118.地揺れと溶岩流、ドワーフ王の決断は?
活火山が爆発した。
マグマが噴出し溶岩流がドワーフの国のほうへ流れ始めており、火山灰が国に降り注ごうとしている。
突然の出来事にドワーフたちは理解できていない。
そんな中、シフトはいち早く状況を確認すべく足元にある適当な石を拾うと上空へと投げ、その石を見て【空間転移】を使用した。
上空に転移すると急いでドワーフの国を見渡す。
シフトたちが今いる場所はドワーフの国の山の上のほうだ。
(国全体を守るには・・・あの場所だ!!)
シフトはその場所を目視すると再び【空間転移】を使用した。
目的の場所に転移するとシフトは【次元遮断】で国全体を対象に発動させる。
これにより国全体に火山灰がこれ以上降り注ぐことはなく、マグマが国に到達する前に阻止することができた。
しかし、ただ喜んでばかりはいられない。
これにより3つの問題が発生した。
1.結界を張ったことにより、結界を解かない限りこの揺れが永久に続く
2.火山灰が結界の境目に降り積もり、活火山の情報が徐々に確認できなくなる
3.ここまでの大規模な結界を張ったことがないので魔力の減り方が尋常じゃない
1は現在の状況をそのまま外界から隔離したので地面は揺れ続けることになる。
これにより建物への被害が出てくるだろう。
脆い建物はすでに罅割れが始まっている。
なら解除すればいいが、それをすると活火山から噴出したマグマと降り積もった火山灰が国全体を襲うことになる。
地揺れによる建物の倒壊とマグマによる溶岩流や火砕流による国の壊滅のどちらがマシかは考えるまでもないだろう。
もっとも地揺れを抑えられる者がいれば話は別だが。
2は火山灰が降り注ぐことにより結界の境目に徐々に灰が積もっていく。
【次元遮断】は外界からの光や音、熱や風など自然な情報を完全に遮断するのがメリットであり、またデメリットでもある。
火山灰が積もってしまうと外界の情報が遮られるので、活火山が未だに爆発しているのかそれとも収まっているのかわからない。
活火山の状況が理解できない以上は迂闊に解除する訳にはいかないだろう。
3は結界の範囲により使用魔力が異なることだ。
直径30メートルほどならば消費量もそこまで必要ではないので半永久的に張り続けることができる。
だが、今回はドワーフの国全体を覆うほどの結界だ。
いくらシフトの魔力が莫大でも長期間国全体を張り続けることは難しいだろう。
ただ、【空間収納】にあるマナローポーションやマナミドルポーション、マナハイポーションを服用するなら維持し続けることは困難ではない。
どちらにせよ、現状はこのまま維持するしかないだろう。
シフトはルマたちと合流しようとする前にフェイがやってきた。
「ご主人様! ご無事ですか?」
「フェイ、僕は問題ないよ。 それより勝手に行動してすまない」
フェイは上空を見る。
そこには火山灰が結界の境目部分に積もっていた。
「いえ、ご主人様が行動していなければ今頃ここは火山灰と溶岩流に巻き込まれていたでしょうし、それにぼくたちの命もないと思われます」
「とりあえずルマたちのところに戻ろう」
「はい、ご主人様」
シフトとフェイはルマたちのところに戻った。
「あ、ご主人様」
「みんな勝手に行動してすまない。 こっちは大丈夫か?」
「はい、問題ありません」
「そうか、よかった」
ルマたちの無事を確認できてシフトは安堵した。
「すまないがわしにも説明してもらえないか」
「王様?! 民の安全はいいのか?」
「それは先ほど部下に命令させてやらせておる。 どちらかというとあれが気になってな」
ドワーフの鍛冶王ラッグズは頭上のある部分を境に火山灰が積もっているところを指さした。
「えっと・・・その・・・」
「他言はしない。 緊急事態故に王として状況を把握しておきたいのだ」
「・・・ふぅ、わかりました。 実はこの国の中心に移動して結界を作るアイテムを作動させました。 魔力が続く限りこの国を守り続けるでしょう」
「・・・なるほど、それが本当なら火山灰と溶岩流から国は守られているというわけだな。 因みに結界が解けるとどうなるのだ?」
「まず、あの火山灰が降ってきます。 残熱によって家屋が燃える危険はあるでしょう」
ラッグズは頷く。
「次に溶岩流が未だに流れているなら、国へと流れてくる可能性があります」
「外の噴火が落ち着いて溶岩流が流れてこないことを祈るしかないな」
ラッグズは溶岩流が国を飲み込むことを懸念している。
「最後にこの地揺れが収まる可能性があります」
「ん? この地揺れはいずれ収まるのではないのか?」
「この結界は現在の状態を維持するモノでして、外界とは切り離されていると考えてください」
「つまりこの結界を解かないことには地揺れが収まることはないと?」
「そうなります」
ラッグズは考えた。
地揺れによる被害と火山灰と溶岩流による被害を。
「質問だが結界を解くのは簡単にできるのか?」
「ええ、解くのは簡単です。 あと、魔力が尽きると自動的に解除されます」
これに関してはシフトが結界を解くだけなので簡単にできる。
ラッグズが望むなら今すぐ解除できる。
「次の質問だ。 この結界を解除せずに外にいる者に情報を伝えることは?」
「筆談やジェスチャーなら可能ですが、口頭となると残念ながら不可能です」
人をはじめ、光や音、熱や風などの自然を通さないのであって、筆談やジェスチャーなら情報を伝えることが可能だ。
もっとも外に人がいればの話だが・・・
「最後の質問だ。 結界の内側から外側、またはその逆の移動は可能か?」
「・・・できなくはありません」
これは過去にガイアール王国にある大陸最大のダンジョン『デスホール』にて実験している。
【次元干渉】の力を借りて【空間転移】で結界外へ移動できることは確認済みだ。
あの時は莫大なエネルギーを消費して転移した後に、凄まじい疲労感と倦怠感、虚脱感を感じていた。
シフト1人だけなら問題ないがドワーフの国民すべて、いや人1人を連れて結界外へ連れ出せるかも怪しい。
「・・・」
ラッグズはシフトから得た情報を基に目を閉じて再考する。
現在の状態はシフトが国全体を結界で守っているからこそ被害は最小限に留まっている。
もし、シフトがいなければ今頃は地揺れと火山灰と溶岩流でドワーフの国だけでなく、逃げ遅れた民により多くの死傷者が出ていただろう。
ラッグズとしては民を守るのは当然だが過去の人々が作り上げたこのドワーフの国もできれば守りたい。
やがてラッグズは目を開けるとシフトに対して頭を下げる。
「・・・シフト殿、お願いだ。 どうか・・・どうか、わしらの・・・ドワーフの国を救ってはくれないか?」
「王様・・・」
「わしは民を、国を救いたい。 この娘のような不幸な者を作りたくないのだ。 頼む、この通りだ」
ラッグズにとってこれは苦渋の決断だ。
無力な自分では何も救えない・・・だからこそ強者に縋りつく。
シフトがもし同じ立場ならどう考えるか・・・己の力ではルマたちを救えないが目の前に救える人物がいたとしたら?
そう考えるとラッグズの気持ちが痛いほどわかる。
「ドワーフ王、貸し1つだ」
ラッグズは頭を上げてシフトを見た。
「?! では・・・」
「ああ、任せてくれ。 必ずドワーフの国を救ってみせる」
「ありがとう、わしにできることがあれば何でも協力する」
ラッグズの申し出にシフトは考える。
「・・・それなら風と水を自在に操れる魔道具はないか? まずはあの火山灰をなんとかしたい」
「風と水を操れる魔道具? たしか、宝物殿にあるはずだ」
「ご主人様、風と水なら私が・・・」
「ルマ、ダメだ。 今回ばかりは全員この場に置いていく。 これは命令だ!!」
「「「「「畏まりました、ご主人様」」」」」
普段なら連れていきたいがシフト1人ですら結界外に転移するのは大変なのに、ルマたちを連れてくなんてできはしない。
シフトたちはラッグズに連れられて宝物殿へ移動した。
ラッグズが宝物殿へ入ってからしばらくすると、扇と竹筒を持って戻ってきた。
「シフト殿、これが風と水の魔道具だ。 どちらも魔力の量により威力が変わる物だ」
「お借りします」
ラッグズより扇と竹筒を受け取る。
「それじゃ行ってくるとしますか。 ルマたちは警備をお願い」
「「「「「畏まりました、ご主人様」」」」」
シフトは転移しながら山を下っていく。
結界の境目に辿り着くとシフトは真剣な表情になる。
「ふぅ・・・よし、やるぞ」
転移先を見つめるとシフトは【次元干渉】を発動しつつ【空間転移】で結界の外へ転移するのであった。




