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142.休戦協定

イーウィムと天皇陛下テンローの話し合いが始まるかと思ったが、なぜか2人ともシフトを見ている。

「「・・・」」

この流れって以前もあったよね?

「この会談になるまでの経緯を教えてほしい」

「シフト殿、状況の説明を頼む」

やっぱりね。

「えっと、それでは司会進行として僕が務めるので双方問題ありませんか?」

シフトの問いにイーウィムとテンローは無言で頷く。

「それではまず今回の騒動の経緯を説明いたします」

翼人族が皇国を襲撃したこと。

シフトたちが翼人たちを撃ち落としたこと。

乱暴をされそうになったイーウィムを助けたこと。

翼人たちを捕まえて収容所で拷問にかけていたこと。

シフトが収容所を襲撃して翼人たちを解放したこと。

残りの翼人たちを助けるために皇宮に攻め入ったこと。

陛下との一騎討ちをしたこと。

シフトは自分が知る範囲で説明を行った。

「・・・以上です。 ここまでで何か質問はありますか?」

テンローが挙手をする。

「シフト殿はなぜ翼人を攻撃した後、救助するような行動をとったのだ?」

「今は翼人と皇国の問題を話し合う場であり、僕のことを話す場ではありませんので回答は差し控えさせてもらいます」

「いや、大いに関係あるのだが・・・」

「はぁ・・・まぁ、最初は翼人たちからいきなり攻撃されてそれに対して反撃して全員撃ち落としたんです。 けれど、皇国の兵たちが翼人たちに対して見るに耐えない乱暴な行為をしていたので成敗したのです」

「攻撃してすまない」

「配下の者たちが迷惑をかけた」

シフトの言葉にイーウィムとテンローは謝罪する。

「ああ、ここまで話したのでついでにそれぞれの被害について話します。 まずは翼人たちですが、この都全体に対しての風による強襲、及び多くの負傷者を出したことです。 続いて皇国は負傷している翼人たちを捕らえ、男性には拷問、女性には強姦をしています」

「「・・・」」

イーウィムとテンローはシフトの言葉を聞き沈黙する。

しばらくするとテンローが質問してきた。

「これまでの経緯やこの国(皇国)と翼人の被害についてはわかった。 だが、シフト殿がなぜ関わったのかが解からん」

「・・・たしかになぜ私たちの邪魔をしたのか気になるが」

「それはですね、ここには別の用があって来たんです。 で、当てが外れたので国を出ようとしたら先ほど話したように巻き込まれたんです。 普通警告もなしに問答無用で攻撃しますか? 僕としては正当防衛です。 それに皇国の非人道的な行為を黙って見過ごすわけにはいかなかった。 それが今回関わった理由です」

「「・・・」」

シフトの愚痴ともいえる言葉を聞き、イーウィムとテンローは目を逸らして苦笑いをしている。

「僕のことはこれくらいにして、そろそろ本題に入りたいと思います。 お互いの被害状況を基にして落としどころを見つけることと今後の両国の関係について話し合いたいと思います。 それではまずはイーウィム将軍閣下からお願いします」

シフトの言葉を受け、イーウィムが話始める。

「それでは当方の被害状況と貴国との今後に関係について話をする。 負傷に関してはシフト殿たちが負わせたことだが、負傷者を捕縛し非人道的なことをされたのは貴国である。 先に仕掛けておいてなんだが貴国と休戦協定を結び、できれば国交を視野に入れたい」

イーウィムは言葉を締めくくるとシフトを見る。

「ありがとうございます。 それでは次に陛下お願いします」

「うむ、此方の被害と貴国について話そう。 都や住民に危害を加えたのは貴国であるが、衛兵たちの死傷者に関してはシフト殿が行ったことだ。 イーウィム殿の言ではないが貴国と休戦協定を結び、国交樹立を目指したい」

テンローも最後まで言葉を口にするとシフトを見た。

(あれ? なぜか両国の負傷者について僕に責があるみたいな言い回しだな)

実際多くの被害を与えたのはシフトたちであり、翼人でも皇国でもない。

イーウィムとテンローの考えは自分たちは被害者であり、シフトたちが加害者であると言いたいのだ。

なぜこのような回りくどい言い方をするのかというと、シフトたちに勝てないこととその力を自分たちに引き込みたいと思案している。

その意図を察したのかシフトは苦い顔をした。

(はぁ・・・みんな僕のどこがいいのやら・・・)

シフト自身もある程度は認識しているが、その力と知識を欲しているのだ。

なので今回のイーウィムとテンローは自分たちが被害者ぶることで、弱みを握ってシフトを懐柔し自分たちのモノにしてしまおうと画策した。

この手のやり取りは過去何度も行われている。

ギルバート、グラント、ナンゴー、タイミュー、モター、エルフの女長老エレンミィア、ドワーフの鍛冶王ラッグズ、公国の国王レクント、帝国の皇帝グランディズ、そしてこの国(皇国)の皇子チーロー・・・

これだけの大物揃いから声をかけられてはいるが目的を果たすまでは誰の下にもつく気はない。

シフトはイーウィムとテンローに対してはっきりと宣言する。

「申し訳ないけど僕は誰の下にもつく気はない。 懐柔して手元に置きたいというならその手は逆効果だ。 諦めろ」

自分たちの考えを看破されて驚くイーウィムとテンロー。

「それではこれより休戦協定および国交についての話し合いを行います」

次の一手を口にする前にシフトは次の議題へと進行させた。

休戦協定と国交についてイーウィムとテンローは話し始める。

期間を決め、内容を議論し煮詰めていく。

休戦協定だが話し合いの結果、10年間はお互い手を出さないことで合意する。

そして、テンローの口添えで翼人を国際会議への新たな加盟国に推薦することになった。

これについてはお互いの見聞を広めるという大きなメリットがある。

翼人族にとっては人間族の伝統や文化を学ぶことができ、人間族にとっては未知の領域への探索をすることができるからだ。

国交についてはまず皇国を翼人たちが来訪する際の玄関口とし、皇国内に翼人用の大使館を新たに作成することになった。

一通り話が終わる頃には太陽が真上まで昇っていたので昼食をとることになった。

チーローの案内で来客用の食堂へと案内される。

そこにはすでに多くの料理が並べられていた。

「イーウィム将軍閣下、皇国の料理を用意しました」

チーローがイーウィムに対して言外に人間族の作法について質問してくる。

その意図を察して料理の数々を見ると、翼人でも取り入れている食事作法なので問題ないことを告げる。

「皇子殿下、貴国の気遣いに感謝する」

イーウィムとテンローが1つのテーブルにつき、男翼人たちは3つテーブルに4人ずつ座る。

残されたシフトはというとなぜかチーローと1つのテーブルで食事することになった。

それぞれが食事を楽しむ中、チーローがシフトに話しかける。

「シフト殿、本来であればもっと違った形で貴殿と接触したかった」

「仕方ないです。 まさか国内でこれほどの騒ぎが起きるとは誰も想像できないでしょう」

「たしかに・・・改めて問いたい。 陛下もそうだが朕としてもシフト殿には是非とも皇国に根を下ろしてほしいものだ」

「断る。 殿下の申し出はありがたいが僕にも目的がある」

「そうか、残念だ。 シフト殿の気持ちが変わることを願うしかないな」

チーローは残念そうな顔をする。

食事を終えて会議室に戻るとあとはお互いの親睦を深めるだけと言いたいが、シフトには伝えておきたいことがあった。

「イーウィム将軍閣下、天皇陛下、あと皇子殿下にお話ししたいことがございます」

3人はシフトを見ると代表してテンローが声をかける。

「話とは何かな?」

「『この手に自由を(フリーダム)』についてです」

「「『この手に自由を(フリーダム)』?」」

イーウィムとテンローは聞きなれない単語に疑問を抱くが、チーローが軽く説明する。

「陛下、『この手に自由を(フリーダム)』とはガイアール王国で起きた事件に帝国の皇子が関与していた謎の組織でございます」

「組織? それがこの国(皇国)にいると?」

「いる、いえいましたというのが正しいですね。 昨日ですが都で偶然出会ったのですが取り逃がしてしまって・・・」

「それで『この手に自由を(フリーダム)』とはどういう連中なのだ?」

「右手に奇妙な紋様を刻んでいる連中です」

「右手に紋様? そんな連中聞いたことないな」

「私の国の近くに住む人間族には有ったな。 彼らは友好的であったが違うのか?」

「どちらかというとあらゆるところに根を張って何かしようとする連中です。 今は友好的でもタイミングを見て盤面をひっくり返すかもしれません」

フライハイトが動くかは知らないが、少なくとも配下の者は動く可能性がある。

「きな臭い連中だな。 一応用心しておくか・・・息子よ任せたぞ」

「はっ! お任せください!!」

「シフト殿の言うことが正しければ私たちも気を付けることとしよう」

3人はそれぞれ『この手に自由を(フリーダム)』について警戒を約束してくれる。

そのあと、イーウィムとテンローは親睦を深めるために話し合いをするが、その場を離れようとしたシフトを巻き込んだ。


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