122.行方が分からない? なら行きたいところに行こう
ローザがドワーフの鍛冶王ラッグズから鍛冶を教わった翌日、シフトは次の行き先を考えていた。
ライサンダーたちの行方を追ってここに来たのだが、『この手に自由を』がドワーフの国に手をかけたところからここにはいないと判断する。
「ご主人様、どうしたんだい?」
「ローザか・・・ちょっと考え事をしていてな」
「考え事? もしかして勇者たちのことかい?」
ローザはシフトの考えていることを的確に言い当てる。
「ああ、ここに来て早々にドワーフの国ごと滅ぼそうとするところにライサンダーたちがいるはずがないと思ってな」
「それで次の場所を模索していると」
「その通り。 はぁ、当てが外れた上にここにはもう情報がないだろうな・・・」
シフトと対峙したあの男が唯一の手掛かりだったが自害してしまったので今のところ何も情報がない。
さて、どうしたものかと考える。
「ご主人様としてはどうしたいんだい?」
「このドワーフの国か王国か帝国かのいずれかで暗躍しているかもしれない『この手に自由を』を捕まえて情報を吐き出させるか、別の国にいると信じて移動するかかな?」
「それはまた面倒臭いね」
各国で『この手に自由を』が暗躍しているのは確かだ。
過去に王都スターリインと首都インフールで捕まえて自白させたこともあったが必要以上の情報を得られなかった。
あれ以降は見かけても自害したり殺害されたりで尻尾を掴ませないよう徹底している。
手掛かりがない以上、どこにいても同じだ。
それなら一層自由に行動するのも悪くない。
「うーん・・・みんなに聞くけど、どこか行きたいところはある?」
「どこって選択肢は?」
「王国、帝国、獣王国、エルフの隠れ里、公国、皇国かな? それと皇帝から聞いたが翼人の国、海人の国、亜人の国、巨人の国、魔族の国、ドラゴンの国があるらしいが場所がわからない」
シフトは自分が知る限りの国を列挙する。
「今の中だと行ける国に絞ったほうがいいですね」
「ベルもそう思う」
「下手に聞いたことがない国に行って騒ぎを起こしたら大変なことになるからな」
「ぼくは魔族やドラゴンの国にちょっと興味があるけど、それでも知っている場所がいい」
「わたくしもみなさんと同じ意見ですわ」
「それなら王国か友好国のいずれかにしようか・・・さて、どこにしよう・・・」
シフトがルマたちに聞くよりも早くベルが手を挙げる。
「公国に行ってみたい」
「公国に? 別にいいがどうして?」
「なんとなく」
公国といえば先日の王国での出来事を思い出す。
変装の達人である国王、あれはシフトにとっても厄介だ。
「当てはない・・・か。 そうだな気分転換に行ってみるか。 それじゃ次の目的地はここより北東にある公国だ」
「「「「「畏まりました、ご主人様」」」」」
こうして、次の目的地が決まった。
ラッグズに世話になった礼を言うと王宮を出る。
シフトたちはすぐには出発せずにここで食料などの必要物資を購入するために市場に行こうとしたが、どうせならとある家に赴いた。
到着すると扉をノックする。
コンコンコン・・・
「はい・・・あ、お兄ちゃん」
「やぁ、どうも今日は宿泊の手続きとお店の案内をお願いしたいんだけどいいかな?」
「もちろんだよ! お母さん! お客さんだよ!!」
宿屋の女の子ドゥルータの声に奥から母親マァリーザがやってくる。
「はいはい・・・って、あなたたちですか」
「こんにちは、今日1泊お願いしてもよろしいですか?」
「ええ、もちろんです。 先日と同じ部屋で問題ありませんか?」
「はい、助かります。 これは宿泊代金です」
シフトは革袋から金貨1枚を取り出し渡した。
「こんなには・・・いえ、ありがとうございます」
「あと、娘さんに店の案内をお願いしたいのですが問題ないですか?」
「ええ、この娘は案内が得意なので扱き使ってください。 それでは用意しておきますね」
マァリーザは申し訳なさそうに金貨を受け取ると奥へと戻っていった。
「それじゃ、お客さん。 どこのお店に行きたいんですか?」
「旅に必要な食料品や日用品を売っているお店の案内をお願いする」
「わかった! こっちだよ!」
ドゥルータは上機嫌でシフトたちを案内した。
国の一番大きい市場に来ると色々な物が売られている。
「お客さん、まず何を購入しますか?」
「食料品をお願い」
「それじゃ、こっちだね」
ドゥルータに案内されたのは食料品を専門に扱っている一角だった。
そこには肉、野菜、果物、香辛料だけでなく、川魚もある。
肉は未だに消化しきれていないサンドワームが1000匹以上いるし、川魚は好き嫌いが多いので購入は見送る。
シフトたちは野菜や果物、香辛料を購入することにした。
次に向かったのは衣類と日用品を多く取り扱う場所だ。
シフトは必要なものはほとんど空間にあるので問題ないが、ルマたちはいろいろと物色している。
時間がかかるだろうと雑貨屋を見ているとある物が目に入った。
それは二つの筒があり先端にはそれぞれレンズが填め込まれている。
「お客さん、双眼鏡に興味があるのかい?」
「双眼鏡?」
「この商品の名前だよ。 これがあれば遠くのものが見えるのさ」
シフトは試しに双眼鏡を覗いてみた。
遠方のものがくっきりと見える。
「これは便利だな、2つ購入したい」
「銀貨2枚ね」
シフトは銀貨2枚を取り出すと店員に渡す。
「まいどあり」
店員から双眼鏡を受け取るとルマたちのほうへと向かった。
ルマたちは衣類や日用品をまだ選んでいるので邪魔にならないように外に出る。
しばらく待っているとルマたちが買い物を終えて戻ってきた。
「遅くなりました」
「いや、気にしてないよ。 必要なものは購入したし、あとお薦めはあるかな?」
「えっと、お姉さんが【鍛冶】のスキルを持っていると聞いたので鉱物を扱う店なんてどうでしょう?」
「そうだな、行ってみるか」
「それじゃ、いこう」
シフトたちはドゥルータに連れられて鉱石を扱う店に足を運ぶ。
ほかが露店に対して鉱石はちゃんとした屋内店である。
これは王国でも同じで多分盗難防止も兼ねているのだろう。
店内に入ると鉱石がずらりと並べられている。
銀、ミスリル、金、白金、オリハルコンは王国と同じかそれ以上の金額で販売されていた。
これらを買うなら王国の宝飾店で購入したほうが安くて済む。
金属の中でもある金属は恐ろしく値が安い。
その金属とは鉄である。
ここドワーフの国は鉄の採掘量が世界一で、鉱山からは未だに大量の鉄が採掘されていた。
王国だと鉄がキロ銅貨20枚だが、ドワーフの国では鉄がキロ銅貨10枚と破格の値段である。
そのため武器商人もドワーフ製の鉄剣や鉄槍を求めて買い付けに来るものが後を絶たない。
場合によっては鉄だけ大量に購入していく猛者もいる。
シフトも昔ローザの【鍛冶】をスキルのレベルを上げるため、大量に購入した。
鉄から鋼を作り、武器を作るのに結構失敗するだろうと予想したがローザはあっさりと武器を作ってしまったため、鉄だけが大量に残った。
どうしようと考えたときに閃いたのが魔動車だ。
大量の鉄を使って作った甲斐があり予想以上に快適な旅が実現した。
それと同時にほぼ鉄の在庫が空になってしまったのも事実だ。
シフトは魔動車も次の段階に進むべきだと考えていた。
そのためにもここで大量の鉄を購入しておくのも悪くない。
そうと決まればシフトは早速店員に声をかける。
「すみません、鉄のインゴットをください」
「ありがとうございます。 どのくらい購入されますか」
シフトは店員の耳元でその量を伝える。
「・・・くらいで」
「え? そんなに買うんですか?」
「もしかして在庫がありませんか?」
「いえ、鉄は常時大量にありますので問題ありませんが、そんなに大量に買っていく人は初めてなものでこちらとしても嬉しい限りです。 持ち帰りですか?」
「ああ、マジックバックがあるのでそれに入れていこうと思う。 あとできれば個室で作業をやりたい」
「畏まりました、それでは会計は・・・」
シフトは革袋から購入分の硬貨を取り出すと店員に渡した。
「ありがとうございます、今個室に鉄を用意しますので少々お待ちください」
店員は別の店員に説明すると奥のほうへと消えていく。
しばらく経つと用意ができたことを告げられる。
個室に向かうと大量の鉄のインゴットが置かれていた。
シフトは誰もいないことを確認すると【空間収納】を発動してすべての鉄を空間にしまうと閉じた。
この間時間にして1分である。
個室から出て戻ると店員は驚いていたがすぐに営業スマイルで挨拶してきた。
ルマたちも鉱石というか宝石を眺めていたがシフトの買い物が終わると特に買わずに一緒に店を出た。
いつの間にか太陽が西の地平線に触れる頃合だ。
「それじゃ、家に戻ろう。 お母さんが美味しい料理を作って待っているだろうし」
「ああ、そうしようか。 みんなもそれで問題ないか?」
シフトの問いにルマたちは首を縦に振る。
ドゥルータの案内で宿へと移動する。
その後は宿で夕食をとり、各々の時間を満喫するのであった。




