135.海人の次は翼人が攻めてきた
フライハイトは甘味処を出ると何気なく歩いて裏路地に入る。
誰もいないことを確認すると壁に背を預けて座り込んだ。
いつの間にか全身から汗が止めどなく流れ、飄々とした雰囲気はなくなっている。
「・・・はぁ、びっくりした。 なんで彼らがここにいるんだ? 情報だと公国にいるって聞いたんだけど・・・」
数日前にフライハイトは公国にいる配下の者からシフトたちの情報を聞いていた。
公国から皇国へ行くのに少なくとも1ヵ月以上はかかるだろうと。
だが、先ほどの甘味処で偶然にも出会ってしまった。
シフトたちが警戒したのと同じようにフライハイトも実は警戒していた。
帝国にある洞窟で見たその異常さに脅威を感じ、配下の者たちに容姿と6人組を伝えて見かけたら逐一報告するよう命令したくらいだ。
だが、ここで警戒していると表情や仕草で悟られると厄介なので、とりあえずポーカーフェイスと舌戦で乗り切ることにした。
もし、シフトの機嫌を損ねて戦闘になったら店を巻き込んででも逃げに徹する予定だ。
相席を提案するとシフトは以前1対1で戦ったことがあるベルという少女をパートナーと一緒に相席することになった。
ベルはすぐさま【鑑定】を発動してフライハイトを見ている。
(ただでさえ目の前に化け物がいるのにプレッシャーをかけてくるな・・・)
ベルだけでなくシフトの連れの女性たちまでもフライハイトを警戒している。
彼女たち1人1人が『勇者』たちと互角かそれ以上の力を有してはいるが、5人全員を相手にしても勝てる自信はあった。
しかし、目の前のシフトだけは別だ。
いくら逆立ちしても勝てる自信がない。
100回挑んだら100回負けるのが目に見えているのだから。
そんな化け物と戦うよりは勧誘して自分に取り込んでしまおうと舌戦をしかけてみた。
あの洞窟でのやりとりからおそらく『勇者』たちに私怨があるだろうと予想していたが、想像以上の喰いつきに内心驚いていた。
ならば『勇者』たちを餌に取り込もうとしたが、難色を示した態度をとったので無理に踏み込むのをやめる。
シフトからの質問を受けてフライハイトは虚実を交えて回答していた。
ある程度答えると甘味を理由に切り上げて、さっさと食べて店を出たのである。
「・・・疲れたな。 リフレッシュするはずが精神疲労って何の罰ゲームだよ・・・」
フライハイトは誰もいないのでついつい愚痴を零してしまう。
「だけど、彼が・・・シフトがいれば僕の願いが成就する可能性は非常に高いな」
上手く取り込んで仲間に引き入れたいフライハイト。
どうすべきかと考えていると北の空に異変を感じた。
(なんだ? あれは・・・)
フライハイトは注意深くそれを観察する。
(! ああ、配下の誰かの策略であれをここに投入したのか・・・よく考えるものだな・・・)
フライハイトは感心していいのか、それとも呆れていいのか判断が難しい顔をする。
「自由に行動しろとは言ったけどタイミングが悪いな」
フライハイトは『この手に自由を』の創立者だ。
組織化する際に1つだけ決めたことがある。
それは自分の意志で自由に行動することだ。
組織内で敵を作ろうが味方を作ろうが協力しようが迷惑かけようがすべて自由なのである。
基本仲間との意思疎通をせずに好き勝手にやりたい放題やり、それで失敗してもすべて自己責任だ。
今、北の空の異変は間違いなく配下の誰かが起こしたに違いない。
これに対してフライハイトが止めるのは筋違いである。
「はぁ・・・世の中、うまくいかないものだな。 仕方ない、ここでの勧誘は諦めるか・・・」
それだけ言うと今までいた場所にフライハイトの姿はどこにもなかった。
シフトは先ほどの甘味処で『勇者』ライサンダーたちを知る唯一の手掛かりといっていいフライハイトを逃がした。
あの場にシフト1人なら店を破壊してでもフライハイトを捕まえて居場所を聞き出していただろう。
だが、シフトはルマたちの安全を最優先に考えて踏み込むことはしなかった。
シフトはフライハイトのやりとりを思い出す。
フライハイトが店を訪れたのは偶然か?
あの驚いた顔を見るとおそらく真実だろう。
シフトたちへの勧誘は?
洞窟でも同じことをされたのでこれは紛れもなく真実だ。
フライハイトの目的は世界征服ではない?
嘘を言っている雰囲気ではないのでこれも真実だろう。
『勇者』ライサンダーたちは皇国にいない?
何か引っかかる言い方をしていたことから嘘ではないが真実でもない。
以上のことからフライハイトはほとんど真実を語っていると判断した。
すぐにでもシフト1人で追いかけ、フライハイトを捕まえて白状させたいが、その隙にルマたちを狙ってくる可能性も十分考えられる。
フライハイトが1人で彷徨うような危険を自ら冒すはずがない。
目の届くところに配下の者がいるはずだ。
そう考えたシフトはフライハイトを追うことを断念する。
「ご主人様?」
「ん? ああ、ちょっと考え事をしていた」
「フライハイト?」
「そうだ、あいつからもう少し『勇者』たちの情報を引き出せればと思ってね」
「場数を踏んでるから仕方ない」
ベルの的確な意見に同意せざるを得ない。
どうしたものかと再び思考しようとすると突然周りから大声が聞こえてくる。
「ねぇ、あれ何よ!」
「なんかたくさん飛んでる!」
「こっちに来るぞ!」
その言葉にシフトたちもその方角を見る。
そこには背中に翼がある人間や鳥人間、ハーピーのほかにワイバーンを駆る翼人が空を飛んで皇国に迫ってきていた。
突然の出来事に皇国の人々はパニックを起こしている。
翼人たちは上空から自分たちの象徴でもある風を吹かせ皇国を襲い始めた。
突然巻き起こった風に吹き飛ばされる家屋。
そこにワイバーンが炎を吐いて追い打ちをかける。
逃げ惑う人々を追撃するように風が迫り、直撃してある者は裂傷し、ある者は空高く吹き飛び、またある者は壁に叩きつけられた。
ここまで風が来る前に【次元遮断】を発動し、シフトたちのいる最低限の範囲だけ外界から隔離する。
その直後、翼人たちの風が都のあちこちに吹いていく。
シフトたちには影響はないが、外界では風はもちろん、人や物がぶつかると結界外をドーム状に移動しながら後方へと飛ばされる。
「ご主人様、この結界はどのくらい持つのかな?」
「この空間なら1年以上は持つかな」
「風が止むまでは問題なさそうだな」
実際に猛吹雪や溶岩流にも余裕で耐えられるので問題ないが、結界を解除するタイミングが難しい。
結界内で状況を見守っているとこの都で最も大きく、そして派手な建物を攻撃する。
だが、翼人たちの風による攻撃は結界によりすべて遮られた。
「ご主人様と同じ」
「すごいね」
建物を覆う結界を見てベルとフェイが感嘆とする。
しかし、魔法が得意なルマとユールは渋い顔をしていた。
「あれではダメですね」
「ええ、いつまで保つかわかりませんわ」
ルマとユールの指摘通り少しずつ結界に罅が入っていく。
翼人たちの風による波状攻撃は終わらない。
攻撃を受けるたびに目に見えて罅が広がっていく。
そして、ついに結界が破壊される。
あの建物も終わりかに見えたが、先ほどよりも一回り小さく強力な結界が建物を覆った。
これでしばらくは保つだろう。
シフトたちは自分たちの周りを確認すると風が落ち着いたことに気付く。
先ほどまで翼人たちの攻撃を受けていたが、【次元遮断】の前に心が折れたのか放棄された。
「どうやら風の心配はなさそうだな。 みんな、あれらを無力化するよ」
「「「「「畏まりました、ご主人様」」」」」
シフトは結界を解いて反撃に出るのであった。




