悪逆王女と貧民街
リリアンヌ国外追放まで、あと十一ケ月一週間。
「貧民街偵察編」開始です。
「はぁぁぁぁぁああああああ⁉」
リリアンヌの大声(二度目)は、屋敷中に大きく響き渡った……。
その日。リリアンヌは図書室に来ていた。
クレーレ領主館の図書室は、王都の図書館に次ぐ蔵書量を誇る。そのため、調べものにはうってつけだ。
リリアンヌが図書室に来たのは、読書を嗜むから……ではない。国外追放回避のための調べものである。
「なにか、調べものですか?」
司書が聞く。彼女は、もう老婆で、クレーレの侵略未遂前から働いていたらしい。
勿論、リリアンヌのことも知っていたが、最初から彼女の相談役として働いてくれていた。
(あら?でも、なんでこの領地の人は優しくしてくださるのかしら……?)
一瞬、王都から別の情報が流れていたのか、と思ったのだが、それは違うだろう。すぐにその考えを打ち消した。
(まぁ、分からないことを考えても仕方ありませんわ。今は経済復旧のことを考えましょう)
図書館で調べたり使用人に聞いたりした結果……。クレーレの現状は、かなりひどいものだと知った。
まず、貧民街が多い。昔の伯爵は人が良かったのか、または打算的な人間だったのか、貧民街がゼロだったのだ。だが、戦のせいで領地を治める者がいなくなり、貧民がとても多くなった。
次に、お金が入る要素がない。観光するにもビーチも今やゴミばかりで人が来る要素がない、畑は貧相で採れるものは形が悪く、粗悪品、森の恵みを採るのにも魑魅魍魎の類がうじゃうじゃいるのだ。前領主は、『光』属性を持っていたから、凌ぐことができたのだろう。光魔法は、魔獣を浄化することができるのだ。
「さーて、どうしましょうか……」
一人きりの執務室にて呟く。
今は、セシルはジークに魔法を教え、ブレッドは孤児院へ支援に行っているだろう。ゆえに、今、リリアンヌは一人で考えることができるのだ。というか、セシルたちがそれを察して出ていってくれたのである。つくづく有能な側近だ。
「あの三人は有能ですわ。使わない手はありませんわね……」
セシルは頭の回転が速く、氷魔法を使うことができる。
ブレッドは魔力こそ無いが、あの交渉力は王族であったリリアンヌも、目を見張るところがある。
ジークはただでさえ多い魔力を持つセシルの三、四倍の魔力があり、闇魔法という希少な属性を持つ、頭のいい少年だ。
いえばリリアンヌにはできない芸当をこなすことができるのだ。あれを使えば何とか……と、考えたところで。
「あのぉ、リリアンヌさま」
「あ、はい、何ですの?」
リリアンヌは外にいた文官に呼びかけられ、入室を許可する。
「王都から、手紙です」
「…………っへ?」
予想外の言葉に、反応は遅れる。
「王都からって、あの王都からですの?」
「はい。王都です。恐らくリリアンヌさまがご存知の」
「わ、分かりましたわ。そこに置いて、戻って大丈夫ですわ」
よく意味が分からないまま、というか、脳が理解しようとしていない。その頭で勝手に口が動き、文官は出ていった。
「な、なんなんですのっ?ジークさんの件ですか……?」
再び一人きりとなった執務室によってリリアンヌは文官が置いていった便箋を見つめる。
ジークの件、というのはリリアンヌが孤児院で話した、『ジークの情報を王家に渡し、魔力提供を条件に領主館で監視する』というものだ。
ジークのような『魔力過多症』の人間は王家に引き渡すのが義務。それに国王がご立腹なのだとしたら……?
「いや、ないでしょう。王なんだから、懐が深いのは普通。許しているはずですわ……」
余裕なく、独り言ちる。だが、まさか、それが……というのは考えずにはいられないのだ。
恐る恐る、便箋を開ける。そこにあったのは……。
『リーナ・メーデルが聖女に選ばれた』
「はぁぁぁぁぁああああああ⁉」
「リリアンヌさま、先ほど大声が聞こえましたが……大丈夫ですか?」
執務室に入ってきたセシルとジークが聞いてくる。
「それ……それ……」
涙ながらに呟くリリアンヌが指さしたのは、あの便箋だった。
「これがどうされましたか……?」
ジークが聞き、セシルが便箋を見、目を見開く。
「メーデル伯爵令嬢が、聖女に選ばれた……?」
「えぇ……」
ジークには話を聞かせては悪いので、執務室から出して、セシルと話す。
『聖女』とは、複数いる癒し手の中でも、特にその力が強い女性のことである。
そんな神聖な職のにあの忌々しい卑しい女(リリアンヌ曰く)が就いた、というのは、彼女が王太子妃、後に王妃になる口実が出来てしまったのではないか。
「ま、まずいですわ……聖女は貧民街に来ることがありますわ……」
「リリアンヌさまを貶めた相手がここに来るのは気まずいですね……」
聖女は、貧民街や貧乏領地に慰問に来ることがある。なので、クレーレに来る可能性が多い。というか、十中八九来るだろう。だとすれば、宿敵が来てリリアンヌの心が痛む。
セシルの脳内では、リーナ=リリアンヌ(敬愛すべき主)を貶めた相手……となっている。そのため、リーナが来るのは主の心を痛めつけるのだ。
ゆえに。リーナが来るのは二人とも許せない。許せないのだが……。
「止められませんわね……」
聖女の権力は、時に王より高くなる。だから、彼女が行きたいと言ったらすぐに来るだろう。
ならば。
「聖女の入る隙なんてない程この領地を有名にしてやりますわ!」
この判断が後にリリアンヌを救うことになるのだが。
腹黒い思惑にまみれた彼女は、まだ知らない。
ご読了有り難うございました!!(^^)!




