12.冒険者ギルドで一悶着
シフトは冒険者ギルドに到着した。
中に入るとたくさんの冒険者で賑わっていた。
シフトは奥にあるカウンターの方に歩いていくとガラの悪い一人の冒険者が足を引っかけてくる。
シフトはわざと足に引っかかって盛大に転ぶと同時にマナハイポーション1本の瓶をわざと割る。
バリイイイイイイイィィィィィィィーーーーーーーン!!!!!!!
「おっと坊主悪ぃ悪ぃ」
周りでは何人かのガラの悪い冒険者が一緒に笑ってた。
受付嬢や他の冒険者は哀れるようにシフトを見ていた。
頃合いを見てシフトは冒険者ギルド全体に聞こえるように大声で叫んだ。
「あ、ああぁーーーーーっ!! ぼ、僕のマナハイポーションがあああぁーーーーーっ!!!」
絡んできた冒険者が『マナハイポーション』という単語に青ざめた顔で呟いた。
「な? え? マナハイポーション?!」
「う、嘘つくんじゃねえよ坊主! マナハイポーションって・・・お前が持っているわけないだろ!!」
「そ、そうだそうだ!」
ガラの悪い冒険者たちが追随した。
そこへシフトより少し年配の男性がギルドの奥から現れた。
その身のこなしと強者にしか持ちいえない覇気からおそらく彼がこの冒険者ギルドのギルドマスターだろう。
「何を騒いでいるんだ! それにマナハイポーションと聞こえたぞ!!」
「ギ、ギルマス?! え、えっとこれはですね・・・」
ギルドマスターが倒れているシフトに声をかける。
「君、大丈夫か?」
「ありがとうございます、だけどマナハイポーションが・・・」
「それは1本だけかい?」
シフトはポーションの状態を確認する。
「いいえ、6本のうち1本だけ割れてしまって・・・」
「・・・すまないが残りの5本が本当にマナハイポーションか今ここで鑑定してもいいかな?」
「はい、かまいませんよ」
「わかった。 だれか[鑑定石]を持ってきてくれ」
するとギルドの奥から一人の女性が[鑑定石]を持ってきてギルドマスターに渡した。
シフトは鞄から5本のマナハイポーションをギルドマスターに渡す。
「では鑑定するよ」
マナハイポーション
品質:Aランク。
効果:服用者の最大魔力の半分ほど回復する。
「! 間違いない、マナハイポーションだ!! それも最高品質Aランクなんて市場では絶対出回らない逸品だぞ!!」
「なっ?! う、嘘だろギルマス!!」
絡んできた冒険者の顔色が青から白に代わっていく。
それは彼らの取り巻き達も同様だ。
ギルドマスターは次々とマナハイポーションを鑑定していく。
結果は5本とも高品質のマナハイポーションと鑑定された。
「・・・これも・・・これも・・・これも・・・これも・・・すべて本物だ! 間違いない!!」
「そ、そんな・・・」
ギルドマスターはシフトに向き直ると問い始めた。
「少年、ここには何をしに?」
「僕、冒険者なんですけど、ここに来る途中魔物に襲われて身分証を紛失してしまったんです。 だから冒険者登録と身分証の発行、あとマナハイポーションの買取をお願いしたくて」
「では、これはどこで手に入れたんだい?」
「遥か西にある洞窟型のダンジョンの最奥の宝箱から見つけました」
「そうか・・・」
シフトは足を引っかけた冒険者を真正面から見つめた。
「だけど先ほどそこの人が僕の足を引っかけて1つ割られて・・・」
「・・・君の冒険者登録と身分証の発行を受理する。 そして持ってきた6本のマナハイポーションはギルドマスターであるこのギルバートが責任をもってすべて買い取ろう」
「なっ?! ギ、ギルマス、わ、割ったものがマナハイポーションだとは限らないじゃないですか?!」
「黙れワルガス!! 市場でも滅多に出回らないマナハイポーション・・・それも最高品質なんだぞ!!! お前はその貴重なポーションを割ったんだぞ!!!」
ギルバートはワルガスに事の重大さと事実を突きつけた。
「え、あ、そ、それは・・・」
「割ったマナハイポーションの代金を・・・ワルガスお前のパーティーに払ってもらう」
「そ、そんな・・・」
ギルバートの一言でワルガスはその場に崩れ落ちた。
「自業自得だ。 素直に受け入れろ」
「・・・」
「いいか!! おまえたち!! これに懲りたら二度と悪さするんじゃないぞ!!! 次同じ事してみろ!!! 鉱山送りにするからな!!!」
ギルドマスターであるギルバートがドスの利いた声でワルガス(とそのパーティー)に対して判決を言い渡した。
ワルガスはパーティーメンバーから余計なことをしてくれたなと罵声を浴びせられ続けられた。
ワルガス本人だけならともかくパーティーメンバーも巻き込まれたから堪ったもんじゃないだろう。
「それではマナハイポーションの代金を支払おう。 サリア、いくらになる?」
サリアと呼ばれた女性がギルバートに買取価格を伝える。
「はい、こちら最高品質のマナハイポーションということで1本あたり金貨3枚、6本で金貨18枚でいかかでしょうか?」
「は、はい、それでお願いします」
「わかった。 すぐに用意しろ。 それとワルガスたちへの請求書も一緒に頼む」
「はい、承知いたしました」
承諾するとサリアはカウンターへと歩き出し、受付嬢にお金を用意させていた。
命令してるということはどうやらサリアもギルドの幹部クラスらしい。
それにしても[鑑定石]で予め買取金額が金貨2枚前後と知っていたので、金貨3枚という値段は嬉しい誤算であった。
「ここではなんだろう、個室で話さなさいかい?」
「は、はい」
「ではついてきてくれ」
ギルバートが踵を返して歩き出したのでシフトもついていくことにする。
しばらく進むとギルバートが部屋の一室を開ける。
「さあ、入ってくれ」
「失礼します」
その部屋は広く奥の方に豪華な作業用の机が、手前には接客用のテーブルと長椅子が2つ置かれていた。
どうやらギルドマスターの執務室らしい。
「そこに座ってくれ」
「は、はい」
ギルバートに勧められシフトは長椅子に座る。
反対の長椅子にギルバートが座ると同時に扉がノックされる。
「誰だ?」
『サリアです』
「入れ」
『失礼します』
扉が開くとサリアが御茶2つと茶菓子、革袋ののったトレーを持って入室してきた。
サリアは一礼しテーブルに御茶と茶菓子、革袋を置くとギルバートの斜め後ろに控えた。
「それでは改めて自己紹介するよ。 ミルバークの町の冒険者ギルドのギルドマスターをしているギルバートだ。 後ろに控えているのはサブマスター兼僕の秘書であるサリアだ」
サリアはシフトに深々とお辞儀する。
「サリアです。 よろしくお願い致します」
「僕はシフトです。 よろしくお願いします」
シフトは2人に挨拶する。
「先ほどはワルガスたちが迷惑かけたね。 本当に申し訳ない。 彼らは普段から素行が悪いので僕も悩まされていたんだよ。 今回の件で真っ当になればいいけど・・・」
「それは彼ら次第だと思います」
「そうだね」
ギルバートが金貨の入った革袋をシフトに渡す。
「シフト君、マナハイポーションの買取代金である金貨18枚だ」
革袋を受け取って中身を確認するとたしかに金貨が18枚入っていた。
「一つ聞きたいことがあります」
「なんだね?」
「マナハイポーションの件です。 買取は本当に6本でいいのかと?」
「サリア、問題ないよね?」
「はい、[鑑定石]でマナハイポーションであること確認しております。 買取は6本で問題ありません」
サリアはシフトたちがその場を離れたあと、すぐに割れたポーションを調べたのだろう。
なかなか抜け目がないな。
いまもこの部屋の調度品から[鑑定石]を持ってきてテーブルの上に置いたのだ。
「さて、冒険者登録と身分証の発行をしておこう」
「シフト様、こちらの[鑑定石]に触れてください」
「わかりました」
シフトは[鑑定石]に触れるとシフトの個人情報が次々と表示される。
「ふむ、シフト君 11歳 レベル20・・・能力は幸運が異常に高くそれ以外は平均より少し高いと・・・」
「その歳でレベル20ですか・・・かなり強いですね」
ギルバートとサリアは驚いている。
あ、これやっちゃったかな? ちょっと・・・いやかなり【偽装】に失敗したかな?
「え・・・と、幼少の頃より魔物退治のサポートをしていたので・・・」
「ん? 別に責めてるわけではないよ。 ただ、将来有望だなとおもってな」
「ええ、誰かさんみたいに圧倒的な力であっというまにSランク冒険者になった方よりかは全然問題ないですよ」
サリアはさりげなくギルバートを見て毒を吐いた。
ここはサリアに合わせるとしよう。
「ギルバートさんは・・・ギルドマスターはそんなに強いんですか?」
「ええ、それはもういうまでもなく。 なにしろワイバーンを1人で・・・」
「ちょ、サリア!! その話をここでする?」
「あら、何か問題でも?」
サリアはギルバートに笑顔を見せるが目は笑っていない。
あれは暗い闇のある目だ。
「今はシフト君の冒険者登録と身分証の発行についての話なんだけど・・・」
「失礼しました」
「ごめんね、話がこじれ・・・んん、ずれて・・・えっと、耐性が毒・麻痺・病気に完全耐性・・・あとはスキル【ずらす】?」
「【ずらす】? これってどういうスキルなんですか?」
「それが・・・お恥ずかしいのですが僕にも何のスキルかわからないもので・・・」
ギルバートとサリアは顔を見合わせて考え込むがすぐには結論が出ないことを悟りシフトに話しかける。
「うん、たしかに『レベル1:【???】』って表示されているからね。 君にわからないことを僕たちがわかるはずがないしね」
「そうですわね。 普通ではないスキルというのはわかるのですが・・・」
「それってどういうことですか?」
シフトはギルバートとサリアに問い合わせる。
「普通はレベル1でも何が使えるか表示されるんだよ」
「それなら知っています。 【風魔法】なら表示される魔法を唱えることで使えると。 何度も使用してある一定以上の熟練度でレベルが上がるとか」
「うん、君の言う通りスキルは使えば使うほど強くなるんだよ。 ただね・・・」
「『レベル1:【???】』なんて初めて見たものですから、何をどうすればこの【ずらす】を使えるのか皆目見当もつきません・・・」
2人が申し訳ない顔をするとシフトが明るい声で答える。
「あ、気にしないでください。 僕もいつかこのスキルが使えればと思っているので・・・気長に待ちますよ」
「力になれなくてごめんよ」
「気をしっかり持ってくださいね」
「ありがとうございます」
「さて、一通り見たけど問題なさそうだな。 シフト君、君の冒険者登録を許可するよ。 サリア」
「こちらが冒険者登録証です。 身分証も兼用しているので紛失しないでください。 初回は代金はいただきませんが、再発行の際は銀貨1枚が必要になりますのでご注意ください」
サリアから冒険者登録証と冒険の書を受け取る。
冒険者登録証を見るとEランクと書かれている。
冒険者のランクは通常A・B・C・D・Eの5段階で最高ランクがA、最低ランクがEである。
また、国で偉業を成し遂げた者にはSランクを授与される。
余談だが、ギルバートは国が認めた3人のSランク冒険者の1人である。
「おめでとう、今日から君も冒険者だ。 歓迎するよシフト君。 ギルドに関しては冒険の書を見てくれ。 何か質問はあるかな?」
少し考えてからギルバートに質問する。
「2つほど、1つ目はアサルトさん、コーラルさん、シーダさんという冒険者の方たちですが・・・」
「彼らを知っているのか?」
「この町に移動しているときに森の中で見かけたのですが、その時にはもう・・・」
「西門を守る衛兵から聞いている。 ・・・そうか、君が彼らを見つけてここまで連れてきてくれたんだね。 ギルドマスターとして礼を言わせてもらう」
ギルバートとサリアはシフトに頭を下げる。
「彼らは?」
「この町にいるご遺族へ帰しました」
「そうですか・・・よかったです」
「感謝していたよ。 それが1件目だとして2件目は?」
「奴隷を買いたいのですが」
ギルバートとサリアは怪訝そうな顔でシフトを見た。
「人手が入用ってことかな? たしかにこの町でも奴隷商は3軒あるが・・・」
「今いる冒険者とパーティーを組まないのかしら?」
サリアが冒険者としては当然な質問をしてくる。
「それも考えたのですが主旨主張を違えた場合のことを考えると・・・」
「・・・たしかにパーティーを追い出したりあるいは追い出されたりするとね・・・」
「それならば奴隷を購入してパーティーを強化したほうが良いと考えたのですね」
理想的なパーティーメンバーの組み合わせに関しては十人十色である。
ギルバートとサリアは実際何組ものパーティーが理不尽な追い出しをしているのを見ているからだ。
「その通りです。 ダメですか?」
「いや、奴隷に対して不当な扱いをしなければ問題ないよ。 購入した奴隷も冒険者ギルドに登録するのだろ?」
「はい、最低3人は予定しています」
「うん、わかった。 すぐに手続きできるように準備しておくよ」
「ありがとうございます」
サリアはテーブルにミルバークの町の全体図を広げる。
この人有能すぎだろ。
「これはこの町の全体図でね奴隷商は・・・ここと・・・ここと・・・ここにあるから」
「なるほど・・・行ってみたいと思います」
「うん、それで他に聞きたいことは?」
「ありません」
これで当初の目的が達成されたので終わるのかと思ったが、今度はギルバートから話を切り出した。
「そうか、ではこちらからも2つほど」
「なんでしょうか?」
「1件目だけど君が持っているポーションを買いたい」
シフトは大量のポーションを持っているがここは不思議そうな顔をして誤魔化すことにした。
「マナハイポーションなら先ほど・・・」
「あれが全てとは思っていないよ。 君が売っても構わないと判断したのだけ買うつもりだ」
「ギルマス、彼がまだ有益な物を所持しているとでも?」
「根拠はない。 なんとなくだがシフト君がポーション以外にも隠し玉を持ってそうでね」
サリアの疑問にギルバートは隠さず答えた。
「僕としては自分の分を残しておきたいので・・・」
「そうか・・・そういうことにしておこう」
「2件目だけど・・・」
先ほどまで温和だったギルバートから凄まじい闘気と威圧感が放出される。
4ヵ月前のシフトなら平伏するか委縮するか逃げ出すかあるいは死に物狂いで戦うか。
「君は何者だい?」
「・・・僕は普通の人間ですよ」
「・・・」
ギルバートから放たれる闘気と威圧感が霧散し、温和な雰囲気に戻る。
「まぁ、そういうことにしておこう」
「・・・」
「・・・君が犯罪者でないことはわかってる。 だけど僕にもこの冒険者ギルドいやこの町を守る義務がある。 もし君がこの町に害をなそうとするなら・・・」
シフトはギルバートの言葉を遮った。
「僕には僕の目的がある。 僕の邪魔をしなければこの町には手を出しません。 僕が約束できるのはそれだけです」
シフトとギルバートはしばらくの間お互い目を合わせていたが、先にギルバードの方が根負けした。
「・・・わかった。 君を信じよう」
シフトは席を立つと一礼して部屋から出て行った。
サリアは先ほどまでシフトがいた場所に座るとギルバートが深刻な顔で話始める。
「サリア様、彼・・・シフト君をどうみますか?」
「あなたの感じたままよ。 ただ・・・」
「ただ?」
サリアはシフトの第一印象を口にする。
「彼は膨大な力を隠し持っている。 これは間違いないわ。 それを引き出す鍵を彼自身が持っているのか、そこが問題ね」
「・・・」
「誰かが鍵をかけているなら彼とその誰かを引き合わせないようにすればいい。 彼自身が鍵を持っていて開け方がわからないなら問題ないわ」
「・・・」
「だけど彼自身が鍵を持っていて自由に開け閉めできるなら話は別。 あまりにも危険すぎるわ」
サリアはシフトの危険性を直感で感じたのだ。
「彼が見せた能力が偽りであると?」
「最高品質Aランクの[鑑定石]で確認したのよ? 彼の能力が偽りである可能性は0に近いわ。 ただそれでも完全な0ではないけどね・・・」
「今のうちに消しましょうか?」
「・・・止めておきなさい。 そんなことしたらあなた消されるわよ?」
「・・・わかっております。 彼は僕の威圧を微風のように受け流していましたから。 少なく見積もっても僕と同レベルが100人いても勝てないでしょう」
ギルバートがここまで評価することにサリアは驚いたが気を取り直して話を続ける。
「それに頭も切れるわ。 パーティーメンバーを奴隷から見つけてくるとか言うなんてね・・・」
「普通なら空いているギルドメンバーを偽装してパーティーに送り込むところでしょうが、奴隷だと契約が必須なので偽装は不可能です」
「その通りよ。 物理的な力、狡猾な頭脳、隠し持っている物量・・・はぁ、敵にしたくないわね・・・」
「・・・サリア様、彼の処遇は?」
「・・・あなたが言ったように手を出さないで彼を信じることにするわ」
サリアとギルバートは顔を合わせると溜息をついた。