしたなんて聞いたことがない」

この世界の常識ではワイバーンを飼い慣らすなど不可能なのだ。

あくまでも人間族だけの話であり、翼人族は昔からワイバーンを力で屈服させて騎乗していた。

やり方はワイバーンの翼を軽く傷つけて自由飛行ができないようにさせてから体力を限界まで削る。

あとは国に持ち帰って治療しながら大事に世話をすれば懐くという寸法だ。

翼を持つ翼人族だからこそワイバーンを飼い慣らせることができる。

人間族はワイバーンを上空から引き摺り落とすのに翼に大ダメージを与えて、屈服させる前に殺してしまうからだ。

仮に生きていても翼のダメージが回復していないので飛ぶことができず、結局殺処分になる。

あと、ワイバーン1匹捕まえるための費用対効果もバカにならないのも理由の1つだ。

「それでワイバーンに乗れる人数と翼人の国までの日数を教えてくれ」

「乗車人数は2人まで、母国(翼人の国)までは2週間というところだな」

「そんなにかかるのか・・・」

ここまで飛んできたとはいえ結構な距離を自力できたのだろう。

「翼人の国はこの大陸みたいに領土があるのか?」

「領土? そんなものはない。 私たちは高い山を刳り貫いた断崖絶壁に国を作っているのだ」

「断崖絶壁?」

「ああ、だからこのような巨大な土地など存在しない」

イーウィムの答えに絶句するが、シフトは違う切り口から質問する。

「翼人の国近くにこの国(皇国)と同じくらいの開けた平原がある島とかはないか?」

「それならたしかいくつかあったはずだな」

「本当か? それなら魔動車で移動できる」

「魔動車?」

イーウィムは聞きなれない単語を鸚鵡返しする。

「ああ、僕たちの移動手段だ。 馬車は知っているだろ?」

「馬車? ああ、話には聞いたことがある」

「荷車部分だけを使った乗り物だ」

「そうなんだ・・・」

シフトの説明ではいまいちピンと来ていないらしい。

「近くに島があるなら僕たちは魔動車で移動します。 僕たち6人とあと乗れるのは2人が限界だから・・・翼人族から2名を同行してほしいのですがよろしいでしょうか?」

「わかった。 同行する2名を選出して明日シフト殿と一緒に移動してもらうことにする」

イーウィムは同行の件について了承する。

「それではこの事は皇子殿下に報告しておくよ」

「よろしく頼む」

シフトは皇宮に赴き、テンローとチーローに明日翼人たちとここを離れることを伝えたのだ。


翌日───

いよいよ翼人の国へ向けて出発の時が来た。

皇宮からはテンローとチーロー御自ら見送りにやってくる。

「陛下、世話になった。 母国(翼人の国)の受入態勢が完了したら使者を皇国に向かわせる。 あと私の部下たちだが明日から随時ここを離れることになっている」

「了解した、イーウィム殿。 シフト殿も達者でな」

「ああ、それでは失礼する」

挨拶もそこそこにイーウィムはシフトを抱えて北の空へと向かって飛んで行った。

ある程度北に来ると地上には黒い鉄の塊がある。

昨夜のうちにシフトがルマたちと同行者1名を連れて魔動車とともにここに待機してもらっていた。

シフトがイーウィムに指示するとその近くに着陸する。

「シフト殿、これが魔動車か?」

「ああ、あまり人には見せびらかしたくはないから口外しないでくれ」

「了解した」

イーウィムはどんな乗り物なのか興味があり、1つをこっそり自分のものにした。

シフトとイーウィムが魔動車に乗り込むとすでにルマたち5人と収容所で最初に助けた女翼人が座っている。

「イーウィムさん、座席に座ったら紐があるので身体を固定してくれ」

「これか?」

イーウィムは座席に座るとシートベルトをして身体を固定した。

シフトは問題ないことを確認すると自身も後部座席に座り出発の準備をする。

「それじゃ出発するよ」

ユールが前面の鉄のパネルに魔力を流して運転席の正面に風の障壁を展開する。

それを確認したシフトは後部座席にある浮力と加速の鉄のパネルに魔力を流した。

魔動車は前方に急加速しながら少しずつ空に浮いていく。

シフトたちは翼人の国へ向けて移動を開始するのであった。


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