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132.いざ、空・・・え?

シフトは魔力の出力を少しずつ減らしていく。

空を飛んでいた魔動車はそれに合わせてゆっくりと地面に降りてくる。

しばらくすると軽く車体が揺れた。

どうやら無事地面に着地できたようだ。

車から降りると真っ先に声をかけてきたのはいつもの2人である。

「ご主人様、ベルも空を飛びたい」

「ぼくも空を飛ぶ体験をしたい」

「ベルはともかくフェイはさっき空を飛ぶ体験をしただろ?」

「あれは全力で魔力を流してたから空を飛んだっていう気分を全然味わえてないよ」

フェイは先ほどの全力全開で魔力を魔石に流していてそれどころではなかったのだろう。

楽しむどころかただ疲れただけという意味でフェイはご立腹だった。

「はは・・・仕方ないな。 ルマたちも一度体験してみるか?」

「一応体験しておきます」

「そうだな、経験しておくかな」

「どんな気分なのか楽しみですわ」

「それじゃ、みんな乗って」

シフトたちは魔動車に乗った。

それぞれが席に着くとシフトは後方の床にある鉄のパネルに魔力を流す。

すると先ほどと同じように少しずつ魔動車が浮いていく。

「「うわ~♪」」

ベルとフェイは魔動車が浮いていることに感動していた。

「本当に宙に浮いてますね」

「視点が高くなって遠くまで見えるな」

「あら、本当ですわ」

ルマたちもそれぞれに感想を言う。

ある程度ルマたちが楽しんだところで先ほどと同じく魔力を少しずつ減らしてゆっくり地面に降りる。

軽い衝撃を受けて魔動車は地面に着地した。

「「ご主人様、すごいです!!」」

ベルとフェイは興奮してシフトを褒め称える。

「2人とも喜んでくれたみたいだね。 ルマたちはどうだい?」

「正直驚いています」

「ああ、こんな鉄の塊が空を飛ぶなんて思ってもみなかったよ」

「これからは空の旅ができるんですわね」

この世界にはワイバーンを捕まえて乗り物にしようとした先人もいたらしいが、それは失敗している。

凶暴で危険なモンスターであり、言うことを聞かないことからとてもじゃないが空の乗り物としては使えない。

そのため【風魔法】が使える人以外は空を飛ぶなど夢のまた夢と考えていた。

今回の魔動車は空を飛べるようにとシフトが設計したものだ。

後方の床にある鉄のパネル内の魔石に魔力を流すと車体の中央底に風が送り込まれ、分厚い鉄板にぶつかり四散する。

そして、底の外周にある通風孔から風が一気に噴出させて車体を持ち上げるという力技な寸法だ。

ただ、魔力量の少ないベル、ローザ、フェイでは浮かすことが困難であり、魔力量の多いルマとユールでも長時間の浮遊は無理である。

莫大な魔力量を誇るシフトだけがこれを自由に操れることから、シフトなしではただの魔動車に成り下がってしまうのだ。

「これである程度の高度を保って移動すれば泥濘や荷車の車輪痕に嵌ったりしないし、盗賊たちに襲われることも少なくなるだろう」

「目立ちはしますが、速度が上なら追いつかれることはないかと」

「それ以前に高度が高ければ攻撃も届きませんわ」

「無理に狙ってくることは少なくなるかな」

「そうだね。 そもそもゴブリンナイトメアとゴブリンエンペラー、それと巨大サンドワームの魔石がなければ新しいのを作ろうとはしなかっただろう」

シフト1人であれば態々魔動車を作らなくても【空間転移】で色々な場所に瞬時に行けるだろう。

しかし、シフトの能力はどれも目立ちすぎるし、大切な仲間()たちであるルマたちを置いて1人でさっさと行くなどできない。

だからこそ魔動車を作り、足並みを揃えてルマたちと共に歩いて行く道を選んでいるのだ。

「さて、興奮しているところ悪いけど、今日はここまで。 明日天候が回復したら皇国に向けて早速移動するよ」

「「「「「畏まりました、ご主人様」」」」」

この後はいつも通り食事をとり、談笑して、頃合いになったら皆で眠りについた。

【次元遮断】で結界を張っているので今夜の見張りはなしだ。


翌朝、目が覚めるとルマたちはまだ寝息を立てて眠っている。

空を見るとそこには昨日の暗雲立ち込めていたとは思えないほど雲1つない朝焼けの景色がそこにあった。

周りを見渡すと結界内外ともに異常はない。

シフトはお湯を沸かし始める。

湯が沸くとカップを取り出して珈琲を入れていく。

するとユールが目を覚まし、次にローザ、ルマ、ベル、最後にフェイが目を覚ます。

それぞれ朝の挨拶をして食事を取り、出発の準備をする。

「みんな聞いてくれ、今日は昨日作った魔動車の試運転も兼ねて空を飛ぶ予定だ」

「「ご主人様! 本当ですか!!」」

喜んでいるのはベルとフェイのいつもの2人。

「ああ、それからそれぞれに役割分担しようと思う。 まずベルとフェイには周りの確認をお願いする」

シフトは【空間収納】から双眼鏡を2つ取り出すとベルとフェイに渡した。

双眼鏡を見た2人は不思議そうな顔をする。

「?」

「ご主人様、これは?」

「双眼鏡さ。 それで遠くを見ることができる」

2人は早速双眼鏡を使うと遠方まで見えることに興奮する。

「これ、すごい」

「遠くまで見えるよ」

「飛行中はそれで地面に誰かいないか確認してくれ」

「「畏まりました!!」」

シフトはルマとユールに向き直る。

「次にルマかユールのどちらかに飛行中の障壁展開をお願いしたい」

「障壁ですか?」

「それならルマさんが適任では?」

「助手席に大きな魔石を設置した鉄のパネルがあるからそこに魔力を流せばいいようにしてある」

「ああ、昨日のあの魔石ですね」

「それでわたくしかルマさんのどちらかということですね」

ルマとユールは納得した。

「そうですね・・・ここはわたくしが助手席で障壁を展開して、何かあればルマさんが障壁を張るというのはいかがかしら?」

「それでいきましょう」

万が一を想定してユールが障壁展開を担当することになった。

「ローザは申し訳ないが僕のサポートをお願い」

「任された」

ローザは首を縦に振る。

「それじゃ、みんな乗って」

「「「「「はい、ご主人様!!」」」」」

シフトたちは魔動車に乗り込み全員が所定の位置に座る。

「1つ言い忘れていた。 座席の紐みたいなので身体を固定すること」

「「「「「畏まりました、ご主人様」」」」」

シフトたちはシートベルトを装着する。

「では、出発・・・の前に試運転だな。 ユール、魔石に魔力を流してみて」

「畏まりました」

ユールが鉄のパネルに魔力を流すと運転席の正面に風の障壁ができた。

「ご主人様、これで問題ありませんか?」

「どれどれ・・・うん、大丈夫。 そのまま維持してて」

「わかりましたわ」

シフトはそれを確認すると結界を解いた。

「それじゃ、行くよ。 みんなしっかり座っていて」

シフトは後部座席にあるもう1つの大きな魔石がある鉄のパネルに魔力を流す。

すると次の瞬間凄まじいスピードで魔動車が走り出した。

そのスピードは時速300キロメートルだ。

「「「きゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!!!!!!」」」

そのあまりのスピードにルマ、ローザ、ユールが悲鳴を上げる。

シフトは慌てて魔力を流すのを止めたが、魔動車はすぐには止まらずそこから1キロ近く移動してからようやく止まった。

「みんな、大丈夫?」

「ええ、なんとか」

「ベルは平気」

「・・・」

「ぼくも大丈夫」

「ええ、ちょっとびっくりしただけですわ」

ローザ以外は問題なさそうだ。

「ローザ?」

「え? ああ、うん大丈夫だ」

ローザもすぐに反応できなかっただけで大丈夫とアピールする。

「それじゃ、いよいよ初の離陸をするよ」

「「「「「畏まりました、ご主人様」」」」」

ルマとローザとユールは先ほどの軽い気持ちを捨ててしっかりと座る。

「全員しっかり座っているし、障壁に問題なし。 それでは発車する」

シフトは再び後方の魔石に魔力を流す。

先ほどと同じ体感速度が全員を襲う。

だが先に体験していたことが功を奏し、全員問題ないようだ。

そこからもう片方の手で床にある鉄のパネルにも魔力を流す。

車体はふわりと浮き上がり徐々に高度が増していく。

シフトは100メートルくらいまで高度を上げるとそこからは流す魔力量を減らして一定を保ち続けた。

前方からの風はユールが魔力を流している魔石により風を受け流すことに成功している。

魔動車自体も安定しているのでまずは上空へのフライトは成功と言っていいだろう。

「問題なさそうだな。 ユール、大丈夫か?」

「このくらいならまだまだ余裕ですわ。 あと1日飛んでいても大丈夫ですわ」

ユールは問題ないことを伝えるとシフト同様に鉄のパネルに魔力を流し続ける。

そこにベルとフェイが双眼鏡で辺りを見て報告する。

「ご主人様、公国の領土から抜け出た」

「このままだと帝国に行っちゃうかな?」

それを聞いたシフトはルマに指示を出す。

「ルマ、北の・・・いや右のほうへ移動できるか?」

「試してみます」

ルマは右折用の鉄のパネルに魔力を流すと車体が少しずつ皇国のほうへ移動しているが微々たるものだ。

「ルマ、今のままでいい。 無理はするな。 ベルとフェイは帝国か皇国の建物が見つかったら着陸できそうな草原を見つけろ」

「「「畏まりました」」」

シフトたちは現在上空100メートルのところを時速800キロで移動している。

こうして進むこと4時間、ついに帝国と皇国が見えてきた。

「ご主人様、帝国が見えた」

「こっちは皇国らしい建物が見えたよ」

普通に徒歩なら3~4ヵ月、馬車なら2~3ヵ月、早馬で1~2ヵ月、陸路の魔動車なら3~4週間かかるところをたったの4時間で近郊まで来ることができた。

改めて規格外なものを作ったとシフトは思った。

「2人ともありがとう。 あとは着陸できそうなところを頼む」

「「はい、ご主人様!!」」

シフトは後方への魔力供給を止めた。

これにより魔石に残された魔力で可能な限り進むだろう。

仮に距離が少し足りなくても運転席にいるルマに頼んで少しずつ進めばいいのだ。

あとは高度を少しずつ下げていくために床への魔力を少しずつ減らしていく。

ベルとフェイはそこに人がいないことを確認するとシフトに指定の場所を伝える。

「ご主人様、あの草原なら誰もいない」

「あの場所に着陸しよう」

「うん、今提示した場所なら問題なさそうだね。 このまま着陸するよ」

シフトはそのまま高度を少しずつ下げていく。

そしてついに着陸の瞬間が訪れる。

「みんな衝撃に備えて!!」

「「「「「はい!!」」」」」

シフトたちは着陸の衝撃に備えてから数分後魔動車の車輪が地面と接触する。

そこからは魔石に残された魔力が尽きるまで魔動車は移動し続けた。

着陸してから3分後に魔動車はようやく動きを止める。

止まるまでに要した距離はおよそ2キロだ。

初のフライト、及び初の離着陸は成功である。

「みんな、大丈夫か?」

「私は大丈夫です」

「楽しかった」

「・・・」

「面白かったね」

「2人とも何のんきなことを言っているの。 まぁ、悪くはなかったですわ」

ローザ以外は大丈夫そうだ。

「ローザ? おーい、ローザ?」

シフトは近くにいたローザに話しかける。

反応がないのでシートベルトを外してローザのところに行く。

「ローザ、しっかりして! ローザ!!」

「あ、ご主人様」

ローザのシートベルトも外すといきなり抱き着かれた。

「ご主人様、怖かったよ!」

「あ、うん、ごめんよ、ローザ」

普段のローザからは考えられないほど乙女チックな展開である。

ルマたちのお姉さん的存在であるローザはいつもは1歩引いた感じだ。

甘えることをしないからこそ、こんな一面があるのかとつい考えてしまう。

シフトはローザが落ち着くまでそのまま抱き着かせたままにするのであった。


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