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悪逆王女の領地経営  作者: 天月 灯翠
領地救済編
3/21

王からの試練

改稿しました。

「な……何ですのぉっ⁉これは!」

 リリアンヌの声は、屋敷中に響き渡った……。


 王都からの使者が来たとき。リリアンヌは、自分の部屋でゆったりと寛いでいた。

 ここ、クレーレ領に来て一ヶ月経つ。目立った揉め事や災害はなく、安穏としていた。仕事もセシルがほとんど手伝って(……)くれるし。

 お茶を飲み、他領から取り寄せてきたフルーツを食べる。王女らしかるぬ行儀が悪い格好をしながら。王宮の侍女たちが見たら、悲鳴を上げるだろう。いや、今は違うかもしれないが。

(あぁ、凄く寛げますわ……王都に居たときはいつあの女の派閥の者に毒殺されるかわかりませんでしたから……)

 ちなみに、食事には三度、毒が含まれていた。いずれも死ぬようなものではなかったが、お腹が五日間ぐらい痛くなったり、眩暈がしたり……悪戯であることは確かなのだが、もしリリアンヌが「天使」の時代であったなら、王太子によって極刑にされていたことだろう。王太子もシスコンだったから。

(まぁ、今はリーナ……がいるからせいぜい解雇で済むでしょうけれど)

 リリアンヌは、リーナのことをとてもよく知っている。貧乏伯爵家のメーデル伯爵家の生まれであるということ。王太子より一つ下の一六歳であること。そして、古代に存在していた「聖女」のように心が澄んでいて、悪く言えばお人よしであるということ。そして——。

「乙女ゲーム、ってよく言ってましたわね、奴は……。わたくしのことを『悪逆王女』って言ったり……。あれ、今も謎ですわ……」

 リーナは、ふと一人になった瞬間に『乙女ゲーム』と言ったり、リリアンヌと会った瞬間、『悪逆王女』と言ったことがある。しかも、何度か。リリアンヌにとって、あれは未だ謎。国中の如何なる書物を調べても、そんな言葉は存在しなかった。

 リリアンヌは、他国の言葉だと思っている。十五歳になったとき、王族は『魔術帝国』に行く。そこで一年間学ぶ。いわゆる留学である。帝国は、周辺の国の多くを属国として従えており、それはティメイア王国も例外ではない。故に、周辺国の情報が多く詰まった、情報の宝箱なのだ。

 だが、遣わされた王族・高位貴族の子息令嬢たちは属国との争いが起きたときのための人質でもある。だが、帝国は豊かだが強大な兵力も持ち合わせている。故に、属国が逆らえばその国は99.9%の確率で滅びる。残りの0.1%に賭けるのなら……一撃で一国を滅ぼせる兵器でも作らなければならないだろう。だが、それを開発する前に間諜や大使によって帝国に嗅ぎつけられ、滅びるだろう、その国は。

「まぁ、もう王女ではないのですから、無理ですわね……機会があったらいいですが」

 とまぁ、こんな感じのことを約一ヶ月間、つまりクレーレに来てほとんど毎日しているリリアンヌであった。


 王都からの果たし状……もとい王からの勅命がリリアンヌの耳に入ったのは、その日の夕方であった。

「リリアンヌさま、王家からのお手紙が届いています」

「……?何かしら。中身を見た?」

「いえ。さすがにそれは失礼なので……リリアンヌさまがいらっしゃったら、ご報告しようかと」

 リリアンヌの中でセシルの株が上がった。王家からの手紙は、リリアンヌにとって嫌なものでしかない。彼女は王都では「悪魔」と呼ばれ、王女から降格したのだ。第三者に見られるなんて、彼女の矜持を傷つける以外の何物でもないのだ。だが、「悪魔」の呼び名を知っているのかもしれない。だから、見なかった、ということも有り得る。

「セシル、貴女……わたくしが王都で何と呼ばれているか、知っていますの?」

「……はい。確か、『悪魔』と呼ばれていたと、記憶しております」

「!」

「ですが、リリアンヌさまはちゃんとお仕事をされているので、問題ないのかと」

 リリアンヌの中でセシルの株が爆上がりした。呼び名を知っていて、悪行も知っていて、よくしてくれた、と……!でも、あれ?

「じゃあ、何でこの領の皆さんはわたくしのことを知らないのかしら……?」

「いえ?皆さん、知っていますよ?」

「はぇ?」

 謎である。皆知っているのに、何故己に仕えているのか。意味がないし、クレーレの立場が悪くなるだろう、あの王太子サマに知られたら……!

「皆、リリアンヌさまのことを最初は疑っていましたが、お人柄を目にして変わったのかと」

 リリアンヌの中で、クレーレの領民たちへの株が爆上がりした。

(フフフ……わたくしがチョロすぎる、という意見は聞きませんわ!)

 少なからず、自分がチョロい、と感じている証言を己が胸中で言い、ムフムフと笑うリリアンヌ。

 淡々と事実(?)を言う領主補佐官のセシル。

 それを見た書記官は、おどおどと、

「あのぉ、リリアンヌさま。お手紙、開けないのですか……?」

「あ、そうでしたわね。貴方、良い目をしてますわ」

 いや、別に良い目はしてない……と言う、元・王女様の領主とその補佐官という上司に挟まれる苦労人、書記官・ブレッドは、手紙にはめんどくさそうなことがありそうだ……と思うのであった。


「えと、じゃあ、読みますよ……。『リリアンヌ・クレーレは、クレーレ領地の経済活動を一年以内に復活させること。出来なければ国外追放とす』……だそうです」

 ん?とリリアンヌ、セシル、そして王家からの手紙を読み上げた書記官・ブレッドは唸る。

「は……はぁぁぁぁぁああああああ⁉」

「国外追放……!リリアンヌさま、この手紙が送られたのは二週間前……。あと十一ヶ月と二週間しかありません!」

 セシルとブレッドは、リリアンヌのことをクレーレ領の昔の栄華を取り戻すために送られてきた王都からの救済措置だと思っている。だから、リリアンヌを大切に扱っていた。それほどにクレーレを大切に思っているのだ。

 だが。そんなことは毛頭ない。「むしろクレーレでゆったり過ごそう!」と思っていた小娘に過ぎないのである。つまり……。

「ま……まずいですわ!国外追放……」

 国外追放されたら、あのハーレム共……もとい王太子サマたちが喜ぶに違いない!

 あいつら、自分の国外追放、または処刑を望んでいたのだ。

「はぁっ⁉そんなこと、絶対許しませんわ!セシル、あとブレッド!(わたくしの国外追放阻止のために)クレーレを救うわよ!」

「「はいっ」」

 リリアンヌは、あの王太子たちにとっておきのざまぁを食らわせたいのだ。だからおとなしく、クレーレでその瞬間を虎視眈々と狙っていたのだ。国外追放になんてなったら、不可能になる。

 一方、セシルとブレッドは、前記の通り、クレーレを大切に思っている。故に、リリアンヌが国外追放されたら……クレーレを復活させることが難しくなる!このような僻地に来て伸び伸びと暮らしてくれる、元・王女様なんて良い人間に決まっているのだ。だから、今はゆっくり過ごしているが、その内その権力を発揮して辣腕を奮ってくれるに違いない……と、思っている。

 かくして。若干の(?)動機の違いはあるものの、「悪逆王女」とその従者たちは動き始めたのであった。


「して、リリアンヌさま。どこに行かれるおつもりですか?」

 セシルのその問いかけに、リリアンヌはムフフと言いながら堂々と言う。

「まずは良き領主になるための初歩中の初歩……孤児院偵察、ですわっ!」

 読了有り難うございました。

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