11.脱出
「な、なんだったんだ?」
正気に戻って何が起きたのか考えてみる。
たしか・・・石投げた→ドラゴンの口の中に入った→爆発した。
うん、理由がわからん。
ドラゴン死んでいると思うけど一応確認してみるか。
[鑑定石]を取り出してドラゴンを調べると生命力:0と表示された。
うん、間違いなく死んでるね。
とりあえず、ドラゴンの死体を空間にしまった。
他にないかと辺りを見渡すと紅い石が落ちていた。
投げた石ってこれだよね?
[鑑定石]で確認すると、
火の魔石
品質:Eランク。
効果:火の魔力を封じ込められた石。 品質が悪いので専門家以外取扱注意。
えええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーっ!!!!!!!
もしかすると、火の魔石を投げた→ドラゴンの口の中で引火した→大爆発。
なに、それ、こわい。
周りをよく見るとこれと同じ紅い石が何個か転がっている。
回収して鑑定するもどれもC~Eの粗悪品であった。
シフトの顔色が一気に悪くなる。
それはそうだ、一歩間違えれば自分が木っ端微塵になっていたのだから。
「・・・と、とにかく助かったな・・・あのドラゴン次元が違う強さだったよ・・・」
≪確認しました。 スキル【ずらす】レベル5解放 【次元】をずらします≫
・・・【次元】をずらす?
・・・とりあえず確認するか・・・
次元の概念をずらす
獲得条件:次元を超越した出来事を体験する
効果 :【次元干渉】(対象:自分)、【次元遮断】(対象:自分)
[鑑定石]で【次元干渉】、【次元遮断】を確認する。
【次元干渉】は時間・空間・物理に干渉する権能。
単純に今取得している能力をより上位の能力に昇華させるのかな?
【次元遮断】は自分の周りに次元の断層を生みだす。
王都とかに張られている結界みたいなものなのかな?
ついでに[鑑定石]で【即死】、【即死回避】を改めて確認する。
【即死】は明確な死のイメージを持った状態で敵を攻撃することで発動する。
って、なにこれ?! どういうこと??
【即死回避】は一撃で死亡する攻撃、魔法、薬、罠などを完全回避する。
まぁ、こちらは想像通りだけど。
んんん・・・あのときは・・・
『あああぁぁぁーーーっ! もう、石でも食べて死んでしまえぇーーーーーっ!!』
・・・ああ、確かに殺意増し増しで思いっきり石投げたんだった。
これ使いどころ間違うと大変なことになるから無効にできないかな・・・
そんなことを考えていると頭の中に声が響いた。
≪スキル:★【ずらす】 レベル1:【即死】 【即死】を無効にしますか? はい/いいえ≫
え? スキルってこんなことできるの?
危ないからとりあえず≪はい≫と念じる。
すると、
≪スキル:★【ずらす】 レベル1:【即死】 【即死】を無効にしました≫
これで無効になったのか? 実感ないんだけど・・・
試しにダーク・ウルフ何匹か相手にドラゴンと同じことをしてみたが再現できなかった。
どうやら本当に【即死】は無効化されているらしい。
必要になったときは有効にしよう。
そんな日が来なければいいけど・・・
【次元干渉】と【次元遮断】もついでに検証してみる。
【次元遮断】は予想通り結界みたいなものだ。
発動すると自分の周りの空間をくりぬかれたみたいな感じで、外部の情報(生物の気配・魔力・光・音・熱・電波・匂いなど)を完全に遮断することができた。
先ほどと同じようにダーク・ウルフを使って実験してみる。
実験1、シフトとダーク・ウルフを【次元遮断】で結界内に隔離・・・成功。
【空間転移】でできることが【次元遮断】でできない訳がない。
実験2、結界内で更に【次元遮断】を発動・・・失敗。
脳に負荷がかかるのかそもそも多重発動ができないらしい。
「なら僕自身に【限界突破】をかけて使用したらどうなるか?」
実験3、【限界突破】を自分に使用してから結界内で更に【次元遮断】を発動・・・成功。
成功はしたものの無理矢理やっているので脳が悲鳴を上げている。
「現時点では使い物にならないな・・・」
実験4、結界内から結界外へ移動・・・失敗。
【次元遮断】が作った不可視の壁みたいなものに阻まれ【空間転移】が失敗したのである。
予想外な結果にどうしたものかと考える。
「うーーーん、【次元干渉】を使えばどうなるかな?」
実験5、【次元干渉】の力を借りて【空間転移】で結界外へ移動・・・成功。
結界内にいるダーク・ウルフの気配や鳴き声が完全に遮断された。
あと、結界外にいるシフトに攻撃を仕掛けようとしても【次元遮断】が作った不可視の壁に阻まれていた。
そしてこれが問題なのだが【次元干渉】を併用しつつ【空間転移】をすると莫大なエネルギーを使うのである。
次元を隔てているとはいえたったの20メートルの距離を転移するだけで凄まじい疲労感と倦怠感、虚脱感を感じた。
考えてみれば空間と空間の間にあるのが次元の壁だ。
本来お互いに干渉するはずがない空間を無理矢理こじ開けて入ろうとするのだ。
莫大なエネルギーを使用しても仕方がない。
ただ使いこなせれば瞬間移動ができることは間違いない。
それどころか理論上、異世界にだって転移することも可能だろう。
「座標を間違えると土砂の中やマグマの中、海の底に星の外とか危険もあるだろうけどね・・・」
【次元干渉】だが【空間転移】は先ほど実験済み、あとシフトのスキルの中では【念動力】くらいだろう。
【次元干渉】を併用しつつ【念動力】を使った瞬間、壁に岩が当たって砂埃が舞っていた。
あまりの速さに目で追えなかったのだ。
あ、これダメな奴だ、危険という意味で・・・
うん、【次元干渉】の実験はしばらく保留にしよう。
「しかし・・・できればドラゴンと戦う前にこの能力覚えたかったなぁ・・・そうすれば苦労せずに済んだのに・・・」
これでやり残したことは何もない。
「とりあえず、これで地上を目指せるな」
シフトは階段を上るのだった。
それからはひたすら上階段を見つけては上り続けた。
ダーク・ベアーやダーク・ウルフ級の魔物が跋扈しているわけではないので途中の敵はすべて無視。
罠もありえない幸運で回避しているので問題ない。
上階段を見つけて上ること35回。
今も上階段を目指していると大穴を見つけた。
「! ここは! 間違いない!! ここは僕が落とされた大穴だ!!!」
この穴があるなら、ここは地下15階!
「んんんーーーーー、やったぁ! あと15回上れば地上だ!!」
希望が見えた、俄然やる気も出てきた、もう少しだ、頑張るぞ!
「ここからは道順を覚えているから記憶を頼りに地上までたどり着けるぞ!!」
下層では総当たりで上階段を探してたけど、ここからは最短ルートで上れる。
今では記憶を頼りに次々と上階段を見つけては上っていく。
大陸最大のダンジョン『デスホール』地下7階───
ここもさっさと上がろうと移動していると壁に3人倒れていた。
お節介かもしれないけど声をかけておくか・・・
「あの・・・だいじょうぶ・・・」
シフトはこのあとの言葉が出てこなかった。
倒れてる3人は大量の血を失って既に死んでいるのだから。
死後3~4日経っているようだ。
ここに残すのも可哀そうだし、とりあえず地上に連れていくか・・・
(そういえば僕、身分証がない・・・確か大きな町だと入町するのにお金が必要だった)
少し考えてから遺体から硬貨を少し借りることにして・・・3人の遺体を空間にしまった。
気を取り直して再び地上を目指すのだった。
3時間後───
シフトはついに地上まで上ることができた。
上空には太陽が昇り始めているのが見える。
その光はとても眩しい。
「やった・・・地上に戻ってこれたぞ・・・」
あまりの嬉しさにシフトはいつの間にか泣いていた。
ひとしきり泣いたあと、町を目指すことにした。
「確かここから一番近い町はあっちだったよな?」
【空間転移】で移動しながら進むこと5分、町が見えた。
入り口には2人の衛兵が立っていた。
うーーーん、どうしよう?
身分証がない子供1人だと怪しまれるよね?
3人の遺体を冒険者ギルド?に受け渡してあげたいし・・・
けど3人を担いで持っていくのは重くて嫌だし・・・
だからといって町中で【空間収納】を使うのはまずいだろうな・・・
悩んだ末引きずって持っていくことに決めた。
シフトが3人の遺体を引きずって町に近づくと衛兵の1人が走ってきた。
「おーーーい、どうしたんだぁ?!」
予め考えていた答えを告げた。
「森の中で倒れている人がいたのでここまで連れてきました!!」
衛兵が警戒しながらシフトに近づき遺体のほうを見た。
「な、アサルト! コーラル! シーダ!」
「お知り合いの方ですか?」
「ああ、彼らは冒険者だ。 数日前町を出た切り帰ってこなかったんだ・・・」
「そうなんですか・・・僕が見かけたときにはもう・・・」
シフトは沈痛な表情で衛兵に答えた。
「そうか君が見つけてくれたのか?」
「はい、実は僕この町を目指している途中で彼らを見かけたんです」
シフトは今来た道を振り返ると衛兵もつられてその道を見る。
「ここまで運んできてくれたのか? 重かっただろう?」
「あのまま森に遺棄するのも可哀そうだと思ったのでつい・・・余計なことでしたか?」
「いや、そんなことはない・・・ありがとう」
衛兵はシフトの行動に真摯に応える。
「あ、あと、僕、森で魔物に襲われた際に身分証を落としてしまって・・・」
「そうなのか? 身分証はギルドで発行できるけどお金はあるのかい?」
「はい、銀貨5枚ほど・・・」
「それだけあれば十分だよ」
心配してくれるとは気の良い衛兵である。
「彼らを連れていきたいんですけど」
「お、そうだな。 悪いがここで少し待っててくれ」
衛兵は一旦町に戻ると3人の同僚だと思われる人たちを連れてきた。
「またせたな坊主」
「いえ、問題ありません」
「それじゃ、おい、彼らを連れてってやってくれ」
「「「わかりました」」」
彼らはアサルトたちの遺体を担いで先に町へと向かった。
「それじゃあ坊主町に行こうか」
「はい」
衛兵に案内されて町の入り口に到着する。
(あれは[鑑定石]? どれどれ・・・)
シフトはこっそりと自分の持っている[鑑定石]で鑑定した。
[鑑定石]
品質:Cランク。
効果:人口の鑑定石。 国が発行した罪人リストを登録することで触れた人物が罪人かを判断する。
(なるほど・・・国が罪人と判定しなければ罪人扱いされないのか・・・)
「入町する前にこの[鑑定石]に触れてくれ。 悪人ではないとは思うが決まりなんでな」
「わかりました」
シフトが[鑑定石]に触れると青く光った。
「うん、問題なさそうだな。 あと、入町金だけど身分証がないということで銀貨1枚を納めてもらう」
「ちょっと待ってくださいね・・・はい、どうぞ」
シフトは革袋から銀貨1枚を出すと衛兵に渡す。
「たしかに、ミルバークの町へようこそ。 歓迎するぜ坊主。 俺の名前はアルフレッドだ」
「シフトです。 こちらこそよろしく」
アルフレッドと名乗った衛兵が手を差し出してきたのでシフトはその手を取って握手する。
「ところでこれからどうするんだい?」
「まず、冒険者ギルドに行って冒険者登録とあと宿探しですかね・・・」
「冒険者ギルドはこのまままっすぐ行けば大きな建物があるからすぐわかるはずだ。 あと宿は『猫の憩い亭』がおすすめだ。 冒険者ギルドのすぐ近くにある大きな宿屋だ」
「はい、何から何までありがとうございます」
シフトは礼をいうと冒険者ギルドへ向かうのだった。