孤児院偵察での一騒動 其の終
「ジークさんの情報を王家側に引き渡し、魔力の提供を条件に領主館で監視する形をとるわけですね?」
リリアンヌの発言に、セシルが問う。
「えぇ。簡単に説明するとそういうことですわ。領主館で監視という形をとれば、魔力操作の技術も覚えることができ、しかもいつでもここに帰れますわ。監視役が付くことになりますが。魔力が提供されるのなら王家側も文句ないでしょう。それに、ジークさんの実力を引き出す事にもなりますわ」
リリアンヌが思うに、ジークは頭もいい。今の話を聞いていると、それを実感できた。
リリアンヌは、領主館で彼を引き取ることによって彼自身の潜在能力を引き出そうとしたのである——なーんてことはない。ただ単純に、ジークとバルバラたちを引き剥がさぬために動いただけなのだ。結果的にこうなってしまっただけで、半分後付けである。
「それでいいのでしたら、早く手続きを進めてしまいましょう。早めがいいですわ。三日後、王家から視察が来るのです」
ブレッドが領主館に報告に帰った後。
「孤児院の支援をして頂いた上に、息子を守っていただけるなんて――。本当に、有り難うございました、リリアンヌさま」
「いえ。わたくしのにも利益がありますわ。では、帰りますわ……っ⁉」
そう言った瞬間、リリアンヌは悪寒を感じた。
(なんですのっ⁉これって……魔力暴走の……!まさか!)
「セシルっ!ジークさんに威圧をかけて!魔力が暴走しますわ!」
リリアンヌがそう叫ぶが、それもむなしく、顔色を悪くしたジークを中心に辺り一帯に暗雲が立ち込めた。
強い衝撃に耐えたセシルは、魔力で動ける空間を作り出し、漸く立てるようになった。
魔力が暴走すると、その場にいる者は全員動けなくなる。強い魔力に『威圧』されるためだ。
『威圧』とは、魔力が周囲のもの、この世の全ての生きとし生ける生命に、物理的な大きな衝撃を与えることだ。修業次第で特定の者に当てることが可能であり、リリアンヌはセシルにそれを命令したのだ。
(リリアンヌさま……大丈夫、かな……?)
魔力が強い幼い主の安否が確認できない。心配だ。
「この強い魔力の中じゃ、そもそも歩くこともできないわね……ブレッドが先に帰っていてよかったわ……」
ブレッドには魔力がない。それが変なのではなく、魔力があった方が変なのだ。
もともとクレーレは魔力があまりない者がたくさんいたため、別におかしいことではない。
「リリアンヌさま……絶対に、死なないでくださいね……!」
セシルは、彼女が信頼する領主の安全を願い、この事故の解決のために走り出した。
「バルバラさんっ!大丈夫ですのっ?」
「はい……リリアンヌさま、ありがとうございます……」
セシルが動き始めたその頃。リリアンヌは、自分の魔力を張って、結界を作っていた。
「なら、よかったですわ。バルバラさんは、この中に居てくださいまし。決して、出てはいけませんわ」
「はい……わかりました、リリアンヌさま」
最後にバルバラに注意を言い渡し、セシルと同じく、ジークのもとへ駆け出して行ったのだった。
「っ……!」
リリアンヌとセシルがジークのもとに着いたのは同時刻であった。
暗雲が立ち込める中、彼女たちは魔力感知だけを頼りにここまで来た。この先にジークがいるに違いない。
「セシル、身構えてくださいな。彼の魔力を封じるのはわたくしがやりますが、いざとなったときには……」
「心得ております」
ジークの魔力は、恐らくまだ残っている。だが、今は魔力を一気に、しかも大量に放出しすぎて気絶しているのであろう。だとしたら、まだ魔力暴走が起こる可能性はゼロではない。だから、セシルに、その時はジークに威圧をかけろ、と言ったのだ。
「では、行きますわよっ!」
リリアンヌの掛け声に、ふたりはジークのもとへ走り出した。
気絶したジークのもとへ着くと、セシルは手に魔力を籠め、リリアンヌはジークの胸元に手をかざす。そして――。
『聖光魔法・封緘』
パァッ、と手が光り、ジークの身体が光りだす。
聖光魔法。彼女の母、マリアベル・アーゲルの実家、アーゲル侯爵家の属性だ。それは万能な属性であり、封印、回復、身体強化……と、多種多様な使い方ができる。
リリアンヌは、アーゲル一族以外の者で唯一これが使えるのだ。
「封印はよし、後は……」
「ぅん…………」
「ジークさん、起きたのね?」
ジークが目を開けたのは、領主館であった。
彼が気絶している間に、リリアンヌたちは領主館に帰ってきたのである。
「魔力がほぼ空っぽになっているでしょう。無理しない方がいいですわ……では、モニカ、後はお願いいたしますわ」
そう言い、リリアンヌはジークの部屋から出ていった。
その時、胸中では。
(フフフ……国外追放、回避のために彼には役に立ってもらわなければ……!)
と。打算的なことを考えていたのであった。
ジークの魔力暴走を封印した後、リリアンヌは孤児院支援のための書類を作っていた。
あの時、彼女の魔力はほとんど減らなかった。魔力が沢山あるからである。封印魔法を使っても、ちょっと減ったぐらいで、自分の周りに漂う魔力は目測では減ったか分からない。
つまるところ、彼女はジークのように魔力切れを起こして気絶したりせず、タッタタッタともっどて来れたのだ。
「ふわぁ……けど、一仕事終えた後のお菓子は美味しいですわ……」
カステラを食べながら、リリアンヌは呟く。
「うーん、この調子なら復興可能、ですわね!」
実際、無理である。彼女はまだ出費しかしていない。だが、彼女の勘が告げていた。
「よし、お仕事頑張っちゃいますわよ!」
そう呟き、リリアンヌは書類を次々と仕分けていったのであった――。
だが、彼女は気づいていなかったのだ。
この領地、クレーレは情報がほとんど入ってこない寂れた土地だということを。
そして、王都で、今、一騒ぎ起きているということを……。
「なんですってぇぇぇぇぇぇええええええ⁉」
また、新たな事件が起きることを、彼女は知らない。
孤児院偵察 編 END
孤児院偵察編完結です!
ご読了有り難うございました!




