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143.部下たちを説得する

太陽が西に傾き空が赤く染まる頃、翼人と皇国の和平会談も無事に終了した。

私は部下たちとシフト殿と一緒に皇宮を出ると、昨日皇国側が翼人たちのために急遽用意した都外の簡易住区へと戻る。

「ただいま」

「「「「「お帰りなさいませ、ご主人様」」」」」

シフト殿がルマ殿たちのところに戻ると私も部下たちのところへ歩いていく。

「今戻ったぞ」

「将軍閣下、よくぞご無事で」

「お怪我はありませんか?」

「和平会談の結果は?」

部下から無事であるかの確認と和平会談の結果が気になるのか色々と質問が飛んでくる。

「ちゃんと説明するから。 それよりも先に着替えをするから待っていてくれ」

私は今着ているドレスを一刻も早く脱ぎたいと行動しようとするが、部下たちに止められる。

「イーウィム様、報告なら今のままでもできるじゃないですか」

「そうですよ。 将軍閣下がどのような姿でも変わりませんよ」

「そのお召し物改めて見るとすごく似合います」

部下たちの力説に気圧される私。

普段見られない上司()の姿に皆目が奪われる。

私は顔を赤らめてなんとかしようと辺りを見るとシフト殿と目が合った。

赤かった顔が更に赤みを増していく。

「と、とにかくいつもの服に・・・」

私はそこでハッと気付く。

昨日皇国の憲兵たちによりビキニアーマーのブラジャー部分を引き裂かれたのを思い出す。

そして、これ(赤いドレス)を脱いだら着替えるものがないことに。

この国(皇国)に来る際に余計な荷物など不要と身に着けたビキニアーマー以外持ってきていないのだ。

(しまった! こんなことなら予備の鎧を持ってくるんだった!!)

戦勝する意気込みでここまで来たのが裏目に出てしまった。

(くっ、仕方ない・・・)

私はここは我慢して部下たちの要望に応えるしかなかった。

「んんっ・・・皆話を聞いてくれ。 私は見ての通り問題ない。 それと和平会談だが休戦協定と国交の樹立を取り交わした」

「人間族と国交ですか?」

「俺は反対です」

「私人間族嫌いです」

「国交よりも不可侵条約にすればよかったのでは?」

部下たちからは人間たちとの国交についての反対意見が相次いだ。

私は覇気を放つと部下たちを黙らせた。

「皆の意見もわかる。 だが、これは鎖国的である翼人族が外に目を向ける良い機会だと私は思っている」

「「「「「「「「「「・・・」」」」」」」」」」

「ここにいる大半の同族たちは人間族に捕まり拷問、強姦を受けただろう。 憎む気持ちもわかる。 だが、悪い人間だけではない」

私はそこまでを一気に捲くし立てて言うとシフト殿を見て指さした。

「あそこにいるシフト殿みたいに私たちを助けてくれた者もいる。 それに今後の国交により私たちにはない技術を学ぶことは、私たち翼人族にとって大いに役に立つはずだ」

「「「「「「「「「「・・・」」」」」」」」」」

武器や武術や戦術などの軍事戦略、日常で役立つ道具や知恵などの生活基盤、肉や魚や野菜などの食料事情など翼人族にはないモノを取り入れたいと考えている。

「私についてこいとは言わない。 だが、今回のように相手を碌に知らずに攻め入れば痛い目に合うのは明らかだ。 だからこそ自分たちを変える第一歩を踏み出すべきなのだ」

「「「「「「「「「「・・・」」」」」」」」」」

「これからの時代を生き抜くための提案だ。 気に入らないなら私を罪人にして投獄でも何でもするがいい」

それは私のこれからの人生を全て賭けた一言である。

もしこれで裏切り者として裁かれても私には悔いはないだろう。

私は部下たちに目を向けると皆が皆お互いに話し合っている。

(どんな決断であろうと私はそれに準じよう)

騒然としていたがやがて話し声が少なくなり最後には沈黙が訪れる。

私は部下たちの言葉を静かに待っていた。

どれくらい時間が経っただろう、やがて1人の翼人が声を上げる。

「イーウィム様、私はイーウィム様についていきます」

それを皮切りに翼人たちが次々と賛同の声を上げていく。

「将軍閣下! 俺もついていくぜ!!」

「私もついていきます!」

「俺たちが将軍を支えてやる!」

「皆・・・ありがとう」

私は部下たちに対して目礼する。


翌日から私たちはいろいろとやるべきことが多くて大変だった。

まずはこの皇国に残る人選だが男翼人たちは問題ないのだが、女翼人たちは人間族から強姦を受けた者たちからの辞退が相次いだ。

もし私が同じ立場なら彼女たちと同じ答えを出していただろう。

とりあえず皇国に外交員として残ってもよい翼人を集めると男翼人が30人、女翼人が20人の計50人だ。

このくらいなら問題ないだろう。

次に外交員たちの住処だが今のところは都外に用意された簡易住区だが、皇国の皇子殿下が用意した皇宮の一棟を仮住居とし、大使館の建築が完了次第そちらに引っ越す予定だ。

大使館の維持費だが最初の5年間は皇国が負担することで無料だが、6年目からは一定の額を皇国へ支払うことで合意する。

皇子殿下の計らいで翼人族でも働ける場所を提供していただくことになった。

これは皇国側の翼人族の監視も兼ねているのだろう。

労働の対価として人間族が使う硬貨を得られることだけでなく、仕事を学び、手に職をつけることもできるので悪いことばかりではない。

食事に関しても5年間は陛下の私財から捻出し、皇宮及び大使館での食事は1日3食を提供するが、都内にある食事処での飲食に関しては本人の財布から捻出する。

また、6年目からの食費はすべて自己負担とした。

これほどの好待遇はないが、裏を返せば母国(翼人の国)にも同じことをしなければならないということである。

そう、皇国から同じように50名の男女が母国(翼人の国)に大使として招くことになったのだ。

条件は皇国と同じにしたいが文化的に差異があるのでまったく同じ条件にするのは難しい。

そしてこれが一番の問題だが王を始めとした翼人の重鎮たちをどう説得するか。

正直言うと頭が固い、固すぎる、これでもかというほど頭が固いのだ。

特に私の父親を説得させるのが一番難しいだろう。

手っ取り早く一番に納得させる方法としては武力で訴える。

軍人気質でその強さの序列で物事を判断しているといっても過言ではないからだ。

陛下を連れて行くのが一番早いだろうが内政にも携わっている者が急にいなくなると問題になるので却下せざるを得ない。

皇子殿下にはなるべく文武両道の者を集めるようにお願いしているところだ。

因みに皇子殿下にこのことを伝えるとなぜか同情されてしまった。

どうやら皇子殿下の態度からして陛下も王たちと同類なのだろう。

あと問題になっているのは翼人たちの帰還だ。

私たち翼人は主に【風魔法】の使い手が多い反面、ほかの魔法が使えるのは極端に少ない。

特に【回復魔法】を使える者は少なく、今回の遠征でも3人だけ同行してもらった。

ほとんどの部下たちが翼に多大なダメージを負っており帰還が難しいと判断した。

このままでは部下たちの何割かは自害してもらうしかなくなる。

その苦渋の決断を打ち破った者がここにいた。

それはシフト殿の嫁の1人であるユール殿だ。

「回復しましたわ」

「おお、羽が動く! 動くぞ!!」

男翼人が羽をパタパタさせると軽く宙に舞う。

「問題なさそうですわね。 はい、次の方」

そこには翼を切り落とされて飛ぶことを断念せざるを得ない女翼人がいた。

「お願いします」

「あら、あなた翼を切られて失ったのね。 ちょっと待っててくださいね」

ユール殿が切られたところに魔力を集中すると物凄い勢いで翼が再生した。

「ふぅ、これでよし。 すごく綺麗な翼ですわ」

「翼・・・翼が・・・私の翼が元に戻った!」

女翼人は自分の翼を見て驚く。

軽く動かすと先ほどの男翼人と同じく宙に浮いて舞った。

地上に戻るとあまりの出来事にユール殿の手を取って喜び涙する。

「ありがとう! 本当にありがとうございます!!」

「気にすることありませんわ。 これからはちゃんと大事に使ってくださいまし」

「はい!!」

女翼人は手を放すと笑顔でユールのもとを去っていく。

「ふぅ、ちょっと疲れましたわ。 あら、イーウィム将軍閣下。 どこかお加減でも悪いのかしら?」

「いや、部下の治療を手伝ってもらい感謝する」

「うふふ、ご主人様からの命令ですもの、問題ありませんわ」

ユールは当然のことをしたという態度をとる。

「ところで先ほどの部下の翼を一瞬にして治療した魔法は何なんですか?」

「あれは【欠損部位治癒魔法】といって失われた部位を回復する魔法ですわ」

「【欠損部位治癒魔法】?! それはすごい魔法だ!!」

「わたくしは治癒の魔法に特化した能力を神より授かりましたわ。 ご主人様と会うまではこの力で多くの人を救ってきましたの」

「これは誰でも使えるのか?」

私の質問にユール殿は首を横に振った。

「残念ながらそれは無理ですわ。 人には得手不得手がありますの」

「たしかにそうだな・・・変なことを聞いてすまない」

「別に気にしませんわ。 うーん、そうですね・・・ちょっとご主人様に頼んでみますわ」

「?」

ユール殿は意味深な事を言ったけど、シフト殿に頼むとどうなるんだろう・・・

私は色々と考えたが答えはわからなかった。

因みにこの翌日から【回復魔法】関連の魔法が使える者が部下たちに急に増え始める。

聞くところによるとシフト殿に声をかけられてユール殿に手解きを受けたら使えるようになったとか・・・

うーん、ますます意味が分からない。

疑問は残るが部下たちの翼が回復し、飛べるようになったことにより帰還が可能になった。

これでようやく私たちは母国(翼人の国)に帰れるようになったのだ。


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