115.盗賊退治 〔※残酷描写有り〕
シフトは次の目的地で悩んでいた。
それはライサンダーたちの逃亡先がわからないからだ。
王国に戻っているかもしれないし、帝国に留まっているかもしれないし、あるいは他国へ逃亡したかもしれない。
『この手に自由を』の動向も気になる。
今後どのような形で邪魔してくるかわからないからだ。
シフトはルマたちの意見も聞いてみることにした。
「みんな聞いてくれ。 これからの行先なんだがどこか行きたいところはあるか?」
「行きたいところですか?」
「王国に戻るか、帝国に留まるか、あるいは他国に行くかかな?」
「他国といいましてもどこに行くのですか?」
「候補としては東の公国、西のエルフの里、南のドワーフの国、北の皇国の4ヵ国だな」
シフトが行先の候補を言うとローザがすぐに手を挙げる。
「ご主人様、南のドワーフの国に行きたい」
「ドワーフの国? 別に構わないが・・・ローザにしては珍しいな」
「ああ、先日の戦いで自分が作成した剣を折られたのでな、 本場の鍛冶職人の働きを見てみたい」
ローザはそういうと腰にある剣に手で触る。
それはシフトが予備に購入していたミスリルの剣だ。
「僕は構わないよ。 みんなはどうかな?」
「私も構いません」
「ベルも」
「ぼくも賛成だよ」
「わたくしも異論はありませんわ」
「それじゃ、ローザの要望で南のドワーフの国へ行こう」
「「「「「畏まりました、ご主人様」」」」」
シフトたちは行き先を南のドワーフの国へと決めた。
翌日───
皇帝グランディズと朝食をしているときにシフトが切り出した。
「今日、僕たちは帝国を出ていくよ」
「そうか・・・で、どこに行くんだ?」
「『勇者』ライサンダーたちを探しに行くよ」
「宴の前にそんなことを言っていたな」
「ええ、折角貴重な情報を入手できたのに会えず仕舞いでは意味がないから」
シフトは虚実を織り交ぜて会話を続ける。
「余も其方たちが勇者に会えることを願っている」
グランディズの言葉にシフトは一礼した。
食事も終わりシフトたちは帝城を出ると東門を目指して歩き出す。
北門はシフトが暴れたせいで現在復旧作業中により入出はできない。
途中ベルが雑貨屋に寄りたいと言ったのでシフトたちは店に向かう。
なんでも弾丸を作成するには硝石、硫黄石、木炭、鉛が必要らしい。
シフトはそれらを購入すると東門へ移動して帝都を出ていくのであった。
南のほうへ歩き、5キロメートルほど離れたことを確認するとシフトは【空間収納】を発動し、購入したものを空間にしまい、代わりに魔動車を取り出すと空間を閉じる。
誰が運転するかで揉めたが結局フェイが操縦することになった
シフトたちは魔動車に乗り込むとドワーフの国へ向けて出発した。
しばらく走行していると前方に1台の荷馬車と複数の馬に乗っている者たちがドワーフの国へと走っている。
王国で走っていた時も荷馬車を追い越したりすれ違うことが度々あった。
今度も追い越そうかと考えているとどうやらただならぬ雰囲気を感じる。
よく見ると馬に乗った男たちが荷馬車を襲っていたのだ。
「ご主人様、あれって・・・」
「ああ、どうやら盗賊に襲われているらしいな」
「どういたしますか?」
このまま放置しても前方の荷馬車を落とされたら、今度はこちらを狙われる可能性が高いだろう。
「ここで見過ごすのも気が引けるな・・・よし倒そう。 フェイはそのまま運転を維持、ルマたちは戦闘態勢をとってくれ」
「「「「畏まりました、ご主人様」」」」
「ご主人様、ぼくも戦いたい」
「フェイ、さっきは魔動車を運転できるって喜んでいただろ? 今は運転に集中してくれ」
「・・・はーい」
ルマとユールは愛用している杖を、ベルとローザは帝都で購入した拳銃を取り出した。
前方の荷馬車との距離が40メートルを切る。
「いく」
最初に動いたのは意外にもベルだった。
すでに【鑑定】を使い、銃の性能と距離の計測から拳銃を発砲する。
弾丸は前方にいる盗賊の肩に命中し、その衝撃に耐えられず落馬した。
「わたしも」
次にローザが銃を構えると発砲した。
これも盗賊の背中に命中し、先ほどの盗賊と同じように落馬する。
ローザの場合は【武器術】にある【弓術】の能力をフルに生かしているのだろう。
昨日、帝城の修練場で試し撃ちしただけなのに2人とも銃をもう使いこなしている。
ベルとローザは競うように目の前の盗賊に弾丸を撃ちこんでいく。
放たれた弾丸は外すことなく盗賊の身体に命中する。
「これ、私たちの出番はなさそうね」
「暇ですわね」
「ぼくも銃でやっつけたかったのに!」
ルマとユールは杖を構えるのをやめて、フェイは活躍できないことに駄々を捏ねている。
だが、盗賊たちもただ黙ってやられるつもりはないらしく、魔動車に向けて何かを投げてきた。
「! フェイ! ブレーキ!!」
「え?」
「みんな急いで車にしがみつけ!!」
フェイは咄嗟に反応できなかったので、シフトは急いで『↑』と書かれた鉄のパネルに魔力を流し込む。
シフトが流した魔力量があまりにも多かったので急に後退したのだ。
「「「「「きゃっ!!」」」」」
魔動車の後退にルマたちは危うく車外に放り出されるところを車体にしがみついて難を逃れた。
シフトは【次元遮断】を発動して魔動車と投げた物の間にすぐに結界を張るとその直後に何かが爆発する。
爆発や爆風は【次元遮断】のおかげで、シフトたちには何の影響もなかった。
が、魔動車も結界にぶつかって尚も後退し続けようとする。
「うう、一体何が起きたのですか?」
「盗賊が何か爆発物をこちらに投げてきたみたいだ。 咄嗟に後退させて済まない」
「いえ、そのおかげで助かりました」
シフトたちが安否を確認していると前方の砂埃が徐々に落ち着いてくる。
視界が戻るとそこには荷馬車も盗賊たちもいなかった。
シフトは結界を解こうとするが、魔動車は未だに後退し続ける。
ここで解除したらまたルマたちに迷惑をかけてしまう。
しばらく魔力が切れるまで放置することにした。
「それにしてもこんなところで盗賊が出るとはな。 もし出発が早ければ僕たちが狙われていたかもね」
「その時は私が相手します」
「ベルも」
「そうだな、わたしたちに手を出したことを後悔させないとな」
「まったくだよ」
「地獄に落としてやりますわ」
「・・・」
ルマたちの過激な発言にシフトは少し引いてしまった。
(みんなずいぶん逞しくなったな)
これもすべてシフトのスパルタ教育のせいなのだが本人は気にしないことにした。
シフトたちが会話をしていると魔動車の前方の魔力が切れてやがて停車する。
結界を解除するとフェイに声をかけた。
「フェイ、走行に問題ないか軽く魔力を流してくれ」
「畏まりました、ご主人様」
フェイは『↓』のパネルに魔力を少し流す。
魔動車は問題なく前に少し進んだ。
「問題なさそうだな。 それじゃ追いかけるよ」
「「「「「畏まりました、ご主人様」」」」」
シフトたちは荷馬車を追いかけて再出発した。
魔動車で追いかけること5分後───
遠方に荷馬車を発見する。
そこでは荷馬車の護衛たちと盗賊たちが戦っていた。
数を減らしたとはいえそれでも盗賊が有利である。
「みんな戦闘の準備はいいか?」
「「「「はい!!」」」」
「ご主人様、ぼくは?」
「フェイは魔動車を死守すること」
「はーい」
魔動車を荷馬車の近くまで移動させるとその手前でシフトたちは飛び降りた。
戦っている者たちが何事かとこちらを見ているがシフトは気にせず命令を出す。
「それじゃ盗賊退治を開始するよ」
「「「「はい、ご主人様」」」」
シフトの命令でルマたちは戦闘態勢をとった。
「君たち! 危ないから下がってろ!!」
護衛の大人たちはシフトたちの実力を知らないのか注意を促す。
「なんだこのガキどもは? こいつらもやっちまえ!!」
盗賊のボスが子分たちに命令する。
それを聞いた子分たちがシフトたちを見るとボスに質問した。
「ボス、女があんなにいますぜ。 連れ帰ってハメていいっすか?」
「好きにしろ」
子分たちはやる気が出たのか嬉々としてシフトたちを襲った。
一方、護衛たちはシフトたちのおかげで相手にする人数が減った分、若干余裕が出てきたがそれでも油断できないと冷静に対応している。
「くっ! あんな子供にまで襲い掛かるとはなんたる外道だ」
「早くこいつらを倒してあの子たちを助けないと」
だが、その心配は杞憂に終わる。
それはこれから始まるのは戦闘ではなく一方的な蹂躙だからだ。
シフトたちはそれぞれ武器を構えると盗賊たちに攻撃を仕掛ける。
最初に仕掛けたのはシフトでそのあまりの速さについていけず、盗賊のボスの背後をとると持っているナイフで背中を一刺しした。
「がはぁっ!! な、なんだと?!」
盗賊のボスが苦悶の声を上げると痙攣してからその場に倒れる。
一瞬の出来事に護衛も盗賊も自分の目を疑った。
「そんなのんびりしていていいのかな? 次行くよ」
そこからシフトは護衛を襲っている盗賊に次々と刃で刺していく。
ある者は額を、またある者は心臓を、知覚できないスピードでその場を移動しては盗賊を倒していった。
シフトだけではなくルマたちも武器や魔法で盗賊たちを何の躊躇いもなく殺している。
あまりの出来事に盗賊たちは逃げ出すがそれを許すシフトではなかった。
逃げ惑う盗賊たちを捕まえては取り押さえてから首に刺していく。
シフトたちが戦いに介入してから5分もかからないうちに盗賊たちは全滅した。
「うう、な、何者だ・・・あ、あのガキは・・・」
「よかった、まだ生きてた」
シフトの一言に盗賊のボスは顔色を変えてそちらを見る。
そこにはシフトが仁王立ちしていた。
「お前には聞きたいことがあるからちょっとこっちに来てもらおうか」
それだけ言うとシフトは盗賊のボスの手を掴むと護衛たちの前に連れていく。
護衛たちも戦う力がないとはいえ一応警戒している。
「さて、いくつか聞きたいが途中倒した者を除くとお前たちはこれで全員か?」
「は、はい。 ここにいる者で全員です」
ボスはシフトの質問に対して素直に話す。
「この荷馬車を襲ったのは?」
「お、俺たちは荷馬車を襲って金品や食料をただ強奪しようとしただけだ」
盗賊としては当たり前な行動であり、何の不思議もない。
「最後に聞くけど、右手に奇妙な紋様を持った人を知っているか?」
「知らない、本当だ」
「わかった、ありがとう。 あとはそちらの商隊に任せるよ」
シフトはそれだけ言うとルマたちのほうへと歩いて行った。
「ま、待ってくれ。 助けてくれ」
「お前はそういって何人助けた? 次は自分の番だと思い知るがいい」
しばらくしてから盗賊のボスの断末魔の叫びが辺りに響いた。
護衛たちは生かしておいても害にしかならないと判断したのだろう。
荷馬車の主と護衛の1人がシフトたちのところにやってくると一礼する。
「助けていただいてありがとうございます」
「いえ、僕たちも通りかかっただけですから。 無事で何よりです」
「何かお礼をしたいのですが」
下手に断ると突っかかってくる可能性があるのでシフトは無難なものにした。
「それなら情報が欲しいです」
「情報ですか?」
荷馬車の主が不思議そうな顔をする。
「ええ、僕たちは今ドワーフの国を目指しているのですがこちらで合ってますか?」
「ドワーフの国ですか? ええ、合ってますよ。 ここからだとあと10日ほどかかりますが」
馬車で10日となると魔動車なら5日もあれば到着するだろう。
「あと、右手に奇妙な紋様を持った人を知っていますか?」
「残念ながら知りません」
荷馬車の主と護衛の1人は二人揃って首を横に振る。
「ありがとうございます。 それじゃ僕たちは急いでいるのでこれで失礼しますね」
「あ! ちょっと・・・」
制止を振り切りシフトたちは礼を言ってさっさと魔動車に乗り込むとその場を後にするのだった。




