114.修練場
ベル、ローザ、フェイが出かけている頃、シフトはルマとユールの2人とお茶をしていた。
そこに第一皇子エアディズやほかの皇子たちがやってきて戦いを申し込まれる。
「おい、貴様、勝負だ! 昨日は酒が入ってたまたま不調だったが本来の俺の実力を見せてやる!」
特に昨日の宴の席で絡んできたエアディズはリベンジに燃えていた。
「はぁ・・・面倒臭い。 兄弟で仲良く稽古していればいいんじゃないか?」
「父上を倒した貴様を倒せば俺が帝国で一番の実力者になれるのだ!」
エアディズたちはシフトに勝って帝国最強を手に入れたいらしい。
「わかった。 どこでやるんだ?」
「こっちだ」
シフトはエアディズたちに連れられて修練場へと行くことになった。
「さて、昨日のリベンジだ! 俺から行かせてもらうぜ!」
「面倒だから全員まとめて相手にしてやるよ」
「調子に乗るんじゃねぇ!」
シフトの一言に切れたエアディズたちが全員戦闘態勢をとる。
「どこからでもかかってきな」
「行くぜ!」
エアディズたちが攻撃してくるが、シフトはいつものように【五感操作】で距離感や平衡感覚を狂わせて攻撃を無力化していた。
「攻撃が当たらない?!」
「く、卑怯だぞ!」
「きっと何かのトリックだ!」
シフトがエアディズたちの相手にしていると、どこから嗅ぎつけたのか皇帝グランディズと皇女たちが見に来ていた。
昨日はエアディズが攻撃を外しまくっているように見えたのは酒が入っているせいだと思っていたが、事実今も同じ現象が起こっている。
「なるほど・・・昨日は手加減していたという訳か・・・」
グランディズはシフトが今使っているスキルが本来の戦い方なのだろうと推測する。
エアディズたちの空回りな攻撃を見て皇女たちは笑っていた。
必死に攻撃するが1つも当てられない。
「満足したか? 今度はこちらから行くぞ」
シフトは手加減した攻撃でエアディズたちを次々と吹き飛ばす。
「くぅっ! なぜだ?! なぜ攻撃が当たらないんだ!!」
エアディズたちが悔しがっていると今度はグランディズがシフトに攻撃を仕掛けた。
「なっ! 父上!!」
シフトはグランディズを見て【五感操作】を使うが攻撃が迫ってきたので回避した。
「避けただと? どういうことだ?」
グランディズは次々と攻撃を仕掛けるがシフトはそれらをすべて回避していく。
「なるほど、絡繰りが解ければ攻撃が通じるようだな。 だが、これはきついな」
エアディズたちはグランディズを見ると目を閉じて戦っているのだ。
「父上! なぜ目を閉じているのですか! それでは相手に攻撃してくれと言っているようなものです!!」
「いや、これでいいのだ。 なぜならこれは五感の1つである視覚に何らかの影響を与えているのだろう」
「・・・」
「答えが返ってこないということは正解だろう」
「まさか僕のスキルの1つを正攻法で突破するなんてな・・・あんたが初めてだよ」
グランディズは構えを解いて目を開けると同時に手も上げる。
どうやら降参らしい。
「戦いを見ていて【闇魔法】の視覚遮断に似ていると感じてな。 普通の相手なら視覚を遮断して戦っても勝つ自信があるが、其方相手では永久に勝てん。 余の負けだな」
「くっ! 視覚に影響を与えるなんて卑怯だぞ!!」
「よせ、これも実力のうちだ。 戦場では卑怯も汚いもないのだからな」
グランディズが窘めるとエアディズたちは悔しそうにシフトを見る。
「1つ質問だがなぜ昨日の戦いでこの能力を使わなかった?」
「それはあんたと同じだよ。 この能力を使った場合、射線が変わるんだ。 それが国民に当たったらどうする?」
「! たしかに関係のない国民を巻き込みかねん」
「そういうことだ」
能力を封じても勝てなかったことにグランディズは改めて納得したようだ。
「其方ほどの実力者なら余の娘たちの婿にちょうど良いだろう」
グランディズがそんなことを言うから皇女たちがシフトに近づいてアピールしようとする。
だが、ルマとユールがシフトの前に立つと皇女たちを威圧した。
そこには『話があるなら私たちを倒してからにしなさい』というメッセージが込められていた。
皇女たちはルマたちの威圧に耐えかねてそそくさと戻っていく。
一番下の幼女だけはその場で泣き始めてしまったが、例え子供相手でもこれだけは譲れないらしい。
「ああ・・・できれば幼子にその威圧は止めてほしいのだが・・・」
「なら先にご主人様へのアピールを止めてほしいですね」
ルマはにこやかな笑顔でグランディズを見る。
グランディズは地雷を踏んだことに気付き、ルマから目を逸らした。
「ルマ、その辺にしておけ」
「・・・畏まりました、ご主人様」
「其方も大変だな」
「ルマたちは僕の大事な仲間だからな。 これくらいは平気だよ」
シフトとグランディズはお互いの気苦労にしばらく笑いあう。
「そういえば、あんたに聞きたいことがあったんだ」
「余に聞きたいこと?」
「ああ、帝国の東西南北にある国について教えてくれないか?」
「そのくらいなら構わんぞ」
グランディズは近隣諸国について話し出した。
東には公国があり、いくつもの城と城下町があり海に面している。
西にはシフトたちの母国である王国があり、森の北側にはエルフの里がある。
南にはドワーフの国があり、山の傾斜にいくつもの建物がある。
北には皇国があり、見たこともない豪華な建物がいくつもあり草原が広がっている。
「隣接はしていないが獣人の住む国、翼人の住む国、海人の住む国、知能が高い魔物が集まる亜人の国、巨人の住む国、魔族の国、そしてドラゴンの国がある」
「獣王国は僕も行ったことがあるからわかる。 だけど、ほかにも色々な国があるんだな」
「すべてに友好的かというとそうでもない。 翼人や海人は基本己のテリトリーからは出てこない。 野良の魔物と違い知能の高い亜人やドラゴンなどの魔物の国も同じだ」
「国際会議に顔を合わせた国家間くらいしか友好的な国はないということか・・・」
「今のところはな。 もしかすると将来は隣人となって友好的になるかもしれないしならないかもしれない」
さすがのグランディズでも未来は見通せないようだ。
「だけど、余としては隣国よりも今の状況に頭を痛めておる」
「王国で皇子が暴れた件か?」
「そうだ。 他国からは王国が報復したように見えるからな。 バカ息子といいバカな部下といい余に迷惑をかけるものだ」
「あんたも大変なんだな」
「皇帝の座について20年以上経つが、それなりに実りのある人生を送っている」
グランディズは今の生活も満更でもないと語る。
「だが、それと同時に其方以外に余を倒す逸材が出ないのも嘆かわしいことだ」
「だからといって僕は皇帝はやらないからな」
「帝国は実力主義。 本来であれば余を倒した時点でその者が帝国の皇帝になるのが習わしだ。 それを蹴るとは面白い男だ」
それだけ言うとグランディズは笑った。
本来であればグランディズを倒せば帝国のすべては自分のモノになるというのはものすごく魅力的に感じる。
普通ならそのまま次のグランディズに就任して帝国を自分好みに変えられるチャンスだが、シフトにはそんなものに興味はなかった。
「後継者はまた探してくれ」
シフトはそれだけ言うとルマとユールを連れて修練場を後にした。
シフトたちは宛がわれた部屋で寛いでいるとベルたちが帰ってきた。
「ご主人様、ただいま戻りました」
「お疲れ、銃は買えたのかい?」
「買った」
ベルは革袋から拳銃二丁を取り出すとそれを見たローザとフェイも同じように取り出した。
「なぜみんな拳銃を二丁持っているんだ?」
「「「かっこいいから」」」
どうやらグランディズの二丁拳銃がお気に召したようでベルたちもその道を極めようとまず形から入るようだ。
「ローザちゃんがすでに二丁拳銃をマスターしたような動きをしていたからね。 ぼくも負けないように使いこなしてみせるよ」
「ベルも」
「ベルとフェイにはわたしが【武器術】を使って教えますので安心してください」
ベルたちの銃を見てルマとユールも興味を持ったのかローザから実物を借りて感触を確かめている。
「ご主人様、私も銃が欲しいです」
「わたくしも所望しますわ」
「ルマもユールもかい?」
「これなら私でも扱えます」
「【光魔法】だけでは心許無いので中~遠距離用の攻撃手段の1つとして持っていて損はございませんわ」
「なるほど」
魔法主体のルマとユールに新たな武器があるのは心強いことだ。
特にユールの攻撃手段が増えるという発言には説得力がある。
「ベル、悪いが僕たちも銃を購入したいから案内してくれないか?」
「わかった」
ローザとフェイを残してシフトたちは銃のお店へと行くと自分に合った拳銃を購入することになったのだ。




