128.剥奪 〔無双劇19〕
「くっ! 何をする!!」
「味方を攻撃するな!!」
何も知らない海人は右手に紋様を持っている海人から攻撃を受けていた。
「どうなっているんですか?!」
アクアルはなぜ海人同士で戦い始めたのか理解できなかった。
シフトはアクアルの干渉を拒絶しつつ、説明する。
「アクアルさん、簡単に説明するから黙って聞いてくれ。 先ほどの海人のように右手の奇妙な紋様だが、君を誘拐した『この手に自由を』という謎の組織だ」
「!!」
「あいつらは本来神出鬼没で尻尾を出さないのだが、ここ最近は僕たちの前によく現れるようだ」
シフトの言う通り本来なら暗躍し誰にも見られないように行動するのが『この手に自由を』だ。
ここにきて大胆な行動が目立つようになってきた。
そして人間だけかと思いきや、先ほどの海人みたいに種族を超えて構成員がいるらしい。
(この分だと人間以外の種族であるエルフ、ドワーフ、獣人、いや世界中に『この手に自由を』の息がかかった者がいると判断したほうがいいな)
シフトの考えは正しく彼らは世界中あらゆる種族に根を張っている。
「詳しいことは後で話す。 みんな、無事か?!」
シフトはルマたちのほうを向いて声をかける。
「「「「「問題ありません」」」」」
遠方からルマたちの声が聞こえてきた。
アクアルの声を面と向かって聞いていないので問題なく動けている。
「アクアルは一旦箱の中に入っていてくれ。 下手に声を上げるとルマたちが眠ってしまう」
「・・・(こくこく)」
アクアルは首を縦に振った。
シフトは急いで箱のほうへと戻るとアクアルを箱の中に入れる。
「ルマとユールは2人でアクアルを守れ! ベルは先ほど僕が攻撃して陸に上がった海人を捕縛して無力化しろ! ローザとフェイは僕のサポートをお願い!」
「「「「「畏まりました、ご主人様」」」」」
ルマたちはそれぞれシフトから受けた命令を下に動き出す。
ルマとユールは魔動車と箱の前に立ちここまで襲ってくる海人やアクアルを狙う第三者に対応する予定だ。
ベルは陸で呻いている海人のほうへと走り出す。
シフトは海で仲間割れしている海人たちのほうへと歩き、ローザとフェイは後を追う。
「ご主人様、あの海人たちを止める手段があるのか?」
「ぼく、誰が『この手に自由を』かわからないよ」
「正直、どのように止めようか良い案が思いつかない。 だけどこのまま放置して海人たちによる同士討ちで多大な被害を出させる訳にはいかない」
『この手に自由を』は手を挙げろと言って、手を挙げるバカはいないだろう。
この大軍をどうにかできるのはこの中ではシフトとルマだけだろう。
手っ取り早いのはルマの【氷魔法】による無差別攻撃だ。
しかし、それをやってしまうとアクアルの印象が悪くなるし、それを知った海人たちが人間族に復讐しに全軍で襲ってくるかもしれない。
シフトの切り札の氷の塊も同様なのでこの案は却下だ。
ほかに無力化といえばフェイの【闇魔法】があるが近~中距離しか届かずレジストされる可能性がある。
どうしたものかと自分の能力を確認していくと、ふと1つの能力に目を向けた。
それは【五感操作】である。
今まで相手の視覚に訴えかけて距離感や平衡感覚を狂わせてきた。
無意識とはいえ、あくまでも短期間だけの使用に止めていた。
本来、五感は視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚の5つからなる。
それを自分の意志で自由にコントロールできるのがシフトの持つ【五感操作】だ。
であれば、視覚以外の操作もできるはず。
この場の海人がこれ以上同士討ちにならないかつ全員を無力化する方法。
(あった! 1つだけ条件に当てはまる使用方法が!!)
シフトは海人たちが全員見える範囲内に立つ。
「ローザ、フェイ、絶対に僕の前に立つなよ。 今から海人たちを無力化する」
「え? 本当?」
「そんなことができるのか?」
「ああ、理論上は可能なはずだ」
シフトは海人たちを見つめて心の中で叫んだ!
(【五感操作】)
そしてイメージする。
触覚剥奪!!
その瞬間シフトの中の魔力が一気に減少する。
それと同時に海で争っている海人たちがピタッと動きを止めたのだ。
いや、正確には動こうにも動けなくて痙攣している者たちが多かった。
「な、なんだ? これは?」
「う、動けない?」
海人たちは触覚を封じられたことにより身動きできない。
「よし、成功。 ローザ、フェイ、右手に紋様がある海人だけを陸に上げろ」
「「畏まりました、ご主人様」」
シフト、ローザ、フェイは3人で海人たちを見て回り『この手に自由を』だけを陸に上げていく。
途中3人ではきついのでベルも含めて4人でやることになった。
2時間後───
右手に紋様がある海人を全員陸に上げる。
その数は全体の4割弱もいた。
最初に陸に上げられた海人は水分が抜けて、このままでは命の危険もあるだろう。
シフトは情報も引き出さずに死なれては困るのでルマに頼んで【水魔法】で海人目掛けて水弾を放った。
これで水分もある程度補給できて質問が終わるまで死なないだろう。
「ベル、ローザ、フェイ、まずは海人の選別を行う」
「選別?」
「どうやって?」
「どのような方法なのかな?」
「個別にこう言うんだ。 『フライハイトを知っているか?』と。 これに反応したものだけを分別する」
ベルたちはそれを聞いて納得する。
「なるほど」
「あの男を知っていれば多くの情報を持っていそうだね」
「より的確な情報を所持している可能性が高いな」
「知っている者を左に、沈黙する者を中央に、知らない者を右に移動させる。 それじゃ、選別開始」
「「「畏まりました、ご主人様」」」
シフトたちは海人を1人連れていき質問する。
1時間後───
シフトが考えた選別方法で知らないと答えた海人がほとんどだ。
ついで多いのが中央の沈黙した海人で20人くらい。
一番少ないのは知っていると答えた海人でその数たったの3人だ。
その中には最初にシフトを攻撃した海人がいた。
すべての海人の選別を終えると、知らないと答えた海人たちについてはベルとフェイに見張りを任せる。
知っていると答えた者は貴重な情報源なのでロープで両手両足を拘束した上でローザに見張りを任せた。
問題は残りの20人がどんな情報を持っているのか吐き出す必要がある。
シフトは自分の考えをまとめると海に向かって大声を出した。
「アクアルさん! そして海の中にいる海人の皆さん! 今、陸にいる海人たちは『この手に自由を(フリーダム)』という組織の一員です!!」
アクアル以外の海人が頭の中に疑問符を浮かべていた。
「『この手に自由を』? なんだそれは?」
シフトに一番最初に突っかかった海人がすぐに質問する。
その質問に対して選別した中から知らないと答えた海人の1人を引き摺って、その右腕を見せる。
「この右腕にある奇妙な紋様を持っている者たち、この者たちを『この手に自由を』という!」
シフトが答えると海人たちはざわつきだした。
「おい、あの印を持った奴に俺は襲われたぞ」
「ああ、俺も同じだ」
海人たちが自分たちを襲った者たちに紋様があったことを思い出す。
「これからこの者たちを処刑する! 異論がある者はいるか!!」
この質問に対しても最初に反論したのはあの海人だ。
「大ありだ! 同胞を殺せばお前たちも殺すぞ!!」
しかし、その反論はシフトを怒らすことになる。
「てめぇ! もしルマたちに手を出してみろ! 海人全員皆殺しにするぞ!!」
そのあまりの怒気、いや殺気からシフトの力を知ると海人たちは全員沈黙し、そして悟った。
これには逆立ちしても勝てないと。
威勢のよかったあの海人も顔を蒼褪めさせてシフトを見ていた。
シフトは1つ深呼吸すると冷静に話す。
「1つ言っておくが、こいつらを生かしておくと先ほどの同士討ちでは済まなくなるぞ。 下手をすればお前たち海人が絶滅するだろう。 それでもいいのか?」
「それは困る」
「僕だってこんな無益な殺生は好まない。 だけど放っておいたために多くの犠牲者を出したのも事実だ」
そう、王国やドワーフの国で多くの死傷者が出ているのだ。
百害あって一利なし。
海人には悪いが下っ端の者たちを処分しなくてはならない。
「その話は本当か?」
「ああ、僕はその目で何度か見てきた。 それについては間違いない」
「・・・」
しばらくその場が沈黙し、重たい口が開く。
「・・・その者たちを好きにしろ。 だが、1つだけ言っておく。 お前の言葉をすべて信じたわけではないからな」
「わかっている。 僕もすべてを信じてもらえるとは思っていない」
シフトたちは『この手に自由を』の下っ端たちをなるべく苦痛を与えずに処分していくのであった。




