10.深層のドラゴン
大陸最大のダンジョン『デスホール』に来てから4ヵ月後───
シフトは今のフロアでダーク・ベアーとダーク・ウルフを相手に修行していた。
というのも天然と召喚の2種類いて天然は食用肉、召喚はポーションを効率良く手に入れられるからだ。
既に上り階段も見つけ一度は上がってみたが、食料やポーションが中々手に入らないことから地上に戻るのを保留にした。
それからシフトは来る日も来る日もモンスターたちを乱獲し、大量の食糧とポーションを手に入れた。
もちろんこのフロアで手に入る貴重なアイテムも忘れずに採取する。
ダーク・ベアーを倒したシフトは何気にステータスをみる。
名前 :シフト
年齢 :11歳
レベル:20(450)
生命力:320/320(585431/585431)
魔力 :320/320(996000/〔M〕1000000)
体力 :320/320(519088/523167)
腕力 :160〔+1〕(〔M〕10000〔+1〕)
走力 :180〔+1〕(〔M〕10000〔+1〕)
知力 :170〔±0〕(〔M〕10000〔±0〕)
器用 :150〔±0〕(〔M〕10000〔±0〕)
耐久力:200〔+2〕(〔M〕10000〔+2〕)
幸運 :777〔±0〕(777777777777〔±0〕)
装備 :武器 ナイフ〔腕力+1〕
鎧 普通の服〔耐久力+1〕、革の胸当て〔耐久力+1〕
盾 なし
兜 なし
小手 なし
靴 革靴〔走力+1〕
装飾 なし
状態 :正常(容姿偽装中)
称号 :なし
職業 :なし
スキル:★【ずらす】 レベル1:【???】(レベル1:【即死】 レベル2:【認識】 レベル3:【物理】 レベル4:【空間】 レベル5:【???】)
耐性 :毒無効、麻痺無効、病気無効
生命力・体力・幸運以外はカンストしている。
普通のモンスターなら瞬殺できるほどの能力だ。
ただ、どれだけ頑張ってもスキルレベル5だけは解放できなかった。
「潮時かな。 食料やポーションは大量にあるし、これ以上は強くなれないだろうし地上を目指すか」
倒したダーク・ベアーの死体を空間にしまうと地上へ向けて歩きはじめた。
「このフロアともこれでお別れか・・・」
そんなのんきなことを考えていると前方から今までに感じたことがないプレッシャーを感じた。
(っ! なんだっ!! いったい何がいるっ!!)
シフトは警戒して通路を移動する。
上り階段があるホールに到着するとそこにはドラゴンがいた!
(ド、ドラゴン?!)
英雄譚や御伽話などに出てくる伝説上の生き物・・・ドラゴンである。
(初めて見た・・・)
まだ対峙してないのに圧倒的な威圧感と強さを肌で犇々と感じる。
(これは・・・勝てるのか?)
思案しているとドラゴンはシフトのいる通路に向けて灼熱のブレスを放ったのだ。
(!!!)
シフトは【空間転移】を使ってホール内の灼熱のブレスが及ばない場所へ転移し、急いでドラゴンを見る。
ドラゴンもシフトを見つけるやいなや声にならない咆哮をあげながら威圧してきた。
(・・・強いっ! 勝てるのか?)
思考を巡らせているとドラゴンがいきなり右前足で攻撃してきた。
シフトは冷静に【五感操作】でドラゴンの攻撃をずらす。
しかしドラゴンは続けざまに尻尾で横薙ぎ払いしてきたが、それを【空間転移】でかわす。
(あんな攻撃を食らったら終わりだぞっ!!)
ドラゴンの一連の攻撃が終わり両者にらみ合う。
シフトは【空間転移】でドラゴンの背中に移動し鱗にナイフを突き刺す。
バリィーーーーーーーン!!!!!!!
「なっ!!!」
ナイフは龍鱗に触れた瞬間粉々に砕けたのだ。
このときシフトは昔読んだ本を思い出す。
『龍の炎は敵を灰にする』
『龍の羽ばたきは敵を吹き飛ばしあるいは動きを封じる』
『龍の爪は鋼をも引き裂く』
『龍の尾は障害を薙ぎ倒す』
『龍の鱗は鋼をも弾く』
そもそも鋼も弾く龍の鱗に鉄製のナイフが通る訳がない。
本来なら弾かれるか折れるか曲がるかだがシフトの攻撃はどれにも当てはまらない『砕け散る』だった。
ドラゴンはシフトのことを危険と察知し警戒レベルを数段階上げた。
一方のシフトは物理攻撃手段が格闘と【念動力】だけになった。
唯一の武器であるナイフが通じないどころか粉々に『砕け散る』など予想外のことだ。
せめて傷の一つでもつけば儲けものだったがまったくの無傷だ。
お互い攻めあぐね、膠着状態が続いた。
下手に動くことができず、悪戯に時間だけが過ぎていく。
そんな時間も長くは続かなかった。
先に痺れを切らしたのはドラゴンの方だ。
ドラゴンは背中の翼を羽ばたかせたのだ。
その暴風がシフトに襲い掛かる。
「ぐうううううぅっ!!!」
吹き飛ばされたら最後動けなくなった身体に炎や爪で止めを刺すだろう。
必死にその場に留まり続けるシフト、しかしドラゴンは追撃をやめない。
なんと灼熱のブレスを放とうとしているのだ。
(暴風に炎!! まずい!!!)
慌てて安全圏を探し【空間転移】する。
数瞬後シフトが先ほどまでいた場所は炎に包まれていた。
間一髪その空間からの離脱に成功した。
「あ、危なかったっ!!」
ドラゴンは辺りを見渡してシフトが生きていることに驚愕した。
刹那の時間、確かにドラゴンは油断していた。
今がチャンスとばかりにドラゴンの左側面にある大岩を【念動力】でぶつけたのだ。
ドゴオオオオオォォォォォーーーーーン!!!!!
大岩は見事にドラゴンに直撃して広範囲に砂埃が舞った。
避けられない完全な不意打ちからの一撃。
(やったか?)
しばらくすると粉塵が消え悠然と立っているドラゴンがいた。
外傷はなく平然とこちらを見ている。
(うそだろぉ・・・)
すぐさま攻撃をしかけてくるかと身構えるが攻めてこない。
先ほどの短慮な自分を戒めて相手の出方を待っている。
後の先・・・つまりカウンターを狙っているのだ。
一方のシフトは相手の戦力と自分の勝ち筋を考えていた。
目の前のドラゴンの攻撃は主に炎、暴風、尻尾、爪の4種類、これで魔法があったらお手上げだな。
炎、暴風、尻尾は【空間転移】、爪は【五感操作】でそれぞれ回避できる。
問題は自分の攻撃手段。
武器は・・・代えはない。
そもそもこのフロアでは武器自体を見かけてなかった。
なので【空間収納】の中にも武器になるようなものは一つもない。
素手で殴っても龍の鱗に阻まれてダメージを受けないだろう。
スキルは・・・【念動力】は先ほど使ってダメージなかったので×。
【限界突破】は自分に使えば自爆しかねないし、ドラゴンに使えばどこまで脳を疲弊できるかわからないし×。
【偽装】は武器を持っていると威嚇はできても倒すのは無理だし、背景と同化してもここから脱出できるか怪しいので×。
【即死】は・・・ってあれ?
そういえばどう使うんだっけ?
・・・んんん・・・あ、思い出した!
スキル【ずらす】の発生条件で鬱になってて詳しく確認するの忘れてた。
ああ・・・使い方がわからないので×・・・でいいのかな?
結論、武器×、スキル×と打つ手なし、尻尾巻いてこの場は逃げるのが上策だが・・・
(さて・・・どうする? 撤退するか? いやダメだ、背を見せたら炎と暴風攻撃が始まる)
何度考えても思考の無限ループに陥っていく。
プツーーーン。
シフトはついに切れた。
「あああぁぁぁーーーっ! もう、石でも食べて死んでしまえぇーーーーーっ!!」
シフトは大声を上げながら足元にある手頃な紅い石を掴むとドラゴンに投げた。
ドラゴンは威嚇するために灼熱のブレスを放つために口を開けていた。
シフトが投げた『何か』を弾こうと口を慌てて閉じる。
が、それより先に石が口の中に入ってしまった。
そして口内の炎が石に触れた瞬間・・・
ドゴオオオオオオオォォォォォォォーーーーーーーン!!!!!!!
ドラゴンの口の中で大爆発が起こった。
(・・・え?)
ドラゴンの口から煙がもうもうと立ち上がっている。
しばらくドラゴンの巨体がぐらぐらと大きく揺れて、
ズドオオオオオオオォォォォォォォーーーーーーーン!!!!!!!
耐えられなくなった巨体は横に倒れた。
頭の中には久しぶりに聞く声が響いてくる。
≪レベルアップしました≫
≪レベルアップしました≫
≪レベルアップしました≫
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が、頭の中の声よりも現在目の前の出来事に呆れているシフトだった。