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112.宴の席

シフトたちは今帝城にある謁見の間にいる。

あの後皇帝グランディズでも勝てないのか挑んでくる者がいなくなったのでゆっくり話すことになった。

「ふぅ、久しぶりにいい運動をした」

「僕は死にかけたけどね」

「結果は余の敗北だがな。 皇帝に就任してから今までは無敗を誇っていたが・・・歳はとりたくないものだな」

シフトとグランディズが先ほどの戦いについて話している。

【即死回避】がなければ今頃はあの世にいただろう。

「落ち着いたところで、改めて話し合いをしたい。 ここ(帝国)へは何をしに来たのだ?」

「王国から来たのだが道に迷ってね。 近くの町か村で現在地を確認したかったんだ。 それで近くにあったここ(帝国)を見つけた」

「それで入都しようとしたら門兵が其方の連れの女性に手を出したと?」

「そういう事だ」

シフトの会話の内容を聞いてグランディズは溜息をつく。

「国の方針とは言え、余の部下が迷惑をかけた」

グランディズはシフトに対して頭を下げる。

「謝罪は受け取ったし、これからの教育に期待するよ」

「ははは・・・それに関しては全兵士に徹底させることをこの場で約束する」

「個人的な感情で動いたけど、これって本来国際問題と取られてもおかしくない案件だよね?」

「まぁそうだな。 余の帝国と其方の王国との戦争になりかねない騒動と言えるだろう」

グランディズの言葉にシフトは頭を抱える。

「ああ・・・もしかして王国を攻めに行くとか言わないよね?」

「少し前までならその野望もあったがな、今はない」

「その心境の変化は?」

「王国には其方のような化け物がいるのだからな。 手を出せば火傷では済まぬと思い知らされたよ」

グランディズはわざとお道化て見せるが、真剣な顔になり次の話題へと移る。

「それよりも先日王国で起きた件について聞きたい」

「もしかして皇子殿下の暴走についてですか?」

「うむ、余の(スパイ)からバカ息子が王国を乗っ取ろうとしたと情報が送られてきた」

「その件についてだが・・・」

当事者であるシフトは王国で起きた皇子ズィピアスの暴走行為について詳細に話した。

それを聞き終えたグランディズは本日何度目かの溜息をついた。

「あのバカ息子が・・・余計な火種を生みおってからに」

「皇帝陛下に聞きたいが右手に奇妙な紋様を持った連中を知っているか?」

「知らぬ」

「『この手に自由を(フリーダム)』という名に聞き覚えは?」

「ないな」

シフトの質問にグランディズは続けざまに首を横に振る。

「その『この手に自由を(フリーダム)』というのはなんなのだ?」

「詳しくは僕たちもわからない。 王国で幾度となく暗躍していたそうで・・・皇子殿下の右手にも紋様があったので、少なくとも関りがあったのは事実だ」

「厄介な連中だな・・・余のほうでも足を掬われないように注意しておこう」

「気を付けたほうがいい。 奴らは狡猾で何をしてくるかわからない」

「忠告感謝する」

グランディズはシフトに礼を言う。

「こちらからも質問したい。 皇帝陛下は王国の『勇者』ライサンダーを知っているか?」

「ああ、知っている。 その手の情報は貴重だから逐一報告させるようにしている。 その勇者がどうした?」

「今どこにいるかわかるか?」

「たしか今は王国と帝国の間の森で魔物討伐をしていると情報が入ってきておる」

グランディズの情報は残念ながら少し古いようだ。

もしかすると最新の情報が手に入るかもと期待していたが世の中そんなに甘くない。

「情報提供に感謝する」

「この程度ならお安い御用さ」

「さて、僕たちはそろそろお暇しようかな」

シフトはここでの要件が済んだのでさっさと帝国を出てることに決めた。

移動しようとするが、グランディズが呼び止める。

「まぁ待て、ここで会えたのも何かの縁。 今日1日ここでのんびりしていかないか?」

「いや、迷惑をかけたくないし・・・」

「迷惑ならすでにかけておるではないか。 誰かが暴れたせいで帝城に一部の建物と歩道、それに北門と修理が必要でな。 本当に困ったものだ」

グランディズはシフトの行為をすらすらと話す。

ルマのためとはいえシフトが破壊したのは間違いではないのだから。

「ぐっ・・・わかったよ」

「なら、今日は(ささ)やかな宴を開こうではないか。 それまでは客室で寛ぐがよい」

そう言うとグランディズは部下を呼び、シフトたちを客室へと案内した。


太陽が西に傾きかけたころ。

客室で寛いでいるとグランディズの配下の者が宴の準備が整ったことを伝えに来た。

シフトたちは連れ立って宴の席へと向かう。

宴会場に入るとそこにはグランディズとその身内である后や皇子・皇女たち、そして豪華な食事が用意されていた。

「よく来たな。 さあ、宴を始めよう」

グランディズの一言で宴は開始された。

女官たちの舞を見ながらシフトたちは目の前の料理を食べる。

美味いのだが、それ以上にベルが悔しがっていた。

「ベルもこれくらい作れれば・・・」

「ベル、気にすることはないよ」

「ベルだって、いつも美味しい料理を作ってくれるんですから」

「そう凹むな、ベルの料理だってこれに負けないくらい美味しいぞ」

「そうだよ。 ベルちゃんがいなかったら毎日質素な料理だったかもしれないんだよ」

「ベルさん、自分に誇りを持ってくださいな」

「みんな・・・ありがとう」

そこにグランディズが口をはさんでくる。

「ほう、そちらのお嬢さんは料理ができるのか?」

「ええ、ベルは【料理】のスキルを所持していますので」

「なんと?! それは凄いな。 よければ明日何か作ってはくれまいか?」

ベルがシフトを見ると首を縦に振った。

「わかった」

「おお、そうか、食材はあるものなら何を使っても構わない。 明日が楽しみだ」

グランディズが喜んでいると今まで黙っていた皇子たちの1人が声を上げた。

「父上、この者が父上を倒したというのは真でございますか?」

「事実だ」

「信じられませぬ。 このようなひ弱な者が父上を倒したなどと・・・おい、貴様! 第一皇子であるこのエアディズと勝負だ!!」

エアディズと名乗った第一皇子が立ち上がるとシフトに勝負を吹っ掛ける。

「断る。 怪我をしたくなかったら席について食事の続きをするんだな」

シフトは断り、食事の続きを再開しようとするが意外にもグランディズから声がかかる。

「そう言わずに相手になってもらえぬか? この子に真実を教えてやってほしいのだ」

「本気か?」

「無論だ」

シフトは溜息をつくと立ち上がる。

「相手になってやる」

それだけ言うとシフトは舞台のほうへと歩く。

エアディズも立てかけてある槍をとると舞台のほうへと移動した。

女官たちは退き、シフトとエアディズが対峙する。

「いくぞ!!」

エアディズが気合を入れて槍でついてくる。

シフトはいつものように【五感操作】で距離感や平衡感覚を狂わせているので当たらない。

傍から見ればエアディズがわざと外してるように見える。

「くっ! なぜだ?! なぜ当たらない!!」

「満足したか? なら終わりにしよう」

シフトはエアディズの腕を手刀で軽く叩くと、痛みに耐えかねて槍を落とした。

「勝負ありだ。 これで余が負けた理由がわかっただろう?」

グランディズはこの場にいる者たちを悟らせるために自分の敗北を口にする。

壇上では勝てぬことを悟ったエアディズが悔しがっていた。

シフトが席に戻ると皇女たちがやってくる。

「お強いですのね。 よければこの後2人きりで私と話でも・・・」

「いいえ、わたくしと話しませんか」

「わらわと話そう」

シフトの強さに惹かれて、より強い遺伝子を求めて、あるいはただ単に話がしたくて声をかける。

上は成人女性から下は幼女までと幅広い皇女たちがシフトにアタックしてきたのだ。

だが、ここで黙っていないのが1人いる。

ルマだ。

「ご主人様はお疲れです。 申し訳ございませんがお引き取りを」

言葉は限りなく丁寧であるがその無言のプレッシャーに皇女たちは気圧されていた。

一番小さい娘は目に涙を浮かべて今にも泣きそうだ。

「ルマ! 申し訳ないけど疲れているので・・・」

シフトが声をかけると残念そうに席に戻っていく。

「はっはっは、中々に面白い余興であったぞ」

グランディズはシフトや皇子・皇女ら、若者たちの初々しいやり取りにご満悦だ。

その後、宴は滞りなく終了するのであった。


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