8.深層での修行
【即死】、【認識】のおかげでなんとかなりそうだとわかったシフトは今いるフロアを探索することにした。
「まずは狼が現れた方角から調べるか」
少し進むと3匹のダーク・ウルフが現れてシフトに襲い掛かってきた。
「スキルになれないといけないしな」
【五感操作】を使って相手の五感を狂わせた後にナイフで止めを刺すを繰り返すこと三回。
ダーク・ウルフは光の粒子となって消えた。
それと引き換えに宝箱が現れた。
頭の中に声が響いてくる。
≪レベルアップしました≫
≪レベルアップしました≫
≪レベルアップしました≫
≪レベルアップしました≫
≪レベルアップしました≫
・
・
・
≪レベルアップしました≫
≪レベルアップしました≫
≪レベルアップしました≫
≪レベルアップしました≫
≪レベルアップしました≫
前回よりは少ないがレベルが上がって一安心である。
「無事倒せたみたいだな」
宝箱もポーションと魔石である。
今のところ持てる数に限りがあるので何が必要か見極めないといけない。
「ポーションは飲む。 魔石は袋に確保。 スキルは・・・上がってないな」
スキルレベルも上げないといけないが何をすれば上がるのかがまだわからない。
「【即死】、【認識】ときたけど次は何かな? 収納が欲しいから空間系かな?」
シフトはマジックバックみたいなイメージで空間に干渉できないか試してみたが何も起こらなかった。
「空間じゃなければ次は何だろう?」
考えてても仕方ないので先に進むことにした。
しばらく探索すると前方に魔法陣を発見した。
「あの魔法陣はなんだろう?」
距離をとって魔法陣を観察していると急に輝いた。
時間にして1~2秒だがそこにはあの狼が召喚されていた。
「誰だよあんな危険な魔法陣を設置したバカは?」
仕方ない倒して魔法陣を消滅させるかと動き出そうとしたそのとき、
「ガアアアアアァァァァァーーーーーッ!!!!!」
「な?! あれは!!」
右前方からすごい勢いで迫ってくるのは熊だった。
熊はダーク・ウルフに一直線に襲い掛かった。
左前足で攻撃すると避けきれなかったダーク・ウルフは吹っ飛ばされた。
壁に激突したあと、光の粒子となって消えた。
「えええええぇぇぇぇぇーーーーーっ?!」
あまりの出来事に素っ頓狂な声を上げてしまう。
熊はシフトを次のターゲットにして襲い掛かった。
ダーク・ウルフを倒した左前足がシフトを捉えるも空を切った。
熊は左前足とシフトを交互に数回見た。
シフトは【五感操作】があれば勝てると余裕を見せた次の瞬間熊は予想外の攻撃に出た。
近くの大きな岩を両前足で持ち上げてシフトの方に投げたのである。
慌ててその場所から退避するも地面にぶつかった岩が砕け石礫として周りに飛び散った。
石礫はもちろん痛いが、それ以上にシフトの位置がバレてしまったのだ。
この隙を逃さず先ほどと同じくらいの岩を投げてきたのである。
シフトは回避できず直撃を喰らい後方へ吹っ飛ばされた。
(なんだと?!)
倒れているシフトを見て止めとばかりに熊が必殺の左前足で攻撃するも当たらない。
【五感操作】のおかげで助かったが熊もそれを理解したのか先ほどと同じように岩を投げてきた。
(この熊頭が良すぎるだろ!!)
次から次へと岩を投げ続ける熊、対して避け続けてなんとか懐に入って仕留めたいシフト。
このまま続けば有利な地形とサバイバル歴で圧倒的に上回る熊に軍配が上がるだろう。
(くぅ、このままじゃ・・・やられる!!)
今もシフトに近づかず岩を投げ続けている。
このままだと負ける!
そして殺される!!
(僕も同じ攻撃ができれば・・・)
シフトが危機的状況でそんなことを考えると、
≪確認しました。 スキル【ずらす】レベル3解放 【物理】をずらします≫
「はぁ?! 【物理】をずらす?! どういうことだ? 意味わかんないよ?」
[鑑定石]で【物理】の能力を調べたいが戦闘中にそんなことをしていたらやられてしまう。
シフトは岩を避けながら【物理】の使い方を考えてみた。
もしかするとあの岩を熊にぶつけるとか?
試してみるか・・・
「ぶつかれっ!!」
熊が次の岩を持ち上げる瞬間、別のところにある大きな岩がすごい勢いで右側面にぶつかって吹っ飛ばされた。
「ガアアアァァァーーーッ!!!」
ダアアアアアァァァァァーーーン!!!!! ダアアアァァァーーーン!!! ダアァーーーン!
熊の体が1バウンド・・・2バウンド・・・3バウンドでようやく止まった。
「ぶっ!!」
予想外の光景と威力に思わず吹き出してしまった。
今ので終わってくれればと願うも熊の身体が痙攣しながらも動いた。
熊は体勢を立て直そうと起き上がるも予想以上にダメージが大きかったようだ。
よろよろふらふらしていてとても戦える状態ではない。
シフトは先ほどみたいに岩を熊にぶつけるイメージをした。
すると岩がものすごいスピードで熊の方に飛んでいき轢いたのだ。
直撃を受けた熊は綺麗な放物線を描くように吹っ飛ばされた。
そして頭から地面へ激突した。
ダアアアアアアアァァァァァァァーーーン!!!!!!!
その衝撃で地面が揺れる。
「・・・ガァ・・・ゥ・・・ァ・・・ゥ・・・ゥ・・・(ガクッ)」
熊は呻き声をあげ再び立ち上がろうとするも口から血を吐きその場に崩れ落ちて力尽きた。
しばらくすると頭の中に声が響いてくる。
≪レベルアップしました≫
≪レベルアップしました≫
≪レベルアップしました≫
かなりレベルが上がったのにまだ上がるのか・・・
って、この熊どれだけ経験値を持っているんだ?
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・な、なんとか倒したな・・・」
シフトはその場で大の字になって倒れて熊のほうを見た。
光の粒子となって消えて・・・いかないぞこの熊?!
身体に鞭打って起き上がり周りを見渡すも宝箱が現れない・・・なぜだ???
しばらく考えて出した結論は単純なものだ。
魔法陣から出現したのではなく自然発生したモンスターだからだ。
それともう一つ、ある事実に辿り着く。
「・・・んんーーー久しぶりの肉だあぁぁぁぁぁーーーーーっ!!!!!」
そう、肉! 肉である!!
過去に片手で数えられるほどしか食べたことがない肉である!!!
いつも捌くだけで口に入れることができずただ眺めるだけ。
ザールやライサンダーたちが美味そうに食べているところを思い出すだけで怒りが込み上げてくる。
「ここには僕を邪魔するものは誰もいないっ!! 僕がこの熊肉を独り占めできるんだっ!!!」
先ほどまでの疲れが嘘のようになくなりやる気が出てきた。
「早速捌くぞぉ~♪」
ノリがリーゼにそっくりなような気がした・・・うん、気のせいだろう。
「まずは血抜きと内臓処理かな・・・」
シフトは肉の処理手順を可能な限り行い、食用の熊肉を手に入れた。
「次は調理だぁ~♪」
シフトはポケットから火打石を取り出す。
「火打石を持っていてよかった。 毛皮は勿体ないけど肉のためだ、燃やそう」
手際よく火打石を擦り合わせてたたくと火花が飛び散る。
本来は藁などの燃えやすい物で火を起こすのだがここにはそんな物はないので熊の毛皮を代用品にする。
無事火が付いたので次の工程に進む。
「さぁ~ついに肉を焼くぞぉ~♪」
シフトは熊肉を焼いていく。
「[鑑定石]で肉の状態を確認して・・・うん、大丈夫だね♪」
香ばしい匂いが漂っている。
我慢できない、早速熊肉をいただこう。
「それじゃあ、いっただっきま~す~♪」
熊肉を頬張るとあまりの美味さに涙を流し始めた。
「はぐはぐはぐ・・・うぅーーーん、美味しいぃーーーーーっ!!・・・はぐはぐはぐはぐはぐ・・・」
シフトは満腹になるまで熊肉を堪能するのであった。
30分後───
「・・・はぁーーー、食べたぁーーーーー、今後は熊を最優先にして狩らないと・・・」
お腹をさすりながらとんでもなく危険な発言をしていた。
腹も満たされたし次は何しようか考えてみた。
先ほどの戦いでスキルレベルが上がっていたな。