99.スキルの可能性
帝国の皇子ズィピアスとの戦い(?)で王都は多大なる被害を受けていた。
だが、気を取り直した人々により復興は意外と早く行われている。
街中を歩いていると西門側の観光名所である聖教会や大聖堂が大いに賑わっていた。
シフトが使ったあれが原因で無神論者だった人たちが足繁く通っている。
王都ではあれは神が怒り天より降らせたということになっているらしい。
それを聞いたシフトはルマの気持ちがわかってしまう。
(ああ、なるほど。 ルマもこんな気持ちだったのか・・・)
過ぎたことは仕方ないと気持ちを切り捨ててシフトは前に進むのであった。
翌日、国際会議は帝国を除いた王国、皇国、公国、エルフの隠れ里、ドワーフの国、獣王国の6ヵ国で改めて行われた。
帝国の処遇については話し合った結果、一旦保留となった。
帝国が問題を起こしたこととはいえ、ズィピアスの暴走なのかそれとも帝国の総意なのかわからないからだ。
今回王国で起きたことを書簡にしてすでに帝国に送付した。
これの回答次第では帝国との戦争もありうるだろう。
その時は王国を荒らされたくないので、帝国に出向きあれを全土に振らせる予定でいる。
シフトが打ち漏らした残党についてはあの場にいた第一騎士団及び第一魔法兵団がすべて討伐した。
もっともシフトの氷の塊によってほぼ壊滅状態からの追い打ちなので苦労することなく殲滅できたのである。
功績を考えるならシフトの活躍を100とすると第一騎士団及び第一魔法兵団が活躍できたのは僅かに1といったところだろう。
それでも脅威を取り除いたことには変わりない。
現在は戦場の後処理をしているが、特に大変なのはシフトがそのまま放置した氷の塊である。
そのまま放置すると溶けた氷により地盤が崩れ脆くなるからだ。
だが、ルマの【氷魔法】が想像以上に強力で一昼夜経っても中々解けなかった。
そこで王都の飲食店や氷菓子を販売している業者が大勢やってきてこの巨大な氷を切り取って王都に運んでいる。
もちろん国王であるグラントも部下に命令してちゃっかり回収していた。
余談だがこの年は氷菓子を半額で提供していたこともあり飛ぶように売れていた。
人々を脅かした氷の塊だが最後は人の役に立ったのである。
各国の経済や貿易については今まで通りに行う予定だ。
必要な物資の調達は硬貨とのやりとりか物々交換で問題なく行われる。
獣王国の在り方についてはタイミューが上に立ち責任をもって管理することで合意する。
必要であれば5年くらいは他国からの援助する旨を伝えた。
そして滞りなく会議は進み、グラントは最後に質問をする。
「さて、これで会議は終わるがほかに何かあるかな?」
それを聞いて真っ先に手を挙げたのはエルフの女長老エレンミィアだ。
「はい、我々エルフ族はシフト殿を迎え入れる準備ができています。 是非エルフの里に永住して頂きたい」
「これ、エレンミィア殿。 その独占的な発言は認められんぞ」
「あら、ラッグズ殿も彼の者が欲しいのではなくて?」
「否定はせんがな。 あれほどの力があればわしらにも何かしらの恩恵を受けられるだろうからな」
エレンミィアとドワーフの鍛冶王ラッグズはお互い睨み合い牽制している。
そこにタイミューが割って入ってきた。
「ダメデス。 シフトサンハワタシマセン」
「あら、タイミュー女王陛下は彼を随分と気に入っているようですね」
「タイミュー殿には申し訳ないがこれは譲れんよ」
「ゼッタイニワタシマセン」
3人が揉めていると公国の王様レクントと皇国の皇子殿下チーローがシフトにアピールしてきた。
「シフト殿、わしの下で働かないか? 好待遇で持て成すぞ」
「シフト殿、朕の国に是非来てもらいたい。 そなたの力は必ずや皇国に栄光を齎すだろう」
「おいおい、皇国のボンボンは引っ込んでな」
「そちらこそ国で大人しくしているがよい」
レクントとチーローがお互い煽っている。
グラントは手を叩くと自分に注目させた。
「あぁ・・・シフト本人に聞くがよい」
グラントが一言いうと皆シフトに注目した。
「好意はありがたいが僕は誰の下にもつかないよ。 だって面倒だから」
シフトの一言に皆残念な顔をしていた。
「本人の意思を尊重してやってほしい。 ほかになければこれで会議を終了する」
グラントが終了を宣言すると皆席を立ち各々の部屋を出て行った。
会議室に残ったのはシフトとグラント、それとグラントの部下の騎士たちのみだ。
グラントは右手を軽く上げると騎士たちは退室した。
2人きりになったグラントはシフトに話しかける。
「さて、約束通り報酬を渡そうかのぅ」
「!!」
「『勇者』ライサンダーたちの現在の居場所だが、以前余が命令して東南東にある隣国との境に急に魔物が増えたのでそこに向かわせておる」
「・・・東南東だな」
「その隣国が帝国だ。 といっても直接繋がっている訳ではなくそこにある森が国境みたいなものだ」
グラントはそれだけ言うと部屋から出て行った。
1人残されたシフトは今得た情報を精査する。
「グラントは嘘をつくような男ではない。 東南東か・・・ライサンダーたちがいつまでいるかわからないがこの機を逃しはしない」
シフトは気持ちが落ち着くと誰もいなくなった部屋を後にした。
その夜は国際会議が無事とは言い難いが終了したことを祝して細やかな宴が行われた。
本来であれば各国の首脳たちはあと数日は滞在して個別での会議を行ったり、王都を観光する予定であった。
ズィピアスの暴走により、動向が気になるのか急遽明日自国に戻るそうだ。
宴にはグラントとタイミューを始めとした他国の首脳が参加しているのだが、なぜかシフトたちも参加させられた。
なんでも今回の功労者を蔑ろにはしたくないというのは建前で、本音はシフトを懐柔して自国に連れて行くのが目的だ。
もちろんシフトは丁寧に断った。
それはそれはこれでもかというくらいに丁寧に・・・
「あまりしつこいとあんたたちの国に行ってあれ落とすよ」
脅は・・・んん、説得により各国の首脳たちも今回は手を引いてくれました。
宴も無事終わりグラントが用意してくれた部屋へ皆戻っていった。
シフトは割り当てられた部屋で夜空の月を見ながらこれからのことを考えていた。
『勇者』ライサンダーたちへの復讐、右手の奇妙な紋様を持つ者たち、そしてルマたちとの関係。
復讐を完遂してルマたちとどこかでのんびりと暮らしたい。
だが、ここにきて右手の奇妙な紋様を持つ者たちがあちらこちらで暗躍している。
シフトたちに危害を加えないなら放置するが、行く先々で迷惑行為を受けているのでここらで尻尾を掴んで徹底的に潰しておきたいところだ。
それとグラントから気になる情報も手に入れている。
ギャンザーとシルファザードが王城から忽然と消えたそうだ。
ズィピアスと水面下で通じているのかというとそうではないらしい。
その証拠にあの戦場で2人を目撃したものがいないようだ。
シルファザードという女騎士は知らないがギャンザーは厄介というよりもう面倒臭いから相手にしたくない。
次合うことがあれば速攻でこの世から消す予定だ。
「復讐の旅ももうすぐ終わればいいな」
それらのことも大事だが忘れてはいけないのは国際会議の時にシフトを助けたスキルだ。
『お前はまだ限界を超えてないんだからな』
スキルは確かにそう言った。
この世界の常識ではスキルレベルは最大でレベル5:究極のはず。
究極・・・研鑽をした結果きわめたものだ。
だけどあの話し方だとさらに先があるということになる。
シフトは自分のステータスを見てもスキルのレベルは5までしか表示されていない。
ふと気になることがあり懐から[鑑定石]を取り出す。
この[鑑定石]のランクはSだ。
本来であればどんなにランクが高くてもAが最高のはずだ。
つまりこの[鑑定石]は何らかの力により限界を超えたといえる。
なら【鑑定】のスキルを持つベルはスキルレベル5が最高なのか?
人間としての最高は極めたという意味で5なのだろう。
だがふとしたきっかけでそれを超えたらどうなるのか?
それはまさに神の領域に足を踏み入れたことになる。
つまりベルの【鑑定】は神の領域に届く可能性があるということだ。
いや、ベルだけでなくシフトやルマたち、この世界で神からスキルを授与された者たちは皆神の領域へ届く可能性がある。
しかし、その領域に辿り着いた者は未だにいないということなのだろう。
シフトはスキルに意識を集中する。
今は何も語らず静かにしているようだ。
こちらから話しかけてもだんまりを決め込んでいる。
しばらく考えていたが結論は出てこない。
シフトは考えるのをやめて床に就いた。
翌日、タイミューたち各国の首脳は帰国の途に就いた。
シフトはタイミューとナンゴーを見送るとルマたちのほうに向いて行き先を告げた。
「みんな、これから東南東の方角に向かう」
「東南東ですか?」
「ああ、そこに僕の『目的』の人物がいるという情報を手に入れた。 準備ができ次第出発するから」
「「「「「畏まりました、ご主人様」」」」」
その日の昼にはシフトたちは王都を出発して東南東を目指すのであった。