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133.偶然と謝罪

怖かった。

いくらご主人様が考案し、わたしたちが作ったとはいえ鉄の塊がすごい勢いで移動したり空を飛んだりしたら誰もが恐怖を感じるはずだ。

ベルやフェイみたいに楽しむことも、ルマやユールみたいに理解することも、わたしにはできない。

わたしは子供のようにご主人様に抱き着いていた。

あとから考えるととても恥ずかしかったが、心の底から本当に怖かったのだから。

でも無事に目的地近くまで移動できたことにはホッとしている。

もしかするとそこに辿り着くまでに死んでいたかもしれないからだ。

今生きていることに神に感謝しないといけないな。

わたしは落ち着くとご主人様の胸の中から離れた。

ふと、ルマを見るといつもこういう時に闇オーラを放っているが今回は珍しく普通だ。

いや、よく見るとベルとフェイがルマの両肩をそれぞれ抑えている。

いつもは迷惑をかける2人だがわたしの行動を邪魔しないようにルマを宥めてくれたのだろう。

「えっと、みんな済まない」

「・・・別にローザが悪いわけではありません」

ルマは頭では理解しているだろうが、少し感情的になっているようだ。

「まぁまぁ、ルマちゃん落ち着いて」

「ルマ、落ち着く」

「ふぅ・・・あなたたちねぇ・・・」

「うふふふ・・・ルマさん、落ち着きましょう」

「ユールまで・・・わかったわよ」

ルマにしては珍しく負かされているようだ。

「みんな落ち着いて。 ローザも無事でよかったよ」

「申し訳ない、初めての体験で好奇心よりも恐怖心のほうが上回ってしまった」

「普通はそうだろう。 もしかすると今後も移動に何度か使うけど問題ないかな?」

「は、はい。 い、一度経験したので大丈夫かと・・・」

正直、何度か経験するうちに克服できるかもしれないが、それがいつになるのかわからない。

「ローザ、無理はしなくてもいいんだよ?」

「だ、大丈夫です。 い、いつか克服できるはずです」

わたしは顔を真っ赤にして答える。

なぜかルマたちが口を押さえて笑い始めた。

「なっ?! そんなに笑うことないだろ!」

「うふふ・・・だって・・・」

「ローザらしくない」

「ぼくもベルちゃんと同じ意見だよ」

「ローザさんも意外とロマンチストですわね」

「ううう・・・」

「みんな揶揄っちゃだめだよ。 人間誰しも苦手なモノの1つや2つあるんだから。 ローザ、気にすることはないよ」

ご主人様がわたしをルマたちから庇ってくれる。

たった1人なのにわたしにとってこんなにも心強い援軍はこれ以上ない。

それを察したのかルマたちもこれ以上は揶揄うのをやめるようだ。

「みんな、そろそろお昼にしないか?」

「そうですね」

「ベルが作る」

「ベルちゃんの料理美味しいからね」

「楽しみですわ」

「ほら、ローザも」

「・・・ああ、ベルの料理が食べたいな」

「任された」

魔動車が空を駆けてから4時間も経過しているのだ。

お腹が空いても仕方ない。

わたしたちは車外に出るとそこは王国のミルバークにように草原が広がっている。

南のほうには帝国があり現在修繕中の城が見えており、北のほうに見慣れない建物が複数確認できた。

どうやらここは帝国と皇国の中間らしい。

現状を確認するとわたしたちは食事の準備を始める。

ご主人様が空間から食材や食器、調理器具を出すと皆で手分けして作業を開始する。

ルマとフェイが【風魔法】で草原の草を刈って調理と食事をする場所の確保。

ご主人様が支柱、鍋、薪の順番に設置する。

私が【火魔法】で薪に着火すると、火が消えないようにフェイが【風魔法】で保護する。

ベルとユールは包丁を使って食材を均一にカットしていく。

食材を鍋に入れるとベルが主体で料理が始まる。

焼いて炒めて必要に応じてルマの【水魔法】で水を投入し、仕上げに香辛料で全体の味付けをしていく。

しばらくするとベルが『できた』と声を上げるので食器に次々によそう。

皆の前に配膳すると食事を開始する。

「ベル、美味しいよ」

「本当ですね」

「いつもながら手際がいいな」

「もうベルちゃんがいないとぼくたちダメダメかもしれないね」

「フェイさんの言う通りで怖いですわ」

「みんな、ありがとう」

いつものように褒めるとベルは恥ずかしそうに顔を赤らめる。

ふと、フェイが何気なくベルに質問した。

「そういえばベルちゃんの料理レベルってまだ上がらないの?」

「ちょっと待って、【鑑定】」

ベルの目が突然光る。

どうやらベルは自身を鑑定しているらしい。

「うーん・・・とまだまだかかる」

「そんなにかかるの?」

「あと5143回料理しないとレベル4に上がらない」

「ごっ?! ・・・って回数がわかるの?」

「ベルの【鑑定】がレベル4に上がったことで数値化した情報も手に入るようになった」

「そうなんだ。 ベルちゃんの【鑑定】って凄いんだね」

それを聞いていたご主人様が難しい顔をしている。

「ベル、それって自分以外も可能か? 例えばルマの【魔法師】やローザの【武器術】など複数のスキルの集合体を【鑑定】するとどうなるんだ?」

「試してみる」

「それならわたしの【武器術】を鑑定してくれ」

「わかった」

ベルはわたしに【鑑定】を使った。

別に身体を直接触られていないのに気になってしまう。

「えっと、ローザの【武器術】だけど【剣術】が・・・」

ベルはわたしの【武器術】について、それぞれの情報を話していく。

「・・・ってところ」

「ありがとう、ベル」

「ベルちゃん、すごいね。 今度はぼくの【武闘術】をお願い」

「それなら私の【魔法師】も鑑定してもらおうかしら」

「ベルさん、わたくしの【治癒術】もお願いしますわ」

「ご主人様」

ベルはご主人様のほうへ向くと、ご主人様が首を縦に振った。

「時間はあるからみんなを鑑定してあげて」

「わかった」

このあとベルの鑑定が続いた。


食事が終わりわたしたちが片付けていると珍客が到着した。

大勢の馬に乗った騎士と馬車が数台ここに向かって走ってきたのだ。

ご主人様は何事かとそちらを見る。

わたしたちも釣られて見てしまう。

馬車に立てられた旗には見覚えがある。

たしかあれは公国の旗だったような・・・

そうこうしている内に馬車は私たちの前で止まった。

そこから現れたのは王国の会議に出席していたあの国王だ。

「シフト殿、こんなところで会うとは奇遇だな」

「たしか公国の国王だったかな」

「うむ、その通りだ。 わしのことを覚えていてくれてうれしいぞ」

「そりゃあ、ローザに猥褻した王子の国の王様だからね。 もちろん覚えているさ」

わたしは王国の晩餐会を思い出す。

タイミュー女王陛下に絡んできた公国の王子。

いくらタイミュー女王陛下を守るためとはいえ、ご主人様以外に胸を揉まれるとは思ってもみなかった。

本来なら破廉恥な行為に拳の1発でも顔面に入れたかったが、ご主人様が代わりに何十発も殴ってくれたし、本人は目の前にいる父王にその場で処刑されている。

「そういえば、そうだったな。 あの時はバカ息子の処罰を最優先にしてお嬢さんへの謝罪がまだだったな」

公国の国王がわたしのほうへと歩いてくるとその場で謝罪する。

「お嬢さん、うちのバカ息子が迷惑をかけた。 誰もいなければ頭を下げたいところだがここでは誰が見ているかわからない。 頭を下げられぬわしを許してほしい」

「国王陛下、あなたからの謝罪、このローザ確かに受け取りました」

「すまないな。 これで許してくれというのも図々しいが」

「王族として隙を見せてはいけないのは重々承知しているのでお気になさらずに」

「ありがとう」

国王はわたしへの謝罪を終わると今度は魔動車を見る。

「先ほど空に黒い物体が飛んでいたがこれのことだったか」

「何のことでしょう?」

「惚けるな。 わしの護衛たちが上空に黒い物体が飛んでおり、それがこの近くに落ちたという報告があったのだ。 わしも直接見ているしな」

ご主人様はその発言に国王の前で堂々と舌打ちする。

「言っておくがこれは僕たちの交通手段だ。 国王のいうところのその馬車だ。 いくら頼まれてもやらないぞ」

「まだ何も言っていないのに、よくそこまでわかるものだな」

「王国には聡い者が多くてな。 その手の手合いとはよくこういう話をしている」

「なるほど、道理で慣れている訳だ。 ならこの場合は大人しく引くのが正解だな」

「理解が早くて助かるよ」

国王は魔動車についてこれ以上は言及しないようだ。

「ところでシフト殿は今までどこに行っていたのだ?」

「あんたの国だよ」

「公国に? 距離を考えるといくらなんでもそれはないだろう」

「まぁ、これを使ってな」

ご主人様が魔動車を見る。

「それはそうとあんたの国にいた貴族と『この手に自由を(フリーダム)』のおかげでえらい目にあったけどな」

「何? 『この手に自由を(フリーダム)』だと? それは本当か?」

「ああ、奴らのせいで海人との戦争になっていたしな」

「すまないが一から説明してくれ」

ご主人様は国王に公国で体験したことを最初から全部話した。

貴族たちの醜い争いを聞いて国王はその場で頭を抱えた。

「はぁ・・・現状は理解した。 まったくバカ貴族どもが・・・」

「あと見せしめに公国にあるたくさんの城の頂上を破壊したから。 もし、あんたの城が含まれていたら申し訳ないが・・・」

「城の頂上を破壊?! どういうことだ?!」

「バカな貴族が調子に乗らないように釘を刺しただけだ。 他意はない」

「はぁ・・・本来なら器物破損で刑に処したいが、わしの国のバカな貴族が迷惑をかけたのも事実だ。 今回は不問としておこう」

「話が早くて助かる」

「どちらかというとシフト殿と敵対するとどうなるのか身に沁みてわかったところだ」

国王はなぜか疲れた顔をしている。

「とりあえず情報提供感謝する。 公国が気になるのでそろそろ失礼する」

「ああ、今度行くときはバカ貴族どもを服従させておけよ」

「ははは・・・無茶を言う。 わかった、可能な限り統一してみよう。 ではな」

それだけ言うと国王は馬車に乗り込み、公国へと走り出した。

「ご主人様、よろしいのですか?」

「仕方ないだろ、魔動車を見られたのは正直痛かったけどな。 片づけ終わったらさっさと皇国に移動しよう」

「「「「「畏まりました、ご主人様」」」」」

わたしたちは急いで片付けると魔動車に乗り込んで皇国へと向かうのだった。


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