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102.森の中のトラップ

森の中は不気味な声と涼しげな風で満たされていた。

「暗い」

「気味が悪いです」

「何が出てきてもおかしくないな」

「こういう場所って厄介なんだよね」

「帰りたいですわ」

ベルの一言を皮切りにルマたちが森の居心地の悪さに辟易していた。

「もし嫌なら森の外で待っててもいいんだよ?」

「ご主人様と一緒にいたいです」

「ベルも」

「わたしを置いていくとか言わないでくれ」

「ぼくだって役に立つよ」

「わたくしを除け者にしないでくださいまし」

シフトの気遣いがかえってルマたちの依存度を上げてしまったようだ。

道のない道を歩いていると不意に空気が変わった。

この感覚からして魔物が近くにいるのだろう。

案の定、前からこの森に住むゴブリンやオーガがやってきた。

「数にして20といったところか・・・みんな行くよ」

「「「「「はい、ご主人様」」」」」

シフトが先頭を駆けるとルマたちもそれに続く。

魔物たちもそれに気付いたのか戦闘態勢をとる。

オーガは間合いにシフトが入ったことを感知すると棍棒を振り下ろしてきた。

シフトは持ち前の身体能力で躱すとオーガの左足を蹴飛ばす。

体勢を崩したオーガは前のめりに倒れたのでその隙にオーガの眉間にナイフを突き立てた。

オーガはあまりの激痛に暴れるがその前にナイフを引き抜いて離れる。

しばらくしてオーガはこと切れてその場に倒れそして動くことはなかった。

次の魔物に向けてシフトは走り出す。

ルマたちも魔物相手に自分たちが有利になるように立ち回っている。

ルマが【風魔法】で裂傷を与えるとその隙をついてベルがナイフで攻撃した。

近づいてきた敵にはユールの【光魔法】で目暗ましをしてフェイが止めを刺す。

ローザは襲ってきたオーガをその剣のもとに一刀両断で斬り伏せる。

戦闘を開始してから5分には遭遇した魔物の殲滅が完了していた。

「みんな、お疲れ。 怪我はないか?」

「大丈夫です、ご主人様」

「問題ない」

「この程度なら敵ではないからな」

「楽勝だね」

「もし怪我してもわたくしが治してみせますわ」

ルマたちに問題ないことを確認すると先に進むことにした。

その後も魔物たちと対峙するがシフトたちは問題なく倒していく。

対峙した回数は30回をゆうに超えていて、出会う魔物たちも徐々に強さを上げていった。

森の奥へと進むシフトたち、すると今までとは違い大きな広間になっているところに出る。

中に入ろうとしてフェイが止めた。

「待って、ご主人様。 ぼくが先に行くよ」

フェイは慎重に広間へと入る。

すると今まで何もなかった空間に積層型の魔法陣が浮かんだのだ。

シフトの頭の中では警鐘が鳴っていた。

(やばい! あれは!)

かつて大陸最大のダンジョン『デスホール』で起きたことを思い出す。

あの魔法陣によってダーク・ウルフやダーク・ベアーがわんさか出たのだ。

魔法陣の型は違うがどうせ碌でもないことに巻き込まれるのだろう。

「フェイ! 戻れ!!」

大声で叫ぶがあまりのことにフェイは状況が呑み込めず判断できていない。

シフトは魔法陣が完全に発動する前にフェイを連れて戻ろうと部屋に入る。

「ご主人様!!」

だが、ここでルマたちもシフトを追って部屋に入ってしまったのだ。

「なっ?! ルマたちも早くもど・・・」

制止の言葉も空しく次の瞬間、魔法陣が完全に発動した。

幾何学模様の文字が一斉に青い光を放つ。

その光はあまりにも眩しくて目を瞑った。

シフトたちの身体は光に包まれる。

光が最高潮に達すると次第に収まっていく。

そして魔法陣の光が消失するとそこにはシフトたちの姿はなくなっていた。


光が収まったので目を開ける。

「ここは?」

シフトたちは周りを見渡す。

そこは森ではなく洞窟の中だった。

天井も高く今いる場所は広場みたいになっていて酸素もある。

ルマたちも先ほどの光に巻き込まれていたが、怪我もなく無事であることに胸を撫で下ろす。

シフトはルマたちのほうに行くと声を荒げた。

「ルマ!! どう・・・いや、みんな無事で良かった」

冷静に考えればルマたちはシフトを心配して危険を顧みずに飛び込んだのだ。

なのにきつく当たっては無下にしているようなもの。

シフトはルマたちに頭を下げる。

「すまない、軽率な行動をとった」

「ご主人様、すみません。 私たちこそ勝手な行動をしました」

ルマたちもシフトに対して頭を下げた。

「え・・・っと、最初に軽視した行動をとったのはぼくだし、その・・・みんなごめん」

あとからやってきたフェイがシフトたちのところに来ると頭を下げる。

皆が皆不注意により軽率な行動をとったことに反省した。

シフトたちは頭を上げると状況を整理する。

「どうやら先ほどの魔法陣はここへの強制転移みたいだ」

「転移?」

「まさかそんなトラップだったなんてね」

「ここがどこなのかがわからないな」

「とりあえずはここで待ってみませんか?」

「先ほどの魔法陣が現れて元の場所に戻れるかもしれませんし」

「そうだな・・・まずは待ってみるか」

待つこと30分、一向に進展がなくただ時間が過ぎただけであった。

シフトはこれからについて考える。

この広場には3ヵ所の道があり、どこから調べるか、全員で行くべきか。

「みんな聞いてほしい。 これからここを調べてできれば元の場所に戻りたいと思っている。 まずはどこから調べたいか聞きたい」

「はい、まずは風の流れを感じるほうから調べるべきです」

シフトの質問にフェイが答える。

普通に考えれば風が流れてくるということは地上や出口に近いということだ。

フェイの意見にローザも賛同したのか頷いていた。

「なるほど、僕もフェイの意見に賛成だ。 みんなはどう思う?」

「調べる価値はあります」

「ベルも賛成」

「わたくしもフェイさんの意見を尊重しますわ」

「なら決まりだな。 はぐれないように全員で行こう」

「「「「「畏まりました、ご主人様」」」」」

シフトの決定にルマたちは首を縦に振る。

風が流れてくるほうの道を歩いていくと転移させられたところよりも大きい広場に辿り着いた。

そこは上空から光が差し込んでいたが、問題はその高さだ。

頑張ればここから地上に出れなくはないが、まず足場がほぼない。

空中を優雅に飛んでいる魔物が大量にいるのだ。

シフト1人なら問題なく突破できるだろうが、ルマたち全員を引き連れては無理というか無謀である。

「ここは無理そうだな」

「戻りましょう」

引き返して先ほどの広場に戻る。

残された道は2つ、その内の1つからは微かに水の音がした。

今度は水の音が聞こえる道を歩いていく。

しばらく進むと小さな広場が見えたので、入ってみるとそこには直径2メートルほどの水たまりが存在するだけであった。

広間にはほかへと続く道がないので来た道を引き返す。

シフトたちは最後に残った道を進む。

歩いていると先ほどと同じくらいの大きさの広間に出る。

部屋には下る階段が見えた。

地上を目指すのに下るとか意味不明だが進む道がそれしかないのでシフトたちは階段を下りていく。

そこからは広間と道と階段の上り下りが続いた。

広間には高確率で複数の魔物が現れる。

ケイブバットやケイブリザード、ロックゴーレムなどが襲ってきた。

ロックゴーレムはシフトが相手をし、残りはルマたちに対処してもらう。

滞りなく戦闘が終わるとシフトたちは先に進んでいく。

ある程度進んだところの広間でフェイが赤い顔をしてシフトに声をかける。

「あ、あのご主人様。 その・・・」

フェイがもじもじしている。

「あ、いいよ。 広間から出てるから」

フェイの態度から生理現象と推測した。

女性であれば誰もが気になることだろう。

シフトはフェイが何を話したいのか察すると広間から出て行こうとする。

が、次の瞬間フェイが慌てた声でシフトを呼んだ。

「ご、ご主人様! こ、こっちに来てください!!」

「ん? どうした? フェイ」

フェイに呼ばれて行ってみるとそこには糞尿があった。

最初はゴブリンやオーガなどの魔物がしたものかと考えたが、こんな隠れたところでするのかと疑問に思う。

思考の行き着いた先は今のフェイみたいに女性が用を足すためにそこで行われたものと推測した。

そしてこんな場所に女性がいるとすれば可能性として高いのはあいつらしかいない。

『勇者』ライサンダーのパーティーメンバーである『聖女』ルースと『賢者』リーゼだ。

もしかするとシフトたちと同様にあのトラップでここに飛ばされた可能性がある。

「なるほど、わかった」

シフトはフェイから離れて広場から出ていく。

もし『勇者』ライサンダーたちが近くにいるのなら・・・

「いよいよか・・・」

ルマたちの休憩が終わると先を目指して進む。

心なしか歩く速度が速くなっているような気がした。

実際に気持ちがはやっていたのだろう、ルマたちの歩幅を考えずに前に進んでいたようだ。

(落ち着け・・・この先に『勇者』ライサンダーたちがいるとは限らないんだから)

シフトは自分を戒める。

深呼吸をして今度こそいつも通りルマたちと同じ速度で歩いた。

そうしてあれからいくつもの広間を通り過ぎていく。

ある広間の近くまで来ると人の声が聞こえてきた。

そこでは男女数人が話し合っている。

シフトは目を見開いた。

何しろその声に聞き覚えがあるからだ。

シフトが荷物持ちをしていたときに嫌でも聞いた声。

大陸最大のダンジョン『デスホール』で殺されそうになった記憶が甦る。

シフトは気が付くと広間のほうに歩いていた。

目を向けるとそこには忘れもしない5人の男女がいたのだ。

「ついに見つけたぞ、ライサンダー」

シフトは小声で呟いた。


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