101.束の間の休息
シフトとギルバートとサリアが『猫の憩い亭』の前に食事処に着くとそれに合わせたようにルマたちもやってきた。
「あ、みんな、僕たちがここに来たことがよくわかったね」
「上から見えたので急いで来ました」
シフトの問いにルマが答えた。
「ルマ君たちも久しぶりだね」
「ルマ様、ベル様、ローザ様、フェイ様、ユール様、お久しぶりでございます」
ギルバートとサリアが挨拶するとルマたちも一礼する。
「それじゃ席を確保しておこうか」
店に入り場所を確保すると各々が好きな物を頼んだ。
そこに遅れて衛兵アルフレッドがやってくる。
「すまない。 遅れた」
「いえ、僕たちもちょっと前に来たばかりです」
「おお、そうか。 おっとギルマスとサリア様もご一緒ですか」
「ああ、シフト君たちの冒険譚を聞きたくてね」
「シフト様に許可を貰っております」
「あっはっはっは、気にしてないぞ。 俺も坊主の旅について聞きたいからな」
アルフレッドはいつもみたいに笑っていた。
それからはシフトたちのこれまでの旅についてギルバートたちに話した。
ヘルザードに行って成り行きで女性たちを助けたこと。
王都スターリインでは巨大モンスターが突然現れたこと。
パーナップでは獣人が侵攻してきたこと。
獣王国に行って王族の問題に巻き込まれたこと。
砂漠でサンドワームの群れに次から次へと襲われたこと。
ヴァルファールではギャンザー伯爵に絡まれたこと。
デューゼレルの首都でモンスターの大群と戦ったこと。
再び王都を訪れた際に帝国の皇子であるズィピアスが暴走して混成軍による侵略があったこと。
シフトの目的である『復讐』の部分を除いて簡略に話した。
「おお、すごいな。 そんなことがあったのか」
アルフレッドは酒を飲みながらシフトの冒険譚を鵜呑みにしていた。
しかし、ギルバートとサリアは事の重大さに目を白黒させている。
「えっと・・・シフト君、今の話はどのくらいが本当のことなのかな?」
「話は端折っていますが全部ですけど?」
「そ、そうですか・・・」
ギルバートとサリアは顔を合わせると溜息をついた。
そんな2人を置いてアルフレッドが質問してきた。
「坊主の目的は済んだのかい?」
「いえ、まだです。 ここには近くを通りかかったので立ち寄っただけです。 2日後にはここを出発する予定です」
「はっはっは、坊主も大変だな。 今度はどこに行くんだい?」
「東南東にある森に行く予定です」
「森? あそこは今モンスターが湧いて出るので国王が遣わした勇者様たちが対処しているところだぞ?」
「ええ、実はそこに用があってこれから行くのです」
そう、『勇者』ライサンダーたちへの復讐をしに行くのだ。
シフトは表情には出さず、心の中で怒りを露わにしている。
アルフレッドは不思議そうな顔をしていたが、事情を知っているルマたちや察しているギルバートとサリアは何とも言えない顔をしていた。
「そうかそうか、坊主も今日明日と英気を養って準備を万端にしないとな」
「ええ、だから明後日の出発までこの町で心と身体をリフレッシュしますよ」
「うんうん、それがいいぞ。 ほれもっと飲め」
アルフレッドはシフトに果実水を勧めならが自分はエールを飲んでいる。
シフトも彼の好意を受けながら果実水や食事を楽しんだ。
やがて宴も終わり、店を出ると其々の帰路に就く。
「それじゃあな、坊主」
「今日は楽しかったです」
「おう、俺も楽しかったぞ」
アルフレッドが立ち去るとギルバートとサリアも声をかける。
「シフト君、今日は楽しかったよ」
「久しぶりに癒されました」
「こちらこそ、楽しい時間を過ごせました」
ギルバートは真剣な眼差しでシフトを見た。
「シフト君、もし目的が済んだらどうするんだい?」
「そうですね・・・その時になってみないとわからないです」
目的を達成した後についてはいくつか候補がある。
だが、どの選択をするのかはその時になってみないとわからない。
「僕としては冒険者ギルドに勧誘したいけどね」
「ははは・・・考えておきます」
シフトはありえる未来の1つとして心に留めておくのであった。
滞在2日目にはシフトたちは硝子工房を訪れていた。
ベルとローザが鍛冶屋と錬金術師の工房に赴いたが懐かしさから話し込んで終わったのである。
シフトたちは硝子体験ができる工房にお邪魔した。
どこからか聞きつけたギルバートとサリアも一緒だ。
工房主が透明な硝子の作り方をレクチャーし、ローザが実際に硝子を作成する。
「シフト君、ローザ君はどうして硝子を作成しているんだい?」
「本人が習いたいからだそうです。 王都では体験できなかったので」
「ああ、王都の職人はプライドが高いのが多い。 一見さんお断りなんて当たり前だからね」
ギルバートは納得するとローザのほうを見る。
そこには小さいながらも透明な正方形の硝子ができていた。
「これならわたしでもできそうだ」
「あとは強度と大きさだけ」
ベルとローザが頷く。
どうやら納得のいく物ができたようだ。
工房主に礼を言うとシフトたちは外に出る。
空を見上げれば太陽は真上まで昇っていた。
「シフト君、これからどうするんだい?」
「お昼にします。 ギルドマスターとサリアさんもどうですか?」
「もちろん、サリアもいいよな?」
「ええ、ご一緒します」
シフトたちはサリア行きつけの食事処に行くことになった。
ここのおすすめはハンバーガーとのことでシフトたちは全員ハンバーガーと果実水とポテトも注文する。
届いたハンバーガーを頬張っているとギルバートが話しかけてきた。
「シフト君、東南東にある森だがあそこは帝国との国境線でもある。 それに黒い噂が絶えない」
「勇者がその森にいる魔物をある程度弱らせてから帝国に引き渡したってことかな?」
「! その通りだ。 よくわかったね」
「勘だけどね。 ただ、帝国の皇子がありえない数の軍団を形成していたからもしかしてとは思ったけど」
「気を付けたほうがいい。 勇者もだが帝国も何を考えているかわからないからね」
「素直に忠告を受け取っておくよ」
それだけ言うとシフトとギルバートは食事を再開した。
食事が終わるとギルバートとサリアは仕事に戻るといって店の前で別れる。
シフトたちはウィンドショッピングと洒落こむことにした。
衣類を見たり流行りのスウィーツを食べたりと楽しんでいる。
街中を歩いているとふと疑問に思ったのでシフトはルマたちに問いかけた。
「みんな、聞いてほしい。 もし僕の目的を達成したらどうしたい?」
「どうとは?」
「僕の中ではルマたちと結婚して世帯を持ちたいというのは確定だけど、例えば行きたい場所とかないかなって・・・」
「私はご主人様とならどこでもいいですよ」
「ベルも」
「わたしもルマと同意見だ」
「うーん、ぼくもルマちゃんと同じかな」
「わたくしもルマさんたちと一緒ですわ」
シフトと一緒にいたい、それがルマたちの本音だ。
「そっか・・・すべてが終わったらちゃんと考えないといけないな」
シフトはいつの間にか傾いた太陽を見ながらつぶやいた。
旅立ちの日、シフトたちは朝早くからミルバークの西門に行くとアルフレッドが声をかけてきた。
「よう、坊主。 もう出発するのかい?」
「ええ、また旅に出ます」
「そうか、いつでも帰って来いよ。 俺もギルマスもサリア様も坊主が帰ってくるのを楽しみに待っているからな」
「はい、それでは行ってきます」
シフトはアルフレッドと握手すると門を出た。
ある程度町から離れるとシフトは空間から魔動車を出すと一路東南東へ向けて駆けだした。
翌日には帝国との境界線である森に到着する。
(この森の中にライサンダーたちが!)
魔動車を空間にしまうとシフトたちは森の中に入っていく。
目的を達成するために。